【閲覧注意】怪談の森【怖い話まとめ】

当サイト「怪談の森」は古今東西の怖い話~ほっこりする神様系の話まで集めています。 随時更新中!!

カテゴリ: 自慢じゃないが、私は憑かれやすいシリーズ系




743 白蛇の招魂1/4 2006/06/24(土) 02:04:02 ID:fWU+tbEx0 
いつぞやの6月。
その日は相方とロードワークで、○鎚山のふもとのある集落にやって来ていた。 
何でも彼女曰く、「歴史的に有名な史跡がある」と云うから付いて行ったんですが、 
現地に着いて史跡とやらに行くと、まぁ辺鄙な所だった。
木、山、家、木、田、畑、家、川、家、山。
「また騙された」と気付くまでに、大して時間は掛からなかった。 

私の課題は、地元の風土、郷土史に関するモノで、四国中いろんな所へ行く。
ただし、いつもオカルトチックな場所ばかり。
先日も、古代人の霊が出る鍾乳洞とやらに行ってきた。
元来ビビり性な私が、好き好んでそんな所に行ったりはしないのですが、
研究室の相方や助教授が画策して、心霊スポットばかり行き先に選ぶ。
そんな話。 


744 白蛇の招魂2/4 2006/06/24(土) 02:07:13 ID:fWU+tbEx0 
棚田の坂を登りながら、相方は史跡にまつわる話とやらをしてくれた。 
「――かつて、この地で大暴れした白蛇の精がいた。
 普通、白蛇といえば、神の使いだとか守り神だとか相場が決まってるが、
 相当の荒神だったらしく、村々にい多くの災いを振り撒いた。
 その時、集まった石鎚山の山伏達が、死闘の末これを封印したのだという。 
 大正10年9月12日の出来事だった――」
「えらく最近だな。日付もハッキリしてんのかよ」 
「ソレを封印した塚の跡が、此処なんよ」
指差す先には、盛った土の上に鏡餅状に石が3つ置いてあるだけの、しょぼくれたモノだった。 
とても何かを封印しているとは思えない。
「何もないんだけど」
「塚の跡って言うたやん。
 先の戦中のうやむやで、よく分かってないんちて。
 誰かが塚を壊して封印を解いちゃったんだとかで、コレはその塚の名残だけ。
 今では、白蛇の精は自由に動き回ってるんだってサ」
「それはヤバいんじゃないのか?」 
「まぁ、一度封印したときに前牙を抜いちゅうとかで、力はかなり弱くなってるんだけど。
 ただ、今でもこの塚周辺の家では、白蛇の瘴気に当てられた子が生まれて来るんだちて。
 犬神憑きならぬ蛇神憑きの子が。
 発症すると、舌が異常に長かったり、ウロコが出来たり、
 階段を這いつくばって昇り降りするようになるっちゅう」
「それは・・・一生そのままなん?」 
「ん―簡単に治せるらしい・・・いや治すのとは違うか」
「治すのと違うとは?」 
「伝染(うつす)んだよ。他人に」


745 白蛇の招魂3/4 2006/06/24(土) 02:09:01 ID:fWU+tbEx0 
そう言うと相方は、足元に落ちてる枝を拾って、地面にカリカリしはじめた。
蛇憑きの者に般若心経を唱えてやると、たいそう苦しむらしい。
ただ、たんに苦しむだけで、蛇は消えてくれない。
放っておくと、憑かれた者自身、その内衰弱死してしまう。
だが、お経を聞いて苦しんでいる時に、じっと視線を合わせてやると、
たまらず飛び出してきて、眼を合わせたその人に伝染るんだという。
かわりに抜け出たおかげで、元の方の害は消える。 
だから、白蛇憑きの子が生まれると、老人が身代わりになるんだという。
「・・・生い先短い順にね」
「じゃあ、もしいっぺんにたくさん生まれたとしたら?」
「周りの家々で交代で伝染つしていくらしい。
 なんでも、長い間憑かれると剥がれなくなるから、一年とか半年周期で。
 死にそうな者が出るまで、回していくんだってサね」
「なんか凄い話やな・・・その、二重人格とか、集団ヒステリーとかじゃあ?」
「まぁ、大抵の事はそれで説明がつくんだろうね」
そうだ、うそ臭い。 
大体、何でそんな話こいつが知っているというんだ―― 

