【閲覧注意】怪談の森【怖い話】

当サイト「怪談の森」は古今東西の洒落にならない怖い話~ほっこりする神様系の話まで集めています。 随時更新中!!

カテゴリ: 【殿堂入り】



邪視


これは俺が14歳の時の話だ。

冬休みに、N県にある叔父(と言ってもまだ当時30代)の別荘に遊びに行く事になった。
本当は彼女と行きたかったらしいが、最近別れたので俺を誘ったらしい。
小さい頃から仲良くしてもらっていたので、俺は喜んで遊びに行く事になった。
叔父も俺と同じ街に住んでおり、早朝に叔父が家まで車で迎えに来てくれて、そのまま車で出発した。
叔父は中々お洒落な人で、昔から色んな遊びやアウトドア、音楽等等教えてもらっており、尊敬していた。
車で片道8時間はかかる長旅だったが、
車内で話をしたり音楽を聞いたり、途中で休憩がてら寄り道したり、本当に楽しかった。

やがて目的地近辺に到着し、スーパーで夕食の食材を買った。そして、かなりの山道を登り別荘へ。
それほど大きくはないが、木造ロッジのお洒落な隠れ家的な印象だった。
少し下がった土地の所に、2~3他の別荘が見える。人は来ていない様子だった。

夕食は庭でバーベキューだった。普通に安い肉だったが、やっぱり炭火で焼くと美味く感じる。
ホルモンとか魚介類・野菜も焼き、ホントにたらふく食べた。白飯も飯盒で炊き、最高の夕食だった。

食後は暖炉のある部屋に行き、TVを見たりプレステ、スーファミ、ファミコンで遊んだり、
裏ビデオなんかも見せてもらって、当時童貞だったので衝撃を受けたもんだった。

深夜になると、怖い話でも盛り上がった。叔父はこういう方面も得意で、本当に怖かった。
機会があればその話も書きたいが…

ふと、叔父が思い出した様に「裏山には絶対に入るなよ」と呟いた。
何でも、地元の人でも滅多に入らないらしい。マツタケとか取れるらしいが。
関係ないかもしれないが、「近くの別荘の社長も昔、裏山で首吊ってる」と言った。
いや、そんな気味悪い事聞いたら絶対入らないしと、その時は思った。

そんなこんなで、早朝の5時ごろまで遊び倒して、やっとそれぞれ寝ることになった。

部屋に差し込む日光で目が覚めた。時刻はもう12時を回っている。喉の渇きを覚え、1階に水を飲みに行く。
途中で叔父の部屋を覗くと、イビキをかいてまだ寝ている。寒いが、本当に気持ちの良い朝だ。
やはり山の空気は都会と全然違う。

自分の部屋に戻り、ベランダに出て椅子に座る。
景色は丁度裏山に面していた。別になんて事はない普通の山に見えた。
ふと、部屋の中に望遠鏡がある事を思い出した。
自然の景色が見たくなり、望遠鏡をベランダに持ってくる。
高性能で高い物だけあって、ホントに遠くの景色でも綺麗に見える。
町ははるか遠くに見えるが、周囲の山は木に留ってる鳥まで見えて感動した。

30分くらい夢中で覗いていただろうか?丁度裏山の木々を見ている時、視界に動くものが入った。
人?の様に見えた。背中が見える。頭はツルツルだ。しきりに全身を揺らしている。地元の人?踊り?
手には鎌を持っている。だが異様なのは、この真冬なのに真っ裸と言う事。
そういう祭り?だが、1人しかいない。
思考が混乱して、様々な事が頭に浮かんだ。背中をこちらに向けているので顔は見えない。
その動きを見て、何故か山海塾を思い出した。
『これ以上見てはいけない』と、本能的にそう感じた。
人間だろうけど、ちょっとオカシな人だろう。気持ち悪い。
だが、好奇心が勝ってしまった。
望遠鏡のズームを最大にする。ツルツルの後頭部。色が白い。
ゾクッ、としたその時、ソイツが踊りながらゆっくりと振り向いた。
恐らくは、人間と思える顔の造形はしていた。鼻も口もある。
ただ、眉毛がなく、目が眉間の所に1つだけついている。縦に。
体が震えた。1つ目。奇形のアブナイ人。
ソイツと望遠鏡のレンズ越しに目が合った。口を歪ませている。笑っている。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
目が合った瞬間叫んでいた。涙が止まらない。
とにかく死にたい。異常なまでの鬱の様な感情が襲ってきた。
死にたい死にたい…半狂乱で部屋を駆け回っていると、叔父が飛び込んで来た。

「どうした!?」
「バケモン!!」
「は?」
「望遠鏡!!裏山!!」
叔父が望遠鏡を覗きこむ。
「~~~~~~ッ」
声にならない唸りを上げ、頭を抱え込む。鼻水を垂らしながら泣いている。
さっきよりは少し気持ちの落ち着いた俺が聞いた。
「アレ何だよ!!」
「00子~00子~」
別れた彼女の名前を叫びながら泣きじゃくる叔父。
流石にヤバイと思い、生まれて初めて平手で思いっきり人の顔をはたいた。
体を小刻みに揺らす叔父。10秒、20秒…叔父が俺を見つめてきた。
「邪視」
「じゃし?」
「いいか、俺の部屋の机の引き出しに、サングラスがあるから持ってこい。お前の分も」
「なんで(ry」
「いいから持ってこい!!」

俺は言われるままに、サングラスを叔父に渡した。
震える手で叔父はサングラスをかけ、望遠鏡を覗く。しばらく望遠鏡を動かしている。
「ウッ」と呻き、俺に手招きをする。
「グラサンかけて見てみろ」
恐る恐るサングラスをかけ覗き込む。
グラサン越しにぼやけてはいるが、木々の中のソイツと目が合った。
言い様の無い不安がまた襲ってきたが、さっきほどでは無い。
だが、心臓の鼓動が異常に早い。
と言うか、さっきの場所では無い…ソイツはふにゃふにゃと奇妙な踊り?をしながら動いている。
目線だけはしっかりこちらに向けたまま…山を降りている!?まさかこっちに来ている…!?

「00、お前しょんべん出るか?」
「は?こんな時に何を…」
「出るなら、食堂に空きのペットボトルあるから、それにしょんべん入れて来い」
そう言うと、叔父は1階に降りていった。
こんな時に出るわけないので呆然としていたら、
数分後、叔父がペットボトルに黄色のしょんべんを入れて戻ってきた。
「したくなったら、これに入れろ」と言い、叔父がもう1つの空のペットボトルを俺に差し出した。
「いや、だからアイツ何?」
「山の物…山子…分からん。
 ただ、俺がガキの頃、よく親父と山にキャンプとか行ってたが、あぁ、あそこの裏山じゃないぞ?
 山は色んな奇妙な事が起こるからな…
 夜でも、テントの外で人の話し声がするが、誰もいない。
 そんな時に、しょんべんとか撒いたら、不思議にピタッと止んだもんさ…」
そう言うと叔父は、もう一度望遠鏡を覗き込んだ。
「グウッ」と苦しそうに呻きながらも、アイツを観察している様子だ。
「アイツな。時速何Kmか知らんが、本当にゆっくりゆっくり移動している。
 途中で見えなくなったが…間違いなく、このロッジに向かってるんじゃないのか」
「じゃあ、早く車で戻ろうよ」
「多分、無駄だ…アイツの興味を俺たちから逸らさない限りは…多分どこまでも追ってくる。
 これは一種の呪いだ。邪悪な視線と書いて邪視と読むんだが…」
「さっき言ってたヤツか…でも、何でそんなに詳しいの?」
「俺が仕事で、北欧のある街に一時滞在してた時…イヤ、俺らが助かったら話そう」
「助かったらって…アイツが来るまでここにいるの?」
「いいや、迎え撃つんだよ」

俺は絶対にここに篭っていた方が良いと思ったが、
叔父の意見は、「ロッジに来られる前にどうにかした方が良い」と言う物だった。
あんな恐ろしいヤツの所にいくなら、よっぽど逃げた方がマシだと思ったが、
叔父さんは昔から、いつだって頼りになる人だった。
俺は叔父を尊敬しているし、従う事に決めた。

それぞれ、グラサン、ペットボトル、軽目の食料が入ったリュック、手持ちの双眼鏡、木製のバット、懐中電灯等を持って、
裏山に入っていった。
「暗くなる前にどうにかしたい」と言う叔父の考えだった。
果たしてアイツの視線に耐えられるのか?
望遠鏡越しではなく、グラサンがあるとはいえ、間近でアイツに耐えられるのか?
様々な不安が頭の中を駆け巡った。
裏山と言っても結構広大だ。双眼鏡を駆使しながらアイツを探しまわった。
叔父いわく、「アイツは俺らを目標に移動しているはずだから、いつか鉢合わせになる」と言う考えだ。



あまり深入りして日が暮れるのは危険なので、
ロッジから500mほど進んだやや開けた場所で、待ち伏せする事になった。
「興味さえ逸らせば良いんだよ。興味さえ…」
「どうやって?」
「俺の考えではまず、どうしてもアイツに近づかなければならない。
 だが直視は絶対にするな。斜めに見ろ。言ってる事分かるな?目線を外し、視線の外で場所を捉えろ。
 そして、溜めたしょんべんをぶっかける。
 それでもダメなら…良いか?真面目な話だぞ?俺らのチンコを見せる」
「はぁ?」
「邪視ってのはな、不浄な物を嫌うんだよ。糞尿だったり、性器だったり…
 だから、殺せはしないが、それでアイツを逃げされる事が出来たのなら、俺らは助かると思う」
「…それでもダメなら?」
「…逃げるしかない。とっとと車で」

俺と叔父さんは、言い様のない恐怖と不安の中、ジッと岩に座って待っていた。交代で双眼鏡を見ながら。
時刻は4時を回っていた。

「兄ちゃん、起きろ」
俺が10歳の時に事故で亡くなった、1歳下の弟の声が聞こえる。
「兄ちゃん、起きろ。学校遅刻するぞ」
うるさい。あと3分寝かせろ。
「兄ちゃん、起きないと 死 ん じ ゃ う ぞ ! !」

ハッ、とした。寝てた??あり得ない。あの恐怖と緊張感の中で。眠らされた??
横の叔父を見る。寝ている。急いで起こす。叔父が飛び起きる。
腕時計を見る。5時半。辺りはほとんど闇になりかけている。冷汗が流れる。
「00、聴こえるか?」
「え?」
「声…歌?」
神経を集中させて耳をすますと、右前方数m?の茂みから声が聞こえる。
だんだんこっちに近づいて来る。民謡の様な歌い回し。何言ってるかは分からないが、不気味で高い声。
恐怖感で頭がどうにかなりそうだった。声を聞いただけで、世の中の何もかもが嫌になってくる。
「いいか!足元だけを照らせ!!」
叔父が叫び、俺はヤツが出てこようとする茂みの下方を懐中電灯で照らした。
足が見えた。毛一つ無く、異様に白い。体全体をくねらせながら近づいてくる。
その歌のなんと不気味な事!!一瞬思考が途切れた。

「あぁぁっ!!」
「ひっ!!」
ヤツが腰を落とし四つんばいになり、足を照らす懐中電灯の明かりの位置に顔を持ってきた。
直視してしまった。
昼間と同じ感情が襲ってきた。死にたい死にたい死にたい!こんな顔を見るくらいなら、死んだ方がマシ!!
叔父もペットボトルをひっくり返し、号泣している。落ちたライトがヤツの体を照らす。
意味の分からないおぞましい歌を歌いながら、四つんばいで、生まれたての子馬の様な動きで近づいてくる。
右手には錆びた鎌。
よっぽど舌でも噛んで死のうか、と思ったその時、
「プルルルルッ」
叔父の携帯が鳴った。
号泣していた叔父は何故か放心状態の様になり、ダウンのポケットから携帯を取り出し見る。
こんな時に何してんだ…もうすぐ死ぬのに…と思い、薄闇の中、呆然と叔父を見つめていた。
まだ携帯は鳴っている。プルルッ。叔父は携帯を見つめたまま。ヤツが俺の方に来た。
恐怖で失禁していた。死ぬ。
その時、叔父が凄まじい咆哮をあげて、地面に落ちた懐中電灯を取り上げ、
素早く俺の元にかけより、俺のペットボトルを手に取った。
「こっちを見るなよ!!ヤツの顔を照らすから目を瞑れ!!」
俺は夢中で地面を転がり、グラサンもずり落ち、頭をかかえて目をつぶった。

ここからは後で叔父に聞いた話。
まずヤツの顔を照らし、視線の外で位置を見る。
少々汚い話だが、俺のペットボトルに口をつけ、しょんべんを口に含み、
ライトでヤツの顔を照らしたまま、しゃがんでヤツの顔にしょんべんを吹きかける瞬間目を瞑る。霧の様に吹く。
ヤツの馬の嘶きの様な悲鳴が聞こえた。さらに口に含み吹く。吹く。ヤツの目に。目に。

さっきのとはまた一段と高いヤツの悲鳴が聞こえる。だがまだそこにいる!!
焦った叔父はズボンも下着も脱ぎ、自分の股間をライトで照らしたらしい。
恐らくヤツはそれを見たのだろう。
言葉は分からないが、凄まじい呪詛の様な恨みの言葉を吐き、くるっと背中を向けたのだ。
俺はそこから顔を上げていた。叔父のライトがヤツの背中を照らす。
何が恐ろしかったかと言うと、
ヤツは退散する時までも、不気味な歌を歌い、体をくねらせ、ゆっくりゆっくりと移動していた!!
それこそ、杖をついた高齢の老人の歩行速度の如く!!
俺たちはヤツが見えなくなるまで、じっとライトで背中を照らし見つめていた。
いつ振り返るか分からない恐怖に耐えながら…

永遠とも思える苦痛と恐怖の時間が過ぎ、やがてヤツの姿は闇に消えた。

俺たちはロッジに戻るまで、何も会話を交わさず黙々と歩いた。
中に入ると、叔父は全てのドアの戸締りを確認し、コーヒーを入れた。
飲みながら、やっと口を開く。
「あれで叔父さんの言う、興味はそれたって事?」
「うぅん…恐らくな。さすがに、チンコは惨めなほど縮み上がってたけどな」
苦笑する叔父。
やがてぽつりぽつりと、邪視の事について語り始めてくれた…

叔父は仕事柄、船で海外に行く事が多い。詳しい事は言えないが、いわゆる技術士だ。

叔父が北欧のとある街に滞在していた、ある日の事。
現地で仲良くなった通訳も出来る技術仲間の男が、面白い物を見せてくれると言う。
叔父は人気の無い路地に連れて行かれた。
ストリップとかの類かなと思っていると、路地裏の薄汚い小さな家に通された。
叔父は中に入って驚いた。外見はみすぼらしいが、家の中はまるで違った。
一目で高級品と分かる絨毯。壺。貴金属の類…香の良い香りも漂っている。
わけが分からないまま叔父が目を奪われていると、奥の小部屋に通された。
そこには、蝋燭が灯る中、見た目は60代くらいの男が座っていた。
ただ異様なのは、夜で家の中なのにサングラスをかけていた。
現地の男によれば、『邪視』の持ち主だと言う。

邪視(じゃし)とは、世界の広範囲に分布する民間伝承、迷信の一つで、
悪意を持って相手を睨みつける事によって、対象となった被害者に呪いを掛ける事が出来るという。
イビルアイ(evil eye)、邪眼(じゃがん)、魔眼(まがん)とも言われる。
邪視の力によっては、人が病気になり衰弱していき、ついには死に至る事さえあるという。

