うちの一族はもともと九州南部の山間の小さい集落に住んでいた一族で、集落の名前(地名)=一族の苗字、集落全体が親戚って感じです。

そんなうちの一族に伝わる不思議な話です。

もともと別の土地に住んでいたらしいのですが、戦に追われ一族郎党でその山に逃げ込みました。

着の身着のままで上は老人、下は乳飲み子で食べるものもなくなり、山中で精も根も尽き果ててあたりも暗くなり、もはやこれまでか…とみんなあきらめかけたそうです。


すると闇の中から人影が現れ言いました。

「こんな夜中に幼子を連れて山にいるやからがいるといわれて様子を見に来たら、本当にいるとは驚いた」

地元の人間が警戒して偵察に来たと思った長老が、明日になればすぐに立ちさる、もうしわけないが見逃してくれ。と頼みました。

人影は、疲労こんぱいの一族を見回し、しばらく考えると

「ここでは夜露をしのぐにはつらかろう。あっちに窪地がある。そこで火を焚き暖を取るといい。」

そういうと山の中に去っていきました。その場にとどまっても仕方ないと、言われた通り窪地に移動して一夜を過ごしました。

夜が明けて、とりあえず移動しようとすると山の中から「鷹(たか)のような異形の男(口伝のまんま)」がイノシシをかついで現れました。

驚いていると「姉者のお恵みじゃ。喰え」と言いました。

その声は昨晩、窪地を教えてくれた人影の声でした。警戒しながらも腹をすかしていた一族はありがたくいただきました。

ご飯を食べてる間、「鷹のような男」は長老たちに、どうしてここにやってきたのか、これからどこにいくのか聞いてきました。

いままで住んでいたところを追われ、行くあてはない、と答えました。「鷹の男」は話を聞くと

「このまま山を下ると川にあたる。そのまま川沿いに下ると大きな岩がある。その辺りは弟の縄張りだ。話は通してあるからそこに集落を作るといい」

そういうと、いつの間にかいなくなっていました。

あれは山の神の使いに違いないと思ったご先祖様は、言われた通り川沿いにあった大岩の近くに集落を作りました。

以降、大岩周辺にいる神様を
「山裾(やますそ)さま」

山中で出会った「鷹の男」の神様を
「山中さま」

「鷹の男」が言っていた「姉者」を
「山上さま」と、呼んで奉りました。

以上が小さいころに聞かされた、集落創立の昔話です。

ちなみに集落近くにいらっしゃるせいか山裾様の目撃例が一番多く、かなりの人が川沿いの大岩で日向ぼっこをしている大きなフクロウを見ています。

大岩近くで川遊びをすれば水難に遭わないといわれていたので、夏になると子供たちがよく泳いでいるのですが、その子供たちを楽しそうに大岩から見ている山裾様が目撃されています。

逆に、山上様は見たという人はおらず、その存在も山中様の「姉者」という発言と山頂にある祠(ほこら)からしかその存在は確認できません。





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