236 呼び児の筆1/4 2006/06/18(日) 20:34:16 ID:IMcj38CG0 
自慢じゃない、私は憑かれやすい。 
相方曰く、私自身がアンテナになってて、ロクでもないモノを集めやすいんだそうで。 
霊感なんて殆どありはしないので、自覚症状がなくタチが悪いのです。
アンテナといえば、ゲゲゲの鬼太郎は髪の毛が『妖怪アンテナ』だとかいいますが、
昔から頭髪は、身体の中で一番霊界に近い場所なんだそうで、触媒にはもってこいだそうです。髪の毛は。 
そんな話。


238 呼び児の筆2/4 2006/06/18(日) 21:13:34 ID:IMcj38CG0 
空調が壊れたとか何とかで、最悪に蒸し暑い夏休みの研究室。 
オンボロ扇風機でなんとか残を凌いでいたら、夏の間帰省していた相方が久しぶりに顔を見せた。 
お土産はポン酢と鰹節。
そして、変なおまけもついてきた。 
取り出したのは、平べったい長方形の箱で、
前面に墨で何か書いてあったが、達筆すぎて『タ』『ウ』しか読めない。 
「開けるよ?いい?」
相方はえらくもったいぶって開けると、中には硯が入っていて、筆入れには小振りの毛筆が3本入っていた。 
彼女は「コレね、子供の髪の毛で出来てるんだ」という。
中国なんかでは、人毛の筆は割とポピュラーなので、驚きはしなかったが、
黒くて短いソレは、どうも気色が悪かった。 
「ウチの地元の風習でね。
 男の子が生まれると、数え年で5歳――今でいう4歳になっちゅう時に、頭髪を使って筆を作るんだって」
「何かの記念なん?」 
「んー、ホラ。男の子って、家系継いで貰わないといかんでしょ。
 でも年頃になると、地元飛び出して外に行っちゃう。 
 そういう時に、家の者がその髪の筆で書いた文を送ってやると、
 ソイツがどんなに遠くに出てても、必ず帰ってくるんだって」
「人質――いや、髪質ってやつかな?」 
「『後ろ髪引かれる』って言葉あるやね?
 文系習うまで、ずっとコレが語源だと思ってたんよw
 何処の家でもやってる事なんだと思ってたのサね」


240 呼び児の筆3/4 2006/06/18(日) 21:15:06 ID:IMcj38CG0 
「さっき、『必ず帰ってくる』って言ったよね。それは・・・死んだ人も?」 
彼女はニッコリ笑って頷き、 
「帰ってくるよ――昔、いたずらで筆を使った事があるんよ」
相方は筆を一本取り出して、毛先を弄りはじめた。 

「8歳くらいの時かな。
 お昼に縁台で遊んでたら、私と同じくらいの年恰好の男の子がいて、『ただいま』って言うんだよ。
 親戚の子かな?って思ったけど、女の子しか居ないハズなんだよね。叔父さんにも叔母さんにも。 
 ウチはその子の名前知らないんだけど、向こうは何故かウチの名前を知っちゅう・・・
   
 で、夏の間、ず~っとその子と遊んでたんだけど、名前だけは教えてくれなかった。

 夏の終わり頃、夕方になってその子が現れて、いきなり『さよなら』って言うんだ。
 『名前も聞いてないのに帰っちゃうの?』ってウチが言うと、最後に名前だけ教えてくれた。
 『タツロウ』って。 

 その日の夜、親に『タツロウくん帰っちゃった』っち言うと、母親がギョっとして言うたね。
 『そい、お前の兄ちゃんぜえ』って。
 自分はずっと一人っ子やと思ってたんだけど、
 何でも、ウチが生まれてすぐ死んだ子で、池で溺れたとかで、遺体も見つからなかったちて。
 形見は、4歳の時に髪から作った筆だけやったって。
 本当は、筆の髪の主が死んだらその筆は処分せないかんだけど、ウチの親が捨てれなんだんやろうね」


241 呼び児の筆4/4 2006/06/18(日) 21:16:00 ID:IMcj38CG0 
そう言うと、相方は手に持った筆を箱に戻した。 
「ウソくさ。近所の家の親戚とかじゃないんか」
「・・・そうかもね」
「で、ソレがお兄さんの筆?」
「うん」
「小さいな」
「うん」
「何やの?これ使って、また呼ぼうとか考えてるん?」
「ううん・・・もう来てる」

クーラーもない真夏の部屋だったが、その日は真冬のように涼しかった。



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