叔父はからかい半分で説明を聞いていた。この男も、そういう奇術・手品師の類であろうと。
座っていた男が、現地の男に耳打ちした。
男曰く、「信じていない様子だから、少しだけ力を体験させてあげよう」と。
叔父はこれも一興と思い承諾した。また男が現地の男に耳打ちする。
男曰く、
「今から貴方を縛りあげる。誤解しないでもらいたいのは、それだけ私の力が強いからである。
 貴方は暴れ回るだろう。私はほんの一瞬だけ、私の目で貴方の目を見つめる。やる事はただそれだけだ」

叔父は、恐らく何か目に恐ろしげな細工でもしているのだろう、と思ったという。
本当に目が醜く潰れているのかもしれないし、カラーコンタクトかもしれない。
もしくは、香に何か幻惑剤の様な効果が…と。
縛られるのは抵抗があったが、友人の現地の男も、本当に信頼出来る人物だったので応じた。
椅子に縛られた叔父に男が近づく。友人は後ろを向いている。
静かにサングラスを外す。叔父を見下ろす。

「ホントにな、今日のアイツを見た時の様になったんだ」
コーヒーをテーブルに置いて、叔父は呟いた。
「見た瞬間、死にたくなるんだよ。瞳はなんてことない普通の瞳なのにな。
 とにかく、世の中の全てが嫌になる。見つめられたのは、ほんの1~2秒だったけどな。
 何かの暗示とか、催眠とか、そういうレベルの話じゃないと思う」

友人が言うには、その邪視の男は、金さえ積まれれば殺しもやるという。
現地のマフィア達の抗争にも利用されているとも聞いた。

叔父が帰国する事になった1週間ほど前、邪視の男が死んだという。
所属する組織のメンツを潰して仕事をしたとかで、抹殺されたのだという。
男は娼婦小屋で椅子に縛りつけれれて死んでいた。床には糞尿がバラ巻かれていたと言う。
男は凄まじい力で縄を引きちぎり、自分の両眼球をくり抜いて死んでいたという。

「さっきも言った様に、邪視は不浄な物を嫌う。
 汚物にまみれながら、ストリップか性行為でも見せられたのかね」
俺は一言も発する気力もなく、話を聞いていた。さっきの化け物も、邪視の持ち主だっという事だろうか。
俺の考えを読み取ったかのように、叔父は続けた。
「アイツが本当に化け物だったのか、ああいう風に育てられた人間なのかは分からない。
 ただ、アイツは逃げるだけじゃダメな気がしてな…だから死ぬ気で立ち向かった。
 カッパも、人間の唾が嫌いとか言うじゃないか。
 案外、お経やお守りなんかよりも、人間の体の方が、ああいうモノに有効なのかもしれないな」
俺は話を聞きながら、弟の夢の事を思い出して話した。弟が助けてくれたんじゃないだろうか…と。
俺は泣いていた。
叔父は神妙に聞き、1分くらい無言のまま。やがて口を開いた。
「そういう事もあるかもしれないな…00はお前よりしっかりしてたしな。
 俺の鳴った携帯の事、覚えてるか?あれな、別れた彼女からなんだよ。
 でもな、この山の周辺で、携帯通じるわけねぇんだよ。見ろよ。今、アンテナ一本も立ってないだろ?
 だから、そういう事もあるのかも知れないな…
 今すぐ、山下りて帰ろう。このロッジも売るわ。早く彼女にも電話したいしな」
叔父は照れくさそうに笑うと、コーヒーを飲み干し立ち上がった。



アメリカ人にお経




昨日の者です。叔父さんから聞いた話にいくつか印象深い話があるので、書きたいと思います。

「00、アメリカ人の幽霊を、お経で成仏させられると思うか?」
叔父さんは唐突に聞いてきた。
「無理じゃない?」
「なぜ?」
「だって、お経知らないでしょ」
「それだよ」
叔父はニタリと笑った。
「もちろん、お経だろうがキリスト教の悪魔祓いの儀式だろうが、霊的な力はあると思う。
 だが、それよりも重要なのは、死んだ人間がどの文化圏に属し、どういう生活習慣を送ってきたかだと思う。
 例え、信心・信仰深くない人間でも、人生で何度かは、葬式や宗教の祭り、教会等に行った事はあるはずだ。
 そこで、そういう所でそういう儀式を見ている。
 つまり、『死んだ者等に対しては、そうやって奉る事が常識だ』と思っている。
 古来からずっと続いてきた事だ。
 それだけ人の思い、思い込みとも言っていいだろうが続けば、それは力を持つ。
 つまり、霊の側も、何となく成仏した気持ちになってるのかも知れない。全部が全部とは言わないがね」

「医者が、その症状には効かないビタミン剤とかを患者に渡し、患者が効くと思い込んで病気が治る、
 ってのに似てるね」
「そうだな。じゃあ、人生の前半をアメリカで過ごし、人生の後半を日本で過ごしたアメリカ人の霊はどうだ?」
「う~ん…両方効くんじゃない?」
「両方有効な可能性もあるが、最初に生まれ育った文化圏でのやり方の方が、有効な可能性のほうが高い」
「というか、霊がいるってのは、叔父さん信じてるんだ?」
「難しいな。そういう残留思念の様なモノはあると思う。
 俺も仕事柄世界中を回っているし、いくつも不思議なモノは見てきた。
 何とか説明がつくのが9割、どうしても分からないのが1割、かな。
 さっきの話に戻るが、宗教的な呪文や儀式を、彫刻刀に置き換えてみるといい。
 ド素人が彫刻刀を奮っても、凡作しか出来ないだろう。
 だが、才能溢れる人物が彫刻刀を奮えば、それは素晴らしい作品が出来上がるだろう。
 要は、呪文も儀式も媒体・触媒に過ぎず、それ自体にさほど効果があるわけではない、と言う事だ。
 優れた詩人が自分が作った詩を詠めば、それは不思議なな力を持つだろう。優れたミュージシャンが…も然り。
 49日とか何回忌とか、死者は別に坊さんのお経が聴きたいのではない。
 死者を想う家族の念や心、畏敬や感謝の気持ちが嬉しいのだと思う。
 だから俺の葬式には、辛気臭いお経など詠ませずに、ビートルズの曲を流す様に頼んである」
ビートルマニアの叔父さんは、そう言って笑った。




死者に会える方法




これは叔父さんがイギリスに滞在していた時に、現地のイギリス人の仕事仲間から聞いた話だ。

とある青年がいたと言う。学生で、同じ学年に付き合っている彼女がいた。
非常に仲睦まじく、お互い卒業したら結婚の約束までしていたと言う。
だが、ある日不幸が起きた。彼女が交通事故で死んでしまった。
彼女は歩行者で、運転手の脇見運転からなる悲劇の事故だった。
彼は病院に駆けつけた。死因は脳挫傷で、遺体は眠っているだけの様な本当に綺麗な物だったと言う。
彼は深く悲しみ絶望した。
葬儀は彼女の遺族らと共に、深い悲しみの中行われた。

彼は抜け殻の様になってしまった。
学校へもあまり出席せず、彼女と同居していた古いアパートに篭りっきりの生活をしていた。
少しでも彼女の思い出に触れていたいが為、
居間・台所・風呂・玄関・寝室・トイレに至るまで、彼女との思い出の写真を置き、何時でも目に入るようにしていた。
そんな彼を心配して、友人達が良く部屋に出入りして励ましていたが、あまり効果は無かった。
2Fの真上の部屋は小さな教会になっており、
彼と親しく割と歳も若い神父も励ましにやってきていたが、効果はなかった。
毎日、飢えない程度の粗末な食事をし、彼女の写真を見つめて過ごす日々が続いた。

ある夜。彼は、子供の頃に聞いた話をふと思い出した。
『死者と必ず会える方法がある』

その方法とは、
時刻は深夜2時前後が良い。
まず、会いたい死者を思い浮かべる。その死者の遺品があればなお良い。
家の門を開けておく。ただし、家の戸締りは必ず完璧に施錠する事。
遺品を胸に抱き、蝋燭1本にだけ火を灯し、部屋の灯りを消し、ベッドに入り目を瞑る。
そして、死者が墓場から這い出てくるのを想像する。生前の綺麗な姿のまま…
死者がゆっくりゆっくり自分の家に歩いてくるのを想像する。
1歩1歩ゆっくりと…そして門を通り、玄関の前に立つのを想像する。
想像するのはそこまで。
そして、絶対に守らなければいけない事は、
死者が何と言おうとも、『絶 対 に 家 の 中 に は 入 れ な い 事』だった。
扉越しにしか話せない。何とも切ない事ではあるが、それがルールらしい。

青年は漠然とそんな話を思い出していた。
会いたい。迷信だろうが作り話だろうが。もう1度会って話したい。
もちろん、迷信だとは頭では思っていたが、
もしも彼女と話した様になった気がしたら、いくらか心も休まるかもしれない。
と、自分へのセラピー的な効果も期待し、それをやってみる事にした。

時刻は深夜2時ちょっと前。
オートロックなんて洒落た物は無いので、アパートの門を開けておく。
生前、彼女が気に入っていたワンピースを胸に抱き、蝋燭を灯し、部屋の灯りを消し、彼女の蘇りを想像した。
アパートは老朽化が激しく、2Fの真上の教会(彼の部屋の天井に当たる)から何やら水漏れの様な音がする。
ピチャッ…ピチャッ…彼の部屋のどこかに水滴が落ちているらしい。
そんな事はどうでも良い…集中して…生前の綺麗な姿で…彼女が微笑みながら…部屋にお茶でも飲みに来る様な…

ドンドン ドンドン
ハッと目が覚めた。いつの間にか寝ていたらしい。
ドンドン ドンドン
何の音…?隣の住人?隣人も夜型の人だから、うるさ
ド ン ド ン ! !  ド ン ド ン ! !
…違う。自分の部屋の玄関のドアを、誰かが叩いている。時計を見ると、深夜2時50分。
こんな時間に友人とは考えにくい。…まさか。流石に冷汗が額を伝う。
蝋燭を手に持ち、恐る恐る玄関に近づく。
叩く音が止んだ。

「…誰?」
返事がない。
「00か…?」
彼女の名を呼ぶが、返事が無い。
恐る恐る覗き穴から覗く。
長い髪の女が後ろを向いてドアの前に居る!!何者かが確実に居る!!
「00なら答えてくれ…」
青年はふいに涙が溢れてきた。楽しかった思い出の数々が蘇る。
「寒い…」
ふいに女が口を開いた。
彼女の声の様な気もするし、そうではない気もする。
「寒い…中に入れて…00」
女は青年の名を呼んだ。涙が止まらない。抱きしめてやりたい!!
青年はルールの事など忘れて、ドアを開けた。
女は信じられないスピードで後ろ向きのままスッと部屋に入った。
青年が顔を見ようとするが、長い髪を垂らし俯いたまま必ず背中を向ける。
青年が近づこうとすればスッと距離を置く。

「とりあえず、ベッドにでも腰掛けてくれよ…」
青年が言うと、女は俯いたままベッドに腰を落とした。
しかし、この臭い…たまらない臭いがした。彼女が歩いた跡も、泥の様なモノが床にこびり付いている。
しかし彼女は彼女だ。色々と話したい。

死人にお茶を出すのも妙な気がしたが、2人分の紅茶を入れ、彼女の横に座った。
蝋燭をテーブルに置き、青年は語り尽くした。
死んだ時苦しくはなかったか、生前のさまざまな思い出、守ってやれなかった事…
1時間は一方的に語っただろうか。相変わらず彼女は俯いたまま、黙ってジッとしている。

やがて、蝋燭の蝋が無くなりそうになったので、新しい蝋燭に変える事にした。
火をつけて彼女を照らす。
…おかしい。ワンピースの右肩に蛇の刺青が見える。彼女はタトゥーなど彫ってはいない。
足元を照らす。右足首にもハートに矢が刺さっている刺青。
というか、黒髪…??彼女はブロンドだ…言い様のない悪寒が全身を走る。
誰だ…!?
電気をつけようとしたその時、女が凄まじいスピードで起き上がり、青年の腕を掴む。
凄まじい腐臭。女がゆっくり顔を上げると、蝋燭の灯りの中に見たくもない顔が浮かび上がってきた。
中央が陥没した顔面。合わせ絵の様に左右の目が中央に寄っている。
上唇が損壊しており、歯茎が剥き出しになっている。飛び出ている舌。
青年は魂も凍るような絶叫を上げたが、女は万力の様な力で青年の腕を締め上げる。
女が何か呻く。
英語じゃない…ロンドンのチャイナタウンで聞き覚えのある様な…まさか…!!
彼女を轢いたのは在英の中国人女と聞いている…その女も即死している…こいつが!?殺される!!

青年がそう思い、女が顎が外れんばかりに損壊した口を大きく開けた瞬間、
凄まじい雷か破裂音の様な音が室内にこだまし、天井が崩壊してきた。
女は上を見上げ、青年はとっさに後方に飛びずさる。
崩壊して落下する瓦礫と共に大量の水が流れてきた。
女は「ギッ」と一言だけ発し、瓦礫と大量の水に埋もれて消えた。
崩壊は天井の一部だけで済んだ様だった。
青年が唖然として立ち尽くしていると、上から寝巻き姿の若い神父が、驚愕の表情で穴を見下ろしていた。

その後アパートは、消防・警察・深夜に爆音で叩き起こされた野次馬達等で大わらわとなっていた。
調べによると、2Fの神父の教会兼自宅のバスタブと下の床が腐食しており、それが崩壊の原因だと言う。
ただ、確かに腐食はしていたが、今日の様に急に床ごとブチ破る様な腐食では無いという点に、
警察消防も首を傾げていた。
さらに、神父は月に1度、聖水で入浴していた。その日、バスタブに浸っていたのは聖水だったという。
もちろん、青年は女の事など誰にも話さなかったし、瓦礫の下にも誰もいなかった。
ただ、血の混じった泥の様な物が一部見つかったという。
そして青年は不思議な事に気がついた。
部屋の至る所に散りばめていた彼女との思い出の写真立てが、全て寝室に集まっていたのだと言う。
まるでベッドを円形に囲む様に。

青年は部屋を覗き込む野次馬の中に、微笑む彼女を見た様な気がした。



ドルイド信仰



ドルイドとは、ケルト人社会における祭司のこと。Daru-vid『オーク(ブナ科の植物)の賢者』の意味。
ドルイドの宗教上の特徴の一つは、森や木々との関係である。
ドルイドは、ヤドリギの巻きついたオークの木の下で儀式を執り行っていた。
柳の枝や干し草で作った編み細工の人形を作り、その中に生きたまま人間を閉じ込めて、
火をつけて焼き殺し、その命を神に奉げるという、人身御供の祭儀も行っていた。
刑罰の一種として、森林を違法に伐採した場合、
樹木に負わせた傷と同じ傷を犯人に負わせて木に縛り付け、樹木が許してくれるまで磔にするという刑罰もあった。

自分の叔父は仕事柄、船で海外に行く事が多かった。詳しい事は言えないが、いわゆる技術士だ。
1年の6~7割は海外(特に北欧)で仕事をしている様な人で、日本に帰って来ている時は良く遊んでもらったものだ。
今は既婚で、引退して悠々自適な生活を送っており、知識も豊富でバイタリティ溢れる快男児だ。
以前も2話程、叔父関連の話を書いているはずだ。その叔父にこんな恐ろしい話を聞いた。

当時叔父は30代で、彼女とマンションに同棲しており、幸せに暮らしていた。
ひょんな事からお隣さんと親しくなったらしい。お隣さんは年配の夫婦で、病気の子供が1人。
旦那さんも仕事柄、海外に飛ぶ事が多いとの事だった。
話題も合うという事で叔父とは意気投合し、その奥さんも温厚で、夕食を呼んだり呼ばれたりする仲にまでなったそうだ。

