カテゴリ: 自慢じゃないが、私は憑かれやすいシリーズ系
【自慢じゃないが、私は憑かれやすいシリーズ系】「また騙された」と気付くまでに、大して時間は掛からなかった
743 白蛇の招魂1/4 2006/06/24(土) 02:04:02 ID:fWU+tbEx0
いつぞやの6月。
その日は相方とロードワークで、○鎚山のふもとのある集落にやって来ていた。
何でも彼女曰く、「歴史的に有名な史跡がある」と云うから付いて行ったんですが、
現地に着いて史跡とやらに行くと、まぁ辺鄙な所だった。
木、山、家、木、田、畑、家、川、家、山。
「また騙された」と気付くまでに、大して時間は掛からなかった。
私の課題は、地元の風土、郷土史に関するモノで、四国中いろんな所へ行く。
ただし、いつもオカルトチックな場所ばかり。
先日も、古代人の霊が出る鍾乳洞とやらに行ってきた。
元来ビビり性な私が、好き好んでそんな所に行ったりはしないのですが、
研究室の相方や助教授が画策して、心霊スポットばかり行き先に選ぶ。
そんな話。
744 白蛇の招魂2/4 2006/06/24(土) 02:07:13 ID:fWU+tbEx0
棚田の坂を登りながら、相方は史跡にまつわる話とやらをしてくれた。
「――かつて、この地で大暴れした白蛇の精がいた。
普通、白蛇といえば、神の使いだとか守り神だとか相場が決まってるが、
相当の荒神だったらしく、村々にい多くの災いを振り撒いた。
その時、集まった石鎚山の山伏達が、死闘の末これを封印したのだという。
大正10年9月12日の出来事だった――」
「えらく最近だな。日付もハッキリしてんのかよ」
「ソレを封印した塚の跡が、此処なんよ」
指差す先には、盛った土の上に鏡餅状に石が3つ置いてあるだけの、しょぼくれたモノだった。
とても何かを封印しているとは思えない。
「何もないんだけど」
「塚の跡って言うたやん。
先の戦中のうやむやで、よく分かってないんちて。
誰かが塚を壊して封印を解いちゃったんだとかで、コレはその塚の名残だけ。
今では、白蛇の精は自由に動き回ってるんだってサ」
「それはヤバいんじゃないのか?」
「まぁ、一度封印したときに前牙を抜いちゅうとかで、力はかなり弱くなってるんだけど。
ただ、今でもこの塚周辺の家では、白蛇の瘴気に当てられた子が生まれて来るんだちて。
犬神憑きならぬ蛇神憑きの子が。
発症すると、舌が異常に長かったり、ウロコが出来たり、
階段を這いつくばって昇り降りするようになるっちゅう」
「それは・・・一生そのままなん?」
「ん―簡単に治せるらしい・・・いや治すのとは違うか」
「治すのと違うとは?」
「伝染(うつす)んだよ。他人に」
745 白蛇の招魂3/4 2006/06/24(土) 02:09:01 ID:fWU+tbEx0
そう言うと相方は、足元に落ちてる枝を拾って、地面にカリカリしはじめた。
蛇憑きの者に般若心経を唱えてやると、たいそう苦しむらしい。
ただ、たんに苦しむだけで、蛇は消えてくれない。
放っておくと、憑かれた者自身、その内衰弱死してしまう。
だが、お経を聞いて苦しんでいる時に、じっと視線を合わせてやると、
たまらず飛び出してきて、眼を合わせたその人に伝染るんだという。
かわりに抜け出たおかげで、元の方の害は消える。
だから、白蛇憑きの子が生まれると、老人が身代わりになるんだという。
「・・・生い先短い順にね」
「じゃあ、もしいっぺんにたくさん生まれたとしたら?」
「周りの家々で交代で伝染つしていくらしい。
なんでも、長い間憑かれると剥がれなくなるから、一年とか半年周期で。
死にそうな者が出るまで、回していくんだってサね」
「なんか凄い話やな・・・その、二重人格とか、集団ヒステリーとかじゃあ?」
「まぁ、大抵の事はそれで説明がつくんだろうね」
そうだ、うそ臭い。
大体、何でそんな話こいつが知っているというんだ――
「じゃあ、試してみる?」
相方は親指を立てて、『お前ら表へでろ』のポーズをとった。
指の先、塚の真後ろには、立派な蔵のある家が佇んでいた。
「今年はこの家が“持ち回り”なんだ。奥行って会ってくるといい。
―――ちなみに、ウチは遠慮しとくよ」
私は、「すいません。勘弁して下さい」と言う他なかった。
746 白蛇の招魂4/4 2006/06/24(土) 02:10:38 ID:fWU+tbEx0
相方はにっかり笑って、
「まぁ、本人に聞かんでも話は聞けるサ。
なんせここの老人で、憑かれた事のない者は一人も居ないんだから」
その後、畑仕事をしているお爺さんに出くわした私は、先程の話をおっかなびっくり聞いてみた。
お爺さんは、「しらはぶのしょうこん(白蛇の招魂?)か、そりゃ有名よ」と、にこやかに答えてくれた。
ただ、「どこから来たんか?まぁ、茶でも上がっていけいな?」と、なぜかやたらと自宅に招こうとする。
老人の誘いを丁重にお断りした私と相方は、逃げるように集落を後にした。
お爺さんが腰にぶら下げていた鉈(ナタ)が、鈍く光っていて怖かったからではない。
「家でゆっくり話し聞かしたるけに」
そう言いって麦わら帽子を脱いだお爺さんは、にっかり笑った。
その禿げ上がった頭には、びっしりとウロコ状のアザがあって――――
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いつぞやの6月。
その日は相方とロードワークで、○鎚山のふもとのある集落にやって来ていた。
何でも彼女曰く、「歴史的に有名な史跡がある」と云うから付いて行ったんですが、
現地に着いて史跡とやらに行くと、まぁ辺鄙な所だった。
木、山、家、木、田、畑、家、川、家、山。
「また騙された」と気付くまでに、大して時間は掛からなかった。
私の課題は、地元の風土、郷土史に関するモノで、四国中いろんな所へ行く。
ただし、いつもオカルトチックな場所ばかり。
先日も、古代人の霊が出る鍾乳洞とやらに行ってきた。
元来ビビり性な私が、好き好んでそんな所に行ったりはしないのですが、
研究室の相方や助教授が画策して、心霊スポットばかり行き先に選ぶ。
そんな話。
744 白蛇の招魂2/4 2006/06/24(土) 02:07:13 ID:fWU+tbEx0