「じゃあ、試してみる?」
相方は親指を立てて、『お前ら表へでろ』のポーズをとった。 
指の先、塚の真後ろには、立派な蔵のある家が佇んでいた。
「今年はこの家が“持ち回り”なんだ。奥行って会ってくるといい。 
 ―――ちなみに、ウチは遠慮しとくよ」
私は、「すいません。勘弁して下さい」と言う他なかった。


746 白蛇の招魂4/4 2006/06/24(土) 02:10:38 ID:fWU+tbEx0 
相方はにっかり笑って、
「まぁ、本人に聞かんでも話は聞けるサ。
 なんせここの老人で、憑かれた事のない者は一人も居ないんだから」

その後、畑仕事をしているお爺さんに出くわした私は、先程の話をおっかなびっくり聞いてみた。 
お爺さんは、「しらはぶのしょうこん(白蛇の招魂?)か、そりゃ有名よ」と、にこやかに答えてくれた。
ただ、「どこから来たんか?まぁ、茶でも上がっていけいな?」と、なぜかやたらと自宅に招こうとする。 
老人の誘いを丁重にお断りした私と相方は、逃げるように集落を後にした。 

お爺さんが腰にぶら下げていた鉈(ナタ)が、鈍く光っていて怖かったからではない。 
「家でゆっくり話し聞かしたるけに」
そう言いって麦わら帽子を脱いだお爺さんは、にっかり笑った。 
その禿げ上がった頭には、びっしりとウロコ状のアザがあって――――



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236 呼び児の筆1/4 2006/06/18(日) 20:34:16 ID:IMcj38CG0 
自慢じゃない、私は憑かれやすい。 
相方曰く、私自身がアンテナになってて、ロクでもないモノを集めやすいんだそうで。 
霊感なんて殆どありはしないので、自覚症状がなくタチが悪いのです。
アンテナといえば、ゲゲゲの鬼太郎は髪の毛が『妖怪アンテナ』だとかいいますが、
昔から頭髪は、身体の中で一番霊界に近い場所なんだそうで、触媒にはもってこいだそうです。髪の毛は。 
そんな話。


238 呼び児の筆2/4 2006/06/18(日) 21:13:34 ID:IMcj38CG0 
空調が壊れたとか何とかで、最悪に蒸し暑い夏休みの研究室。 
オンボロ扇風機でなんとか残を凌いでいたら、夏の間帰省していた相方が久しぶりに顔を見せた。 
お土産はポン酢と鰹節。
そして、変なおまけもついてきた。 
取り出したのは、平べったい長方形の箱で、
前面に墨で何か書いてあったが、達筆すぎて『タ』『ウ』しか読めない。 
「開けるよ?いい?」
相方はえらくもったいぶって開けると、中には硯が入っていて、筆入れには小振りの毛筆が3本入っていた。 
彼女は「コレね、子供の髪の毛で出来てるんだ」という。
中国なんかでは、人毛の筆は割とポピュラーなので、驚きはしなかったが、
黒くて短いソレは、どうも気色が悪かった。 
「ウチの地元の風習でね。
 男の子が生まれると、数え年で5歳――今でいう4歳になっちゅう時に、頭髪を使って筆を作るんだって」
「何かの記念なん?」 
「んー、ホラ。男の子って、家系継いで貰わないといかんでしょ。
 でも年頃になると、地元飛び出して外に行っちゃう。 
 そういう時に、家の者がその髪の筆で書いた文を送ってやると、
 ソイツがどんなに遠くに出てても、必ず帰ってくるんだって」
「人質――いや、髪質ってやつかな?」 
「『後ろ髪引かれる』って言葉あるやね?
 文系習うまで、ずっとコレが語源だと思ってたんよw
 何処の家でもやってる事なんだと思ってたのサね」


