789 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/04/21(火) 18:29:15 ID:9TkChffl0
山仲間の話。 

一人で山奥の野原を歩いていると、送電用の鉄塔が近付いてきた。 
おや? 鉄塔に誰かが登っているみたいだ。 
目を凝らすと、小さな女の子が高い所にしがみ付いているのが見えた。 

“下りられなくなったのかな”などと考えながら鉄塔に向かう。 
直ぐ下まで来ると、小さくしゃくり上げる泣き声が聞こえてきた。 
「どうしたの? 下りられなくなったの?」 
そう声を掛けると、小さな頭がコクンと頷く。 
毛糸の上着に小綺麗なスカート。 
白い靴下が履いているのは赤い靴らしい。 
凡そ山に登る格好ではなかったが、その時はあまり不思議にも思わなかった。 
「今そこへ行くから、動くんじゃないぞ」 
荷物を下ろしながら言う彼に、少女は嬉しそうにホットした笑みを浮かべた。 

“見るところ人間返しの棘輪より先には、流石に上れなかったみたいだな。 
 しかしこんな小さな子が、どうやってあそこまで上ったんだろう” 
鉄骨を上りながら、段々とそんな疑問が頭をもたげてきた。 
もう少しで少女のいる段に手が届きそうな所まで来た時、下から叫ぶ声がした。 
「あぶない!」 
えっ!? 地面を見下ろすと、すぐ上にいる筈の少女がそこに居た。 
泣きそうな顔で、彼を引き留めるかのように手を伸ばして。 


790 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/04/21(火) 18:30:40 ID:9TkChffl0
何処かでパンと乾いた音が聞こえ、頭上で硬い音が響く。 
 チン!チン!チン! 
何か熱い物が、幾つか頬を掠めて落ちていった。 
続いて「あっ!?」と慌てたような声が聞こえた。 
鉄面に付いたばかりの傷を見た。弾痕だ。 
禁猟区だというのに、入り込んでブッ放した非常識が居るらしい。 
「おわぁ!?」 
遅ればせながら悲鳴が出た。慌てて鉄塔にしがみ付く。 
あっあの女の子は!? 必死で上を見上げると、そこには誰も居なかった。 
混乱しながらも、滑落しないよう注意しながら下りることにした。 
無事地上に着いて、腰が抜けたようにへたり込んでしまう。 
散弾を撃った輩は逃げ出したものか、ついに姿を見せることはなかった。 

しばらく待って息を整えてから、やっとの事で顔を上げてみた。 
鉄塔の反対側の脚の方に、佇む小さな二つの人影があった。 
上から下まで、まったく同じ格好をした、双子のような女の子。 
一方は、残念そうに口元を歪めて苦笑いをしていた。 
そしてもう一方は、泣きそうな顔で手を振っていた。 
早くここから去れとでもいうような、そんな仕草だったという。 
声を掛けようとすると、二人とも空気に溶けるように消えてしまった。 
“・・・何かが自分を危ない目に遭わせ、別の何かがそれを救った?・・・” 
そこまで考えてから、走るようにして逃げ出したという。



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