棚田の坂を登りながら、相方は史跡にまつわる話とやらをしてくれた。
「――かつて、この地で大暴れした白蛇の精がいた。
普通、白蛇といえば、神の使いだとか守り神だとか相場が決まってるが、
相当の荒神だったらしく、村々にい多くの災いを振り撒いた。
その時、集まった石鎚山の山伏達が、死闘の末これを封印したのだという。
大正10年9月12日の出来事だった――」
「えらく最近だな。日付もハッキリしてんのかよ」
「ソレを封印した塚の跡が、此処なんよ」
指差す先には、盛った土の上に鏡餅状に石が3つ置いてあるだけの、しょぼくれたモノだった。
とても何かを封印しているとは思えない。
「何もないんだけど」
「塚の跡って言うたやん。
先の戦中のうやむやで、よく分かってないんちて。
誰かが塚を壊して封印を解いちゃったんだとかで、コレはその塚の名残だけ。
今では、白蛇の精は自由に動き回ってるんだってサ」
「それはヤバいんじゃないのか?」
「まぁ、一度封印したときに前牙を抜いちゅうとかで、力はかなり弱くなってるんだけど。
ただ、今でもこの塚周辺の家では、白蛇の瘴気に当てられた子が生まれて来るんだちて。
犬神憑きならぬ蛇神憑きの子が。
発症すると、舌が異常に長かったり、ウロコが出来たり、
階段を這いつくばって昇り降りするようになるっちゅう」
「それは・・・一生そのままなん?」
「ん―簡単に治せるらしい・・・いや治すのとは違うか」
「治すのと違うとは?」
「伝染(うつす)んだよ。他人に」
745 白蛇の招魂3/4 2006/06/24(土) 02:09:01 ID:fWU+tbEx0
そう言うと相方は、足元に落ちてる枝を拾って、地面にカリカリしはじめた。
蛇憑きの者に般若心経を唱えてやると、たいそう苦しむらしい。
ただ、たんに苦しむだけで、蛇は消えてくれない。
放っておくと、憑かれた者自身、その内衰弱死してしまう。
だが、お経を聞いて苦しんでいる時に、じっと視線を合わせてやると、
たまらず飛び出してきて、眼を合わせたその人に伝染るんだという。
かわりに抜け出たおかげで、元の方の害は消える。
だから、白蛇憑きの子が生まれると、老人が身代わりになるんだという。
「・・・生い先短い順にね」
「じゃあ、もしいっぺんにたくさん生まれたとしたら?」
「周りの家々で交代で伝染つしていくらしい。
なんでも、長い間憑かれると剥がれなくなるから、一年とか半年周期で。
死にそうな者が出るまで、回していくんだってサね」
「なんか凄い話やな・・・その、二重人格とか、集団ヒステリーとかじゃあ?」
「まぁ、大抵の事はそれで説明がつくんだろうね」
そうだ、うそ臭い。
大体、何でそんな話こいつが知っているというんだ――
「じゃあ、試してみる?」
相方は親指を立てて、『お前ら表へでろ』のポーズをとった。
指の先、塚の真後ろには、立派な蔵のある家が佇んでいた。
「今年はこの家が“持ち回り”なんだ。奥行って会ってくるといい。
―――ちなみに、ウチは遠慮しとくよ」
私は、「すいません。勘弁して下さい」と言う他なかった。
746 白蛇の招魂4/4 2006/06/24(土) 02:10:38 ID:fWU+tbEx0
相方はにっかり笑って、
「まぁ、本人に聞かんでも話は聞けるサ。
なんせここの老人で、憑かれた事のない者は一人も居ないんだから」
その後、畑仕事をしているお爺さんに出くわした私は、先程の話をおっかなびっくり聞いてみた。
お爺さんは、「しらはぶのしょうこん(白蛇の招魂?)か、そりゃ有名よ」と、にこやかに答えてくれた。
ただ、「どこから来たんか?まぁ、茶でも上がっていけいな?」と、なぜかやたらと自宅に招こうとする。
老人の誘いを丁重にお断りした私と相方は、逃げるように集落を後にした。
お爺さんが腰にぶら下げていた鉈(ナタ)が、鈍く光っていて怖かったからではない。
「家でゆっくり話し聞かしたるけに」
そう言いって麦わら帽子を脱いだお爺さんは、にっかり笑った。
その禿げ上がった頭には、びっしりとウロコ状のアザがあって――――
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【自慢じゃないが、私は憑かれやすいシリーズ系】私自身がアンテナになってて、ロクでもないモノを集めやすいんだそうで
236 呼び児の筆1/4 2006/06/18(日) 20:34:16 ID:IMcj38CG0
自慢じゃない、私は憑かれやすい。
相方曰く、私自身がアンテナになってて、ロクでもないモノを集めやすいんだそうで。
霊感なんて殆どありはしないので、自覚症状がなくタチが悪いのです。
アンテナといえば、ゲゲゲの鬼太郎は髪の毛が『妖怪アンテナ』だとかいいますが、
昔から頭髪は、身体の中で一番霊界に近い場所なんだそうで、触媒にはもってこいだそうです。髪の毛は。
そんな話。
238 呼び児の筆2/4 2006/06/18(日) 21:13:34 ID:IMcj38CG0
空調が壊れたとか何とかで、最悪に蒸し暑い夏休みの研究室。
オンボロ扇風機でなんとか残を凌いでいたら、夏の間帰省していた相方が久しぶりに顔を見せた。
お土産はポン酢と鰹節。
そして、変なおまけもついてきた。
取り出したのは、平べったい長方形の箱で、
前面に墨で何か書いてあったが、達筆すぎて『タ』『ウ』しか読めない。
「開けるよ?いい?」
相方はえらくもったいぶって開けると、中には硯が入っていて、筆入れには小振りの毛筆が3本入っていた。
彼女は「コレね、子供の髪の毛で出来てるんだ」という。
中国なんかでは、人毛の筆は割とポピュラーなので、驚きはしなかったが、
黒くて短いソレは、どうも気色が悪かった。
「ウチの地元の風習でね。
男の子が生まれると、数え年で5歳――今でいう4歳になっちゅう時に、頭髪を使って筆を作るんだって」
「何かの記念なん?」
「んー、ホラ。男の子って、家系継いで貰わないといかんでしょ。
でも年頃になると、地元飛び出して外に行っちゃう。
そういう時に、家の者がその髪の筆で書いた文を送ってやると、
ソイツがどんなに遠くに出てても、必ず帰ってくるんだって」
「人質――いや、髪質ってやつかな?」
「『後ろ髪引かれる』って言葉あるやね?
