739 :本当にあった怖い名無し:2022/01/01(土) 14:05:35.64 ID:nDr5XMPe0.net
夢の話なんですけどいいですか。
高校時代のことです。今からもう20年近く前になりますね。
野球部に入ってたんです。当時、わたしの所属してた野球部は
県内でもそこそこ強豪チームで、何度か甲子園にも行ってるんです。
自慢じゃありませんが私は2年生の春からレギュラーになりまして、
夏の県予選のときのことです。下馬評では、
私たちの高校はベスト4以上は確実と言われてました。

ところが2回戦で負けてしまったんです。
8回にセカンドを守っていた私のエラーで相手に勝ち越し点が入って。
そのときの気持ちは言葉では言い表せないですよ。
今でも思い出すと、叫びながらあちこち走り回りたくなるほどなんです。
試合後は先輩たちはみな泣いてましたが、
監督の口から出るのはねぎらいの言葉だけで、
もちろん先輩たちからも私を責めるような声はありませんでした。
それがまたいっそう辛さに拍車をかけたんです。残念会みたいなのは、
当然設定されてはおらず、その日は親の車で家に戻ったんですが、
まったく気力をなくして早々に寝ました。


740 :本当にあった怖い名無し:2022/01/01(土) 14:06:36.97 ID:nDr5XMPe0.net
その夜、夢を見たんです。最初は感覚だけがありました・・・
柔らかくせまいところをもがきながら進んでいる感覚です。
私のまわりを囲んだ弾力のある壁は、濡れていてつるつるしてるんです。
黙っていると体にひっついてきて窒息しそうなんで、
両手両足を突っ張って押し広げてなくちゃならないんですよ。
その状態が、夢の中で何十分も続いた気がします。
それでも少しずつ少しずつ前に進んで、やがて息が苦しくて
どうにもならなくなったとき、ボロッという感じで広いところに落ちました。

・・・神社の境内だと思いました。あたりを見回すと、そんなに広くはない、
周りを林に囲まれた玉砂利の参道で、強い光のあたる日中でした。
そこを社殿に向かって進んでいったんです。
鈴を鳴らし、手を合わせてお参りした記憶もあります。お賽銭はどうだったか・・・
それで、社殿の薄暗い中で神主の着物を着た人が机に向かって何か
書いてたんです。木の階段を上がって畳敷きの中に入っていきました。すると、
神主は顔をあげて俺に会釈したんですが、その顔立ちが印象に残ってないんです。
男ではあったと思いますが、年寄か若いかもわからなかったです。
社殿の中はせまく、奥のほうに祭壇とご神体らしい金の鏡が見えました。


741 :本当にあった怖い名無し:2022/01/01(土) 14:07:38.41 ID:nDr5XMPe0.net
神主は木机の上で古風な帳面に筆で何かを書いてまして、
自然な感じで質問が口から出ました。「何を書いてるんですか?」
「今日の記録を整理してるんですよ」 「記録って?」
そう言って帳面をのぞき込みました。難しい筆字かと思いましたが
そうではなく、教科書に出てくるようなわかりやすい字でした。「夏の甲子園 
県予選2回戦。1回裏守備機会なし、2回表、初打席ショートフライ・・・」
今日の試合の、自分のプレーについてしか書かれていなかったんです。
「これ、俺のことですよね。何でこんなこと書いてるんですか?」
「ここはあなたの神社だからです」こんな答えをされましたが、
そのときは意味がわかりませんでした。

立ったまま黙って見ていました。
神主の記録は、だんだんにエラーをしてしまった8回裏に近づいてきます。
それと同時に、昼の試合のあのやりきれない思いが胸によみがえってきたんです。
「これ、書きかえるわけにはいきませんか」
「どんなふうにですか」 「俺が8回にエラーをしなかった、ってことに」
「それは事実じゃないから、できません」
神主はすらすらと書き進めて、とうとう8回に入ったんです。
「なんとかお願いします!」私は神主の筆を持っている袖を両手でつかみました。
「やめなさい、危ないです」 「お願いします!!」


742 :本当にあった怖い名無し:2022/01/01(土) 14:08:42.61 ID:nDr5XMPe0.net
「危ないですって!!現実は変えられるもんじゃない」
押さえつけた神主の腕がするっと滑って、帳面が大きく墨で汚れました。
・・・まぶしい光に包まれました。見ると奥のご神体の鏡がギラギラ
輝いていました。鏡自体の表面が膨張しているように思えましたが、
「ブズッ」嫌な音をたててヒビが入ったんです。それとともに
夢も終わりました・・・どのくらい時間がたったかわかりません。
カーテンのすき間から現実の朝の光が差していました。
少し頭を動かすと強烈な頭痛がし、物がゆがんで見えました。
かろうじてベッドから頭だけ出して嘔吐しました。


743 :本当にあった怖い名無し:2022/01/01(土) 14:09:48.86 ID:nDr5XMPe0.net
なんとか部屋の外まで這いずっていって、大声で親を呼んだんです。
あとは・・・意識が途切れ途切れなんですが、
救急車の中で大声で呼びかけられてたのは覚えています。
完全に意識が戻ったのはなんと4日後のことで、
集中治療室にいました。これは後で説明されたことなんですが、
私には先天性の脳動静脈奇形とかいうのがあって、
それが破れて脳内に出血し、開頭手術をしたということでした。

それから長い入院期間があり、落ち着いてきた頃には、
野球部の監督、先輩や同輩たちが見舞いにきてくれました。
でも退院した後に野球部はやめ、高校生活自体も1年遅れました。
それ以来ボールは手にしていません。
ほとんど後遺症がなかったのが幸いでした。






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