240 呼び児の筆3/4 2006/06/18(日) 21:15:06 ID:IMcj38CG0 
「さっき、『必ず帰ってくる』って言ったよね。それは・・・死んだ人も?」 
彼女はニッコリ笑って頷き、 
「帰ってくるよ――昔、いたずらで筆を使った事があるんよ」
相方は筆を一本取り出して、毛先を弄りはじめた。 

「8歳くらいの時かな。
 お昼に縁台で遊んでたら、私と同じくらいの年恰好の男の子がいて、『ただいま』って言うんだよ。
 親戚の子かな?って思ったけど、女の子しか居ないハズなんだよね。叔父さんにも叔母さんにも。 
 ウチはその子の名前知らないんだけど、向こうは何故かウチの名前を知っちゅう・・・
   
 で、夏の間、ず~っとその子と遊んでたんだけど、名前だけは教えてくれなかった。

 夏の終わり頃、夕方になってその子が現れて、いきなり『さよなら』って言うんだ。
 『名前も聞いてないのに帰っちゃうの?』ってウチが言うと、最後に名前だけ教えてくれた。
 『タツロウ』って。 

 その日の夜、親に『タツロウくん帰っちゃった』っち言うと、母親がギョっとして言うたね。
 『そい、お前の兄ちゃんぜえ』って。
 自分はずっと一人っ子やと思ってたんだけど、
 何でも、ウチが生まれてすぐ死んだ子で、池で溺れたとかで、遺体も見つからなかったちて。
 形見は、4歳の時に髪から作った筆だけやったって。
 本当は、筆の髪の主が死んだらその筆は処分せないかんだけど、ウチの親が捨てれなんだんやろうね」


241 呼び児の筆4/4 2006/06/18(日) 21:16:00 ID:IMcj38CG0 
そう言うと、相方は手に持った筆を箱に戻した。 
「ウソくさ。近所の家の親戚とかじゃないんか」
「・・・そうかもね」
「で、ソレがお兄さんの筆?」
「うん」
「小さいな」
「うん」
「何やの?これ使って、また呼ぼうとか考えてるん?」
「ううん・・・もう来てる」

クーラーもない真夏の部屋だったが、その日は真冬のように涼しかった。



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265 霊山の猿1/5 2006/06/11(日) 23:16:31 ID:fDhKkYUt0 
四国では、あまり全国的に有名な心霊スポットがない。
超常現象が起きても、殆ど噂にならないのです。 

仕事がてら地域のご老人に話を伺う事が多く、みんな様々な不思議体験を語ってくれますが、
皆、口を揃えて「狸に化かされたんだ」と言います。 
不可解な事があっても、自然現象だと納得する。不思議な事など何も無い。そんな国民性があるように思います。 
以前、山怖スレで投稿し損ねた話。


267 霊山の猿2/5 2006/06/11(日) 23:18:05 ID:fDhKkYUt0 
祖父が亡くなった次の年の夏、山開きの日と同時に霊峰、四国では有名な霊山に登ってきた。 
死んだ爺さんが毎年熱心に参拝していたので、後を継いで私が行く運びとなったのだ。
相方も行きたがっていたが、初日は女人入山禁止という事で、お留守番して頂いた。
祖父の遺品には、修山服の他に参拝札みたいな物があって、
何回訪れたのか、というのが分かるようになっているのだが、
曽祖父の頃から続けているらしく、山麓で札を奉納すると、今年で64回目との事だった。 

ツアーバスで来ているワケではないので、移動には時間が掛かる。 
最低2日必要な日程だっただが、宿泊費も惜しいので、中腹の山小屋で泊まる事にした。 
山小屋といっても、管理者が一人居るだけの簡易休憩所で、広さ4畳しかない。おまけに何か臭い。