ある年の真冬。
そのご夫婦と賑やかな食卓を共にしていると、そのご夫婦の別荘の話題になった。
何でも、関東近郊の閑静な山奥に、別荘を1つ所有しているらしい。
近くには小川もあり、魚等も釣れ、年に1度は家族で病気の息子の療養がてら遊びに行くらしい。
どうやら今年は仕事の関係で行けなくなったらしく、叔父達に「良かったら使ってくれても良い」との事だった。
アウトドア好きな叔父は、喜んで使わせてもらう事になった。
そんな叔父と趣味も合った彼女も賛同したらしい。

そして翌年の年明け、叔父は彼女と共にその別荘へと向かった。

あまり舗装されていない山道を40分ほど登った場所にその別荘はあった。
別荘を目にした途端、彼女の溜息が聞こえたそうだ。感動ではない方の。
「ホント、掘っ立て小屋みたいな感じだよ。こっちは小洒落たロッジ的なモノを想像してたんだけどな。
 あの夫婦の説明を聞く限り、誰でもそう思うと思うよ」
叔父は苦笑しながら言った。
とにかく、その別荘はお粗末なモノだったらしい。
木造平屋で狭い玄関。猫の額ほどのキッチン。古びた押入れに入った布団。
暖炉がある広間がやや広い事だけは救いだったらしい。

来てしまったモノは仕方がないので、なるべく自分達が楽しむ事にしたと言う。
昼は川魚を釣ったり、近辺の林を散策し、野草を採ったり。
それらは夕飯には天ぷらとして食卓に並び、それはそれで楽しい夕飯だったそうだ。
「野草を採ってる時に、かろうじて遠くに別荘が見えるくらいの距離の、少しだけ森の深くに行ったんだが…
 その時に、ちょっと気になるモノがあってな。
 ナラ(楢)の木があったんだよ。クヌギなんだけどな。
 この森にクヌギの木って、ちょっと浮いててな。
 周りは違う種類ばかりだし、明らかにそこだけ近年植林したんじゃないかなぁ。上にヤドリギも撒きついてたよ。
 クヌギは、10年も経てば大きくなるからな。
 で、気味が悪いのが、そのクヌギに何か文字が彫ってあってな。
 オガム文字って言ってな。古代のドルイド(上記参照)等が、祭祀に使ってた文字なんだよ。
 横線を基準と見て、その上下に刻んだ縦や斜めの直線、1-5本ほどで構成されててな、
 パッと見文字には見えないんだが…
 ま、何て書いてあるかまでは分からんが、不気味ではあるよな。日本だぜここは」
叔父の様にオカルト方面に知識がある人から見たら、確かに不気味なのだろう。

そんなこんなで、その日の就寝の時に事件は起こった。
叔父が窓や玄関の戸締りを確認しようとしていた時の事だった。
「何で最初に気がつかなかったんだろうな。鍵がな、外側にも付いてるんだよ」
つまり、窓の内鍵とは別に、窓の外側にも鍵が付いているのだ。玄関の入り口の戸にも。
「これはヤバイと思ったな。部屋の中に家具が異様に少ないのも、実は気になってたんだよ。
 生活に必要最小限のモノだけ…それも、全て木造で燃えやすく…
 パッと思い浮かんだのが、ウィッカーマンだな」

映画にもなり、近年リメイクもされたのでご存知の人も多いと思うが、上記でも書いた様に、
『柳の枝や干し草で作った編み細工の人形を作り、
 その中に生きたまま人間を閉じ込めて、火をつけて焼き殺し、神に捧げる』
と言うおぞましい秘儀が、古代ドルイドの祭儀であるのだ。
それを英語では『ウィッカーマン(wicker man)』、編み細工(wick)で出来た人型の構造物と言うらしい。

「彼女を不安がらせない様に、その事や鍵の事も秘密にし、俺だけ起きてる事にしたよ。全部の内鍵開けてな。
 そしたら、夜中だよ」
砂利を踏む音と、人の気配が別荘の外でした。
すかさず窓を開ける。例のお隣の夫婦の旦那だった。
「何をなさってるんですか?」
叔父に急に見つかり、厳しい声を投げかけられた旦那は、驚愕の表情でしどろもどろだったと言う。
「いや、その…大丈夫かなと…」
「大丈夫じゃなないですよ。その缶は何です?灯油の缶じゃないんですか?」
「い…いや…ストーブの灯油を、切らしちゃいかんと思ってね…」
「暖炉がありますよね?」
「いや…まぁ」

叔父は外鍵の事を厳しく追及した。
旦那が弁解するには、この別荘も人から譲り受けたモノで、外鍵はその当時からついていたらしい。
「信じるわけないわな。そんな気味の悪い家で誰が泊まりたがる?」
叔父はまったく旦那の言う事は信用しなかった。

外の騒ぎで寝ていた彼女も起きだし、不安そうな顔を覗かせていた。
「○○さん(旦那)…あんた、ドルイドの何かやってるんじゃないでしょうね」
「は…?何ですかそれは」
「とぼけたって良いんですよ?裏の森のクヌギ。良い薪になりそうだなぁ」
「な…何を言うんですか!!」
「あんた、俺らをウィッカーマンにして、捧げようとしたんじゃないのかっ!!」
「…」
「本当の事を言わないのならクヌギを切り倒す」と脅した叔父に対し、旦那は全てを話し始めた。

前にも述べた通り、この夫婦には重い病気の息子がいる。
治療法は、病の進行を遅らせる強い副作用のある方法しかない。
あらゆる方法を試したが、病は一向に癒える気配は無かった。
そんな藁にも縋る思いも極まった時の事。
15年前、仕事先で訪れたウェールズのある村で、ドルイドの呪術師に出会ったと言う。
そのドルイドの呪力が篭ったオークの木の苗を、大枚叩いて旦那は買い、日本へ持ち帰った。
そのドルイドから授けられた秘術は、
『毎月6日に、白い衣装を見に付けオークの木に登り、
 ドルイドから譲り受けた(これも大枚叩いて買ったらしい)鎌で、オークに寄生しているヤドリギの枝を切り取り、
 生贄をオークの木に捧げる』と言うものらしい。
その祭儀の見返りの願いは言うまでも無く、息子の病を治す事だ。

「確かに、その日は1月6日だったなぁ…」
「生贄って…」
俺は恐る恐る叔父に聞いた。
「最初は小動物とかだったらしいよ。ハムスターとか、野良猫とか、犬とかな。クヌギの木の根元に埋めて。
 心なしか、大きな動物になればなる程、息子の病が良くなっている様な気がしたらしい。
 まぁ、そのドルイドに1杯食わされたんだろうけどな。
 でも、病気の子供を持つ、悲しい親の愛とは言えども、あんまりじゃないか?俺らを焼き殺そうとするなんて」
叔父は笑いながら言った。

それから、懇々とその旦那を説き伏せたらしい。
人を呪わば穴二つ。そんな事をしても何も良い事はない。
オカルト方面に詳しい叔父だけに、様々な知識も動員して旦那を説き伏せた。

「50にもなろうかと言うオッサンが、声上げて泣いてたなぁ。
 まぁ、俺らも殺されそうにはなったとは言え、その旦那の気持ちも分からんでもないからなぁ。同情心もあって。
 彼女も少しもらい泣きしてたかな。
 旦那も、クヌギも別荘も処分する事を約束してくれてな。明日にでも、特にクヌギの処分は俺ら同伴で」
「じゃあ、この件は、警察沙汰にもならずに一件落着、と」
「ところがなぁ。あのオークは(本物)だったんだなぁ」



何とか旦那を説き伏せて、暖かいコーヒーを飲みながら3人が落ち着いてきたその時、旦那の携帯が鳴った。
奥さんの声が否が応でも聞こえてきたと言う。ヒステリックな金切り声だ。
明らかに『殺したの?捧げたの?やったの?』と、傍の叔父にも聞こえて来たと言う。
あんなに温厚に見えた奥さんの方が、実はこの件では主導権を握っていたのだと思い、ゾッとしたと言う。
奥さんは東京のマンションから電話をしているらしい。
旦那はある程度は言い返してはいたが、奥さんの凄い剣幕に終始押され気味だったと言う。
たまりかねて叔父が電話を変わり、物凄い口論となった。
一時は殺されそうになり、まだ片方が殺意を剥き出しにしているのだから、
激しい感情のぶつかり合いになるのは至極当然だろう。
叔父の彼女も先ほどの涙とはうって代わり、叔父に負けじと口論に加わったと言う。
「こりゃ将来尻に敷かれるなぁと思ったね。その時は」
叔父は苦笑しながら言った。確かに今は尻に敷かれている様だ。

やがて叔父がたまりかねて、警察、裁判沙汰をちらつかせる様になると、
やっと奥さんも大人しくなり、しぶしぶ旦那の話も聞くようになってきたと言う。

一応、いざこざの一段落はついた。
流石にその日は深夜になっていたので、その別荘で休む事になった。
「一応さ、話はついたけど、まさか眠るわけには行かないよな。あんな事されそうになって」
暖炉の広間で叔父と彼女が身を寄せ合って座り、離れた場所に旦那が申し訳なさそうに座っていた。
「明日、旦那の知り合いの業者に手伝ってもらい、クヌギの木は切り倒す事を約束してもらったからさ、
 それを見届けるまではな」
3人ともその日は寝ずに、朝を迎える予定だった。

夜もさらに深まった、午前3時頃だったと言う。
「ザッ ザッ ザッ」と、森の奥から何かが近づいてくる音が聞こえた。野生の動物か、野犬か。
コックリコックリと船を漕いでいた叔父も、その音に目が覚めた。
「明らかに人間に近い足音と気づいた途端、ゾッとしたね」
最初は奥さんが来たと思ったらしいが、あの電話を終えてからこんな短時間でここまで来れるわけがない。
いや、あの電話は実は近くからかけていたとしたら…もしくは他に仲間がいたとしたら…?
叔父は寒さなどお構い無しに全ての窓や戸を開け、アウトドア用のナイフを手に、臨戦態勢で息を殺していた。
「ザッ ザッ ザッ」という音は一向に止む事はなく、明らかにこの小屋に向かっている。
「それから10分後くらいかな。
 もうな、普通にこの小屋を訪ねて来るように、玄関の戸に立ったんだよ。足音の主が」
「○○?(妻の名前)」と旦那が叫んだ。が、すぐ驚愕から恐怖の悲鳴に変わった。
「奥さんの様で、奥さんじゃないんだよ。顔はほとんど同じなんだな。だが、生気が無いと言うか。
 で、この真冬に素ッ裸だぜ?でな、最初は旦那は、妻の様なモノの裸に驚いて声を上げたと思ったんだよ。
 違うんだよな。肌の質感も色も、木そのものなんだよ。
 で、もっと怖かったのは、左右の手足が逆についてるんだよ。
 分かるか?それが玄関に上がって来ようとしてな、右足と左足が逆なもんだから、動きがおかしいんだよ。
 上がり口に何度もつっかえたりして。それが何よりおそろしくてなぁ」
確かに想像するだけでもイヤな造形だ。

「彼女は絶叫してたな。旦那も、明らかに妻じゃないって確信したと思う。
 でもな、一応人間の形はしてるんだからさ。刺せないぜぇ?なかなかそんなモノを。
 やっぱ、人間の心ってリミッターあるからさ。もし人間だったらどうしよう、とか思うよ」
それは確かに分かるような気がする。
「でな、その妻の様なモノがとうとう小屋の中に入ってきて、何か言うんだよ。
 それも、何言ってるか分からなくてな。カブトムシの羽音みたいな音を喉から出して。
 で、左右逆の足でヨタヨタしながら、俺の方に向かって来るわけだ。
 しかし、俺も真面目なもんだよなぁ。
 それでも最後に一応、『○○さんですかっ!?』って聞いたよ。さっきのリミッターの話な。
 それでも、ソイツは虫の羽音の様な耳障りな音を喉から発して、
 これまた左右逆の両腕を伸ばし、俺の首を絞めてきたもんだから、
 思いっきりソイツの腹を前蹴りで蹴ったよ。
 すると腹がボロボロ崩れて、樹液みたいな液を撒き散らし、腹に空洞が出来てやんの。
 それで決心出来たんだよな。あぁ、これは人間じゃないから、ヤッちゃって良いんだってな」
と、豪快に笑いながら叔父は言った。
こういう時の度胸を決めた叔父は本当に頼もしく見える。

不気味な声を発しながら、ソイツは起き上がって来たらしい。
叔父はナイフをソイツの脳天に1発、もう1度蹴り倒したら、空洞の腹を貫通し、胴体が千切れたらしい。
彼女と旦那の絶叫が一段と激しくなったと言う。

「で、腹の中から異臭のする泥やら、ムカデやら色んな虫がワラワラ出てきてさ。もう部屋中パニックだったな。
 床に倒れたソイツの人型も、段々ボロボロと崩壊していって、床には泥と虫だけが残ったね。
 気持ち悪くて、ほとんど暖炉に放り込んだな。
 突立てたナイフが、いつの間にか消えてたのが気になったけどな」

その凄惨な格闘が終わり、全ての残骸を暖炉に投げ込んだ後、すぐさま旦那に妻へと電話をさせたらしい。
妻はすぐに出た。
「妻は死んでいた!とか、やはりそういうのは心配するだろ。形が形だけに。
 元気だったけどな。まぁキョトンとしてたな。
 流石に今起きた事は言わなかったけどな。後で旦那が話したかどうかは知らないが…
 でも流石に、全て終わった後に恐怖が襲って来たね。手足とか震えて来てな。彼女はずっと泣いてたな。
 で、1番怖かったのは、彼女が暫くして変な事言い始めたんだよな。
 何でアレに『○○さんですか?』と問いかけたのかと。
 変な事聞くなぁと思ったね。顔はどう見てもあの奥さんなんだから」
「で、どういう事だったのかな?」
俺が聞くと、叔父は気味が悪そうにこう言った。
「『よく自分の形をしたモノの頭に、ナイフなんて突き立てられたね』って、彼女はこう言ったんだよ。
 つまり、彼女にはあの化け物が、俺の姿に見えてたんだよな」

叔父が想像する所は、次の様な事らしい。
古代ドルイドの秘儀で、オークの木に邪悪な生命が宿った。
それにあの妻の怨念も乗り移り、生贄が止まった事に見兼ねて、自ら実体化して現れたと。
そして、見る対象者によっては、あの化け物が様々な姿形に見えるのではないかと。

「翌日、日が真上に昇るまで待って、あの木を見に行ったよ。
 木の表面が2cm程陥没してて、1m60cmくらいの人型になってたな。
 そして、頭部らしき箇所に、俺のナイフが突き立ってたな」

やがて夕方になり、旦那の知り合いの業者がやってきて、クヌギを木を切り始めたと言う。
「最初にチェーンソーが入る時と、木が倒れる時、完全に聴こえたんだよ。女の絶叫がね。
 俺と彼女と旦那だけ聴こえた様子だったな。
 で、切り株と根っこまで根こそぎトラックに積んでたんだが、小動物の骨が出るわ出るわ。
 業者も帰りたがってたな。さっきの人型と良い、そりゃ気味悪いよな。まぁ、人骨が出なかっただけマシかぁ?」

後日、隣の夫婦がそれなりの品物を持って謝罪に訪れたと言う。
「受け取ってすぐ捨てたけどなぁ。やっぱり、色々勘ぐってしまうよな」
そして、すぐ夫婦は引っ越し、叔父たちもその後すぐにマンションを引き払ったらしい。
暫くして、叔父は彼女とは一時別れてしまったそうだ。

「そんな事もあったねぇ」
紅茶を飲みながら、叔父が懐かしそうに言った。
「そうだな…あぁ、そう言えば…」
叔父が庭の木を見つめて呟いた。
「ウチにもオーク、ナラのカシワの木があったな。縁起物だから、新築の時植えたんだがな。
 まぁ、アレだな。モノは使い様と言うか…人間の心次第と言う事かな。
 それがプラスかマイナスかで、有り様が変わってくるからな」

