102 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/06/15(月) 20:57:48 ID:CtfapK6h0
知り合いの話。

彼の祖父はかつて猟師をしていたという。
遊びに行った折に、色々と興味深い話を聞かせてくれた。

「山の奥でよ、でっかい屋敷に行き着いたって奴が居たんだと。
 そんな深い奥にそんな物がある訳は無いんだが、実際に見付けたんだから仕方ねえ。
 でも何故か悪い感じはしなかったらしくてよ。
 そいつは中にずんずんと進んで入ったって言うんだ」

「客間みたいな部屋に入り込むと、部屋の中央に小さな物が置いてあった。
 掌に隠れるほどの笛だったそうだよ。
 吹くと小鳥の声がして獲物を呼び寄せる、そんな代物だ。
 何故か理由はわからんが、自分への贈り物だと理解出来たんだと。
 喜んで持って帰ったらしい。
 十二様(山の神)の授かり物だってな」

「これを吹くと、必ず立派な獲物が取れたって話だ。
 雉は勿論のこと、鳥に限らずヨツ(獣)まで簡単に手に入ったんだと。
 話を聞いた連れが羨ましがってよ、貸してくれってねだったんだが、するとこいつが奇妙なことを話しやがった」

「こいつ曰く、
 『この笛は俺が十二様から頂いた物だ。
  ほいほいと他の人に貸しちまったら、俺に罰が当たるかもしれん。
  それに、これを使えるのは日に一度だけなんだ。
  理由はわからねえ。
  でも、それ以上使っちゃなんねえって、それだけはわかるんだ』
 だから貸したくねえって言うんだな」


103 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/06/15(月) 20:59:27 ID:CtfapK6h0
「しかし、この連れは性質が悪い奴だったみたいでな。
 何だかんだ煽てて強請って、無理矢理取り上げるような形で持って行っちまった。
 その夕方に、山ほど獲物を持ち帰ってよ。
 『こりゃぁ具合がええ。しばらく借りとくわ』ってニヤニヤ笑ってた」

「貸した奴は青い顔してよ。
 『お前、絶対に罰当たるぞ。もう俺は関係ねえ。笛はお前が責任取って持ってろ』
 って泣きそうになりながら吐き捨てた。
 連れの奴は嫌な笑いを浮かべてよ。
 『おう、そんなら貰うわい』って嬉しそうに家に帰ったんだ」

「そうしたらよ、その日の夜、その連れの家で騒ぎがあったっていうんだ。
 皆が寝静まった夜中に、バタバタと大きな音がしてよ。
 人の叫び声も聞こえたって話だ。
 事情を知ってる村の連中は、誰も近よらなかったって。
 翌朝恐る恐る覗いてみると、そいつの姿はおろか、そいつのおっ母もいなくなっていたらしい。
 不思議なことに、昨夜あれだけ音がしたっていうのに、家の中は綺麗に片付いていたってよ。まるで何もなかったかのように。
 あぁ、結局そのまんまで、二度と帰ってはこなんだとさ」

「笛を取られた方も恐れちまって、それ以降山に入ることはなかったって話だ。
 まぁ、分をわきまえない輩は、それなりの目に遭うってことだな。
 人ってやつは取って食らうだけじゃない。
 取って食われることもあるんだってことは、忘れちゃならねえよ」

祖父さんはしみじみとそう言った。





オカルトランキング