初夏の蒸し暑さと薮蚊に、ウンウン言いながら寝ていると、
深夜、いきなり「ドーーーーン!」という音がして飛び起きた。 
続けて「ゴゴゴゴゴ」や「ドドドドド」と、地響きの様な音が聞こえる。(JOJOじゃないです)

「飛行機か何かですか」と管理の爺さんに聞くと、
「山では良くある事」とのことだった。
私がしつこく食い下がると、
「まともに何度も聞いたら寿命が縮む。早よ寝れ!」 
慌てて目を瞑った。


268 霊山の猿3/5 2006/06/11(日) 23:19:41 ID:fDhKkYUt0 
次の日、日が昇る前から立つことにする。
爺さんが「朝はやめとけ」と言うが、私が正午までに登って下山したい旨を云うと、
「猿に気ィつけろ」とだけ念を押された。 

しばらく歩くと、高さ100メートル、角度は70度を超える崖に着く。
べらぼうに高い。下から見上げるだけで眩暈がする。 
そこには2本の長い鎖が打ち込まれており、それだけを足場にして登れというのである。
実際、祖父に連れられ何度か来た事はあり、いつもは迂回ルートを通っていたが、
今年こそは・・・と、若さ故の過ちか、鎖場のルートを選んでしまった。 

朝露で鎖が湿って滑りやすい。
四苦八苦しながら半分くらい登った頃、足元で「お~い」と呼ぶ声がした。 
うっかり下を見てしまう。霧でよくは見えないが、高さで頭がクラクラする。 
もう一度、足元で「お~い」と呼ぶので、返事をしようとした――
瞬間。背中がズシッと重くなった。身体全体がガクンと揺れた。 
何かが、何かが背中にしがみ付いている! 


269 霊山の猿4/5 2006/06/11(日) 23:21:03 ID:fDhKkYUt0 
私を落とすつもりか、背中に乗ったソレは、身体を揺すり始める。 
続けて、頭に巻いている絞りをグイグイ引っ張り始める。 
こんな態勢では振り向くことも出来ないが、確かに腰に絡みつく毛深い足が見えた。 
「猿!?」 
この高さで落ちて、只では済まないだろう。
鎖の隙間に手、足、としっかりはめ込んで、なんとか振り落とされないようにする。 
下で怒号がする。
甲高い声で、今度は「落とせ~落とせ~!」と。
そして背中のヤツは、私を何度も揺する。 
ハチマキが脱げると、今度は髪の毛を引っ張り始め、何本もブチブチと抜かれる。 
あまりの恐怖に、私は目を瞑ったまま泣き喚いた。

何分経ったろうか。
私がじっと我慢していると、下の方で「チッ」と舌打ちが聞こえ、フッと背中の重みがとれた。 

その後、ビクビクしながら鎖を登り終えると、一番近い宮社まで駆け込んだ。 
爪でガリガリになった修山服を見せながら、一部始終を説明する。 


270 霊山の猿5/5 2006/06/11(日) 23:23:02 ID:fDhKkYUt0 
宮司は難しい顔をして、
「腐っても霊場だ。今から私が言う話は聞かなかった事にしてくれ」 
そう前置きし、語り始めた。

これだけ険しい道な為、確かに落下事故も起こりはするが、死傷者などは滅多に出ない。 
稀に起こる事故の大半は、独りで登った者が遭うのだそうだ。 
落ちた人間は揃って、「猿に襲われた」という。
何でも、この山の猿の中には、人間そっくりの声で叫ぶ猿が居て、
早朝や夜、独りで登ろうとすると、だれもいないハズなのに、自分を呼ぶ声がするという。
それが本当に猿なのかどうかは分からないが。 
前々年も一人、早朝に登った参拝者が崖から落ちた。
発見された時には、まだ息が有ったらしい。が、病院に着く前に亡くなったのだという。 