そして、叔父の話は終わった。
今度来るときは、カシワの葉で包んだ柏餅をご馳走してもらい事を約束し、その日は叔父夫婦の家を後にした。





オカルトランキング



183 本当にあった怖い名無し 2006/05/13(土) 13:10:26 ID:d6nOfoGU0
先日、アンティーク好きな彼女とドライブがてら、骨董店やリサイクルショップを回る事になった。
俺もレゲーとか古着など好きで、掘り出し物のファミコンソフトや古着などを
集めていた。買うものは違えども、そのような物が売ってる店は同じなので、
楽しく店を巡っていた。お互い掘り出し物も数点買う事ができ、テンション上がったまま
車を走らせていると、一軒のボロッちい店が目に付いた。
「うほっ!意外とこんな寂れた店に、オバケのQ太郎ゴールドバージョンが眠ってたりすんだよな」浮かれる俺を冷めた目で見る彼女と共に、俺は店に入った。
コンビニ程度の広さの、チンケな店だった。主に古本が多く、家具や古着の類は
あまり置いていない様だった。ファミコンソフトなど、「究極ハリキリスタジアム」が
嫌がらせのように1本だけ埃を被って棚に置いてあるだけだった。もう出ようか、と言いかけた時、「あっ」と彼女が驚嘆の声を上げた。俺が駆け寄ると、
ぬいぐるみや置物などが詰め込まれた、バスケットケースの前で彼女が立っていた。
「何か掘り出し物あった?」
「これ、凄い」
そう言うと彼女は、バスケットケースの1番底に押し込まれる様にあった、
正20面体の置物を、ぬいぐるみや他の置物を掻き分けて手に取った。
今思えば、なぜバスケットケースの1番底にあって外からは見えないはずの物が
彼女に見えたのか、不思議な出来事はここから既に始まっていたのかもしれない。

http://www004.upp.so-net.ne.jp/s_honma/polygon.htm ←正20面体はこれを参考までに

184 RINFONE Ⅱ 2006/05/13(土) 13:20:06 ID:d6nOfoGU0
「何これ?プレミアもん?」
「いや、見たことないけど…この置物買おうかな」
まぁ、確かに何とも言えない落ち着いた色合いのこの置物、オブジェクトと
しては悪くないかもしれない。俺は、安かったら買っちゃえば、と言った。
レジにその正20面体を持って行く。しょぼくれたジイさんが古本を読みながら座っていた。
「すいません、これいくらですか?」
その時、俺は見逃さなかった。ジイさんが古本から目線を上げ、正20面体を見た時の表情を。
驚愕、としか表現出来ないような表情を一瞬顔に浮かべ、すぐさま普通のジイさんの表情になった。「あっ、あぁ…これね…えーっと、いくらだったかな。ちょ、ちょっと待っててくれる?」
そう言うとジイさんは、奥の部屋(おそらく自宅兼)に入っていった。奥さんらしき老女と何か
言い争っているのが断片的に聞こえた。やがて、ジイさんが1枚の黄ばんだ紙切れを持ってきた。
「それはね、いわゆる玩具の1つでね、リンフォンって名前で。この説明書に詳しい事が書いてあるんだけど」
ジイさんがそう言って、黄ばんだ汚らしい紙を広げた。随分と古いものらしい。
紙には例の正20面体の絵に「RINFONE(リンフォン)」と書かれており、
それが「熊」→「鷹」→「魚」に変形する経緯が絵で描かれていた。
わけの分からない言語も添えてあった。ジイさんが言うにはラテン語と英語で書かれているらしい。
「この様に、この置物が色んな動物に変形出来るんだよ。まず、リンフォンを両手で
 包み込み、おにぎりを握るように撫で回してごらん」
彼女は言われるがままに、リンフォンを両手で包み、握る様に撫で回した。
すると、「カチッ」と言う音がして、正20面体の面の1部が隆起したのだ。

185 RINFONE Ⅲ 2006/05/13(土) 13:37:16 ID:d6nOfoGU0
「わっ、すご~い」
「その出っ張った物を回して見たり、もっと上に引き上げたりしてごらん」
ジイさんに言われるとおりに彼女がすると、今度は別の1面が陥没した。
「すご~い!パズルみたいなもんですね!ユウ(←俺の敬称)もやってみたら」
この仕組みを言葉で説明するのは凄く難しいのだが、「トランスフォーマー」と言う
玩具をご存知だろうか?カセットテープがロボットに変形したり、拳銃やトラックが
ロボットに…と言う昔流行った玩具だ。このリンフォンも、正20面体のどこかを
押したり回したりすると、熊や鷹、魚などの色々な動物に変形する、と想像してもらいたい。
もはや、彼女はリンフォンに興味深々だった。俺でさえ凄い玩具だと思った。
「あの…それでおいくらなんでしょうか?」彼女がおそるおそる聞くと、
「それねぇ、結構古いものなんだよね…でも、私らも置いてある事すら忘れてた
 物だし…よし、特別に1万でどうだろう?ネットなんかに出したら好きな人は
 数十万でも買うと思うんだけど」
そこは値切り上手の彼女の事だ。結局は6500円にまでまけてもらい、ホクホク顔で店を出た。
次の日は月曜日だったので、一緒にレストランで晩飯を食べ終わったら、お互いすぐ帰宅した。

187 本当にあった怖い名無し sage 2006/05/13(土) 13:59:07 ID:nq8M5WDn0
ユウ(←俺の敬称)


189 RINFONE Ⅳ 2006/05/13(土) 14:03:18 ID:d6nOfoGU0
月曜日。仕事が終わって家に帰り着いたら、彼女から電話があった。
「ユウくん、あれ凄いよ、リンフォン。ほんとパズルって感じで、動物の形になってくの。
 仕事中もそればっかり頭にあって、手につかない感じで。マジで下手なTVゲームより面白い」
と一方的に興奮しながら彼女は喋っていた。電話を切った後、写メールが来た。
リンフォンを握っている彼女の両手が移り、リンフォンから突き出ている、熊の頭部のような物と足が2本見えた。俺は、良く出来てるなぁと感心し、その様な感想をメールで送り、やがてその日は寝た。

次の日、仕事の帰り道を車で移動していると、彼女からメールが。
「マジで面白い。昨日徹夜でリンフォンいじってたら、とうとう熊が出来た。見にきてよ」
と言う風な内容だった。俺は苦笑しながらも、車の進路を彼女の家へと向けた。
「なぁ、徹夜したって言ってたけど、仕事には行ったの?」
着くなり俺がそう聞くと、
「行った行った。でも、おかげでコーヒー飲み過ぎて気持ち悪くなったけど」
と彼女が答えた。テーブルの上には、4つ足で少し首を上げた、熊の形になったリンフォンがあった。
「おぉっ、マジ凄くないこれ?仕組みはどうやって出来てんだろ」
「凄いでしょう?ほんとハマるこれ。次はこの熊から鷹になるはずなんだよね。早速やろうかなと思って」
「おいおい、流石に今日は徹夜とかするなよ。明日でいいじゃん」
「それもそうだね」
と彼女は良い、簡単な手料理を2人で食べて、1回SEXして(←書く必要あるのか?寒かったらスマソ)その日は帰った。ちなみに、言い忘れたが、リンフォンは大体ソフトボールくらいの大きさだ。

190 RINFONE Ⅴ 2006/05/13(土) 14:05:48 ID:d6nOfoGU0
水曜日。通勤帰りに、今度は俺からメールした。
「ちゃんと寝たか?その他もろもろ、あ~だこ~だ…」すると
「昨日はちゃんと寝たよ!今から帰って続きが楽しみ」と返事が返ってきた。
そして夜の11時くらいだったか。俺がPS2に夢中になっていると、写メールが来た。
「鷹が出来たよ~!ほんとリアル。これ造った人マジ天才じゃない?」
写メールを開くと、翼を広げた鷹の形をしたリンフォンが移してあった。
素人の俺から見ても精巧な造りだ。今にも羽ばたきそうな鷹がそこにいた。
もちろん、玩具だしある程度は凸凹しているのだが。それでも良く出来ていた。
「スゲー、後は魚のみじゃん。でも夢中になりすぎずにゆっくり造れよな~」と返信し、やがて眠った。

木曜の夜。俺が風呂を上がると、携帯が鳴った。彼女だ。
「ユウくん、さっき電話した?」
「いいや。どうした?」
「5分ほど前から、30秒感覚くらいで着信くるの。通話押しても、何か街の
 雑踏のザワザワみたいな、大勢の話し声みたいなのが聞こえて、すぐ切れるの。
 着信見たら、普通(番号表示される)か(非通知)か(公衆)とか出るよね?
 でもその着信見たら(彼方(かなた))って出るの。こんなの登録もしてないのに。気持ち悪くて」
「そうか…そっち行ったほうがいいか?」
「いや、今日は電源切って寝る」
「そっか、ま、何かの混線じゃない?あぁ、所でリンフォンどうなった?魚は」
「あぁ、あれもうすぐ出来るよ、終わったらユウくんにも貸してあげようか」
「うん、楽しみにしてるよ」

204 RINFONE Ⅵ 2006/05/13(土) 14:55:33 ID:d6nOfoGU0
金曜日。奇妙な電話の事も気になった俺は、彼女に電話して、家に行く事になった。
リンフォンはほぼ魚の形をしており、あとは背びれや尾びれを付け足すと、完成という風に見えた。
「昼にまた変な電話があったって?」
「うん。昼休みにパン食べてたら携帯がなって、今度は普通に(非通知)だったんで出たの。
 それで通話押してみると、(出して)って大勢の男女の声が聞こえて、それで切れた」
「やっぱ混線かイタズラかなぁ?明日ド0モ一緒に行ってみる??」
「そうだね、そうしようか」
その後、リンフォンってほんと凄い玩具だよな、って話をしながら魚を
完成させるために色々いじくってたが、なかなか尾びれと背びれの出し方が分からない。
やっぱり最後の最後だから難しくしてんのかなぁ、とか言い合いながら、四苦八苦していた。
やがて眠くなってきたので、次の日が土曜だし、着替えも持ってきた俺は
彼女の家に泊まる事にした。

嫌な夢を見た。暗い谷底から、大勢の裸の男女が這い登ってくる。
俺は必死に崖を登って逃げる。後少し、後少しで頂上だ。助かる。
頂上に手をかけたその時、女に足を捕まれた。
「連  れ  て  っ  て  よ  ぉ  !  !  」
汗だくで目覚めた。まだ午前5時過ぎだった。再び眠れそうになかった俺は、
ボーっとしながら、彼女が置きだすまで布団に寝転がっていた。

205 RINFONE Ⅶ 2006/05/13(土) 14:57:04 ID:d6nOfoGU0
土曜日。携帯ショップに行ったが大した原因は分からずじまいだった。
そして、話の流れで気分転換に「占いでもしてもらおうか」って事になった。
市内でも「当たる」と有名な「猫おばさん」と呼ばれる占いのおばさんがいる。
自宅に何匹も猫を飼っており、占いも自宅でするのだ。所が予約がいるらしく、
電話すると、運よく翌日の日曜にアポが取れた。その日は適当に買い物などして、外泊した。

日曜日。昼過ぎに猫おばさんの家についた。チャイムを押す。
「はい」
「予約したた00ですが」
「開いてます、どうぞ」
玄関を開けると、廊下に猫がいた。俺たちを見ると、ギャッと威嚇をし、
奥へ逃げていった。廊下を進むと、洋間に猫おばさんがいた。文字通り猫に囲まれている。
俺たちが入った瞬間、一斉に「ギャーォ!」と親の敵でも見たような声で威嚇し、
散り散りに逃げていった。流石に感じが悪い。彼女と困ったように顔を見合わせていると、
「すみませんが、帰って下さい」
と猫おばさんがいった。ちょっとムッとした俺は、どういう事か聞くと、
「私が猫をたくさん飼ってるのはね、そういうモノに敏感に反応してるからです。
 猫たちがね、占って良い人と悪い人を選り分けてくれてるんですよ。こんな反応をしたのは始めてです」
俺は何故か閃くものがあって、彼女への妙な電話、俺の見た悪夢をおばさんに話した。すると、
「彼女さんの後ろに、、動物のオブジェの様な物が見えます。今すぐ捨てなさい」と渋々おばさんは答えた。
それがどうかしたのか、と聞くと
「お願いですから帰って下さい、それ以上は言いたくもないし見たくもありません」とそっぽを向いた。

彼女も顔が蒼白になってきている。俺が執拗に食い下がり、
「あれは何なんですか?呪われてるとか、良くアンティークにありがちなヤツですか?」
おばさんが答えるまで、何度も何度も聞き続けた。するとおばさんは立ち上がり、

「あれは凝縮された極小サイズの地獄です!!地獄の門です、捨てなさい!!帰りなさい!!」
「あのお金は…」
「入   り   ま   せ   ん   !   !」

この時の絶叫したおばさんの顔が、何より怖かった。


207 RINFONE Ⅷ 2006/05/13(土) 14:58:32 ID:d6nOfoGU0
その日彼女の家に帰った俺たちは、
すぐさまリンフォンと黄ばんだ説明書を新聞紙に包み、ガムテープでぐるぐる巻きにして、
ゴミ置き場に投げ捨てた。やがてゴミは回収され、それ以来これといった怪異は起きていない。
数週間後、彼女の家に行った時、アナグラム好きでもある彼女が、紙とペンを持ち、こういい始めた。

「あの、リンフォンってRINFONEの綴りだよね。偶然と言うか、こじ付けかもしれないけど、
 これを並べ替えるとINFERNO(地獄)とも読めるんだけど…」
「…ハハハ、まさか偶然偶然」
「魚、完成してたら一体どうなってたんだろうね」
「ハハハ…」

俺は乾いた笑いしか出来なかった。あれがゴミ処理場で処分されていること、
そして2つ目がないことを、俺は無意識に祈っていた。



763 本当にあった怖い名無し sage 2007/03/14(水) 04:54:54 ID:Xss+iCNa0
長文です。

九州のある地域の話。
仮だがS区という地域の山を越えた地域の裏S区って呼ばれてる地域の話。
現在では裏とは言わずに「新S区」って呼ばれてるがじいちゃん、ばあちゃんは今でも裏S区と呼んでる。
まぁ、裏と言うのは良くない意味を含んでる。
この場合の裏は部落の位置する場所を暗に表してる。
高校時代は部落差別の講義も頻繁にあるような地域。そこでの話。
(あくまで体験談&自分の主観の為部落差別、同和への差別の話ではありません)


今から何年か前に男の子(仮にA)が一人行方不明になった。(結局自殺してたのが見つかったけど)
俺はS区出身者。彼は裏S区出身者だけどS区の地域にある高校に通ってた。
まぁ、彼は友人だった。あくまで「だった」だ。
1年の頃は仲良かった。彼が一人の生徒をいじめるまでは。
いじめられたのは俺。周りはだれも止めない。止めてくれないし、見てもない。傍観者ですらなかった。
必死にやめてと懇願しても殴る、蹴る。俺は急に始まったから最初はただの
喧嘩と思い殴りあったが、彼の体格と俺のでは全く強さが違う。
でも、次の日も急に殴ってきた。意味も無く。理由を聞くも答えない。
薄っすらと笑ってたからもう兎に角怖かった。

764 本当にあった怖い名無し sage 2007/03/14(水) 04:57:13 ID:Xss+iCNa0
ある日いきなりAが学校に来なくなった。俺はかなりうれしかった。
でも、もうその状況では誰も俺に話かける奴はいなかった。初めての孤独を味わった。
多数の中に居るのに絶対的な孤独だった。それからAが3週間学校を休んだある日、先生が俺を呼び出した。
ここからは会話

先生「お前Aと仲良かっただろ?」
俺 「いえ・・。」
先生「う~ん・・・。お前Aをいじめてないか?」
俺 「はい??え?俺が??それともAが俺を???」
先生「いや、お前が。大丈夫誰にも言わんから言ってみろ。問題にもせんから」
俺 「いや、俺がですか???」

