某大手企業のプログラム開発現場に派遣されていた時の事。
その日も終電帰りになるような遅くまでパソコンに向かっていると、あたしの右の視界の隅に背広姿の男性が見えた。
誰かが立っているな、と思いながら作業を続けていると、その男性はずっとこちらの方を向いて立っている様だったので、顔を上げてそちらの方を見ると、そこには誰もいなかった。
『アレッ?』と思いながら、また作業に戻ると、やっぱり視界の隅にその男性が見えている。
それで、『ああ、これは……』と思ったので、無視する事にした。
以降も何度かその男性の姿は目の端に現れる事があった。
その男性は亡くなった人ではなく、まだ生きてる人の”生き霊”の様だった。
あたしの場合、亡くなっている人と、まだ生きている人の生き霊は見え方が違う様だ。
亡くなっている人は映写機で映された姿の様にぼんやりと、どこか薄っぺらく見える。
だが、何かを思う”念”が強くて、眠っている間などに念が抜け出して、その念だけが一人歩きして本人も気付いていないうちに生き霊になってしまっている様な場合は、一見、本当に生きている人と変わらない。
物質感のある生々しい姿をしていて、もう一度よく見ると居ない、という様な見え方をする。
何事かをとても気にしていると、夢にまでそれを見てしまう事もある。
プログラマーという仕事は大変根を詰める仕事で、寝ている間でさえ仕事をしている夢を見る事はよくある。
その時、本人も気付かないうちに念が生き霊と化して一人歩きしているらしい姿を、その現場では時々見かけた。
で、ある日その現場でトイレに入っていて、個室から出たらドアのすぐ外に若い女性が立っていた事があった。
「わっ?!」
と、目の前にいきなり人がいたものだから驚いたら、女性の姿は消えていた。
『ああ、また生き霊さんなんだ。ホント多いな、ここは……』と思っていたら、数日後、現場の廊下でその女性とすれ違った。
『アレッ?』と振り返ってみると、その姿は今度は生き霊ではなく本当の生きている方の”実体”だった。
生き霊を見るのはよくあるが、その”実体”の方もセットで見るのは初めてだった。
この現場においては他にも、視界の端に黒い影が走ってゆくのを何度か見たり、各階奥のフロアの同じ場所にあたるところに、毎年きちんと替えられているらしいやたらと大きくて立派な御札らしきものが貼ってあったり、と、妙な事が他にも色々とある。
どうやらそこは、色々なものが集まっている場所の様だった。
その現場のビルからひとつおいて隣には何故か寺があり、寺や神社が建つのは、たいがいその場所に建てないといけない理由があったからで、やはりそのあたりは何かいわくのある場所だったのかもしれない。
しばらく後に私はその現場での契約が終わり、以降そのビルには行っていないが、そのビルは今でもある。
後で聞いた話によれば、そのビルに入っていた某大手企業は作業場所を他に変えたとかで、そのビルから引っ越したらしい。
あのビルにいた生き霊たちも”実体”と一緒に引っ越したのであれば良いが、そうでない場合は、今もあのビルにいる…のだろうか。
しかも考えてみれば、私自身その現場での仕事が忙しい時、その現場で仕事をしている”夢”を何度か見ていた。
私の生き霊も、もしかすれば………