じいちゃんの昔話をします。
家は昔質屋だった、と言ってもじいちゃんが17歳の頃までだから
私は話でしか知らないのだけど結構面白い話を聞けた。
田舎なのもあるけどじいちゃんが小学生の頃は幽霊は勿論、
神様とか妖怪やら祟りなど非科学的な物が当たり前に信じられていた時代で
そう言った物を質屋に持ち込む人は少なくは無かったそうだ。
どういった基準で値段をつけていたのかは分らないが、じいちゃん曰く「おやじには霊感があったからそう言う神がかった物は見分ける事ができたんだ」と言っていた。
一番印象に残った話を書きます。
喜一じいちゃんが小学生の頃の話。
壷や皿、人形に石…蔵は薄暗く物がとにかく多い。
子供心をくすぐられおやじに怒られるのを承知で喜一はよく遊んでいた。
中でも喜一が興味をもったのは竹で作られた笛、作りは荒くて誰かの手作りのようだった。笛なんて吹けないのにどんな音が出るのやら?と喜一が吹いてみると
「ぴょろろ~」と音が出た!ただ音が出るだけじゃ無くちゃんと音楽になっていた!音を変える穴がある笛では無く、只の竹筒の笛なのに空気を吹込むだけで音
楽が鳴り出し、聞いた事も無い音が蔵中に響いた。
不思議だなぁと思い笛を覗き込むと竹笛の中には綿が詰められていた…
「綿が詰まっているのに音が出るなんて…??」不思議に思った喜一は綿を抜いて覗いて見たが、只の竹笛である事に変わりは無かった。もう一度吹いて見るとニョロっと白い物が出て来た!?よく見るとうどん程の蛇が出て来たのだ。
蛇は笛から飛び出るとサササっと逃げて行ってしまった。
何が起ったのかよく解らず、ボーっとしていると蔵の扉が開いた。
扉の向こうには鬼の形相をしたおやじが立っていた…案の定こっぴどく叱られ、
蔵での出来事を話すと「笛の音がしたからまさかと思ったら…あぁ~これじゃ商品になりゃしねぇ」と愚痴るとおやじが喜一に笛をポイっと投げ渡した。
「もう一度吹いてみろ」と言われ恐る恐る吹くと音が出ない…何度強く吹いても優しく吹いても空気が吹出る音しかしなかった。
「いいか、お前が逃がしちまった物は大事な神さんだったんだよ!これに懲りたら二度と蔵の物に手ぇ出すな!!」
と怒られたのでした。
しかしこの話を聞いた後もじいちゃんから蔵の商品の話をいくつも聞いたので、
じいちゃんはきっと懲りて無かったんだなぁ…
もう亡くなっちゃったけどち○毛を金髪にしたり、味噌汁用の乾燥ワカメをおやつに食べてワカメが胃の中で膨らみ黒いゲロを吐いたり…愉快な人だった。
家は昔質屋だった、と言ってもじいちゃんが17歳の頃までだから
私は話でしか知らないのだけど結構面白い話を聞けた。
田舎なのもあるけどじいちゃんが小学生の頃は幽霊は勿論、
神様とか妖怪やら祟りなど非科学的な物が当たり前に信じられていた時代で
そう言った物を質屋に持ち込む人は少なくは無かったそうだ。
どういった基準で値段をつけていたのかは分らないが、じいちゃん曰く「おやじには霊感があったからそう言う神がかった物は見分ける事ができたんだ」と言っていた。
「よう喜一、でっかくなりやがって」店にデカイおじさんがいた。外知朗おじさんだ。
おじさんはおやじの悪趣味な友人の1人だ。
「俺の名前はトチロウ、外を歩き沢山の事を知りそして教える者、外知朗だ!」
おじさんの口癖で、こじつけだ。(昔は牛年の次男に外と言う字をつける風習があった。理由は牛はどっしりして中々小屋から出ようとしない様子から早く養子に行けという意味らしい)
おじさんはたくさんの学校を行ったり来たりしている学者?らしい。
行った先で変わった物を見つけたり、変な宗教に首を突っ込んだりする変人だったが、
田舎育ちの喜一にはこの人の話は夢の様な外の世界だった。
その日「見せ物小屋」の話をしてくれた。
喜一の町にも縁日になればよくやって来た、小さなサーカス&マジックだ。
たまたま行った村がちょうど縁日だった。
懐かしく思ったトチロウは神社に入り、人ゴミの中でマジックショーを見ていた。
ところがそのマジックショーにはタネが無かった。
どう考えても物理的にあり得ない事が目の前で起っていたのだ。
空は飛ぶは、小さな箱から5人6人と現れたり。
周りの田舎者ならとにかく俺の目は誤魔化せねぇぜ!と粋がったトチロウは自分のスケジュールをずらしてまで、そこの団員達を見張ったそうだ。
15人程の団員達は縁日が終わると小さな小屋へと入って行った。
周りにはもう人は居なくなっていた。
着替えでもしているのか?と思い待っていると出て来たのは団長らしき男1人だった。
不思議に思い小屋を覗くが誰もいない…その間に団長を見失ってしまった。
「くそぅ!たしか次の公演はとなりの県と言っていたな!!」
トチロウは汽車の時間を調べ、次の日汽車の中で男を見つける事に成功した。
男の向かいの席に座り眠ったふりをすると暫くして男も眠りだした…。
しめた!と思い男の小さな荷物を調べた。
中から小箱が出て来て中を開けると葉巻きのような筒が何本も入っていた。
一本抜き取ろうかと思った時に駅に止まる合図の汽笛が鳴った。
「まずい!!」男が起きると思い慌てて荷物を戻し、また寝たふりをした。
男が起きると同時にトチロウも今起きたかの様な芝居をした。
男が立ち汽車を降りようとするトチロウも立とうとしたが何故か腰が上がらない!