このときは本当に意味が分からなかった。先生の中では俺がいじめてることになってるし。
で、俺は本当のことを言うことにした。

俺 「本当は言いたくなかったけど、俺がいじめられてました・・。皆の前で殴る蹴るの暴力を受けてましたし・・・。」
先生「本当か??お前が??他の生徒も見てたか??」
俺 「見てましたよ。っていうか何で先生は俺がいじめてるって思ったんですか?誰かが言ったんですか?」
先生「いや・・・。いや、何でも無い。」

765 763 sage 2007/03/14(水) 05:01:28 ID:Xss+iCNa0
先生の態度がこの時点で明らかにおかしい。何故か動揺してる感じ。それから数分二人とも無言。
その数分後にいきなり先生が言い出した。

先生「Aがな、休んどるやろが?なしてか分からんけど、登校拒否みたいな感じでな家に電話しても
   親がでておらんって言うてきるんよ。」
俺 「・・・。」
先生「そんでな、昨日やっとAと連絡とれて、色々聞いたんよ。そしたらAが言ったのがお前が怖いって言うんよ。」
俺 「はい??俺が???」
先生「う~ん・・・。そうなんよ。お前が怖いって言って聞かんのよ。」
俺 「いやいや、俺が?逆ですけどね。俺はAが怖いし」
先生「ほうか、いや、分かった。もっかい聞くけどお前はいじめてないな?」
俺 「はい。」

って言うやりとりの後解放されて、自宅に帰った。

766 763 sage 2007/03/14(水) 05:02:42 ID:Xss+iCNa0
実際のイジメって多人数を1人でイジメルものだと思ってた。中学生の時にイジメを
見たことあったからそのときのイメージをイジメだと思ったし、よく聞くイジメも
大体が多人数が1人にお金をたかる、トイレで裸にする。こういうことをすることだと
思ってた。まさか、たった一人の人間がたった1人の人間をイジメルのに先生まで巻き込み
俺一人だけをのけ者にしようとしてるとは思わなかった。
生まれて初めて人に殺意を抱いた。ぶん殴るとかじゃなく、ぶっ殺したい。って本気で思った。

767 763 sage 2007/03/14(水) 05:04:32 ID:Xss+iCNa0
その次の日から俺は学校を休んだ。行く気にはなれんし、行っても一人だし。と思って。
ただ、この登校拒否中にありえないものを見てしまい、俺はちょっと頭がおかしくなりかけた。
起こったのは、「飛び降り自殺」
俺の住んでたマンションから人が飛び降りた。たまたまエレベーターホールでエレベーター待ちだった
俺の耳に「ギぃーーーーー」って言う奇怪な声と、その数秒後に「どーーーーん!」っていう
音。
そのどーんっと言う音は自転車置き場の屋根に落ちたらしいのだが、それを覗き見たときは本当に吐き気と涙がボロボロ出た。
これはただの恐怖心からなんだが、でもイジメにあっていた俺にはとてつもなく多きな傷だった。
これは本当にトラウマになっていて今でもエレベーターに乗れなくなった。
会社とかにある建物の中にある奴はまだ何とか乗れるが、
マンションにあるような外の風景が見えるものには全く乗れなくなった。
なぜならこのときに絶対ありえないものを見たから

768 763 sage 2007/03/14(水) 05:06:04 ID:Xss+iCNa0
自転車置き場を見下ろしてた俺が前を向きなおした瞬間に螺旋階段が見えた。
そこに下に落ちてる人間と全く同じ服で髪型(これは微妙で下にあるモノとは異なってたようにも見える)
のニンゲンが立ってた。これは多分見てはダメだったんだと思う。
螺旋階段を下に向かってゆっくり
降りていってたんだ。すごくゆっくり下を向いたまま歩いてた。下にあるものと瓜二つのニンゲンが。
ここでエレベーターが来たときの合図の「ピン」って音が鳴ったんでビク!ってなり後ろを振り向いた。
そこにも居た。と思う。多分いたんだろう。でも良く覚えてない。
今考えれば居たのか?と思うけどそのときは居たって思ってた。
「ピン」の音に振り返った瞬間にどーんって再度聞こえたんだ。
でも、今度の音はエレベーターの中から。どーん、どーーん。どーーーん。どーーーーん。って
俺はもう、発狂状態になってそれから倒れたみたい。

直ぐに病院に連れて行かれた。見たもの、聞いたものを全て忘れるように医者から言われて薬も
処方されてそれから1週間は「うぅぅ」ってうめき声を上げてるしかなかった。
1週間過ぎぐらいにはだいぶ良くなっていたのだけど、本当は親や医者をだましてた。
よくなってなんか無かった。寧ろそのときからその「どーん」って音はずっと着いて廻ってた。

769 763 sage 2007/03/14(水) 05:08:35 ID:Xss+iCNa0
その後、学校に行こうと思いだしたころにAの存在を思い出した。俺がそもそもこんな事になったのもAのせいだ。
あいつがあんなイジメをしなければこんな目にもあわなかった。
アイツは俺をこんな目にあわせる様な奴だから居なくなればいい。そうだ、この「どーん」って言う音に頼もう。
って本気で思ってた。俺は本当におかしくなってたんだと思う。本気でこの「音」の主に
お願いしてた。

次の日に学校に行った俺は昼休みの時に早退したいと先生に言った。先生も俺がどういう状況かを
知っていたからすぐにOKを出してくれた。Aはその日も休みだった。
その帰りがけに先日部落差別を無くそうという話を学校でしていた(講義で)、おじさんに出会った。
そのおじさんはAのおじさんに当たり何度か会って話したこともあった。
だけどそのおじさんが俺を見た後からの様子や態度が
明らかにおかしい。最初見かけた時は普通に挨拶をしたのにその後俺を二度見のような感じで見て
いきなり、「あ~・・・。」とかいいだした。
俺は「こいつもAに何か言われてんのか?」って感じで被害妄想を爆発させて怪訝な態度のこのおじさんを無視して横切っろうとしてた。
そのときに急にそのおじさんがブツブツブツブツお経のようなものを唱え始めた。
俺はぎょっ?!っとして、そのおじさんを見返した。いきなり、あって「あ~」などと
わけのわからない態度を取り出し、それだけならまだしも俺にお経を唱えたのだ。

770 763 sage 2007/03/14(水) 05:11:06 ID:Xss+iCNa0
生まれて初めて自分から人をぶん殴った。
言い訳がましいけど精神的におかしかったから殴る事の善悪は全くなかった。ただ、苛々だけに身を任した感じ。
いきなりでびっくりしたのかそのおじさんもうずくまって「うぅ。。」って言ってたが無視して蹴りを入れてた。Aの親戚ってだけでも苛々してたのもあり、「こら、お前らの家族は異常者のあつまりか?人を貶めるように生きてるのか??お前差別をどうのこうの言ってたが自分がする分にはかまわんのか?あ~??何とか言えや。こら!お前らは差別されるべき場所の生まれやけ、頭がおかしいんか?」って感じでずっと蹴り続けてた。でも、ここで再度予想外のことが起きた。
以下会話。

771 763 sage 2007/03/14(水) 05:13:14 ID:Xss+iCNa0
おじさん「ははははははははは」
俺 「!?なんか気持ち悪い。いきなり笑い始めやがって!」
おじさん「あははははは。お前か、お前やったんか。はははは」
俺 「??まじ意味分からん、なんがおかしいんか?」(未だ蹴り続けてたけどこの時は大分蹴りは弱くなってる。)
おじさん「ははは、やっと会えたわ。はははそりゃAも****やなー。ははは」(何を言ってるのか意味不明。)
俺 「は???お前ら家族で俺をイジメようてしよったんか?」(この辺りで怖くなって蹴らなくなってた)
おじさん「おい、お前がどうしようが勝手やけど、○○←俺の名前 が痛がるぞ。アニキは許しても俺は見逃さんぞ」
俺 「は???マジでお前んとこはキチ○イの集団なんか?おい?」
おじさん「○○君、ちょっと黙っとき。おじさんが良いって言うまで黙っとき」
俺 「いや、意味わから・」「どーーーーーん」

いきなり耳元で音が鳴った。俺はビクってして振り返ったら目の前にのっぺりとした
細面の顔が血だらけのままピクピクしながら笑ってた。俺はまた、発狂した。
この顔の見え方がかなり異常で、通常ニンゲンの顔を見る場合に半分だけ見えるって言うのはありえない。
でもこの目の前の顔は、例えていうとテレビ画面の中にある顔がカメラのせいで半分だけ途切れてて半分は見えてる状態。
その瞬間にAのおじさんに力いっぱい殴られて、意識を失った。

772 763 2007/03/14(水) 05:14:20 ID:Xss+iCNa0
起きた時に、俺は家の自分の部屋ではなくてリビングの隣の両親の寝室で寝かされてた。
時間を見たら20時。リビングからの明かりが漏れてて両親が誰かと話しをしてた。
俺が起き上がり、寝室のドアを開けてその人物を見たときにすぐに飛び掛った。
AのおじさんとAの叔母に当たる人がそこに座って両親と話てたから、それを見た瞬間にもう、飛び掛ってた。
直ぐに親父に抑えられてたけど俺は吼えてたと思う。
Aのおじさんは「ごめん、本当に悪かったね」を繰り返してたけど、どうしても許せなくて
親父の腕の中でもがいてた。母親がイキナリ俺の頬をひっぱたいて、「あんたも話しを聞きなさい!」
とか言い出してたけど、俺はもう、親にまで裏切られた感じがして家を飛び出そうとして
親父の手から抜け出し、自分の部屋に向かい上着とサイフをとった。
が、上着を羽織ろうとした瞬間に上着の腕の中に自分以外の手があった感触がして再度叫んだ。
両親とAのおじ、叔母が直ぐに来て、Aの叔母がブツブツ言いながらお経みたいなものを唱え始めだして
おじが俺の服を掴んで踏み始めた。親父は青ざめてそれを見てて、母親は一緒に手を合掌して俺を見てた。
この時は、マジで自分が狂人になったのかと思った。

数分後俺も落ち着いてきて、両親とAのおじ、おばと共にリビングへ向かった。
それまでの短い時間、Aのおじさんはずっと俺に謝ってた。
それからのリビングでの話しは今でも忘れられないしそこで再度起こったことも
忘れられない。以下会話(Aのおじさん=Bさん、Aのおばさん=Cさん とする)
774 763 sage 2007/03/14(水) 05:17:22 ID:Xss+iCNa0
Bさん「本当に、殴ってしまってごめんな。」
俺 「いや、いいです。こちらも苛々してましたのですみません。」
親父「ん?お前なんかしたんか?」
俺 「いや、俺がBさんを殴ってしまった。」
Bさん「あ、いや、それは俺が○君を見ていきなりお経とか唱えたから嫌な気がしたんやろ?
    ○君のせいじゃないわ。俺がいきなりすぎたんがいけんかったやから」
親父「申し訳ございません、それは聞いてなかったので」
俺 「え?なんの話をしよん?俺がBさんを殴ってBさんがいきなり」
  ここまで言って気絶前の事を思い出した。
俺 「あれ??俺気絶する前にナニカ見たわ・・・」
Bさん「うん、そやろな・。俺は○君みて直ぐに気づいてなぁ。何かおるって、それでお経を唱えたんよ」
母 「大丈夫なんですか?何かって何ですか?」
Cさん「えっとね、私らが住んどる地域がなんで裏S区って言われるか知っとる?」
親父「えっと、失礼かもしれませんが、差別的な意味ですよね?」
Bさん「それはそっちだけの認識やな、じいさん、ばあさんによう言われたやろ?裏Sには近寄るなて」
親父「言われましたね。でもそれは部落差別的なもんやと思ってましたけど、違うんですか?」
Bさん「いや、そうや。そうなんやけど、差別があるけ言うても今も言い続けよるんは裏Sの歴史がちと異常なんや。」
親父「いや、私も妻も生まれはS区やからその辺は分かってますけど、部落とか集落系での差別ってどっこも同じようなものでしょ?だから、異常っていうのはわかります。」
Bさん「はは。そうやろ?そういう風にとらわれてしまってるんやな。裏S区は部落やからって事でも他国のモンの集まりでもなく昔からこの地域に住んでたモンの集まりなんや。」
親父「はい。ただ、違いが私にはちょっと・・。」
母 「あれですか?あの鬼門がどうのとかって言う話ですか?」

775 763 sage 2007/03/14(水) 05:19:14 ID:Xss+iCNa0
Bさん「ん?鬼門の話か。まぁ、そんな感じなんやろうけど、裏Sにうちと同じ苗字が多いやろ?」
母「はい。多いですね、A君とことBさんの家は親戚やから当たり前やけど、それにしても多いですね、S区には全然いないのに裏S出身者では結構みかけますしね」
Bさん「あの辺は昔から霊の通り道って言われとんな。ナメ○○○(なんて言ったかは不明)とかそんなの聞いたことないですか?」
親父「いや、名前はしらないですけど、聞いたことはあります」
Bさん「まぁ、その地域はそういう地域でして、うちらの家系はほとんどが霊感があるっていわれてたんですね。それが原因で発狂する奴もおれば、いきなり何するかわからんって感じでいつの間にかそういう集落、部落になっていき差別されるようになったんですわ。
母 「でもそれやと裏S区はかなり広いからおかしくないですか?Bさんとこの家系だけで裏S区自体がそういう風にわかれるますかね?」
Bさん「うん、わかれるんやろうな。最初は3,4の家のもんが発狂し始めてて、でも、それが村中で始まってってなってって最終的に4,50件も起きれば、その周辺全体がおかしいって思われるやろうし昭和の時代にそんなアホみたいな話を信心深く聞く人間が少なくなってきてるしな」
親父「それでも、それで部落になるんかなぁ。」
Cさん「まぁ、うちらの家系ではそう教わっとるんです。だから生まれてきた子らには霊が見えるってことを前提に接しとる。見えん子もおるやろうけど、霊は居るって教えとるんですよ」
俺 「いや、それと俺が体験しとるのとBさんの話と何が関係するんですか?」

776 763 sage 2007/03/14(水) 05:20:53 ID:Xss+iCNa0
Bさん「○君。最近Aの様子がおかしくなかった?いきなり学校休んでるのは置いといてそれ以外になんかおかしいことなかった?」
俺 「最近っていうか、わからん。急に殴りかかってきたりしてたけど。」
Bさん「急にか、なんも言わんかったか?」
俺 「いや、急に。意味わからんし。あ!そういうことか。Aが急に異常になったってこと?
   霊が見え初めて発狂し始めたんっすか?」
Bさん「いや、Aはまともや。でも何をすればいいかわからんかったよ」
俺 「は?まともじゃないっすよ。あいついきなり殴り始めたし、しかも笑いながら。皆怖がって
   俺を助けようともせんかったし」
Bさん「○君、殴られたときに怪我するようなこと受けてないやろ?いや、殴る事自体は悪いことやから庇ってるんじゃなくてな。うちの家系での霊を見つけたときの対応は笑う事なんよ。やけん、異常者に見られることもあるけど、普通は無視してるんやけどな。」
母 「ってことは、○に霊がついてたって事ですか??」
Cさん「うん、今も憑いてる。それと○君ベランダに誰か見える?」
俺「はい??なんですか?ベランダですか?」

