【閲覧注意】怪談の森【怖い話】

当サイト「怪談の森」は古今東西の洒落にならない怖い話~ほっこりする神様系の話まで集めています。 随時更新中!!

カテゴリ: 因縁



「とうま ◆xnLOzMnQ」 2014/05/06

俺には4つ年上の姉がいる。
よく不思議な体験をするが(普通の友達に言わせるとかなり怖い体験だそうだ)、
わりとあっけらかんとその現象を乗り越えて生きている姉だ。
その姉が、初めて『恐怖』というものを覚えた日の話をしようと思う。


姉が小学校1年の一学期、俺がまだ保育園児で記憶もあまり定かで無い頃、
俺達一家は父方の本家があるS市から、母方の実家へと引っ越した。
俺は物心つくかつかないかの頃だったし、どうして引っ越したのか理由も長年とくに考えたことは無かった。
俺達の父はその頃家で自営業をしていた。だから幼い俺と姉、父は時間を長く共にすることは普通だったそうだ。
逆に母はパートで働きづめ、なかなか家にいることが難しかったらしい。
俺はその頃の事をほとんど覚えていない。
いや、正確にはその頃だけじゃなく、
不思議というより不自然なほどに、俺達一家を取り巻いていたらしい様々な『悪いもの』の記憶がほとんど抜け落ちてるのだ。
それは姉が『秘密の友達』から「赤い鬼に気をつけて」と奇妙な忠告を受けてから、一年も経とうかという、
冬の日の事だった。

S市は雪の多い都市だ。真冬ともなると、地吹雪が起きて一台前の車も見えなくなるようなことがある。
俺も免許をとってから友達のところへ遊びに行く時、一度その豪雪の中を運転したことがあるが、
比喩でなく目の前が雪と風に覆われて見ることが困難で、冬の時期の運転は二度とごめんだと痛感したほどだ。
当然、積雪もかなりすごい。高い雪の壁も珍しく無いし、雪祭りが行われる程度には雪の量が多い。
冬場の遊びと言えば、定番が自分の家の敷地内に手製の雪滑り台を作って、そりで何度も滑り落ちて楽しむことだ。
大概の子供は時間を忘れて遊ぶ。あとはかまくらを作ったり、雪が降れば雪合戦も毎日のように行われた。
俺にとってはぼんやりとだが、楽しい記憶ばかりだ。
姉にとっても、その日まではなんら変わらない冬だったはずだ。

余談になるかもしれないが、父はあまり子供を好く人では無かった。
俺達をというより、『子供』という生き物自体をうるさくて面倒なものだと思っていた感がある。
それでも我が子であれば、時間があればそれなりに遊んでくれてはいた。

俺は姉が『恐怖』を覚えたその日の出来事を覚えていない。
部屋の中で様子を見ていたと姉には教えられたが、一切覚えていない。

その日父は仕事が暇で、雪が降る中「遊んでやる」と、姉を外に連れ出したそうだ。
初めは普通にそり滑り、大きな雪だるまを作って、玄関のわきに飾った。
父が長時間まっとうに遊んでくれることが珍しかったせいで、姉は嬉しくなり、
「お母さんが帰ってきたら、このおっきい雪だるま一緒に作ったんだよって教えるんだ。
 お母さん、きっとびっくりするよね」
と、父を見上げて笑った。
それを聞いた父は急に機嫌を悪くしたようで、
「そうだな。寒いから、もう家の中に入るぞ」と、唐突に遊びを止めて家の中に入ってしまったそうだ。
姉は不思議に思いながらも、一人で外遊びを続けた。
家族分の雪ウサギを作ろうとしていたのだ。
一番大きいのがお父さん、次がお母さん、自分たちは子供だから小さいの、と。

