「死界の扉を開けるお祈り」をご存知か

夜中の2時にテーブルに鏡を立てて置く。その左右にろうそくを1本ずつ、火を灯す。杯を二つ用意、鏡の左には水、右には酒。

鏡の前には自宅の西から拾った小石を2個、東から拾った小石を2個置く。そして自分の顔が鏡の中心に映るように座る。

両手を胸の前に組み、目を閉じ以下のセットを14回唱える。

呼び出したい亡くなった人の名前・その人が亡くなった年月日、そして自分の名前・今お祈りをしている住所(自宅)。

そうして目をあけると鏡にその亡くなった人が現われるという。呼び出したい人は、本人と縁(ゆかり)がなければダメらしい。

このお祈りと言うか儀式みたいなものは学生時代、
仲のいい友人から教えてもらった。

その友人に
「おまえ、やったことあるの?」と聞くと
「いや、ないよ。だって怖くないか?いくら会いたい人でも夜中に鏡の中に死人が出てきたら怖すぎだろ?」
と返ってきた。

確かに、死んだばーちゃんや叔父さんに会いたい気持ちもあるが
本当に出てきたら不気味すぎる。

俺もこのお祈りたるもの実際にやることはなかった。

それから数年後、俺はある会社の商品開発の部署で忙しい日々を送っていた。

俺の入社以来の最大のプロジェクトを進行させていたときのこと。

提携先の担当者と慰労を兼ねて二人で飲みに行くことになった。

その担当者(Aさん)は俺より2才上のほぼ同世代。

毎日、電話やミーティングをしていたがこうして
外で会うのは初めてなのでとても楽しみだった。

1件目の居酒屋では仕事の話ばかりだったが、2件目のバーでは酒も結構入り、

次第に打ち解けた趣味の話しやプライベートの話に展開していった。

「ところでAさん、結婚の予定はないんですか?」

「ん?・・・ないよ、彼女もいないしさ(笑)」

「えー本当ですか?もてるでしょ?一人にとどまらず遊びまくるって感じなんすか?」

俺はお世辞も込めてそう言うと、
Aさんはしばらくの沈黙のあと神妙な顔で

「実はもの凄く好きな女がいたんだけどさ」

「ふん ふん」

「3年前に死んじゃったんだよね」

「えー!事故かご病気でですか?」

「・・・いや、自殺だよ。」

「・・・」

「それ以来、彼女つくる気もしなくてね。」

「すみません。変なこと聞いちゃいまして。」

「いや、いいんだよ。
 いつもでも引きづってちゃいけないとは自分でも思ってるんだけどね」

俺はカウンターの並びの席で正面を見据えるAさんの横顔を見つめながら
あのお祈りのことが数年ぶりに記憶に蘇った。

「Aさん、その彼女に会いたいですか。」

「は?そりゃあ会えるんだったら今でも会いたいさ・・・何?
 会わせてくれるの?恐山のいたこか何かか?」

Aさんは怒りの混じったような顔で俺のほうを向いた。

「いや、これ大学のとき友達から聞いた話なんですけど・・・」

俺はAさんに死者と会えるというお祈りの方法を冗談ぽく教えた。

Aさんはその話を聞いて笑いとばすものだろうと思っていた


明けて月曜の朝。

普段どおり定時ぎりぎりに出社した俺を上司達が取り囲んだ。

そして物凄い剣幕で俺に聞いてきた。

「おまえAさんと金曜の夜、飲みに行ったんだよな」

「そ、そうですけど、何か?」

「Aさん、死んだよ」

何?