777 763 sage 2007/03/14(水) 05:21:36 ID:Xss+iCNa0
ここで俺は気絶するまえに見たモノとは別のものを見て発狂しそうになった。
Cさん「大丈夫。絶対にココには入れんから。」
親父「え?なにがですか?」
親父には見えてないし、もちろん母にも見えてない。
Bさん「あ、いえ。それでね○君にはちょっと憑いてるんや。」
俺 「あ、あれか。。。飛び降りの奴みてしまったからか。。」
Bさん「いや、ちがうよ。あれは多分たまたま。本当に偶然。でもその偶然がベランダの奴で
  それ以外についちゃだめな奴が憑いとる。」
俺「 え?」
Bさん「うん、それがついちゃだめなんよ。厳密に言うと霊とかじゃなく、うちの家系では××××
   って言うんよ。それを言葉には出しちゃだめですよ。すぐ移るから」(両親を見て)
母「××××」(なんて言ったか忘れた・・・、バラ??なんとかだったけど不明。)
俺「!?」母「これで私についたけん○は大丈夫でしょうか?」
Bさん「いや、そういうもんでもないけど、本当にそれは言わないでください」
母「息子が困るのは一番いやですから」
Bさん「多分、それをするともっと困ります」
俺「もう、やめていいよ。っていうかなんなん?俺が霊に呪われててAはそれみて俺をなぐってたん?でも、それはおかしいやろ。そんなんします?普通。っていうか、笑いながら殴ったらいいん?霊が
  追い払えるん?」(ちょっと困惑しててまくしたてた)
Cさん「ごめんね、そういう風にしか教えてなかったからやったんやろうね」
Bさん「お払いするときにはな、絶対に笑いながら相手を追い出すんよ。こっちは余裕だ、お前ごときって感じで。んで憑かれてる者を叩くと憑いてるものが逃げ出すって感じなんよ。もちろんお経やったりお呪いやったりが必要なんやけど、あいつは見様見真似でやってしまったんやろうな」
俺「でも、あいつ蹴ったりもしたし」
Bさん「うん、それは行き過ぎやな。でも、Aが学校休んでる理由は○君が怖いって。まぁ、○君に憑いてる者が怖いってことなんやけどな。」

778 763 sage 2007/03/14(水) 05:23:20 ID:Xss+iCNa0
それから数分そういう話をした後にCさんが御祓いすつための道具を駐車場に取りにいって、Bさんが俺を守る形で周りを見張ってた。その後準備が整い、御祓いが始まったけど、今まで見たどの御祓い方法
よりも異常だった。神社のような御祓いでもなくお寺のようにお経を唱えながら木魚を叩いてるわけでも無い。ただただ笑いながらお経を読んでる感じ。
そのお経もお経という感じではなくブツブツブツブツを繰り返してて小声でただ話してるような感じだった。
それから何度か手を叩かれたり、頭を払われたりした。
それが終了してBさんが、「もう大丈夫」と俺に言いCさんが「もう見えないでしょ?」っていうのでベランダを恐る恐るみてみたが何も無かった。

779 763 sage 2007/03/14(水) 05:24:56 ID:Xss+iCNa0
次の日から俺は普通通りに学校に行くようになった。(ただし、エレベーターは一人で乗ることが出来ないためいつも親と一緒に乗ってた・・・。)
ただし、この日Aに異常が起きたらしく、その日の夜に「Aが居ないんだけど○君の家に行ってないか」という連絡がAの父親からあり、次の日からBさんやAの両親が捜索願いを出して探してたらしいが、家に家出をするといった感じの手紙が置いてあり家出人の捜索のため警察が捜索をするということは無かったらしい。
Aの親が電話をしてきた理由は、その手紙に俺の名前が何個も書かれていたこと。が起因らしい。
俺は霊がのりうつってたからと言う理由があったからと言ってAを許してはなかったから
どうでもいいって思ってた。
Aが行方不明になって3日目の朝にどーーーん!っていう音が聞こえて起きた。
俺はもう、そんなことがないと思ってたから本当に汗がびしょびしょになり直ぐに親の部屋に逃げこんで少したって夢での出来事だったことに気付いた(というかそういう風にした)
ただ、その日にAが飛び降り自殺をしており時間帯も朝方であったと聞いてその夜から怖くなってきて一人で寝ることが出来なくなった。
遺書が見つかって居る事から自殺で間違いないようで、遺書の中に俺宛の部分があり
「ごめん、本当にわるかったね。多分俺らの家系は部落でちょっと頭がおかしい家系が多いんやと思う。
自分の家系のせいにしたくないけどお前を殴ったのは本当に悪かった。ごめん。」って書かれてた。

780 763 sage 2007/03/14(水) 05:25:49 ID:Xss+iCNa0
それからその次の夜にお通夜があり俺も両親とともに行ったのだが、俺はすごく嫌がってた。
ただ親が「一応供養だけはしとかな変なことあったら嫌やろ?」って言うので仕方なく行くことになった。
お通夜もかなり変わっており、通常のお通夜とちがい遺影など無くその代わりに紙にAの名前が書いておりそれを御棺の側面にびっしり貼り付けていて、近づくのも嫌になるような不気味さを漂わせてた。
Bさん曰く「写真を置くと写真の顔が変形するんだよ、それを見るのが耐えれないほどの奇怪なモノだからこの地域ではこういうやり方でやるんだ。名前の書いた紙をびっしり貼ってるのはコイツはAだ。××××ではないんだ、っていう証なんだ」との事。(本当に意味不明、奇怪すぎる内容にひいた。)その時Aの父親が俺に話かけて来て「迷惑かけてごめんね。」とAが家出したときに書いた手紙と遺書を見せてきた。
遺書の部分は上記の通りだが、この時は本当は見たくなかった。
家出をした際に書かれた手紙には「○←俺の名前 にあいつが憑いてたんだけど、ずっと俺を殺そうと見張ってる。
おじさん(Bさんのこと)が○のあいつを御祓いしたからもう大丈夫って言ってたけど、あいつは俺に来たみたい。
でも、おとうさんはあいつを御祓いできないだろうし、おかあさんの家に行ってきます
行く道であいつがついてきたら、他に行ってみるね。」とあった。
Aの両親は別居中だったためAは母親方の実家に向かったらしかったがそのまま行方不明になったらしい。
ただ、何故か警察は家出だと言って行方不明というよりは家出人としてしか扱わなかったそうだ。

781 763 sage 2007/03/14(水) 05:26:33 ID:Xss+iCNa0
それは本当に見なかったほうが良かったって思った。あいつとか書かれてるし、意味も不明なので
その日までの現実離れした出来事をかなり思いだされて怖さで震えてきた。Aの自殺した時間が
朝方だったことも怖さをましてココには居たくないって本気で思った。
俺がおかしかったんじゃなく、こいつらが異常だって思った。
お経も無く変な平屋のような場所に棺桶が置かれておりびっしりとAの名前が書かれた札を貼っていて、その挙句親戚の何人かは笑っているのである。
韓国だかどこかで泣き子といって泣くだけの為に葬式に参加してるってやつがいるって
気味の悪い話も聞いたことがあるけど、この集落に伝わる葬式も気味が悪いを通り越して異常でしかなかった。
うちの両親もさすがにこの状況は怖かったらしく、「もう、かえるか」と挨拶も早々に切り上げた。


782 763 sage 2007/03/14(水) 05:32:31 ID:Xss+iCNa0
それから数日後にBさんが両親に言ったのが俺に憑いてたのはAのおばあさん(つまりBさんの母親)が××××になって(霊だろうけど、そうは言わなかったので)憑いてたとのこと。
もう、そんな話はどうでも良いから聞きたくも無かったけど、聞いといてとの事なので聞かされた。
飛び降り自殺をしたニンゲンも裏S区出身者で××××に追いかけられてた事。俺に取り憑いた理由はわからないが、以前Aの家に行った時についたのかもとの事。等を聞かされた。
そこで俺も怖いと思ってたことを2つ聞いた。
1つ目はBさんに殴られる前に見た顔 2つ目は飛び降りしたはずの人間が階段に居て下の遺体のもとに駆け寄ろうとしてたがアレは何なのか

783 763 sage 2007/03/14(水) 05:33:29 ID:Xss+iCNa0
そうするとBさんは2つ目については「死んだ人間は死んだことを分からない事が多い。
だから下に自分が居たので取りに行こうとしたんじゃないかな」との事。
ただ、そこで邪魔をされると呪いをかけようとするとの事。
ここで俺は邪魔をしてないと口を挟んだところ、
「お前、エレベーターを呼んだだろ?「ピン」って音が邪魔なんだよ。」ってBさんの口調がかなり強い言い方に変わった。
本当に飛び跳ねそうになった。俺の両親もかなりびびってきてた。
Bさんはその口調のままいった。
「お前なぁ、見ちゃだめだろ?俺はいいがお前はだめだろ?見んなよ。俺をみんなよ。
なぁ?おい。聞いてるか?おい?」って感じで。さすがに親父が怒って
「何言ってんだ?怖がらせてどうする!」というとBさんがビクンってなって、
「あ、ごめんなさい。もうしわけない、ちょっと来てたので聞いてみようと思ったんです、もうしわけない」って言い出して口調を戻した。
「見てはダメだったと言っても見たくて見たんじゃないから、もういいだろ?な。」と自問自答を繰り返しその後俺に向かって「もう、絶対に大丈夫、本当に申し訳なかった。この亡くなった奴も××××に追いかけられてて、○君にのりうつってたあいつに怒ってしまって、○君のとこに着たみたい」との事

784 763 sage 2007/03/14(水) 05:36:17 ID:Xss+iCNa0
1つ目の質問については「それが××××」との事(この名前はもしかしたら日本語とかでは無いか、もしくは方言なのかなぁとこのときに思った。)
そしてAのおばあさんが××××になってしまった。でもAの父親が自分の母を消すのは心許ないとの事で御祓いを避けてたとの事。ただしAが亡くなってしまったため流石にもう腹を決めたらしく
御祓いを昨日済ませたとの事。等を聞いた。
そしてBさんが帰るとの事だったので玄関で見送りした


785 763 sage 2007/03/14(水) 05:37:13 ID:Xss+iCNa0
Bさんが玄関を出た直後に、いきなりBさんの笑い声が聞こえた。
「あはははははは。ははははは」って。
俺はびくっ!ってなり膝から崩れた。親父は「やっぱりあそこの連中はおかしいわ」と怖さからか
それとも本当に怒ってるのか怒鳴る感じでそういってた。
母は「もう、あの人らに関わるのはやめようね」と言い出して涙目になってた。
あんな話をしてて、笑いながら御祓いすると聞いてても流石に家を出た瞬間に
あんな笑い声を張り上げている奴を同じ人種とは思えない。
「あはははははははは」と笑っててその声が聞こえなくなって初めて三人とも動けるようになり、リビングに戻った。俺が「あいつらはおかしいよ、絶対異常やって。っていうかあいつエレベーターで帰ったんやろうか?」と言ったら、親父が「あいつとか言うな、一応年上やろうが。はぁ。。。もう、関わらんようにしとけ」と言って鍵を閉めに行った。
その直後に「はやくかえれ!!」っていう怒鳴り声が聞こえて心臓が止まりかけた。母親も「ひぃ」ってなってた。
親父が鍵を閉める前に夕刊が郵便受けに入っており、それを中から取ろうとしたら
上の部分に引っ掛ってしまっており外から取ろうとしたらしい。
しかし、Bさんがまだエレベーターホールでニヤニヤしてたらしい。親父はぶち切れてて「警察よぶぞ!」とか言い出しており(怖かったんだと思う)横の家の人とかも出てきて、Bさんは
「え、い、いや、今帰ろうとしてたとこです。え?なんですか?」とか言ってたらしい。
言った瞬間に又ケタケタと笑い始めてエレベーターに乗って帰ったらしい。
(親父が「塩まけ。塩!」と言い出し狂ったように塩をまいていたので隣人からしたら親父も異常にみえたかも。)

786 763 sage 2007/03/14(水) 05:38:38 ID:Xss+iCNa0
その後両親と一緒に有名な神社に行って御祓いを受けて、家を引っ越した。
S区からは移動してないため同じ学校の地域だったが俺は他の地区の学校に転入をしてもらい
それ以降は一切裏S区には近づいていない。
今は新S区と名前を変えてるが地域性自体は変わってないようであり、
従兄弟の通うS区の学校では、未だに同和教育があり地域は言わないものの差別的な事が現実にあると教えてるとの事。
しかしアクマで部落、集落への差別としか言わず、裏S区の事情、情報は皆無で裏S区と呼ぶと教師が過敏に反応し新S区だ。
と言い直したりとかもするそうである。(これは九州特有の人権主義、日教組等によるものだと思うけど。)
Bさんに関しては一切関わりを絶っているため今はどうなってるかは不明。

うちの両親はこの事件までは裏S区に関しての差別意識は皆無だったが、これ以降は
かなり毛嫌いしており、その地域の人達との関係をかなり制限してる。
俺はそれ以降霊的な出来事は皆無だけど、エレベーターだけは一人で乗れず
はずかしながら一人で寝ることも出来ないので妻にすごく馬鹿にされている状態。
終った直後の頃はトイレに行くときも親を起こして(高校生なのに。。。)一々行ってた位に
心身が恐怖で埋まってた。俺に関しては裏S区の出身と聞くと差別というよりも恐怖だけが全身を駆け巡り話も出来なくなる。


駄文、かなりの長文失礼しました。一応体験談として置いておきます
読んだ人マジで乙

797 本当にあった怖い名無し sage 2007/03/14(水) 09:37:58 ID:5dxvOK670
ナメ○○○>ナメラスジ
魔の通り道や鬼門裏鬼門の線上のことだったりするね
似たようなものにケガレチ(気枯地)なんかもあったりする
自分も九州人なのでこういった話は時々聞くね
古墳、遺跡、巨石機構、山岳信仰など多いし
民間伝承、迷信、神懸りなんか今も脈々とつづいてる
長崎の外海、五島なんかは隠れキリシタンの独特の風習、迷信や呪詛なんぞもある

>



オカルトランキング



696 :その1:2008/01/17(木) 21:36:23 ID:U3a23e/90
これは俺が14歳の時の話だ。

冬休みに、N県にある叔父(と言ってもまだ当時30代)の別荘に遊びに行く事になった。
本当は彼女と行きたかったらしいが、最近別れたので俺を誘ったらしい。
小さい頃から仲良くしてもらっていたので、俺は喜んで遊びに行く事になった。
叔父も俺と同じ街に住んでおり、早朝に叔父が家まで車で迎えに来てくれて、そのまま車で出発した。
叔父は中々お洒落な人で、昔から色んな遊びやアウトドア、音楽等等教えてもらっており、尊敬していた。
車で片道8時間はかかる長旅だったが、
車内で話をしたり音楽を聞いたり、途中で休憩がてら寄り道したり、本当に楽しかった。

やがて目的地近辺に到着し、スーパーで夕食の食材を買った。そして、かなりの山道を登り別荘へ。
それほど大きくはないが、木造ロッジのお洒落な隠れ家的な印象だった。
少し下がった土地の所に、2~3他の別荘が見える。人は来ていない様子だった。

夕食は庭でバーベキューだった。普通に安い肉だったが、やっぱり炭火で焼くと美味く感じる。
ホルモンとか魚介類・野菜も焼き、ホントにたらふく食べた。白飯も飯盒で炊き、最高の夕食だった。

食後は暖炉のある部屋に行き、TVを見たりプレステ、スーファミ、ファミコンで遊んだり、
裏ビデオなんかも見せてもらって、当時●貞だったので衝撃を受けたもんだった。

深夜になると、怖い話でも盛り上がった。叔父はこういう方面も得意で、本当に怖かった。
機会があればその話も書きたいが…

ふと、叔父が思い出した様に「裏山には絶対に入るなよ」と呟いた。
何でも、地元の人でも滅多に入らないらしい。マツタケとか取れるらしいが。
関係ないかもしれないが、「近くの別荘の社長も昔、裏山で首吊ってる」と言った。
いや、そんな気味悪い事聞いたら絶対入らないしと、その時は思った。