声も出なかった俗に言う金縛りにあった。
男は立ち去る瞬間「次、後を追えば殺すぞ」と言い去った。
トチロウの金縛りは次の駅まで続き、結局何も解らなかったそうだ。
横で話を聞いていたおやじがぽつりと「きつねだなぁ」と言った。
「一本盗ってくりゃその管狐、高く買ってやったのによぅ」と笑ったが「おりゃぁ金が欲しいんじゃねーんだよ!真実がしりてぇんだ!!」と怒るおじさんにおやじは「だから狐だって」と、ラチの開かない会話が続いた。
家は昔質屋だった、と言ってもじいちゃんが17歳の頃までだから
私は話でしか知らないのだけど結構面白い話を聞けた。
田舎なのもあるけどじいちゃんが小学生の頃は幽霊は勿論、
神様とか妖怪やら祟りなど非科学的な物が当たり前に信じられていた時代で、
そう言った物を質屋に持ち込む人は少なくは無かったそうだ。
どういった基準で値段をつけていたのかは分らないが、じいちゃん曰く「おやじには霊感があったからそう言う神がかった物は見分ける事ができたんだ」と言っていた。
店からおやじと客の話声が聞こえて来た。
チラッと覗くと一組の夫婦が見えた。
友禅の着物、パリッとしたスーツにキッチリ整った鬚。
こいつは金持ちだ!と感じた喜一はチョコでも貰えるのでは!?とすかさず茶を用意し、おやじの後ろからそろりと「粗茶ですが」と茶を差し出した。
普段、用もないのに店をうろつくなと言われているためこうでもしないと自分の存在をアピール出来なかったのだ。喜一の腹の中が読めているおやじは眉を寄せ
て邪険にしたが、跡継ぎの勉強だと言えば客受けも良かったため、おやじはそれ以上何も言えず居座ることに成功した。
客が売りに来た商品は立派な日本人形だった。
着せ変え人形にされていたのか立派な着物が何着もあり、素人目でも高価な事がわかった。しかしおやじは「好かんな」と一言。
喜一はピクリと反応した。おやじの(好かん)と言う言葉は(良く無い)と言う意味などが含まれ、駄目だしや説教のさいに使われたからだ。
おやじは人形から何か感じ取ったのか、
執拗に人形の出所などを聞いていると観念した客は重い口を開いた。
ある日蔵を整理しているとが人形が出て来た。
いつの物か分らない人形を蔵のゴミと共に捨てたそうだ。
次の日の朝起きると仏間に人形が置かれ、何とその人形は涙を流していた。
驚いた夫婦は寺に持って行こうとしたが人形がまたぽろぽろと泣き出し嫌がる。
燃やす事も捨てる事も出来ないが恐くて家にも置いておけず、
途方に暮れここへ来たのだった。
おやじは少し考えたが結局その泣き人形をタダ同然で買い取った。
喜一には商売事はやはり興味はなく、
何の収穫も無かった上におやじに店じまいを手伝わされむくれていると、
「明日お払いに住職んとこ行って来るから店番頼むぞ」とおやじに言われ、
喜一はさらにげんなりした。
「そんなに良くない物なんか買うなよ」と反論すると「そんなに悪くも強くも無いんだがな…よく解らんもんを売るのは性じゃねぇ、念には念って事だな」おやじはそう言うと部屋へと戻り、喜一は明日のイワナ釣りを断念し、人形を恨めしく思いながらその日は眠りについた。
その日の夜喜一は夢を見た。
あの人形が自分に泣いて縋るのだ。
何を言っているのかは分らないが泣きながら何か頼んでいる感じだった。
朝、喜一は夢の事をおやじに話すとおやじも同じ夢を見たそうだ。
おやじは夢で人形と会話したらしい。
「普通はこけしを使うからな金持ちはやる事が違うな、気付かなかった…」
そう言うとおやじは店に入り人形の着物を剥ぎだした。
「見ろ、背中に文字が書かれてるだろう?」
喜一は消えかけている文字を目をこらして読んだ。
長々と前置きの後、亡き子を偲んで…トヨ。と書かれていた。
喜一の住む辺りでは水子の霊を供養するときこけしが使われた。
