244 本当にあった怖い名無し 2006/01/24(火) 22:20:02 ID:xubYHEObO

中学二年の秋口、俺は勉強や部活そっちのけでオカルトにはまっていた。
そのきっかけになったのが、近所に住んでいた従姉妹で、この人と一緒にいたせいで何度かおかしな体験をした。
これはその中のひとつ。

 

夏休みも終わり、ひと月が経とうとしている頃だった。
俺は従姉妹に誘われ、家から一時間ほどの場所にあるケヤキの森に来ていた。
美人だが無口でオカルト好きな従姉妹は取っつきにくく、正直二人でいるのは苦手だったが、
従姉妹が買ったバイクに乗せて貰えるので誘いにのった。

 

 

244 本当にあった怖い名無し 2006/01/24(火) 22:20:02 ID:xubYHEObO

ケヤキの森は周辺では有名な心霊スポットで、
曰わく、今は使われていない製材所で夜毎手首を探す男が出る。
曰わく、森の中ほどに位置する沼には死体が幾つも沈んでいる。
といった調子で、怪談にはことかかなかった。
そうでなくても木々が鬱蒼と茂り、昼でも薄暗い様子は、一人きりで放り出されたような不気味なものがあった。

 

従姉妹が俺を誘ったのも、オカルト要素たっぷりのスポットを探検したいがためだった。
森の内部に踏み入るにつれ道は狭く細くなり、やがて獣道同然の心許ないものになった。
俺は既に腰が引けていたのだが、従姉妹が躊躇いなく進んでいくので、仕方なく付いていった。

 

 

245 本当にあった怖い名無し 2006/01/24(火) 22:21:56 ID:xubYHEObO

やや大きめの木の下にさしかかったとき、従姉妹が嬉しそうに何かを指差した。
見上げると、その木に板が打ち付けてあった。いや、ただの板ではない。太い釘が大量に刺さっている。
近づいてよく見ると、板に細い木材を組み合わせた、ノッポな人形のようなものが付けられており、
そこに五寸釘が大量に打ち込まれていた。

 

俺は人形を見上げながら、どこかしら奇妙な違和感を覚えていた。
藁人形ではなく木の人形、身を捩るような造形のそれは、
全体は稚拙ながら関節まで再現され、それ故に禍禍しさを感じさせた。
俺は従姉妹に引き上げようと告げ、元来た道を戻り始めた。
従姉妹は意外にも素直についてきたが、恐ろしいことを口にした。
「夜に来てみない?丑の刻参りが見られるかも。釘、まだ新品だったし」
俺は強く反対したのだが従姉妹に押し切られ、結局その夜、家人が寝静まった夜半過ぎに家を抜け出した。

 

従姉妹と待ち合わせケヤキの森につく頃には、一時を回っていた。
入り口にバイクを隠し、懐中電灯の明かりを頼りに森の中へと足を進めた。
夜の森は静まり返り、昼間とは全く違う顔を見せていた。
鈴虫やコオロギの声、俺や従姉妹が下生えを踏みしめる音。有機的な匂い。
時おりがさっと何かが立てる音がして、俺をびくつかせた。
だが従姉妹は意に介する様子無く歩き、俺は呆れると同時に心強く思った。

 

 

246 本当にあった怖い名無し 2006/01/24(火) 22:24:34 ID:xubYHEObO

昼間人形を見つけた木までたどり着き、離れた茂みに身を潜めることにした。
従姉妹が時計を確認し、懐中電灯を消す。
「もう少しで二時。楽しみだね」
従姉妹が囁いた。
俺は内心『楽しみじゃねえよ』と毒づきつつも頷いた。確かに高揚するものはあった。
動くものが無くなった森の静寂は、耳を刺すようだった。
ここに着くまでに多少汗をかいたのだが、それも今は引きやや肌寒いくらいだった。

 

時間は歩みを止めたかのように速度を落とした。先ほどの高揚はやがて緊張に姿を変えた。
俺は暗闇の中に打ち付けられている人形を思い浮かべ、昼間の違和感は何だったのかと考えていた。
木……人形……幹。
「あっ」
俺は思わず声を上げた。従姉妹が振り返る気配。「しっ」と小さな声が聞こえた。
俺は違和感の正体に気づいた。何で思い当たらなかったんだろう。
あの人形を俺と従姉妹は見上げていた。勿論従姉妹は女、俺はまだ中学生だ。
だがあれは、二メートルよりかなり高い場所に打ち付けられていた。
大人でも、五寸釘を打ち込むのには、適切な高さがあるはずだ。自分の目の高さか、もう少し上くらい。
だがあれは、二メートル五十はあった。一体どんなやつなら、あんな場所にある人形に釘を打てるんだ。

 

 

247 本当にあった怖い名無し 2006/01/24(火) 22:27:02 ID:xubYHEObO

俺が恐慌をきたし始めたとき、遠くから下生えを踏む音が聞こえてきた。虫の声が止んだ。
微かな音を立て、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
従姉妹が隣で息を飲んだ。俺は自分の手足が冷たくなるような感覚に襲われた。
足音が近づく。引きずるような乾いた擦過音が混じる。
もう目前から聞こえてくる。いくら夜の森でも、ぼんやりとくらいは見えるはずだ。
しかし、目の前には何も見えない。

 

ただ足音だけが通過した。そして、立ち止まった。
木の下に着いたのだろうか。あたりは再び静まった。もう足音は聞こえない。
「あ、ヤバい」
従姉妹が小さく呻いた。
「逃げるよ」
そう言って俺の腕を掴み走り出す。
それで一気にパニックが襲った。必死に走った。よく転ばなかったものだと思う。
とにかく、何かが、得体の知れない何かが追ってくるのを想像して全力で駆けた。

 

バイクの隠し場所にたどり着くと、従姉妹を急かしてバイクの後ろに飛び乗った。
その間、片時も背後の森から目を離さなかった。
エンジンがかかり、走り出すと安堵感が全身を包んだ。
最後に振り返ったとき、森の入り口に、何か白いものが見えたような気がしたが、よく分からなかった。

 

 

248 本当にあった怖い名無し 2006/01/24(火) 22:29:18 ID:xubYHEObO

後日、従姉妹にあの夜見たものを聞いてみた。
俺はかなり後を引きずっていたのだが、従姉妹は全く堪えていないようだった。
「あれはね、生きてるものではないね。肉体が活動しているかって意味で言えばってことよ」
「何であんな高い場所に打ちつけてあったんだよ」
「ああいうのは、感情の強さによって形を変えるの」
「死んでからもあそこに通ってたってこと?」
「通ってたってより、あの人形そのものになっていたんじゃないかなあ。あの人形、やたらノッポだったでしょ」
そして従姉妹は、にやりと笑ってつけたした。
つまり、あの人形をあんたの家に置いておけば、毎晩あれがくるんだよ。

 

しばらくの間、俺はそれまでとはうって変わって、家中を掃除するようになった。





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