そんなこんなで、早朝の5時ごろまで遊び倒して、やっとそれぞれ寝ることになった。


697 :その2:2008/01/17(木) 21:37:46 ID:U3a23e/90
部屋に差し込む日光で目が覚めた。時刻はもう12時を回っている。喉の渇きを覚え、1階に水を飲みに行く。
途中で叔父の部屋を覗くと、イビキをかいてまだ寝ている。寒いが、本当に気持ちの良い朝だ。
やはり山の空気は都会と全然違う。

自分の部屋に戻り、ベランダに出て椅子に座る。
景色は丁度裏山に面していた。別になんて事はない普通の山に見えた。
ふと、部屋の中に望遠鏡がある事を思い出した。
自然の景色が見たくなり、望遠鏡をベランダに持ってくる。
高性能で高い物だけあって、ホントに遠くの景色でも綺麗に見える。
町ははるか遠くに見えるが、周囲の山は木に留ってる鳥まで見えて感動した。

30分くらい夢中で覗いていただろうか?丁度裏山の木々を見ている時、視界に動くものが入った。
人?の様に見えた。背中が見える。頭はツルツルだ。しきりに全身を揺らしている。地元の人?踊り?
手には鎌を持っている。だが異様なのは、この真冬なのに真っ裸と言う事。
そういう祭り?だが、1人しかいない。
思考が混乱して、様々な事が頭に浮かんだ。背中をこちらに向けているので顔は見えない。
その動きを見て、何故か山海塾を思い出した。
『これ以上見てはいけない』と、本能的にそう感じた。
人間だろうけど、ちょっとオカシな人だろう。気持ち悪い。
だが、好奇心が勝ってしまった。
望遠鏡のズームを最大にする。ツルツルの後頭部。色が白い。
ゾクッ、としたその時、ソイツが踊りながらゆっくりと振り向いた。
恐らくは、人間と思える顔の造形はしていた。鼻も口もある。
ただ、眉毛がなく、目が眉間の所に1つだけついている。縦に。
体が震えた。1つ目。奇形のアブナイ人。
ソイツと望遠鏡のレンズ越しに目が合った。口を歪ませている。笑っている。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
目が合った瞬間叫んでいた。涙が止まらない。
とにかく死にたい。異常なまでの鬱の様な感情が襲ってきた。
死にたい死にたい…半狂乱で部屋を駆け回っていると、叔父が飛び込んで来た。


698 :その3:2008/01/17(木) 21:39:21 ID:U3a23e/90
「どうした!?」
「バケモン!!」
「は?」
「望遠鏡!!裏山!!」
叔父が望遠鏡を覗きこむ。
「~~~~~~ッ」
声にならない唸りを上げ、頭を抱え込む。鼻水を垂らしながら泣いている。
さっきよりは少し気持ちの落ち着いた俺が聞いた。
「アレ何だよ!!」
「00子~00子~」
別れた彼女の名前を叫びながら泣きじゃくる叔父。
流石にヤバイと思い、生まれて初めて平手で思いっきり人の顔をはたいた。
体を小刻みに揺らす叔父。10秒、20秒…叔父が俺を見つめてきた。
「邪視」
「じゃし?」
「いいか、俺の部屋の机の引き出しに、サングラスがあるから持ってこい。お前の分も」
「なんで(ry」
「いいから持ってこい!!」

俺は言われるままに、サングラスを叔父に渡した。
震える手で叔父はサングラスをかけ、望遠鏡を覗く。しばらく望遠鏡を動かしている。
「ウッ」と呻き、俺に手招きをする。
「グラサンかけて見てみろ」
恐る恐るサングラスをかけ覗き込む。
グラサン越しにぼやけてはいるが、木々の中のソイツと目が合った。
言い様の無い不安がまた襲ってきたが、さっきほどでは無い。
だが、心臓の鼓動が異常に早い。
と言うか、さっきの場所では無い…ソイツはふにゃふにゃと奇妙な踊り?をしながら動いている。
目線だけはしっかりこちらに向けたまま…山を降りている!?まさかこっちに来ている…!?


699 :その4:2008/01/17(木) 21:40:47 ID:U3a23e/90
「00、お前しょんべん出るか?」
「は?こんな時に何を…」
「出るなら、食堂に空きのペットボトルあるから、それにしょんべん入れて来い」
そう言うと、叔父は1階に降りていった。
こんな時に出るわけないので呆然としていたら、
数分後、叔父がペットボトルに黄色のしょんべんを入れて戻ってきた。
「したくなったら、これに入れろ」と言い、叔父がもう1つの空のペットボトルを俺に差し出した。
「いや、だからアイツ何?」
「山の物…山子…分からん。
 ただ、俺がガキの頃、よく親父と山にキャンプとか行ってたが、あぁ、あそこの裏山じゃないぞ?
 山は色んな奇妙な事が起こるからな…
 夜でも、テントの外で人の話し声がするが、誰もいない。
 そんな時に、しょんべんとか撒いたら、不思議にピタッと止んだもんさ…」
そう言うと叔父は、もう一度望遠鏡を覗き込んだ。
「グウッ」と苦しそうに呻きながらも、アイツを観察している様子だ。
「アイツな。時速何Kmか知らんが、本当にゆっくりゆっくり移動している。
 途中で見えなくなったが…間違いなく、このロッジに向かってるんじゃないのか」
「じゃあ、早く車で戻ろうよ」
「多分、無駄だ…アイツの興味を俺たちから逸らさない限りは…多分どこまでも追ってくる。
 これは一種の呪いだ。邪悪な視線と書いて邪視と読むんだが…」
「さっき言ってたヤツか…でも、何でそんなに詳しいの?」
「俺が仕事で、北欧のある街に一時滞在してた時…イヤ、俺らが助かったら話そう」
「助かったらって…アイツが来るまでここにいるの?」
「いいや、迎え撃つんだよ」


700 :その5:2008/01/17(木) 21:41:44 ID:U3a23e/90
俺は絶対にここに篭っていた方が良いと思ったが、
叔父の意見は、「ロッジに来られる前にどうにかした方が良い」と言う物だった。
あんな恐ろしいヤツの所にいくなら、よっぽど逃げた方がマシだと思ったが、
叔父さんは昔から、いつだって頼りになる人だった。
俺は叔父を尊敬しているし、従う事に決めた。

それぞれ、グラサン、ペットボトル、軽目の食料が入ったリュック、手持ちの双眼鏡、木製のバット、懐中電灯等を持って、
裏山に入っていった。
「暗くなる前にどうにかしたい」と言う叔父の考えだった。
果たしてアイツの視線に耐えられるのか?
望遠鏡越しではなく、グラサンがあるとはいえ、間近でアイツに耐えられるのか?
様々な不安が頭の中を駆け巡った。
裏山と言っても結構広大だ。双眼鏡を駆使しながらアイツを探しまわった。
叔父いわく、「アイツは俺らを目標に移動しているはずだから、いつか鉢合わせになる」と言う考えだ。

あまり深入りして日が暮れるのは危険なので、
ロッジから500mほど進んだやや開けた場所で、待ち伏せする事になった。
「興味さえ逸らせば良いんだよ。興味さえ…」
「どうやって?」
「俺の考えではまず、どうしてもアイツに近づかなければならない。
 だが直視は絶対にするな。斜めに見ろ。言ってる事分かるな?目線を外し、視線の外で場所を捉えろ。
 そして、溜めたしょんべんをぶっかける。
 それでもダメなら…良いか?真面目な話だぞ?俺らのチンコを見せる」
「はぁ?」
「邪視ってのはな、不浄な物を嫌うんだよ。糞尿だったり、性器だったり…
 だから、殺せはしないが、それでアイツを逃げされる事が出来たのなら、俺らは助かると思う」
「…それでもダメなら?」
「…逃げるしかない。とっとと車で」

俺と叔父さんは、言い様のない恐怖と不安の中、ジッと岩に座って待っていた。交代で双眼鏡を見ながら。
時刻は4時を回っていた。


701 :その6:2008/01/17(木) 21:44:14 ID:U3a23e/90
「兄ちゃん、起きろ」
俺が10歳の時に事故で亡くなった、1歳下の弟の声が聞こえる。
「兄ちゃん、起きろ。学校遅刻するぞ」
うるさい。あと3分寝かせろ。
「兄ちゃん、起きないと 死 ん じ ゃ う ぞ ! !」

ハッ、とした。寝てた??あり得ない。あの恐怖と緊張感の中で。眠らされた??
横の叔父を見る。寝ている。急いで起こす。叔父が飛び起きる。
腕時計を見る。5時半。辺りはほとんど闇になりかけている。冷汗が流れる。
「00、聴こえるか?」
「え?」
「声…歌?」
神経を集中させて耳をすますと、右前方数m?の茂みから声が聞こえる。
だんだんこっちに近づいて来る。民謡の様な歌い回し。何言ってるかは分からないが、不気味で高い声。
恐怖感で頭がどうにかなりそうだった。声を聞いただけで、世の中の何もかもが嫌になってくる。
「いいか!足元だけを照らせ!!」
叔父が叫び、俺はヤツが出てこようとする茂みの下方を懐中電灯で照らした。
足が見えた。毛一つ無く、異様に白い。体全体をくねらせながら近づいてくる。
その歌のなんと不気味な事!!一瞬思考が途切れた。


702 :その7:2008/01/17(木) 21:45:39 ID:U3a23e/90
「あぁぁっ!!」
「ひっ!!」
ヤツが腰を落とし四つんばいになり、足を照らす懐中電灯の明かりの位置に顔を持ってきた。
直視してしまった。
昼間と同じ感情が襲ってきた。死にたい死にたい死にたい!こんな顔を見るくらいなら、死んだ方がマシ!!
叔父もペットボトルをひっくり返し、号泣している。落ちたライトがヤツの体を照らす。
意味の分からないおぞましい歌を歌いながら、四つんばいで、生まれたての子馬の様な動きで近づいてくる。
右手には錆びた鎌。
よっぽど舌でも噛んで死のうか、と思ったその時、
「プルルルルッ」
叔父の携帯が鳴った。
号泣していた叔父は何故か放心状態の様になり、ダウンのポケットから携帯を取り出し見る。
こんな時に何してんだ…もうすぐ死ぬのに…と思い、薄闇の中、呆然と叔父を見つめていた。
まだ携帯は鳴っている。プルルッ。叔父は携帯を見つめたまま。ヤツが俺の方に来た。
恐怖で失禁していた。死ぬ。
その時、叔父が凄まじい咆哮をあげて、地面に落ちた懐中電灯を取り上げ、
素早く俺の元にかけより、俺のペットボトルを手に取った。
「こっちを見るなよ!!ヤツの顔を照らすから目を瞑れ!!」
俺は夢中で地面を転がり、グラサンもずり落ち、頭をかかえて目をつぶった。

ここからは後で叔父に聞いた話。
まずヤツの顔を照らし、視線の外で位置を見る。
少々汚い話だが、俺のペットボトルに口をつけ、しょんべんを口に含み、
ライトでヤツの顔を照らしたまま、しゃがんでヤツの顔にしょんべんを吹きかける瞬間目を瞑る。霧の様に吹く。
ヤツの馬の嘶きの様な悲鳴が聞こえた。さらに口に含み吹く。吹く。ヤツの目に。目に。


703 :その8:2008/01/17(木) 21:46:49 ID:U3a23e/90
さっきのとはまた一段と高いヤツの悲鳴が聞こえる。だがまだそこにいる!!
焦った叔父はズボンも下着も脱ぎ、自分の股間をライトで照らしたらしい。
恐らくヤツはそれを見たのだろう。
言葉は分からないが、凄まじい呪詛の様な恨みの言葉を吐き、くるっと背中を向けたのだ。
俺はそこから顔を上げていた。叔父のライトがヤツの背中を照らす。
何が恐ろしかったかと言うと、
ヤツは退散する時までも、不気味な歌を歌い、体をくねらせ、ゆっくりゆっくりと移動していた!!
それこそ、杖をついた高齢の老人の歩行速度の如く!!
俺たちはヤツが見えなくなるまで、じっとライトで背中を照らし見つめていた。
いつ振り返るか分からない恐怖に耐えながら…

永遠とも思える苦痛と恐怖の時間が過ぎ、やがてヤツの姿は闇に消えた。

俺たちはロッジに戻るまで、何も会話を交わさず黙々と歩いた。
中に入ると、叔父は全てのドアの戸締りを確認し、コーヒーを入れた。
飲みながら、やっと口を開く。
「あれで叔父さんの言う、興味はそれたって事?」
「うぅん…恐らくな。さすがに、チンコは惨めなほど縮み上がってたけどな」
苦笑する叔父。
やがてぽつりぽつりと、邪視の事について語り始めてくれた…


704 :その9:2008/01/17(木) 21:47:33 ID:U3a23e/90
叔父は仕事柄、船で海外に行く事が多い。詳しい事は言えないが、いわゆる技術士だ。

叔父が北欧のとある街に滞在していた、ある日の事。
現地で仲良くなった通訳も出来る技術仲間の男が、面白い物を見せてくれると言う。
叔父は人気の無い路地に連れて行かれた。
ストリップとかの類かなと思っていると、路地裏の薄汚い小さな家に通された。
叔父は中に入って驚いた。外見はみすぼらしいが、家の中はまるで違った。
一目で高級品と分かる絨毯。壺。貴金属の類…香の良い香りも漂っている。
わけが分からないまま叔父が目を奪われていると、奥の小部屋に通された。
そこには、蝋燭が灯る中、見た目は60代くらいの男が座っていた。
ただ異様なのは、夜で家の中なのにサングラスをかけていた。
現地の男によれば、『邪視』の持ち主だと言う。

邪視(じゃし)とは、世界の広範囲に分布する民間伝承、迷信の一つで、
悪意を持って相手を睨みつける事によって、対象となった被害者に呪いを掛ける事が出来るという。
イビルアイ(evil eye)、邪眼(じゃがん)、魔眼(まがん)とも言われる。
邪視の力によっては、人が病気になり衰弱していき、ついには死に至る事さえあるという。

叔父はからかい半分で説明を聞いていた。この男も、そういう奇術・手品師の類であろうと。
座っていた男が、現地の男に耳打ちした。
男曰く、「信じていない様子だから、少しだけ力を体験させてあげよう」と。
叔父はこれも一興と思い承諾した。また男が現地の男に耳打ちする。
男曰く、
「今から貴方を縛りあげる。誤解しないでもらいたいのは、それだけ私の力が強いからである。
 貴方は暴れ回るだろう。私はほんの一瞬だけ、私の目で貴方の目を見つめる。やる事はただそれだけだ」


705 :その10:2008/01/17(木) 21:48:34 ID:U3a23e/90
叔父は、恐らく何か目に恐ろしげな細工でもしているのだろう、と思ったという。
本当に目が醜く潰れているのかもしれないし、カラーコンタクトかもしれない。
もしくは、香に何か幻惑剤の様な効果が…と。
縛られるのは抵抗があったが、友人の現地の男も、本当に信頼出来る人物だったので応じた。
椅子に縛られた叔父に男が近づく。友人は後ろを向いている。
静かにサングラスを外す。叔父を見下ろす。

「ホントにな、今日のアイツを見た時の様になったんだ」
コーヒーをテーブルに置いて、叔父は呟いた。
「見た瞬間、死にたくなるんだよ。瞳はなんてことない普通の瞳なのにな。
 とにかく、世の中の全てが嫌になる。見つめられたのは、ほんの1~2秒だったけどな。
 何かの暗示とか、催眠とか、そういうレベルの話じゃないと思う」

友人が言うには、その邪視の男は、金さえ積まれれば殺しもやるという。
現地のマフィア達の抗争にも利用されているとも聞いた。

叔父が帰国する事になった1週間ほど前、邪視の男が死んだという。
所属する組織のメンツを潰して仕事をしたとかで、抹殺されたのだという。
男は娼婦小屋で椅子に縛りつけれれて死んでいた。床には糞尿がバラ巻かれていたと言う。
男は凄まじい力で縄を引きちぎり、自分の両眼球をくり抜いて死んでいたという。