「もう少し見つけるのが早かったら」と、宮司は呟いた。
私が「まるで見たかのように話しますね」と聞くと、
「・・・見つけたのはワシだからな。
 猿ども、割れた頭から脳みそ掻き出して食っていやがった」
宮司は吐き捨てるようにそう言った。



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855 本の蟲1/4 2006/06/07(水) 10:23:11 ID:V+9WAOKq0 
年末、図書館にて、年明けに提出するレポートの追い込みに入っていた。 
ギリギリまで現地調査ばかり行ってて、肝心の文章にまとめてなかった。 
私の課題は、四国の風土、郷土史に関するモノで、この一年間いろんな所に行った。
そのどれもオカルトチックな場所で、
先日も故・宜保愛子先生が霊視したとかいう、大きな池に行ってきたばかりでした。 
元来ビビリ性の私が、好き好んでそんな所に行ったりはしないのですが、
研究室の相方や助教授が画策して、心霊スポットばかり行き先に選ぶ。 
そんな話。


856 本の蟲2/4 2006/06/07(水) 10:25:48 ID:V+9WAOKq0 
ウチの大学のウリは無駄に大きい図書館で、一般の誰でも入れるのだが、いつもガラガラだった。 
私がPCを高速でタイプしている向かい側で、助教授の泉先生が分厚い本を読んでいる。
冬休み中の図書館の鍵は、泉先生が管理していた。 
相方・・・私の彼女も、隣で本を読んだりして、初めは静かにしていたが、 
すぐに飽きたのか、私と先生にちょっかいをかけはじめる。
小動物の様なウザさだ。 
ノーリアクションの先生に、相方は「あははー先生は本の虫ですねぇ」と言った。 
すると泉先生は「居るよ?」と、本から視線を上げ、「本当に居るよ、本の蟲は」と言う。
「まぁ生き物じゃないから、『在る』と言う方が正しいか・・・」と、栞を挟んで読書を中断する。 

「図書館に寄贈される本の中には、タイトルも内容も書かれていない白紙の本が入っていて、
 殆どの人がそれに気づかないんだ。 
 どんなに管理の厳しい図書館でも、必ず一冊は入っているらしい。
 もちろん、ワザト入れてるんだけど・・・」 
先生は周りの本棚を見渡し、 
「これだけたくさんの本があるんだから、本から思念や言霊が染み出してきてもおかしくは無い。 
 それを『本の蟲』っていうんだけど、そいつらは精神衛生上、人体にあまり宜しくない働きをする。
 知恵熱だとか焦燥感とか。時には命に係わる・・・
 それらを集める為に、白紙の本を置いておくらしい」
そう言うと先生は、背を向け本棚に向かい、何かを探し始めた。


857 本の蟲3/4 2006/06/07(水) 10:27:45 ID:V+9WAOKq0 
「始めは白紙のその本なんだけど、ずっと置いておくと、
 『本の蟲』がたくさん集まって来て、遂には白紙じゃなくなるんだ。
 文字の書かれた本になる」

また与太話を・・・と思っていると、「ああ、『在った』」。
先生は振り向いて、「在ったよ。本の蟲の――」。
そう言うと、一冊の本を持って来た。 
ハードカバーで、タイトルは書かれてない。かなり古いのか、紙面は茶黄色く変色している。
先生は相方に手渡し、人差し指を立て、「どう?面白そうだよ?」と言った。
受け取った彼女は訝しがりながらも、嬉々として読み始める。 

黙って静かに読みふけっている。おかげで私の作業ははかどったし、先生も静かに読書が出来た。 

夕方になり作業も殆ど終わったので、「そろそろ帰るよ?」と聞くが返事が無い。 
どれだけ集中してるんだろう。覗き込んで見ると、私は「ギョッ」とする。 
彼女は延々と白紙のページを繰っていた。 
ただ、まるでそこに文字が書いてるかのように、目線は白紙を追っている。 
「せ、先生!?」
慌てて聞く。
「ああ、そろそろ良いか」と言うと、泉先生は彼女の前までやって来て、
目の前で「パンッ!」と猫だましをした。 
彼女は我にかえる。
先生は本をひょいと取り上げると、「もう閉館だよ。帰りなさい」と言った。 