四体の雪うさぎが完成した頃、雪は本降りになり、辺りも夕暮れで薄暗くなって一段と冷え込んで、
さすがに姉も遊びは止めにしてこたつに入ろうと、自分についた雪をはらって玄関に入った。
雪で濡れた手袋を外し、外着も脱ごうとしたところで、姉は初めて、待ち構えたよう立つ父に気がついたそうだ。
父は先ほどと違い、たいそう機嫌が良かった。
にこにことした笑顔を姉に向け、「すごく面白い遊びをしてやるぞ、こい」と、姉の手を引いて2階へと上がって行った。
手を引かれるまま姉は2階の部屋へと入り、そこでまだ幼い俺が積み木遊びをしているのを横目に、
父へ「何して遊ぶの?」と聞いたそうだ。
父は窓を開けると、「いっぱい降ってるなあ」と何やら感慨深げに空から降る雪を眺め、姉を招いたそうだ。
「お父さ・・・・・・っ」
話しかけようとして、次に見えたのは重い灰色の雪空。
何が起きたのかもわからず、軽い浮遊感を覚え、次の瞬間には高く積もった一階ベランダ外の雪壁に叩きつけられる衝撃。
雪は固まると痛いのだ。雪玉が当たると痛いように、降り積もって圧縮された雪壁は雪というよりはもはや氷の堅さに近い。
背中を強かに打ち付けて、2階から見下ろす父を見て、ようやく自分が2階から投げ落とされた事に姉は気づいたそうだ。
父の姿が窓から消える。
背中が痛い、手袋をとって直に触る雪が刺さるように痛い。
必死の思いでずるずると雪壁から這い降りて、家に戻ろうとするとそこにはやはり父がいた。
いや、『居た』のは父だけではなかった。
父の陰、両足の後ろからチラチラとこちらを伺い嗤う、40cmほどの『赤い鬼』が2匹。
「楽しいなあ?楽しいな?ほら、もう一回行くぞ」
抵抗しても大人の男の力にかなうはずも無い。
ずるずると2階へ引きずりあげられ、その間周りで赤い鬼が姉の顔を覗き込んでは嗤う。
一面に開いた窓から投げ出され、階下の雪壁へ叩きつけられる。
冷たい。痛い。降りる。引きずられる。投げ出される。
何度続いたかわからない。
いつしか父は鼻歌を歌っていた。
口を大きくつり上げたその顔は、顔を覗き込む赤鬼共とよく似ていた。
だんだん2匹の鬼は父の中に溶け合うようにして混ざり、父の顔色は赤黒く変化し、
しかし陽気で、気味の悪い鬼そのものに見えたそうだ。
鬼に影は無かった。そもそもいつからいたのか。
もしかしたら最初から居たのか。
あぁ、『秘密の友達』だったお姉さんはこのことを言っていたのか。
気をつけろと言われたのに。
約束を守れなかった。
お姉さん、ごめんなさい。気絶しかかった頭で、そんなことを考えたそうだ。

いつの間にか、その『遊び』は終わっていた。
いつ解放されたのかも覚えていない。でも、痛いけど死んでない。
子供の頭で考えるには妙に冷静な思考で、それでも姉はふらふらとした足取りで家の中に戻ったそうだ。
父は普通に戻っていた。
いつもの、無愛想で、寡黙な父に。
ただ一つ、その背中の向こうから、赤い鬼達がニヤニヤと嗤っていた。
終わってないんだ。
子供心に、そう理解したそうだ。

雪壁の上の方がまだかろうじて柔らかい部分を残していたから、死なずに済んだのだろうと姉は今でも言う。

結局姉が一番恐怖したのは何だったのか。
それは、後に母の前でその出来事を訴えた時に、父がまったくの正気顔で、
「1階の窓から少し雪の上に投げてやっただけだろう。
 そんなに怖かったのか?あの日は雪も柔らかくて気持ちよかっただろうに」
と、むしろ不思議そうに口にしたことだそうだ。
悪意などひとかけらも無いように。
訴えは結局、思いの他怖がった姉の勘違い、という事にされてしまった。

「『赤い鬼』が関わるとな、あの人はおかしくなる。行動も、性格も、記憶もだ。
 いいように改竄されて、あの人の中の本当がまるで変わってしまうんだ」
どうして、父が言うように自分の勘違いだと思わないのか、俺は姉に聞いてみた。
「自分の勘違いだと思いたかったさ。
 そうならそれでまるく収まる。子供が少し怖がりすぎて、記憶違いをしたんだってな。
 その方がずっと良かった」
少し遠くを見るようにして、その後姉は語った。
「翌日の朝は良く晴れていた。
 その明るい中、めった打ちしたみたいに壊された雪だるまと、
 子供の分だけがぐしゃぐしゃに踏みつぶされた雪うさぎを見なければ、
 父親にまとわりつく『赤い鬼』を、自分の幻覚で片付けることもできたのかもしれないのにな」