文系習うまで、ずっとコレが語源だと思ってたんよw
何処の家でもやってる事なんだと思ってたのサね」
240 呼び児の筆3/4 2006/06/18(日) 21:15:06 ID:IMcj38CG0
「さっき、『必ず帰ってくる』って言ったよね。それは・・・死んだ人も?」
彼女はニッコリ笑って頷き、
「帰ってくるよ――昔、いたずらで筆を使った事があるんよ」
相方は筆を一本取り出して、毛先を弄りはじめた。
「8歳くらいの時かな。
お昼に縁台で遊んでたら、私と同じくらいの年恰好の男の子がいて、『ただいま』って言うんだよ。
親戚の子かな?って思ったけど、女の子しか居ないハズなんだよね。叔父さんにも叔母さんにも。
ウチはその子の名前知らないんだけど、向こうは何故かウチの名前を知っちゅう・・・
で、夏の間、ず~っとその子と遊んでたんだけど、名前だけは教えてくれなかった。
夏の終わり頃、夕方になってその子が現れて、いきなり『さよなら』って言うんだ。
『名前も聞いてないのに帰っちゃうの?』ってウチが言うと、最後に名前だけ教えてくれた。
『タツロウ』って。
その日の夜、親に『タツロウくん帰っちゃった』っち言うと、母親がギョっとして言うたね。
『そい、お前の兄ちゃんぜえ』って。
自分はずっと一人っ子やと思ってたんだけど、
何でも、ウチが生まれてすぐ死んだ子で、池で溺れたとかで、遺体も見つからなかったちて。
形見は、4歳の時に髪から作った筆だけやったって。
本当は、筆の髪の主が死んだらその筆は処分せないかんだけど、ウチの親が捨てれなんだんやろうね」
241 呼び児の筆4/4 2006/06/18(日) 21:16:00 ID:IMcj38CG0
そう言うと、相方は手に持った筆を箱に戻した。
「ウソくさ。近所の家の親戚とかじゃないんか」
「・・・そうかもね」
「で、ソレがお兄さんの筆?」
「うん」
「小さいな」
「うん」
「何やの?これ使って、また呼ぼうとか考えてるん?」
「ううん・・・もう来てる」
クーラーもない真夏の部屋だったが、その日は真冬のように涼しかった。
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自慢じゃない、私は憑かれやすい。
相方曰く、私自身がアンテナになってて、ロクでもないモノを集めやすいんだそうで。
霊感なんて殆どありはしないので、自覚症状がなくタチが悪いのです。
アンテナといえば、ゲゲゲの鬼太郎は髪の毛が『妖怪アンテナ』だとかいいますが、
昔から頭髪は、身体の中で一番霊界に近い場所なんだそうで、触媒にはもってこいだそうです。髪の毛は。
そんな話。
238 呼び児の筆2/4 2006/06/18(日) 21:13:34 ID:IMcj38CG0
空調が壊れたとか何とかで、最悪に蒸し暑い夏休みの研究室。
オンボロ扇風機でなんとか残を凌いでいたら、夏の間帰省していた相方が久しぶりに顔を見せた。
お土産はポン酢と鰹節。
そして、変なおまけもついてきた。
取り出したのは、平べったい長方形の箱で、
前面に墨で何か書いてあったが、達筆すぎて『タ』『ウ』しか読めない。
「開けるよ?いい?」
相方はえらくもったいぶって開けると、中には硯が入っていて、筆入れには小振りの毛筆が3本入っていた。
彼女は「コレね、子供の髪の毛で出来てるんだ」という。
中国なんかでは、人毛の筆は割とポピュラーなので、驚きはしなかったが、
黒くて短いソレは、どうも気色が悪かった。
「ウチの地元の風習でね。
男の子が生まれると、数え年で5歳――今でいう4歳になっちゅう時に、頭髪を使って筆を作るんだって」
「何かの記念なん?」
「んー、ホラ。男の子って、家系継いで貰わないといかんでしょ。
でも年頃になると、地元飛び出して外に行っちゃう。
そういう時に、家の者がその髪の筆で書いた文を送ってやると、
ソイツがどんなに遠くに出てても、必ず帰ってくるんだって」
「人質――いや、髪質ってやつかな?」
「『後ろ髪引かれる』って言葉あるやね?