706 :その11、終わり:2008/01/17(木) 21:49:23 ID:U3a23e/90
「さっきも言った様に、邪視は不浄な物を嫌う。
 汚物にまみれながら、ストリップか性行為でも見せられたのかね」
俺は一言も発する気力もなく、話を聞いていた。さっきの化け物も、邪視の持ち主だっという事だろうか。
俺の考えを読み取ったかのように、叔父は続けた。
「アイツが本当に化け物だったのか、ああいう風に育てられた人間なのかは分からない。
 ただ、アイツは逃げるだけじゃダメな気がしてな…だから死ぬ気で立ち向かった。
 カッパも、人間の唾が嫌いとか言うじゃないか。
 案外、お経やお守りなんかよりも、人間の体の方が、ああいうモノに有効なのかもしれないな」
俺は話を聞きながら、弟の夢の事を思い出して話した。弟が助けてくれたんじゃないだろうか…と。
俺は泣いていた。
叔父は神妙に聞き、1分くらい無言のまま。やがて口を開いた。
「そういう事もあるかもしれないな…00はお前よりしっかりしてたしな。
 俺の鳴った携帯の事、覚えてるか?あれな、別れた彼女からなんだよ。
 でもな、この山の周辺で、携帯通じるわけねぇんだよ。見ろよ。今、アンテナ一本も立ってないだろ?
 だから、そういう事もあるのかも知れないな…
 今すぐ、山下りて帰ろう。このロッジも売るわ。早く彼女にも電話したいしな」
叔父は照れくさそうに笑うと、コーヒーを飲み干し立ち上がった。



オカルトランキング




。908 1/1 sage 2008/08/26(火) 09:45:56 ID:VFtYjtRn0

親父の実家は自宅から車で二時間弱くらいのところにある。
農家なんだけど、何かそういった雰囲気が好きで、高校になってバイクに乗る
ようになると、夏休みとか冬休みなんかにはよく一人で遊びに行ってた。
じいちゃんとばあちゃんも「よく来てくれた」と喜んで迎えてくれたしね。
でも、最後に行ったのが高校三年にあがる直前だから、もう十年以上も行っていないことになる。
決して「行かなかった」んじゃなくて「行けなかった」んだけど、その訳はこんなことだ。

春休みに入ったばかりのこと、いい天気に誘われてじいちゃんの家にバイクで行った。
まだ寒かったけど、広縁はぽかぽかと気持ちよく、そこでしばらく寛いでいた。そうしたら、

「ぽぽ、ぽぽっぽ、ぽ、ぽっ…」

と変な音が聞こえてきた。機械的な音じゃなくて、人が発してるような感じがした。
それも濁音とも半濁音とも、どちらにも取れるような感じだった。
何だろうと思っていると、庭の生垣の上に帽子があるのを見つけた。
生垣の上に置いてあったわけじゃない。
帽子はそのまま横に移動し、垣根の切れ目まで
来ると、一人女性が見えた。まあ、帽子はその女性が被っていたわけだ。
女性は白っぽいワンピースを着ていた。

でも生垣の高さは二メートルくらいある。その生垣から頭を出せるってどれだけ背の高い女なんだ…
驚いていると、女はまた移動して視界から消えた。帽子も消えていた。
また、いつのまにか「ぽぽぽ」という音も無くなっていた。


909 2/9 sage 2008/08/26(火) 09:46:59 ID:VFtYjtRn0
そのときは、もともと背が高い女が超厚底のブーツを履いていたか、踵の高い靴を履いた背の高い男が女装したかくらいにしか思わなかった。

その後、居間でお茶を飲みながら、じいちゃんとばあちゃんにさっきのことを話した。
「さっき、大きな女を見たよ。男が女装してたのかなあ」
と言っても「へぇ~」くらいしか言わなかったけど、
「垣根より背が高かった。帽子を被っていて『ぽぽぽ』とか変な声出してたし」
と言ったとたん、二人の動きが止ったんだよね。いや、本当にぴたりと止った。

その後、「いつ見た」「どこで見た」「垣根よりどのくらい高かった」
と、じいちゃんが怒ったような顔で質問を浴びせてきた。
じいちゃんの気迫に押されながらもそれに答えると、急に黙り込んで廊下にある電話まで行き、どこかに電話をかけだした。
引き戸が閉じられていたため、何を話しているのかは良く分からなかった。
ばあちゃんは心なしか震えているように見えた。

じいちゃんは電話を終えたのか、戻ってくると、
「今日は泊まっていけ。いや、今日は帰すわけには行かなくなった」と言った。
――何かとんでもなく悪いことをしてしまったんだろうか。
と必死に考えたが、何も思い当たらない。あの女だって、自分から見に行った
わけじゃなく、あちらから現れたわけだし。

そして、「ばあさん、後頼む。俺はKさんを迎えに行って来る」
と言い残し、軽トラックでどこかに出かけて行った。

910 3/9 sage 2008/08/26(火) 09:48:03 ID:VFtYjtRn0
ばあちゃんに恐る恐る尋ねてみると、
「八尺様に魅入られてしまったようだよ。じいちゃんが何とかしてくれる。何にも心配しなくていいから」
と震えた声で言った。
それからばあちゃんは、じいちゃんが戻って来るまでぽつりぽつりと話してくれた。

この辺りには「八尺様」という厄介なものがいる。
八尺様は大きな女の姿をしている。名前の通り八尺ほどの背丈があり、「ぼぼぼぼ」と男のような声で変な笑い方をする。
人によって、喪服を着た若い女だったり、留袖の老婆だったり、野良着姿の年増だったりと見え方が違うが、女性で異常に背が高いことと頭に何か載せていること、それに気味悪い笑い声は共通している。
昔、旅人に憑いて来たという噂もあるが、定かではない。
この地区(今は○市の一部であるが、昔は×村、今で言う「大字」にあたる区分)に地蔵によって封印されていて、よそへは行くことが無い。
八尺様に魅入られると、数日のうちに取り殺されてしまう。
最後に八尺様の被害が出たのは十五年ほど前。

これは後から聞いたことではあるが、地蔵によって封印されているというのは、八尺様がよそへ移動できる道というのは理由は分からないが限られていて、その道の村境に地蔵を祀ったそうだ。
八尺様の移動を防ぐためだが、それは東西
南北の境界に全部で四ヶ所あるらしい。
もっとも、何でそんなものを留めておくことになったかというと、周辺の村と何らかの協定があったらしい。例えば水利権を優先するとか。
八尺様の被害は数年から十数年に一度くらいなので、昔の人はそこそこ有利な協定を結べれば良しと思ったのだろうか。


911 4/9 sage 2008/08/26(火) 09:49:15 ID:VFtYjtRn0
そんなことを聞いても、全然リアルに思えなかった。当然だよね。
そのうち、じいちゃんが一人の老婆を連れて戻ってきた。

「えらいことになったのう。今はこれを持ってなさい」
Kさんという老婆はそう言って、お札をくれた。
それから、じいちゃんと一緒に二階へ上がり、何やらやっていた。
ばあちゃんはそのまま一緒にいて、トイレに行くときも付いてきて、トイレのドアを完全に閉めさせてくれなかった。
ここにきてはじめて、「なんだかヤバイんじゃ…」と思うようになってきた。

しばらくして二階に上がらされ、一室に入れられた。
そこは窓が全部新聞紙で目張りされ、その上にお札が貼られており、四隅には盛塩が置かれていた。
また、木でできた箱状のものがあり(祭壇などと呼べるものではない)、その上に小さな仏像が乗っていた。
あと、どこから持ってきたのか「おまる」が二つも用意されていた。これで用を済ませろってことか・・・

「もうすぐ日が暮れる。いいか、明日の朝までここから出てはいかん。俺もばあさんもな、お前を呼ぶこともなければ、お前に話しかけることもない。
そうだな、明日朝の七時になるまでは絶対ここから出るな。七時になったらお前から出ろ。家には連絡しておく」

と、じいちゃんが真顔で言うものだから、黙って頷く以外なかった。
「今言われたことは良く守りなさい。お札も肌身離さずな。何かおきたら仏様の前でお願いしなさい」
とKさんにも言われた。

912 5/9 sage 2008/08/26(火) 09:50:22 ID:VFtYjtRn0
テレビは見てもいいと言われていたので点けたが、見ていても上の空で気も紛れない。
部屋に閉じ込められるときにばあちゃんがくれたおにぎりやお菓子も食べる気が全くおこらず、放置したまま布団に包まってひたすらガクブルしていた。

そんな状態でもいつのまにか眠っていたようで、目が覚めたときには、何だか忘れたが深夜番組が映っていて、自分の時計を見たら、午前一時すぎだった。
(この頃は携帯を持ってなかった)

なんか嫌な時間に起きたなあなんて思っていると、窓ガラスをコツコツと叩く音が聞こえた。
小石なんかをぶつけているんじゃなくて、手で軽く叩くような音だったと思う。
風のせいでそんな音がでているのか、誰かが本当に叩いているのかは判断がつかなかったが、必死に風のせいだ、と思い込もうとした。
落ち着こうとお茶を一口飲んだが、やっぱり怖くて、テレビの音を大きくして無理やりテレビを見ていた。

そんなとき、じいちゃんの声が聞こえた。
「おーい、大丈夫か。怖けりゃ無理せんでいいぞ」
思わずドアに近づいたが、じいちゃんの言葉をすぐに思い出した。
また声がする。
「どうした、こっちに来てもええぞ」

じいちゃんの声に限りなく似ているけど、あれはじいちゃんの声じゃない。
どうしてか分からんけど、そんな気がして、そしてそう思ったと同時に全身に鳥肌が立った。
ふと、隅の盛り塩を見ると、それは上のほうが黒く変色していた。

913 本当にあった怖い名無し sage 2008/08/26(火) 09:51:23 ID:VFtYjtRn0
一目散に仏像の前に座ると、お札を握り締め「助けてください」と必死にお祈
りをはじめた。

そのとき、

「ぽぽっぽ、ぽ、ぽぽ…」

あの声が聞こえ、窓ガラスがトントン、トントンと鳴り出した。
そこまで背が高くないことは分かっていたが、アレが下から手を伸ばして窓ガラスを叩いている光景が浮かんで仕方が無かった。
もうできることは、仏像に祈ることだけだった。

とてつもなく長い一夜に感じたが、それでも朝は来るもので、つけっぱなしの
テレビがいつの間にか朝のニュースをやっていた。画面隅に表示される時間は確か七時十三分となっていた。
ガラスを叩く音も、あの声も気づかないうちに止んでいた。
どうやら眠ってしまったか気を失ってしまったかしたらしい。
盛り塩はさらに黒く変色していた。

念のため、自分の時計を見たところはぼ同じ時刻だったので、恐る恐るドアを
開けると、そこには心配そうな顔をしたばあちゃんとKさんがいた。
ばあちゃんが、よかった、よかったと涙を流してくれた。

下に降りると、親父も来ていた。
じいちゃんが外から顔を出して「早く車に乗れ」と促し、庭に出てみると、どこから持ってきたのか、ワンボックスのバンが一台あった。そして、庭に何人かの男たちがいた。

914 7/9 sage 2008/08/26(火) 09:52:24 ID:VFtYjtRn0
ワンボックスは九人乗りで、中列の真ん中に座らされ、助手席にKさんが座り、
庭にいた男たちもすべて乗り込んだ。全部で九人が乗り込んでおり、八方すべてを囲まれた形になった。

「大変なことになったな。気になるかもしれないが、これからは目を閉じて下を向いていろ。
俺たちには何も見えんが、お前には見えてしまうだろうからな。
いいと言うまで我慢して目を開けるなよ」
右隣に座った五十歳くらいのオジさんがそう言った。

そして、じいちゃんの運転する軽トラが先頭、次が自分が乗っているバン、後に親父が運転する乗用車という車列で走り出した。
車列はかなりゆっくりとしたスピードで進んだ。おそらく二十キロも出ていなかったんじゃあるまいか。

間もなくKさんが、「ここがふんばりどころだ」と呟くと、何やら念仏のようなものを唱え始めた。

「ぽっぽぽ、ぽ、ぽっ、ぽぽぽ…」

またあの声が聞こえてきた。
Kさんからもらったお札を握り締め、言われたとおりに目を閉じ、下を向いていたが、なぜか薄目をあけて外を少しだけ見てしまった。

目に入ったのは白っぽいワンピース。それが車に合わせ移動していた。
あの大股で付いてきているのか。
頭はウインドウの外にあって見えない。
しかし、車内を覗き込もうとしたのか、頭を下げる仕草を始めた。

無意識に「ヒッ」と声を出す。
「見るな」と隣が声を荒げる。

慌てて目をぎゅっとつぶり、さらに強くお札を握り締めた。

915 8/9 sage 2008/08/26(火) 09:53:50 ID:VFtYjtRn0
コツ、コツ、コツ
ガラスを叩く音が始まる。

周りに乗っている人も短く「エッ」とか「ンン」とか声を出す。
アレは見えなくても、声は聞こえなくても、音は聞こえてしまうようだ。
Kさんの念仏に力が入る。

やがて、声と音が途切れたと思ったとき、Kさんが「うまく抜けた」と声をあげた。
それまで黙っていた周りを囲む男たちも「よかったなあ」と安堵の声を出した。

やがて車は道の広い所で止り、親父の車に移された。
親父とじいちゃんが他の男たちに頭を下げているとき、Kさんが「お札を見せてみろ」と近寄ってきた。
無意識にまだ握り締めていたお札を見ると、全体が黒っぽくなっていた。
Kさんは「もう大丈夫だと思うがな、念のためしばらくの間はこれを持っていなさい」と新しいお札をくれた。

その後は親父と二人で自宅へ戻った。
バイクは後日じいちゃんと近所の人が届けてくれた。
親父も八尺様のことは知っていたようで、子供の頃、友達のひとりが魅入られて命を落としたということを話してくれた。
魅入られたため、他の土地に移った人も知っているという。

バンに乗った男たちは、すべてじいちゃんの一族に関係がある人で、つまりは極々薄いながらも自分と血縁関係にある人たちだそうだ。
前を走ったじいちゃん、後ろを走った親父も当然血のつながりはあるわけで、少しでも八尺様の目をごまかそうと、あのようなことをしたという。
親父の兄弟(伯父)は一晩でこちらに来られなかったため、血縁は薄くてもすぐに集まる人に来てもらったようだ。

それでも流石に七人もの男が今の今、というわけにはいかなく、また夜より昼のほうが安全と思われたため、一晩部屋に閉じ込められたのである。
道中、最悪ならじいちゃんか親父が身代わりになる覚悟だったとか。

そして、先に書いたようなことを説明され、もうあそこには行かないようにと念を押された。

家に戻ってから、じいちゃんと電話で話したとき、あの夜に声をかけたかと聞
いたが、そんなことはしていないと断言された。
――やっぱりあれは…
と思ったら、改めて背筋が寒くなった。

八尺様の被害には成人前の若い人間、それも子供が遭うことが多いということ
だ。まだ子供や若年の人間が極度の不安な状態にあるとき、身内の声であのよ
うなことを言われれば、つい心を許してしまうのだろう。

それから十年経って、あのことも忘れがちになったとき、洒落にならない後日談ができてしまった。

「八尺様を封じている地蔵様が誰かに壊されてしまった。それもお前の家に通じる道のものがな」

と、ばあちゃんから電話があった。
(じいちゃんは二年前に亡くなっていて、当然ながら葬式にも行かせてもらえなかった。じいちゃんも起き上がれなくなってからは絶対来させるなと言っていたという)

今となっては迷信だろうと自分に言い聞かせつつも、かなり心配な自分がいる。
「ぽぽぽ…」という、あの声が聞こえてきたらと思うと…




オカルトランキング

↑このページのトップヘ