姉が長く付き合う事になる、『赤い鬼』の世界。
因縁は、まだまだ続く。





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「とうま ◆xnLOzMnQ」 2014/04/08

4つ上の姉にまつわる話だ。
結局のところ今まで書き記した話、それとこれから書き記す話は、
姉の人生のほとんどを占めた『縁』あるいは『呪い』と呼ぶべきものと、
自分でもその力の正体がなんであるのか決めかねながらも姉が、自分に襲いかかった理不尽な現象に最後まで抗った、
その証のようなものだ。
大元がようやく終わりを向かえた今となっては、ただの回顧録といってもいい。
姉にまつわる因縁と、姉を取り巻いていた環境がなんであったのか、未だに俺には想像がつかない。
俺は大概においてかやの外で、いずれ行き着く先があの結果だとしても、自分に何かができたとは思えない。

今日はそれらの『はじまりの日』の話を書きたいと思う。
厳密に言えば、それは連綿と受け継がれてきた血にまつわる話であるから、『始まり』とするのは正しくないのだろう。
きっとずっと大昔から、それは受け継がれてきたのだ。
姉にとっては逃れられないもので、
俺にはほぼ無関係だったという、血を分けた姉弟でありながらなんとも釈然としない「呪縛」。
だが、姉にとっての『始まり』はきっとその日だったのだと思う。
姉から教えてもらう霊感0の俺が言っても、あまり信憑性は無いだろうけど。


俺達一家は、元は父方の本家があるS市に住んでいた。
姉が小学校一年の一学期半ば、理由もわからず母方の地へ移るまで、俺達は確かにその場所で生活していた。
父は婿入りした身だが、母の実家には入らず、自分の親元の近くに住居を構えていたそうだ。
姉がまだ保育園に通っていた頃だから、俺なんか幼児もいいところだ。よって、この辺の記憶も当然ながら俺には無い。
小さいながらも一戸建ての家。家の前には道路へと続く舗装されていない砂利道。
母はその頃はパートで稼いでいたらしい。父は自営業のため、店舗を兼ねる家にいつもいたそうだ。

その頃姉には、大親友と呼べる友達が3人いた。
友達はたくさんいたが、その中でもとびきりの親友達。
なっちゃんは元気はつらつな女の子。肩より少し長い髪をいつも二つ結いにしていた。
まさと君は保育園で女子からモテモテのかっこいい系な男の子。
慎重な性格だが、姉とは気が合って、男女関係無い友情を育んでいたそうだ。
慎重な割に冒険が好きだという辺りが、同類だったのかもしれない。
まーくんは男の子だが少し気が弱くて、よく泣かされていたそうだ。
それでも、だれより優しい性格で、
みんながみんな、それぞれのいいところを子供心に尊敬しあったような良好な関係だったそうだ。

姉はその頃から不思議なものが見えていたが、みんなにも普通に見えていると思っていたらしく、
日常生活でお化けの話なんかは特にしなかったそうだ。
幽霊と人間の区別がついていなかったというのだからすごい。
明らかに怪我をして、生きていないのは『お化け』と理解していたが、
案外普通の外見の『生きている人間』以外はありふれていて、姉にとっては至極当然の世界だったから、
怖くもなんともなかったんだそうだ。

遊ぶときは家が近いせいもあって、大体この4人で集まって遊んでいた。
母がいつもパートに忙しく、あまり一緒にいれないことだけが寂しかったそうだ。
父はあまり子供をかまう人間ではなく、
よくよくタバコも吸っていたから、喘息持ちの姉は側にいると咳き込んでしまうので、
毎日、日が暮れるまで外で遊んでいたそうだ。

保育園にも夏休みというものは存在するらしい。
姉が通っていた保育園が特殊だったのか、普通のことなのか、俺にはわからない。
そう長い間ではないが、保育園側の事情で夏の半ばから秋の頭にかけて2~3週間の休みがある保育園だった。
ともかく、その夏休みの間、子供達は親戚の内に預けられたり、それぞれの家庭で過ごしたりと、
一時的に会えない状態に陥るのだった。
年少組から年長組になるにつれて、友達に会えない寂しさは増したそうだ。
しょうがないから、姉はそんな時、一人で近隣を探検してまわっていたそうだ。
子供しか通れない細い通路、公園巡り、道路にチョークで落書き。
たわいもない事をして、時間をつぶしていた。


