358 :本当にあった怖い名無し:2009/01/19(月) 00:22:39 ID:TXOFKGMt0
電動自転車の後ろに
 
10年ほど前に、天草(あまくさ)に住んで臨時の仕事をしていた頃の話です。
天草本渡のとある山里なのですが、入り組んだ盆地のような地形でした。
自宅のアパートから勤務先までは5キロ程の道のりです。
通勤ルートは二車線の道路でしたが、山に沿ってうねったり、
早生の田に挟まれた直線だったり…と起伏が激しかったのを覚えています。
そこを毎日電動アシスト付きの自転車でえっちらおっちら通ってました。

7月から通勤を始めて、いい加減慣れてきた11月の半ば頃のことです。
薄暗くなった帰り道には、いつものように全く人通りがありませんでした。
ダンプ駐車場の脇を通り抜ければ、両側を田圃に挟まれた約2㎞の直線が続きます。
道路脇に灯りはなく、次の三叉路までに家が一軒あるだけ。
(微妙な地図ですが…私の進行方向はA車線を⇒へ)
♀印は案山子

田 |田 |田 |♀♀|田 |家|蓮池| 』三|山肌
=A===================  |
===================== 叉|
=B===================  |
田 |田 |田 |田 |田 |田|田 |『 路|

直線道路を走り始めて間もなく、私は後ろから何か追いかけてくる気配に気づきました。
具体的には、ハッハッという呼吸音と、犬(中型?)のような軽い足音です。

(野良犬が付いてきてるのだろうけど、止まって追い払うのも危ないかもしれない。
せめて、もう少し人家に近づいてから確認しよう。)

そんな風に考えて自転車を漕いでいると、呼吸音と足音が規則正しく尾けて来ます。
音の大きさも変わらないので、追っ掛けているモノは一定の距離を保っているようでした。

引き離してみようかとスピードを上げても、呼吸音と足音の乱れる様子はありません。
音の大きさも変わらないのです。逆に、スピードを緩めても同様でした。
自転車の速度が変化しても、ソレは2m程の距離を保って、
呼吸も歩調も変えずに追い掛けてきているように感じました。

(本当に犬のたてている音なのかな?もしかしたら自分の呼吸音か自転車のハム音を聞き違えているのでは)
ペダルを漕ぐのをやめ、自分の息を殺して、耳を澄ました途端、背中に獣の足の感触が。
右の肩甲骨の真ん中あたりと、左の肩甲骨の下側を、爪と肉球を備えた前足が押さえているのを感じました。
足音はもう聞こえません。生温かい息が、背後から右の耳をかすめて鼻に届きました。
犬の息のような匂いでしたが…全身に鳥肌が立ちました。

(この獣、普通じゃない!)
背中に付いているモノを振り切ろうと、必死にペダルを漕ぎました。
案山子を過ぎ、一軒家を通り過ぎてから、やっと蓮池の脇まで来ると、獣の気配は消えていました。
自転車を止め、やれやれと背中に手をまわして、足の触れていたあたりを一応払いました。
私の幼少の頃からの癖で、背後に不安を覚えると手で背中を払うのです。
そしてもと来た道を振り返ると、案山子たちより後方の田圃に妙な獣が一匹、飛び跳ねているのが見えました。
目を凝らすと、ソレは黒っぽい色をした細身の狐のような体格をしていました。
四肢は記憶にある狐よりも細長く、尻尾は胴体と同じぐらい太く長いのです。
ただ、猫の頭をやや大きくしたような丸い頭と大きめの三角に尖った耳が、取って付けたような印象でした。
その変な獣がいかにも嬉しそうに びょんこびょんこ跳ね回っているのです。
なんだかげんなりして、近寄って正体を確かめる気にもなりませんでした。
獣が追って来る様子もないし、腹も空いてたのでとっとと帰りたかったのです。

帰宅して人心地ついてから、化かされたんじゃないかと気付きました。
『でも、なかなか粋な化かし方をするじゃないか。』
悔しさと、愉快さが混じった感情が沸くものですね。
その後も任期が尽きるまで何回も同じ道を通勤しましたが、
二度と変な体験はしませんでした。




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