明治六年、商売をたたんで一家で移り住んだ今戸の小さな家の離れに、質屋の息子が泊まった。
そこには、主人が没落士族らしき男から買い受けた木彫りの猿の仮面が掛けられていたが、
夜も深まったころ、雨風の音に混じってどこからかうなり声が聞こえてきて……(「猿の眼」)。
怪談の名手・岡本綺堂の作品から、短編十三本を選りすぐった“おそろし噺”傑作集。江戸時代から明治、大正までを舞台にした怪しくて不可思議な噺が、
百物語形式で淡々と語られていく。ほかに「清水の井」「影を踏まれた女」「妖婆」「くろん坊」「鰻に呪われた男」など。