文系習うまで、ずっとコレが語源だと思ってたんよw
何処の家でもやってる事なんだと思ってたのサね」
240 呼び児の筆3/4 2006/06/18(日) 21:15:06 ID:IMcj38CG0
「さっき、『必ず帰ってくる』って言ったよね。それは・・・死んだ人も?」
彼女はニッコリ笑って頷き、
「帰ってくるよ――昔、いたずらで筆を使った事があるんよ」
相方は筆を一本取り出して、毛先を弄りはじめた。
「8歳くらいの時かな。
お昼に縁台で遊んでたら、私と同じくらいの年恰好の男の子がいて、『ただいま』って言うんだよ。
親戚の子かな?って思ったけど、女の子しか居ないハズなんだよね。叔父さんにも叔母さんにも。
ウチはその子の名前知らないんだけど、向こうは何故かウチの名前を知っちゅう・・・
で、夏の間、ず~っとその子と遊んでたんだけど、名前だけは教えてくれなかった。
夏の終わり頃、夕方になってその子が現れて、いきなり『さよなら』って言うんだ。
『名前も聞いてないのに帰っちゃうの?』ってウチが言うと、最後に名前だけ教えてくれた。
『タツロウ』って。
その日の夜、親に『タツロウくん帰っちゃった』っち言うと、母親がギョっとして言うたね。
『そい、お前の兄ちゃんぜえ』って。
自分はずっと一人っ子やと思ってたんだけど、
何でも、ウチが生まれてすぐ死んだ子で、池で溺れたとかで、遺体も見つからなかったちて。
形見は、4歳の時に髪から作った筆だけやったって。
本当は、筆の髪の主が死んだらその筆は処分せないかんだけど、ウチの親が捨てれなんだんやろうね」
241 呼び児の筆4/4 2006/06/18(日) 21:16:00 ID:IMcj38CG0
そう言うと、相方は手に持った筆を箱に戻した。
「ウソくさ。近所の家の親戚とかじゃないんか」
「・・・そうかもね」
「で、ソレがお兄さんの筆?」
「うん」
「小さいな」
「うん」
「何やの?これ使って、また呼ぼうとか考えてるん?」
「ううん・・・もう来てる」
クーラーもない真夏の部屋だったが、その日は真冬のように涼しかった。
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【自慢じゃないが、私は憑かれやすいシリーズ系】祖父が亡くなった次の年の夏、山開きの日と同時に霊峰、四国では有名な霊山に登ってきた
265 霊山の猿1/5 2006/06/11(日) 23:16:31 ID:fDhKkYUt0
四国では、あまり全国的に有名な心霊スポットがない。
超常現象が起きても、殆ど噂にならないのです。
仕事がてら地域のご老人に話を伺う事が多く、みんな様々な不思議体験を語ってくれますが、
皆、口を揃えて「狸に化かされたんだ」と言います。
不可解な事があっても、自然現象だと納得する。不思議な事など何も無い。そんな国民性があるように思います。
以前、山怖スレで投稿し損ねた話。
267 霊山の猿2/5 2006/06/11(日) 23:18:05 ID:fDhKkYUt0
祖父が亡くなった次の年の夏、山開きの日と同時に霊峰、四国では有名な霊山に登ってきた。
死んだ爺さんが毎年熱心に参拝していたので、後を継いで私が行く運びとなったのだ。
相方も行きたがっていたが、初日は女人入山禁止という事で、お留守番して頂いた。
祖父の遺品には、修山服の他に参拝札みたいな物があって、
何回訪れたのか、というのが分かるようになっているのだが、
曽祖父の頃から続けているらしく、山麓で札を奉納すると、今年で64回目との事だった。
ツアーバスで来ているワケではないので、移動には時間が掛かる。
最低2日必要な日程だっただが、宿泊費も惜しいので、中腹の山小屋で泊まる事にした。
山小屋といっても、管理者が一人居るだけの簡易休憩所で、広さ4畳しかない。おまけに何か臭い。
初夏の蒸し暑さと薮蚊に、ウンウン言いながら寝ていると、
深夜、いきなり「ドーーーーン!」という音がして飛び起きた。
続けて「ゴゴゴゴゴ」や「ドドドドド」と、地響きの様な音が聞こえる。(JOJOじゃないです)
「飛行機か何かですか」と管理の爺さんに聞くと、
「山では良くある事」とのことだった。
私がしつこく食い下がると、
「まともに何度も聞いたら寿命が縮む。早よ寝れ!」
慌てて目を瞑った。
268 霊山の猿3/5 2006/06/11(日) 23:19:41 ID:fDhKkYUt0
次の日、日が昇る前から立つことにする。
爺さんが「朝はやめとけ」と言うが、私が正午までに登って下山したい旨を云うと、
「猿に気ィつけろ」とだけ念を押された。
しばらく歩くと、高さ100メートル、角度は70度を超える崖に着く。
べらぼうに高い。下から見上げるだけで眩暈がする。
そこには2本の長い鎖が打ち込まれており、それだけを足場にして登れというのである。
実際、祖父に連れられ何度か来た事はあり、いつもは迂回ルートを通っていたが、
今年こそは・・・と、若さ故の過ちか、鎖場のルートを選んでしまった。
朝露で鎖が湿って滑りやすい。
四苦八苦しながら半分くらい登った頃、足元で「お~い」と呼ぶ声がした。
うっかり下を見てしまう。霧でよくは見えないが、高さで頭がクラクラする。
もう一度、足元で「お~い」と呼ぶので、返事をしようとした――
瞬間。背中がズシッと重くなった。身体全体がガクンと揺れた。
何かが、何かが背中にしがみ付いている!
269 霊山の猿4/5 2006/06/11(日) 23:21:03 ID:fDhKkYUt0
私を落とすつもりか、背中に乗ったソレは、身体を揺すり始める。
続けて、頭に巻いている絞りをグイグイ引っ張り始める。
こんな態勢では振り向くことも出来ないが、確かに腰に絡みつく毛深い足が見えた。
「猿!?」
この高さで落ちて、只では済まないだろう。
鎖の隙間に手、足、としっかりはめ込んで、なんとか振り落とされないようにする。
下で怒号がする。
甲高い声で、今度は「落とせ~落とせ~!」と。
そして背中のヤツは、私を何度も揺する。
ハチマキが脱げると、今度は髪の毛を引っ張り始め、何本もブチブチと抜かれる。
あまりの恐怖に、私は目を瞑ったまま泣き喚いた。
何分経ったろうか。
私がじっと我慢していると、下の方で「チッ」と舌打ちが聞こえ、フッと背中の重みがとれた。
その後、ビクビクしながら鎖を登り終えると、一番近い宮社まで駆け込んだ。
爪でガリガリになった修山服を見せながら、一部始終を説明する。