そんなある日、どうしようもなく寂しくなって、姉は母のいるスーパーへ行くことにした。
場所は知っている。
ちゃんと道路を歩けば遠いが、秘密の通路を通って草っ原をつっきると、母の職場は案外近いのだった。
まあ、パートに子育てに、仕事から帰ったら家事をする身では、職場が遠いことは不都合だったのだろう。
その草っ原は大親友達と見つけた秘密の遊び場で、
誰にも邪魔されずに虫をとったり、かくれんぼをしたり、追いかけっこをしたりと、
普段からよく知る場所だったそうだ。

その草っ原を越えて、母のいるスーパーへ向かおうとして、その日姉は奇妙なことに気がついた。
おんぼろとまではいかないが、かなり年期の入った感じの2階建ての木造小屋を見つけたのだ。
戸板は風雨に曝されたことを物語るような灰色で、人の気配も全く無し。
何より、あれだけ遊び回って知らない場所など無いと思っていたのに、突如小屋を見つけてしまったのだ。
寂しさよりも『探検』への好奇心が勝った。
姉は「ごめんください。誰かいますかー?」と一階の入り口から声をかけ、
返答が無いことを確認すると、小屋の中へと足を進めた。
電気は当然通っていない。窓から差し込むかすかな光が、その建物のわずかな光源だった。

一階はだだっぴろく、物もあまりないため、すぐに探索は終了。
次に階段を昇って2階へ入り、姉は足下に太陽の光を受けて転がる小さな粒を見つけた。
紫色のその米粒大のものは、当時『香り玉』と言って子供達のあいだではやっていたものだそうだ。
色のバリエーションが色々あり、
赤ならイチゴの香りなど、文字通り香りのついた粒が小さな小瓶入れられ売られていたそうだ。
人気があって、すぐに売り切れるようなものだったらしい。
子供にとっては宝物が落ちていたようだものだ。
1階に比べてずいぶん天井の低い2階だったそうだ。
その床に、転々と紫色の粒が落ちている。
面白くなって次々と広い集めた。紫は珍しい色だった。
『香り玉』の中でも特に人気があって、花の香りがするのだ。
大親友達とまた会える日になったら、此処へみんなで探検に来ようと、姉はわくわくした気持ちでいっぱいだった。

「楽しい?」
不意に、背後から女の人が声をかけてきた。
子供のようにしゃがんで、にこにこと姉の様子を眺めていたそうだ。
とっさに、『この小屋の持ち主の人だ、勝手に入って怒られる!』と思い、
即座に「ごめんなさい!!」と姉は謝ったそうだ。
女性は一瞬きょとんとすると、くすくすと笑い出した。
「いいのよ、あなたがあんまり楽しそうだから、見てる私も楽しくなっちゃって。
 でも、夕暮れが近いわよ、お家に帰らなくちゃ暗くなっちゃうわ」
女性に手を引かれて一階に降りると、確かに夕日が差し込んでいた。
さっきまで昼だと思っていたのに、よほど熱中していたようだと、恥ずかしくなったそうだ。
立ち上がった女性はうす水色のワンピースに白い帽子をかぶった、とても綺麗な人だったそうだ。
「あの、ここの人ですか?」
「そうよ。持ち主ね」
「また遊びにきてもいいですか?今、友達みんなお家にいて、保育園も休みで・・・」
「こんなほったて小屋、一人で入って怖くなかったの?」
「探検が大好きなんです」
そこで、女性はまたふふと、と上品に笑った。
あまり見たことの無い、テレビに出てくる女優さんのような人だなと思ったそうだ。
「そうね、じゃあ、秘密の友達になってくれたら、いつでも来ていいわ」
「秘密の友達?」
「内緒の方が楽しいことってあるでしょ?ここで会うだけの、ここだけの友達。名前も内緒」
不思議なことをいうお姉さんだなと思ったが、相手のいう事に納得して、そうして姉に『秘密の友達』ができた。

お姉さんは色々なことを知っていて、昔話なんかにも詳しかった。
姉は童話や民話を読むのが大好きだったから、あっと言う間に寂しさも忘れて夢中で通った。
紫の香り玉は少しずつ増えていった。


