855 本の蟲1/4 2006/06/07(水) 10:23:11 ID:V+9WAOKq0 
年末、図書館にて、年明けに提出するレポートの追い込みに入っていた。 
ギリギリまで現地調査ばかり行ってて、肝心の文章にまとめてなかった。 
私の課題は、四国の風土、郷土史に関するモノで、この一年間いろんな所に行った。
そのどれもオカルトチックな場所で、
先日も故・宜保愛子先生が霊視したとかいう、大きな池に行ってきたばかりでした。 
元来ビビリ性の私が、好き好んでそんな所に行ったりはしないのですが、
研究室の相方や助教授が画策して、心霊スポットばかり行き先に選ぶ。 
そんな話。


856 本の蟲2/4 2006/06/07(水) 10:25:48 ID:V+9WAOKq0 
ウチの大学のウリは無駄に大きい図書館で、一般の誰でも入れるのだが、いつもガラガラだった。 
私がPCを高速でタイプしている向かい側で、助教授の泉先生が分厚い本を読んでいる。
冬休み中の図書館の鍵は、泉先生が管理していた。 
相方・・・私の彼女も、隣で本を読んだりして、初めは静かにしていたが、 
すぐに飽きたのか、私と先生にちょっかいをかけはじめる。
小動物の様なウザさだ。 
ノーリアクションの先生に、相方は「あははー先生は本の虫ですねぇ」と言った。 
すると泉先生は「居るよ?」と、本から視線を上げ、「本当に居るよ、本の蟲は」と言う。
「まぁ生き物じゃないから、『在る』と言う方が正しいか・・・」と、栞を挟んで読書を中断する。 

「図書館に寄贈される本の中には、タイトルも内容も書かれていない白紙の本が入っていて、
 殆どの人がそれに気づかないんだ。 
 どんなに管理の厳しい図書館でも、必ず一冊は入っているらしい。
 もちろん、ワザト入れてるんだけど・・・」 
先生は周りの本棚を見渡し、 
「これだけたくさんの本があるんだから、本から思念や言霊が染み出してきてもおかしくは無い。 
 それを『本の蟲』っていうんだけど、そいつらは精神衛生上、人体にあまり宜しくない働きをする。
 知恵熱だとか焦燥感とか。時には命に係わる・・・
 それらを集める為に、白紙の本を置いておくらしい」
そう言うと先生は、背を向け本棚に向かい、何かを探し始めた。


857 本の蟲3/4 2006/06/07(水) 10:27:45 ID:V+9WAOKq0 
「始めは白紙のその本なんだけど、ずっと置いておくと、
 『本の蟲』がたくさん集まって来て、遂には白紙じゃなくなるんだ。
 文字の書かれた本になる」

また与太話を・・・と思っていると、「ああ、『在った』」。
先生は振り向いて、「在ったよ。本の蟲の――」。
そう言うと、一冊の本を持って来た。 
ハードカバーで、タイトルは書かれてない。かなり古いのか、紙面は茶黄色く変色している。
先生は相方に手渡し、人差し指を立て、「どう?面白そうだよ?」と言った。
受け取った彼女は訝しがりながらも、嬉々として読み始める。 

黙って静かに読みふけっている。おかげで私の作業ははかどったし、先生も静かに読書が出来た。 

夕方になり作業も殆ど終わったので、「そろそろ帰るよ?」と聞くが返事が無い。 
どれだけ集中してるんだろう。覗き込んで見ると、私は「ギョッ」とする。 
彼女は延々と白紙のページを繰っていた。 
ただ、まるでそこに文字が書いてるかのように、目線は白紙を追っている。 
「せ、先生!?」
慌てて聞く。
「ああ、そろそろ良いか」と言うと、泉先生は彼女の前までやって来て、
目の前で「パンッ!」と猫だましをした。 
彼女は我にかえる。
先生は本をひょいと取り上げると、「もう閉館だよ。帰りなさい」と言った。 


858 本の蟲4/4 2006/06/07(水) 10:29:47 ID:V+9WAOKq0 
相方が「まだ読み終わってないので、また来ます」と言うと、
「ああ、また来るのは構わないが君。図書館では静かにしなさい。
 張り紙にも書いてあるだろう・・・どうしてかわかるかい?」 
当たり前のことを聞く。 
私「周りの人がビックリするからですか?」 
「いや、それもあるけど、『本の蟲』がビックリして目を覚ますからだ」

後日、相方が続きを読むために図書館に行ったが、件の本は見つからなかったそうだ。 
泉先生に聞くと、
「やだな。只の暗示だよ、暗示。『おもしろい本だよ~』ってサ」と、あっけらかんに答えた。
が、どうも腑に落ちなかった。
彼女が読んでいた白紙の本は何だったのか。
当の本人が、内容については話したがらなかったが、
「ウチが暗示なんか掛かるか!・・・アレは―――」 
と、仕切りに悔しそうにしてたのが印象的でした。



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