270 霊山の猿5/5 2006/06/11(日) 23:23:02 ID:fDhKkYUt0
宮司は難しい顔をして、
「腐っても霊場だ。今から私が言う話は聞かなかった事にしてくれ」
そう前置きし、語り始めた。
これだけ険しい道な為、確かに落下事故も起こりはするが、死傷者などは滅多に出ない。
稀に起こる事故の大半は、独りで登った者が遭うのだそうだ。
落ちた人間は揃って、「猿に襲われた」という。
何でも、この山の猿の中には、人間そっくりの声で叫ぶ猿が居て、
早朝や夜、独りで登ろうとすると、だれもいないハズなのに、自分を呼ぶ声がするという。
それが本当に猿なのかどうかは分からないが。
前々年も一人、早朝に登った参拝者が崖から落ちた。
発見された時には、まだ息が有ったらしい。が、病院に着く前に亡くなったのだという。
「もう少し見つけるのが早かったら」と、宮司は呟いた。
私が「まるで見たかのように話しますね」と聞くと、
「・・・見つけたのはワシだからな。
猿ども、割れた頭から脳みそ掻き出して食っていやがった」
宮司は吐き捨てるようにそう言った。
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四国では、あまり全国的に有名な心霊スポットがない。
超常現象が起きても、殆ど噂にならないのです。
仕事がてら地域のご老人に話を伺う事が多く、みんな様々な不思議体験を語ってくれますが、
皆、口を揃えて「狸に化かされたんだ」と言います。
不可解な事があっても、自然現象だと納得する。不思議な事など何も無い。そんな国民性があるように思います。
以前、山怖スレで投稿し損ねた話。
267 霊山の猿2/5 2006/06/11(日) 23:18:05 ID:fDhKkYUt0
祖父が亡くなった次の年の夏、山開きの日と同時に霊峰、四国では有名な霊山に登ってきた。
死んだ爺さんが毎年熱心に参拝していたので、後を継いで私が行く運びとなったのだ。
相方も行きたがっていたが、初日は女人入山禁止という事で、お留守番して頂いた。
祖父の遺品には、修山服の他に参拝札みたいな物があって、
何回訪れたのか、というのが分かるようになっているのだが、
曽祖父の頃から続けているらしく、山麓で札を奉納すると、今年で64回目との事だった。
ツアーバスで来ているワケではないので、移動には時間が掛かる。
最低2日必要な日程だっただが、宿泊費も惜しいので、中腹の山小屋で泊まる事にした。
山小屋といっても、管理者が一人居るだけの簡易休憩所で、広さ4畳しかない。おまけに何か臭い。
初夏の蒸し暑さと薮蚊に、ウンウン言いながら寝ていると、
深夜、いきなり「ドーーーーン!」という音がして飛び起きた。
続けて「ゴゴゴゴゴ」や「ドドドドド」と、地響きの様な音が聞こえる。(JOJOじゃないです)
「飛行機か何かですか」と管理の爺さんに聞くと、
「山では良くある事」とのことだった。
私がしつこく食い下がると、
「まともに何度も聞いたら寿命が縮む。早よ寝れ!」
慌てて目を瞑った。
268 霊山の猿3/5 2006/06/11(日) 23:19:41 ID:fDhKkYUt0
次の日、日が昇る前から立つことにする。
爺さんが「朝はやめとけ」と言うが、私が正午までに登って下山したい旨を云うと、
「猿に気ィつけろ」とだけ念を押された。
しばらく歩くと、高さ100メートル、角度は70度を超える崖に着く。
べらぼうに高い。下から見上げるだけで眩暈がする。
そこには2本の長い鎖が打ち込まれており、それだけを足場にして登れというのである。
実際、祖父に連れられ何度か来た事はあり、いつもは迂回ルートを通っていたが、
今年こそは・・・と、若さ故の過ちか、鎖場のルートを選んでしまった。
朝露で鎖が湿って滑りやすい。
四苦八苦しながら半分くらい登った頃、足元で「お~い」と呼ぶ声がした。
うっかり下を見てしまう。霧でよくは見えないが、高さで頭がクラクラする。
もう一度、足元で「お~い」と呼ぶので、返事をしようとした――
瞬間。背中がズシッと重くなった。身体全体がガクンと揺れた。
何かが、何かが背中にしがみ付いている!
269 霊山の猿4/5 2006/06/11(日) 23:21:03 ID:fDhKkYUt0
私を落とすつもりか、背中に乗ったソレは、身体を揺すり始める。
続けて、頭に巻いている絞りをグイグイ引っ張り始める。
こんな態勢では振り向くことも出来ないが、確かに腰に絡みつく毛深い足が見えた。
「猿!?」
この高さで落ちて、只では済まないだろう。
鎖の隙間に手、足、としっかりはめ込んで、なんとか振り落とされないようにする。
下で怒号がする。
甲高い声で、今度は「落とせ~落とせ~!」と。
そして背中のヤツは、私を何度も揺する。
ハチマキが脱げると、今度は髪の毛を引っ張り始め、何本もブチブチと抜かれる。
あまりの恐怖に、私は目を瞑ったまま泣き喚いた。
何分経ったろうか。
私がじっと我慢していると、下の方で「チッ」と舌打ちが聞こえ、フッと背中の重みがとれた。
その後、ビクビクしながら鎖を登り終えると、一番近い宮社まで駆け込んだ。
爪でガリガリになった修山服を見せながら、一部始終を説明する。
270 霊山の猿5/5 2006/06/11(日) 23:23:02 ID:fDhKkYUt0
宮司は難しい顔をして、
「腐っても霊場だ。今から私が言う話は聞かなかった事にしてくれ」
そう前置きし、語り始めた。
これだけ険しい道な為、確かに落下事故も起こりはするが、死傷者などは滅多に出ない。
稀に起こる事故の大半は、独りで登った者が遭うのだそうだ。
落ちた人間は揃って、「猿に襲われた」という。
何でも、この山の猿の中には、人間そっくりの声で叫ぶ猿が居て、
早朝や夜、独りで登ろうとすると、だれもいないハズなのに、自分を呼ぶ声がするという。
それが本当に猿なのかどうかは分からないが。
前々年も一人、早朝に登った参拝者が崖から落ちた。
発見された時には、まだ息が有ったらしい。が、病院に着く前に亡くなったのだという。
「もう少し見つけるのが早かったら」と、宮司は呟いた。
私が「まるで見たかのように話しますね」と聞くと、
「・・・見つけたのはワシだからな。
猿ども、割れた頭から脳みそ掻き出して食っていやがった」
宮司は吐き捨てるようにそう言った。