「・・・は?マジですか?」俺は声を振り絞って聞き返した。

「ああ朝一で○○さん(Aさんの上司)から電話があってさ、
 自宅で首つって死んだんだと」

「いつですか?」

「土曜の明け方ということらしい。
 昨日の昼くらいに発見されたらしいが・・・。
 ところでおまえ金曜は何時にAさんと別れたんだ?」

「・・・いや・・・終電前にお開きにしたんで12時前くらいかと・・・」

「まぁいい。今から△△社(Aさんの会社)におまえは呼び出されている。
 俺も付いて行く。
 警察が来ておまえに金曜の夜の状況について聞くらしいわ・・・いや、
 心配するな、状況からして警察も自殺と断定しているらしい。
 その原因が何かわかればということじゃないのか?」

俺は呆然とする中、タクシーで上司と赤坂にあるAさんの会社に向かった。

待ち受けていたAさんの上司に俺たちは迎えられ応接室に通された。

そこには私服の刑事(?)二人と制服姿の警察が二人。
丁寧な口調でAさんの金曜の様子や、仕事でつきあってきた
これまでのAさんの言動についていろいろ聞かれた。

俺はありのまま答えた。

大好きだった彼女が自殺したことも話しをした。

でも俺には言えないことがあった。

その彼女に会う方法をAさんに教えたことは。

例のお祈りが何らかしらAさんの自殺に影響したことは間違いない。

俺はそう悟った。

1時間くらいの聞き取りが終わり

「わかりました。ご協力ありがとうございました。
 今日はこれで結構です。」

刑事の一人がそう俺たちに言った。

警察の4人が部屋を出ようとしたとき一人の刑事が振り返り俺に聞いてきた。

「Aさんて何か宗教やってるって話しをしてましたか?」

「いえ聞いていませんが、どうしてですか?」

「・・・聞いていなければ結構です。失礼しました、それでは」

警察が帰った後、Aさんの上司は俺たちに向かって

「どうもご迷惑をお掛けしました」

と平身低頭で謝ってきた。

警察もいなくなり緊張感もとけ俺たちは
ざっくばらんな話をし始めた。

「ところでさっき警察の人が言ってた宗教てなんですかね?」
俺はAさんの上司に聞いた。

Aさんの上司は鼻で笑うように

「あぁ何でも彼の部屋のこたつの上に
 ろうそくやら盃やら鏡とか置いてあったらしいんですよ、
 何やってんだか」

俺は絶句した。やっぱりAさんは
あのお祈りをやったんだ・・・そしてその後・・・。

呆然としている俺にAさんの上司が俺に聞いてきた。

「ところでAは彼女がいたって言ってたんですか?
 そしてその彼女が自殺したって」

「ええそうですけど」

「それ、嘘ですね」

「は?何でですか?」

「Aに彼女なんかいるわけありませんよ。
 彼は5年間私の下にいましたが
 そんな本当の彼女の話聞いたこともありません。」

「本当の彼女?」

「Aは熱狂的ていうか・・・異常なまでにK・Kのファンでしてね。
 ご存知ですか?アイドルていうかタレントのK・K」

俺と俺の上司は曖昧にうなずいた。

「そのK・Kのことですよ。Aが言った彼女っていうのは」

「・・・」

「ほらK・Kって自殺したでしょ・・・確か2~3年前に。
 何でも警察の話によるとAの部屋中
 K・Kのポスターだらけだったらしいですよ・・・しかも・・・」

そこから先の話は俺は上の空だったから覚えていない。
あることを思い出していたからだ。

それはあのお祈りを教えてくれた友人のことばだ。

「とにかくその呼び出したい人は身内とか友人とか恋人とかさ、
 実際にかかわった人じゃなきゃいけないらしい」

「それ以外だったら?」

「それやったらやばいらしいよ」

あれから数年。

あのお祈りでAさんを呼び出したい行動にかられる。
そしてあの夜何があったか聞いてみたい。でもできない。こわい。やりたくない。

以下Aさんの遺書
(あの夜のメモ、走り書きなので読みづらくこちらの主観も入る)の抜粋

(やっと会えてうれしい、本当に来てくれたんだ、
 これからずっと一緒にいれるね、でもちょっとKちゃんさ、
 顔違うね、何で、何でさ、目の玉とびだしてるの?)
俺はメモをとりはじめたAさんを見て少し寒気がした。





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