生まれて来る筈だった子の名前を書いたこけしを1年仏壇に置き(その間子を作ってはいけない)その後お払いをして燃やすのだ。
そのこけしを御悔やみこけし、供養こけし、亡きこけしなどと呼ばれていた。
そう、あの人形は泣き人形ではなく、亡き人形だったのだ。
おやじの話では人形には母親の念が憑いていた。
子供を流産した上にもう産めない体になってしまった女は亡き人形を燃やさず、
ずっとわが子の様に可愛がっていたのだ。
その残留思念が人形に残り、燃やされる事を嫌がったのだった。
「寺にもって行かれると燃やされると思ったんだろう…昨日の晩、燃やしたり捨てたりしない事を約束に寺でお払いを受けると言ったから、もうこの人形が泣く事は無いだろう」おやじはそう言うと人形を持って寺へと出かけて行った。
その後人形はすぐに買い手がついた。
おやじは趣味の悪い金持ちに人形を燃やしたり捨てたりしない事を約束させて高値で売り、亡き人形は喜一の前から姿を消したのでした。
家は昔質屋だった、と言ってもじいちゃんが17歳の頃までだから私は話でしか知らない
のだけど結構面白い話を聞けた。
おやじは鑑定士の仕事もしていて依頼の品が大きな物の場合はお客の家まで出かけるため、喜一じいちゃんはその間店番をさせられた。
店番と言っても目利きが出来るわけでは無いので、売りに来たお客は明日にしてもらい、買いに来た客の相手だけ。
しかし田舎の質屋に客なんてほとんど来ない…ところが珍しく客が大きな荷物でやって来た。(まいったこりゃ売りか、鑑定の客だ)と思い帰ってもらおうとすると、ふろしきをドンっと置き、出て来たのは立派な朱い壷だった。
ボコボコしていて荒々しく、模様かと思えば木々の絵が黒い上薬で描かれていた。
おやじは居ないと言うと太った客は語りだした。
客は趣味で骨董を集めている方で、この壷は無名の作家の作品で価値のある物では無いのだけれど、人によっては全財産を投げ打ってもいいと言い出す人がいれ
ばゴミ同前と言う人もいて、どういった物なのか詳しく知りたい、もし良く無い物ならどうすれば良いか聞きに来たそうだ。
フーンとまったく壷に興味の無い喜一は話を聞きながら壷の模様を目で追っていた…
すると壷から何かが聞こえて来た…
客はペラペラ語りだし止まらない。
「…それでね、私は後者側でこの壷の価値が解らないんだけど、前者の間でかってに呼ばれている名前があってね…」
喜一は「ヒグラシ!?」と言うと客はビックリしていた。
「そうなんだ、ヒグラシと呼ばれているんだ!何で解ったんだい?」
客に聞かれたが喜一にはハッキリと聞こえた。
壷をジーっと見つめるとヒグラシの鳴声が聞こえ、まさに夏の夕暮れそのものだった。
「お客さんコレ駄目だよ!!良く無い物だ、人の魂を吸い取る壷だお払いしなくちゃいけない、危険だからうちで引き取るよ」
喜一は思わず嘘をついてしまった。
喜一もこの壷に魅せられてしまった。何としても手に入れたくなったのだった。
慌てた客は壷を置いて行ってくれた。
喜一は壷を眺めながらとても良い事をしたと思い(あんな価値が解らない奴が持っているよりウチにあった方がよっぽどいい、それにタダでこんないい物を手に入れられたんだからおやじも喜ぶだろう)とほくそ笑んでいた。
ところが帰って来たおやじに喜んで壷の事を説明すると大目玉を食らった。
「バカやろうウチは鑑定屋だぞ、信用が第一なんだそんな事して商品手に入れてたんじゃ誰が買うってんだ!!物の価値を決めるのが商売、客の価値なんて誰がつけろって言った!!」と怒鳴られ結局壷は持ち主に帰されてしまった。
じいちゃんはもう一度ヒグラシに出会えたなら、全財産投げ打ってもいいと言っていたが戦争になって行方は解らなくなってしまったそうだ。
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