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【自慢じゃないが、私は憑かれやすいシリーズ系】まぁ生き物じゃないから、『在る』と言う方が正しいか・・・
855 本の蟲1/4 2006/06/07(水) 10:23:11 ID:V+9WAOKq0
年末、図書館にて、年明けに提出するレポートの追い込みに入っていた。
ギリギリまで現地調査ばかり行ってて、肝心の文章にまとめてなかった。
私の課題は、四国の風土、郷土史に関するモノで、この一年間いろんな所に行った。
そのどれもオカルトチックな場所で、
先日も故・宜保愛子先生が霊視したとかいう、大きな池に行ってきたばかりでした。
元来ビビリ性の私が、好き好んでそんな所に行ったりはしないのですが、
研究室の相方や助教授が画策して、心霊スポットばかり行き先に選ぶ。
そんな話。
856 本の蟲2/4 2006/06/07(水) 10:25:48 ID:V+9WAOKq0
ウチの大学のウリは無駄に大きい図書館で、一般の誰でも入れるのだが、いつもガラガラだった。
私がPCを高速でタイプしている向かい側で、助教授の泉先生が分厚い本を読んでいる。
冬休み中の図書館の鍵は、泉先生が管理していた。
相方・・・私の彼女も、隣で本を読んだりして、初めは静かにしていたが、
すぐに飽きたのか、私と先生にちょっかいをかけはじめる。
小動物の様なウザさだ。
ノーリアクションの先生に、相方は「あははー先生は本の虫ですねぇ」と言った。
すると泉先生は「居るよ?」と、本から視線を上げ、「本当に居るよ、本の蟲は」と言う。
「まぁ生き物じゃないから、『在る』と言う方が正しいか・・・」と、栞を挟んで読書を中断する。
「図書館に寄贈される本の中には、タイトルも内容も書かれていない白紙の本が入っていて、
殆どの人がそれに気づかないんだ。
どんなに管理の厳しい図書館でも、必ず一冊は入っているらしい。
もちろん、ワザト入れてるんだけど・・・」
先生は周りの本棚を見渡し、
「これだけたくさんの本があるんだから、本から思念や言霊が染み出してきてもおかしくは無い。
それを『本の蟲』っていうんだけど、そいつらは精神衛生上、人体にあまり宜しくない働きをする。
知恵熱だとか焦燥感とか。時には命に係わる・・・
それらを集める為に、白紙の本を置いておくらしい」
そう言うと先生は、背を向け本棚に向かい、何かを探し始めた。
857 本の蟲3/4 2006/06/07(水) 10:27:45 ID:V+9WAOKq0
「始めは白紙のその本なんだけど、ずっと置いておくと、
『本の蟲』がたくさん集まって来て、遂には白紙じゃなくなるんだ。
文字の書かれた本になる」
また与太話を・・・と思っていると、「ああ、『在った』」。
先生は振り向いて、「在ったよ。本の蟲の――」。
そう言うと、一冊の本を持って来た。
ハードカバーで、タイトルは書かれてない。かなり古いのか、紙面は茶黄色く変色している。
先生は相方に手渡し、人差し指を立て、「どう?面白そうだよ?」と言った。
受け取った彼女は訝しがりながらも、嬉々として読み始める。
黙って静かに読みふけっている。おかげで私の作業ははかどったし、先生も静かに読書が出来た。
夕方になり作業も殆ど終わったので、「そろそろ帰るよ?」と聞くが返事が無い。
どれだけ集中してるんだろう。覗き込んで見ると、私は「ギョッ」とする。
彼女は延々と白紙のページを繰っていた。
ただ、まるでそこに文字が書いてるかのように、目線は白紙を追っている。
「せ、先生!?」
慌てて聞く。
「ああ、そろそろ良いか」と言うと、泉先生は彼女の前までやって来て、
目の前で「パンッ!」と猫だましをした。
彼女は我にかえる。
先生は本をひょいと取り上げると、「もう閉館だよ。帰りなさい」と言った。
858 本の蟲4/4 2006/06/07(水) 10:29:47 ID:V+9WAOKq0
相方が「まだ読み終わってないので、また来ます」と言うと、
「ああ、また来るのは構わないが君。図書館では静かにしなさい。
張り紙にも書いてあるだろう・・・どうしてかわかるかい?」
当たり前のことを聞く。
私「周りの人がビックリするからですか?」
「いや、それもあるけど、『本の蟲』がビックリして目を覚ますからだ」
後日、相方が続きを読むために図書館に行ったが、件の本は見つからなかったそうだ。
泉先生に聞くと、
「やだな。只の暗示だよ、暗示。『おもしろい本だよ~』ってサ」と、あっけらかんに答えた。
が、どうも腑に落ちなかった。
彼女が読んでいた白紙の本は何だったのか。
当の本人が、内容については話したがらなかったが、
「ウチが暗示なんか掛かるか!・・・アレは―――」
と、仕切りに悔しそうにしてたのが印象的でした。
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年末、図書館にて、年明けに提出するレポートの追い込みに入っていた。
ギリギリまで現地調査ばかり行ってて、肝心の文章にまとめてなかった。
私の課題は、四国の風土、郷土史に関するモノで、この一年間いろんな所に行った。
そのどれもオカルトチックな場所で、
先日も故・宜保愛子先生が霊視したとかいう、大きな池に行ってきたばかりでした。
元来ビビリ性の私が、好き好んでそんな所に行ったりはしないのですが、
研究室の相方や助教授が画策して、心霊スポットばかり行き先に選ぶ。
そんな話。
856 本の蟲2/4 2006/06/07(水) 10:25:48 ID:V+9WAOKq0
ウチの大学のウリは無駄に大きい図書館で、一般の誰でも入れるのだが、いつもガラガラだった。
私がPCを高速でタイプしている向かい側で、助教授の泉先生が分厚い本を読んでいる。
冬休み中の図書館の鍵は、泉先生が管理していた。
相方・・・私の彼女も、隣で本を読んだりして、初めは静かにしていたが、
すぐに飽きたのか、私と先生にちょっかいをかけはじめる。
小動物の様なウザさだ。
ノーリアクションの先生に、相方は「あははー先生は本の虫ですねぇ」と言った。
すると泉先生は「居るよ?」と、本から視線を上げ、「本当に居るよ、本の蟲は」と言う。
「まぁ生き物じゃないから、『在る』と言う方が正しいか・・・」と、栞を挟んで読書を中断する。
「図書館に寄贈される本の中には、タイトルも内容も書かれていない白紙の本が入っていて、
殆どの人がそれに気づかないんだ。