保育園の再開まであと1週間となり、今度はここに来れなくなるのが寂しいと、姉はお姉さんに相談した。
するとお姉さんも寂しそうに切り出した。
「あのね、残念だけど今日でお別れなの」
「久々にとても楽しかった。でも私に会えるのも、ここに来れるのも今日でお終い」
「もう誰にも会えないで、ただ終わっていくんだと思っていたから、あなたが友達になってくれてとても嬉しかった」
ようやく、その時姉は気づいたそうだ。
あぁ、この人は『人間』じゃなかったんだ、と。
「私の大事な最後の秘密の友達。
 少しのことしか教えてあげれないけど、あなたが私の元に通ってくれたから、一番大事なことだけ教えてあげれる」
「赤い鬼に気を許しては駄目。関わることは避けられない。
 あなたは人よりもずっと怖い目に遭うわ。
 けれど、その時は力を貸してくれそうなモノ達に話しかけ、仲良くなって助けてもらいなさい。
 私と仲良くしてくれたように」
「赤い鬼に殺されては駄目よ。赤い鬼と同じモノになっても駄目。
 あなたは、あなたのままでいなさい。それがどんな結果になったとしても」
お姉さんの手は、人間の手と同じように温かかった。
手を引かれて、小屋の外に出る。小屋はもう、跡形も無く消えていた。

「さよなら、ゆきちゃん」

夕暮れに解けるようにして、そのお姉さんは消えた。
もう会えないことを理解して、お姉さんの事を絶対に忘れないと決めた。
一緒に遊んだ時間も、声も、握った手の柔らかさも、綺麗な顔も、最後の忠告も。
お姉さんが何者だったのか、それは今でもわからないそうだ。
土地神だったのか、妖怪だったのか、幽霊だったのか。

次の日、草っ原に行ったが、どこまでも青々と茂った草原が続くだけだった。
誰に訊ねても、そんな小屋はあったことは無いという答えしか返ってこなかった。
残ったのは一緒に集めた香り玉だけ。それだけが彼女が存在していた証拠だった。


秘密にしていた名前を知っていたお姉さん。彼女は何者だったのか。
彼女が告げた『赤い鬼』はその後しばらくして、思いがけない形で、姉の前に現れることになる。
雪の降る日、初めて現れた2匹の小さな赤い鬼は父の後ろで嗤っていた。
父も嗤っていたそうだ。
姉が初めて恐怖らしい恐怖を覚えたのが、その日になる。

これはまた、次の話で。






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もう随分と前に亡くなったウチの爺さんなんだが、
変に、と言うかオカルト方面になんか詳しかった。
ついでに数学にも長けてて、俺はよく教わった。(これは多分関係ナイ)
爺さん曰く、「あーゆー手合いは抽象的な説明が云々」との事。
んで、記号とか使って説明してくれたのよね。紙に書いてさ。

俺もオカルト関係が大好き……まぁ興味深々だったもんで、
それで色々聞いてたのよ。解らないなりに。爺さんもノってたし。
あれはどう、これはどう? って。

それで、爺さんが一つのお話をしてくれたのよ。
これはそんな話


人には本能がある。まぁこれは誰もが知っていることだ。
でも、それも時代を経ていく毎に随分薄くなってしまって、
所謂退化してしまったらしい。

その退化してしまったモノの中でも、今でも強く残っているのがあって
人間の『危機を察知する本能』が挙げられるんだと。

「あ、ヤバイ」って思うと大抵それが惨事にぶち当たったりするやつ。
まぁ人間も動物だからそう言うのが強く残っていて当たり前なんだが、
爺さん曰く、目に見えないものでも本能が回避するんだと。

だからオカルトオカルトって言っても大体のヤツが認知しないし、
遭遇もしないから認知されない。言ってる奴が基地外扱いされる。
そりゃそうだ。そんなのに毎回毎回遭遇するのは相当運が悪いか、

もしくは『遭遇する事を自分から望んでる』奴、
あるいは『遭遇する事が予め決定している』奴、なんだそーで。

遭遇しないのが当たり前だし、そう言う“脅かす”のとは
縁を繋がないようにして安全を図っているらしい。


でも人間、好奇心が強い。自分が知らない世界を視たがり知りたがる。
わざわざ回避してるのにも関わらず、自分から遭遇したがる。
爺さんはここまで言って、「ワシもそうじゃ」と呟いた。