858 本の蟲4/4 2006/06/07(水) 10:29:47 ID:V+9WAOKq0 
相方が「まだ読み終わってないので、また来ます」と言うと、
「ああ、また来るのは構わないが君。図書館では静かにしなさい。
 張り紙にも書いてあるだろう・・・どうしてかわかるかい?」 
当たり前のことを聞く。 
私「周りの人がビックリするからですか?」 
「いや、それもあるけど、『本の蟲』がビックリして目を覚ますからだ」

後日、相方が続きを読むために図書館に行ったが、件の本は見つからなかったそうだ。 
泉先生に聞くと、
「やだな。只の暗示だよ、暗示。『おもしろい本だよ~』ってサ」と、あっけらかんに答えた。
が、どうも腑に落ちなかった。
彼女が読んでいた白紙の本は何だったのか。
当の本人が、内容については話したがらなかったが、
「ウチが暗示なんか掛かるか!・・・アレは―――」 
と、仕切りに悔しそうにしてたのが印象的でした。



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545 施餓鬼1/4 2006/06/04(日) 03:21:22 ID:vECE7QZ50 
その年の瀬戸内は大変暖かくて、3月にはもう桜が咲き始めていた。
後輩曰く、「この時期に既に桜が満開の穴場がある」とか抜かすので、お花見をする事となった。 

ちょっと山手に上がった所だが、見事な枝垂れ桜が満開だった。
席は大いに盛り上がり、私は下戸のくせに大いに飲み大いに食べた。 
酔っ払ってて覚えてないが、いろいろ変な事口走ったらしい。 
挙句、上半身裸で寝てしまったらしい。覚えてないが。 
例年より暖かいとはいえ3月、案の定風邪を引いてしまった。 
滅多に風邪引かない分、いざ引くと往々にしてロクな事が無い。 
そんな感じの話。


546 施餓鬼2/4 2006/06/04(日) 03:23:24 ID:vECE7QZ50 
熱で頭がボーッとする。 
食欲なんて無いハズなのに、無性に米の飯を食べたくなった。 
始めはお粥など炊いたりしていたが、面倒になって、炊いたご飯を炊飯器から直接食べ始め・・・
終いに「もう炊くのも面倒だ」と、私は生の米をそのままバリバリ食いだした。
自分のやってる事が理解できなかった。 
いくら食べても胃が空っぽな気がした。 

この辺から意識が飛び始め、自分の行動が曖昧になるのだが―― 
たしか、レトルトカレーのルーを袋ごと啜ったり、乾麺を生で齧ったりしてたようだ。 
まったく自分のやってる事が理解できない。
普段から2週間分の食料は置いてあるが、それをおよそ4日で食い尽くしてしまった。 
自慢じゃないが、私の体重は56kg。普通はこんなに食えるハズはない。 
食っても食ってもお腹は減り続ける。

「ひもじい」 
空腹と倦怠感が全身を襲う。
空っぽの冷蔵庫の前で茫然自失となる。買出しに行こうにも体力の限界だった。 
ふと脳裏に、『死』の1文字が浮ぶ。
こんなんで死んだら恥だな――と考えてた矢先、電話が鳴った。 
「悪質な風邪なので3日くらい休む」と研究室には言っておいたが、例の友人からだった。
『もしもしー♪』
1オクターブ高い声。 
『治った?大丈夫?お見舞い行こうか?』
ありきたりな事を聞いてくる。 
私はもはや、「あー」だの「うー」だのしか返事できなかった。
ただ事ではないと思ったのだろう。
『あー待ってち。今から行くけぇ』と言って切れる。(助かった・・・かな)