どんなに管理の厳しい図書館でも、必ず一冊は入っているらしい。
もちろん、ワザト入れてるんだけど・・・」
先生は周りの本棚を見渡し、
「これだけたくさんの本があるんだから、本から思念や言霊が染み出してきてもおかしくは無い。
それを『本の蟲』っていうんだけど、そいつらは精神衛生上、人体にあまり宜しくない働きをする。
知恵熱だとか焦燥感とか。時には命に係わる・・・
それらを集める為に、白紙の本を置いておくらしい」
そう言うと先生は、背を向け本棚に向かい、何かを探し始めた。
857 本の蟲3/4 2006/06/07(水) 10:27:45 ID:V+9WAOKq0
「始めは白紙のその本なんだけど、ずっと置いておくと、
『本の蟲』がたくさん集まって来て、遂には白紙じゃなくなるんだ。
文字の書かれた本になる」
また与太話を・・・と思っていると、「ああ、『在った』」。
先生は振り向いて、「在ったよ。本の蟲の――」。
そう言うと、一冊の本を持って来た。
ハードカバーで、タイトルは書かれてない。かなり古いのか、紙面は茶黄色く変色している。
先生は相方に手渡し、人差し指を立て、「どう?面白そうだよ?」と言った。
受け取った彼女は訝しがりながらも、嬉々として読み始める。
黙って静かに読みふけっている。おかげで私の作業ははかどったし、先生も静かに読書が出来た。
夕方になり作業も殆ど終わったので、「そろそろ帰るよ?」と聞くが返事が無い。
どれだけ集中してるんだろう。覗き込んで見ると、私は「ギョッ」とする。
彼女は延々と白紙のページを繰っていた。
ただ、まるでそこに文字が書いてるかのように、目線は白紙を追っている。
「せ、先生!?」
慌てて聞く。
「ああ、そろそろ良いか」と言うと、泉先生は彼女の前までやって来て、
目の前で「パンッ!」と猫だましをした。
彼女は我にかえる。
先生は本をひょいと取り上げると、「もう閉館だよ。帰りなさい」と言った。
858 本の蟲4/4 2006/06/07(水) 10:29:47 ID:V+9WAOKq0
相方が「まだ読み終わってないので、また来ます」と言うと、
「ああ、また来るのは構わないが君。図書館では静かにしなさい。
張り紙にも書いてあるだろう・・・どうしてかわかるかい?」
当たり前のことを聞く。
私「周りの人がビックリするからですか?」
「いや、それもあるけど、『本の蟲』がビックリして目を覚ますからだ」
後日、相方が続きを読むために図書館に行ったが、件の本は見つからなかったそうだ。
泉先生に聞くと、
「やだな。只の暗示だよ、暗示。『おもしろい本だよ~』ってサ」と、あっけらかんに答えた。
が、どうも腑に落ちなかった。
彼女が読んでいた白紙の本は何だったのか。
当の本人が、内容については話したがらなかったが、
「ウチが暗示なんか掛かるか!・・・アレは―――」
と、仕切りに悔しそうにしてたのが印象的でした。
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【自慢じゃないが、私は憑かれやすいシリーズ系】今度ばかりは本当に死を覚悟したよ
545 施餓鬼1/4 2006/06/04(日) 03:21:22 ID:vECE7QZ50
その年の瀬戸内は大変暖かくて、3月にはもう桜が咲き始めていた。
後輩曰く、「この時期に既に桜が満開の穴場がある」とか抜かすので、お花見をする事となった。
ちょっと山手に上がった所だが、見事な枝垂れ桜が満開だった。
席は大いに盛り上がり、私は下戸のくせに大いに飲み大いに食べた。
酔っ払ってて覚えてないが、いろいろ変な事口走ったらしい。
挙句、上半身裸で寝てしまったらしい。覚えてないが。
例年より暖かいとはいえ3月、案の定風邪を引いてしまった。
滅多に風邪引かない分、いざ引くと往々にしてロクな事が無い。
そんな感じの話。
546 施餓鬼2/4 2006/06/04(日) 03:23:24 ID:vECE7QZ50
熱で頭がボーッとする。
食欲なんて無いハズなのに、無性に米の飯を食べたくなった。
始めはお粥など炊いたりしていたが、面倒になって、炊いたご飯を炊飯器から直接食べ始め・・・
終いに「もう炊くのも面倒だ」と、私は生の米をそのままバリバリ食いだした。
自分のやってる事が理解できなかった。
いくら食べても胃が空っぽな気がした。
この辺から意識が飛び始め、自分の行動が曖昧になるのだが――
たしか、レトルトカレーのルーを袋ごと啜ったり、乾麺を生で齧ったりしてたようだ。
まったく自分のやってる事が理解できない。
普段から2週間分の食料は置いてあるが、それをおよそ4日で食い尽くしてしまった。
自慢じゃないが、私の体重は56kg。普通はこんなに食えるハズはない。
食っても食ってもお腹は減り続ける。
「ひもじい」
空腹と倦怠感が全身を襲う。
空っぽの冷蔵庫の前で茫然自失となる。買出しに行こうにも体力の限界だった。
ふと脳裏に、『死』の1文字が浮ぶ。
こんなんで死んだら恥だな――と考えてた矢先、電話が鳴った。
「悪質な風邪なので3日くらい休む」と研究室には言っておいたが、例の友人からだった。
『もしもしー♪』
1オクターブ高い声。
『治った?大丈夫?お見舞い行こうか?』
ありきたりな事を聞いてくる。
私はもはや、「あー」だの「うー」だのしか返事できなかった。
ただ事ではないと思ったのだろう。
『あー待ってち。今から行くけぇ』と言って切れる。(助かった・・・かな)
今考えると、死にそうになるもっと前に、初めから電話で助け呼べば良かったのだが、
脳に栄養が回ってなかったのだ。仕方がない。
547 施餓鬼3/4 2006/06/04(日) 03:25:30 ID:vECE7QZ50
数分後、外で友人のバイクの爆音が聞こえる。
それまでは、水を飲んで仰向けになって凌いでいた。
ドアは――3日前から開けっ放しだった。
台所まで入ってきた友人は、私を一瞥して噴き出した。「ブッ」って
二言目には「うわぁ、初めて見た」と、嬉しげに言い放った。
彼女曰く、「餓鬼の類」だという。私の身体にまとわり憑いて、腹部をガジガジ齧ってたそうだ。
電話の向こうで、私の声じゃない『ひもじい、ひもじい』って声が聞こえて、
ヤバいなと思って、あわてて来たらしい。
すぐに友人は誰かに電話をし始めた。
「あ、もしもし――木村の婆っちゃー?」
「んー元気。あーこの間はありがと――」
死にかけの人間放置して世間話か?