でも俺には「お前は賢いから口にせんし、縁も繋ぎたがらんのぅ」って言う。
オカルト好き、てか怖い話が好きな俺にそれはどうかと言ってやったのよ。

すると爺さん反論。

「何故霊能力者とか言ってる奴等が
自分が見た拙い災厄や悪霊なんつーのを口にしたがらないのか解るか?
ふつーに考えてやったんなら、教えてやった方が親切じゃろ? 
よー考えてみぃ、違うか?」

まー確かにそうですな。うんうん、と俺は頷いた。

「理由は二つある。
一つはそういった災厄や悪霊を自分に招かない為じゃ。
口にするだけで縁(えにし)は繋がる。
未だ方向性が決まらぬ悪意や憎悪は、繋がれた道を歩いてくる。
そうして辿り着くと、苦しみを撒き散らすのじゃよ」

「似たようなモノに“じゅ”(多分“呪”と書いてじゅと読むんだと思う)があるが、
そう言うのは己の悪意を直接相手に繋ぐ。そうして相手を苦しめるわけじゃ。
これが強すぎると相手は散々苦しんだ挙句に死ぬ。
じゃが繋いだ縁を渡って自分に返って自分自身も死んでしまう。
これが人を呪わば穴二つの意味じゃよ。その苦しみは殺した業を含めて倍になる」

なるほど。そう言うことなのかと、俺は納得した。

「そしてもう一つ」

俺はゴクリと唾を飲んだ。

「業を招く」

「それって……どういう意味なん?」

「旅は道連れ、世は情けと言うじゃろ。要するに、連 帯 責 任 じゃ。
その苦しみ、その責め、その業を分かちあってしまうということなんじゃよ」

「そんなん視るだけの奴にゃ手に負えんし、関わったばっかりに死んじまうこともある。
なまじ理解しちまうせいでな。だから本当に力の在る奴しか口にしちゃいかんし、
そう言うのを生業にしてる奴らもわかっとる。だから口にせんのじゃよ」

「爺ちゃんにゃあったん?」

「ワシにゃ無い。無かったが理解できる。なんとなしに……お前と一緒でな。
だから、考えても口を利くな。招くぞ。神も妖も霊も同じ。
言葉は一つの呪いと考えとけ。
口を利けば、彼岸の向こう側から縁を結んで招かれる。
古くから人に都合の良い神を招くのは祝詞じゃしの」

おいおいマジですか。と、心の中で呟きましたさ。

「でもな……」

ここで爺さん、妙に神妙な顔付きになってしまいまして。

「理解するこたー悪いことじゃねぇ。それが救いになるこたぁある。
だが一線越えちゃなんねぇ。ワシゃ知っておるからの、越えた奴ぁ……
確 実 に 死 ぬ ん じゃああぁぁぁああぁぁあああああああああ!!!」

んで、すげーわざとらしくコホンと咳払いしやがりまして、

「……例外は定め付けられ、仏の御心を持った人間だけよ」と締めくくった。


こん時の爺さん……怒ってるのか、泣いてるのか、笑ってるのか、
いやきっと全部なんだろうな……。
例えようの無い顔ってこういうのを指すんだって。
全身を恐怖の針で刺された感じで動けなかった。
ありえないぐらいのリアクションと大声が小便チビリそうになるぐらい怖かったです。

「……ま、蛇足ではあるが。
一度繋いだ縁は双方が交わりを望まぬと誓わぬ限り切れん。
それほど強いつーことじゃ。
また招く、縁を繋ぐ、これは繰り返すことによってより強くなっちまう。
一度視た深遠を何度も覗く羽目になるというのは、こういうことじゃよ。
何度も覗いた奴ぁ不幸だけが降り注ぐ」

「生きてる人間にゃ、真っ当に生きる資格があると同時に義務がある。
 その分を越えてはならんのじゃ。解ったか? ○○(←俺の名前です」

俺を脅かすだけ脅かして、ハッハッハと爺さん笑いやがりましたよ畜生。
俺的にはガクブルものでした。喉がカラカラで何にも喋れなかったし、くそぅ。

以上です。他にも爺さん絡みで色々あったんですが。機会があれば、また。





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