今考えると、死にそうになるもっと前に、初めから電話で助け呼べば良かったのだが、
脳に栄養が回ってなかったのだ。仕方がない。 


547 施餓鬼3/4 2006/06/04(日) 03:25:30 ID:vECE7QZ50 
数分後、外で友人のバイクの爆音が聞こえる。 
それまでは、水を飲んで仰向けになって凌いでいた。 
ドアは――3日前から開けっ放しだった。 
台所まで入ってきた友人は、私を一瞥して噴き出した。「ブッ」って 
二言目には「うわぁ、初めて見た」と、嬉しげに言い放った。 

彼女曰く、「餓鬼の類」だという。私の身体にまとわり憑いて、腹部をガジガジ齧ってたそうだ。 
電話の向こうで、私の声じゃない『ひもじい、ひもじい』って声が聞こえて、
ヤバいなと思って、あわてて来たらしい。 

すぐに友人は誰かに電話をし始めた。
「あ、もしもし――木村の婆っちゃー?」
「んー元気。あーこの間はありがと――」
死にかけの人間放置して世間話か?
「んーでね、たぶん、スイゴやと思う。あ、ウチやなくて友達」
「いや、わからん、後で聞く――」
「――あ、炭?分かった。ありがとうー」

電話を切った友人は、ガスコンロに向かって何かし始めた。 
料理でも作ってくれるのだろうか、凄くコゲ臭い。

「コレでいいかな」
友人がグラスに注いで持ってきたのは、煮え湯だった。 
しかも、何か灰色い粉末がプカプカ浮いている。 
コレを「目ぇ閉じて鼻摘んで飲み干せ」と言う。 
一口飲むと、熱さで舌が焼かれる。炭の苦さと塩辛さが口内に広がる。 
「何コレ?」
「塩水」
「は?」 
「良いけぇ飲みぃ。ヘソから出るけん」
こんなモン飲んでたまるかと抵抗したが、鼻を摘まれ大口開けさせられ流し込まれた。 


548 施餓鬼4/4 2006/06/04(日) 03:27:27 ID:vECE7QZ50 
暫くして、身体から倦怠感が抜け楽になる。
友人が「立てる?」と聞いてきた。 
どうやらもう大丈夫のようだ。
立つと同時に「ぐ~~~」と、盛大に腹の音が鳴る。
友人は苦笑しながら「何か作るわ」と、米びつの底に僅かに残った米でお粥を作ってくれたが、
結局、なんにも味はしなかった。煮え湯で舌が焼けていたから。 

大事を取って病院に行ったところ、栄養失調との事だった。あれだけ食ったのにだ。

点滴受けながら友人に聞かれた。
「何か思い当たるフシない?」
「~~~で花見した」
「3月に?○○寺の下やろ。あそこは7月に施餓鬼する所や。
(『施餓鬼』=地獄の餓鬼の為に施しをしてやる、鎮魂際みたいなモノ)
 飲み食いした?」
「たらふく食って裸で寝た」
「バカか。
 知らん?『施餓鬼の前にお祭りすっと餓鬼が憑く』って」
「知らん。初めて聞いた」
「あー、ウチの地元だけなんかな?
 まぁ、お前を供物だと思ったんだろうサね。腹に食い物の詰まった」
...
「ねぇ、さっき俺に何飲ましたん?」 
「塩水に注連縄(しめなわ)焼いた灰ぶち込んだモノ」
何だそりゃ。
「ウチの地元では割とポピュラーなんだけど・・・」
「知らん。初めて飲んだ」 
まぁいいや・・・

私が、「今度ばかりは本当に死を覚悟したよ」と言うと、
友人はうなずいて、「とっておきの良い名言がある」と言った。 
「『死を恐れるな。死はいつもそばに居る。
  恐れを見せた時、それは光よりも速く飛びかかって来るだろう。
  恐れなければ、それはただ、優しく見守っているだけだ』って」 
「・・・それ、聞いたことあるぞ。アニメのセリフじゃねぇか」



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