「んーでね、たぶん、スイゴやと思う。あ、ウチやなくて友達」
「いや、わからん、後で聞く――」
「――あ、炭?分かった。ありがとうー」
電話を切った友人は、ガスコンロに向かって何かし始めた。
料理でも作ってくれるのだろうか、凄くコゲ臭い。
「コレでいいかな」
友人がグラスに注いで持ってきたのは、煮え湯だった。
しかも、何か灰色い粉末がプカプカ浮いている。
コレを「目ぇ閉じて鼻摘んで飲み干せ」と言う。
一口飲むと、熱さで舌が焼かれる。炭の苦さと塩辛さが口内に広がる。
「何コレ?」
「塩水」
「は?」
「良いけぇ飲みぃ。ヘソから出るけん」
こんなモン飲んでたまるかと抵抗したが、鼻を摘まれ大口開けさせられ流し込まれた。
548 施餓鬼4/4 2006/06/04(日) 03:27:27 ID:vECE7QZ50
暫くして、身体から倦怠感が抜け楽になる。
友人が「立てる?」と聞いてきた。
どうやらもう大丈夫のようだ。
立つと同時に「ぐ~~~」と、盛大に腹の音が鳴る。
友人は苦笑しながら「何か作るわ」と、米びつの底に僅かに残った米でお粥を作ってくれたが、
結局、なんにも味はしなかった。煮え湯で舌が焼けていたから。
大事を取って病院に行ったところ、栄養失調との事だった。あれだけ食ったのにだ。
点滴受けながら友人に聞かれた。
「何か思い当たるフシない?」
「~~~で花見した」
「3月に?○○寺の下やろ。あそこは7月に施餓鬼する所や。
(『施餓鬼』=地獄の餓鬼の為に施しをしてやる、鎮魂際みたいなモノ)
飲み食いした?」
「たらふく食って裸で寝た」
「バカか。
知らん?『施餓鬼の前にお祭りすっと餓鬼が憑く』って」
「知らん。初めて聞いた」
「あー、ウチの地元だけなんかな?
まぁ、お前を供物だと思ったんだろうサね。腹に食い物の詰まった」
...
「ねぇ、さっき俺に何飲ましたん?」
「塩水に注連縄(しめなわ)焼いた灰ぶち込んだモノ」
何だそりゃ。
「ウチの地元では割とポピュラーなんだけど・・・」
「知らん。初めて飲んだ」
まぁいいや・・・
私が、「今度ばかりは本当に死を覚悟したよ」と言うと、
友人はうなずいて、「とっておきの良い名言がある」と言った。
「『死を恐れるな。死はいつもそばに居る。
恐れを見せた時、それは光よりも速く飛びかかって来るだろう。
恐れなければ、それはただ、優しく見守っているだけだ』って」
「・・・それ、聞いたことあるぞ。アニメのセリフじゃねぇか」
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その年の瀬戸内は大変暖かくて、3月にはもう桜が咲き始めていた。
後輩曰く、「この時期に既に桜が満開の穴場がある」とか抜かすので、お花見をする事となった。
ちょっと山手に上がった所だが、見事な枝垂れ桜が満開だった。
席は大いに盛り上がり、私は下戸のくせに大いに飲み大いに食べた。
酔っ払ってて覚えてないが、いろいろ変な事口走ったらしい。
挙句、上半身裸で寝てしまったらしい。覚えてないが。
例年より暖かいとはいえ3月、案の定風邪を引いてしまった。
滅多に風邪引かない分、いざ引くと往々にしてロクな事が無い。
そんな感じの話。
546 施餓鬼2/4 2006/06/04(日) 03:23:24 ID:vECE7QZ50
熱で頭がボーッとする。
食欲なんて無いハズなのに、無性に米の飯を食べたくなった。
始めはお粥など炊いたりしていたが、面倒になって、炊いたご飯を炊飯器から直接食べ始め・・・
終いに「もう炊くのも面倒だ」と、私は生の米をそのままバリバリ食いだした。
自分のやってる事が理解できなかった。
いくら食べても胃が空っぽな気がした。
この辺から意識が飛び始め、自分の行動が曖昧になるのだが――
たしか、レトルトカレーのルーを袋ごと啜ったり、乾麺を生で齧ったりしてたようだ。
まったく自分のやってる事が理解できない。
普段から2週間分の食料は置いてあるが、それをおよそ4日で食い尽くしてしまった。
自慢じゃないが、私の体重は56kg。普通はこんなに食えるハズはない。
食っても食ってもお腹は減り続ける。
「ひもじい」
空腹と倦怠感が全身を襲う。
空っぽの冷蔵庫の前で茫然自失となる。買出しに行こうにも体力の限界だった。
ふと脳裏に、『死』の1文字が浮ぶ。
こんなんで死んだら恥だな――と考えてた矢先、電話が鳴った。
「悪質な風邪なので3日くらい休む」と研究室には言っておいたが、例の友人からだった。
『もしもしー♪』
1オクターブ高い声。
『治った?大丈夫?お見舞い行こうか?』
ありきたりな事を聞いてくる。
私はもはや、「あー」だの「うー」だのしか返事できなかった。
ただ事ではないと思ったのだろう。
『あー待ってち。今から行くけぇ』と言って切れる。(助かった・・・かな)
今考えると、死にそうになるもっと前に、初めから電話で助け呼べば良かったのだが、
脳に栄養が回ってなかったのだ。仕方がない。
547 施餓鬼3/4 2006/06/04(日) 03:25:30 ID:vECE7QZ50
数分後、外で友人のバイクの爆音が聞こえる。
それまでは、水を飲んで仰向けになって凌いでいた。
ドアは――3日前から開けっ放しだった。
台所まで入ってきた友人は、私を一瞥して噴き出した。「ブッ」って
二言目には「うわぁ、初めて見た」と、嬉しげに言い放った。
彼女曰く、「餓鬼の類」だという。私の身体にまとわり憑いて、腹部をガジガジ齧ってたそうだ。
電話の向こうで、私の声じゃない『ひもじい、ひもじい』って声が聞こえて、
ヤバいなと思って、あわてて来たらしい。
すぐに友人は誰かに電話をし始めた。
「あ、もしもし――木村の婆っちゃー?」
「んー元気。あーこの間はありがと――」
死にかけの人間放置して世間話か?
「んーでね、たぶん、スイゴやと思う。あ、ウチやなくて友達」
「いや、わからん、後で聞く――」
「――あ、炭?分かった。ありがとうー」
電話を切った友人は、ガスコンロに向かって何かし始めた。
料理でも作ってくれるのだろうか、凄くコゲ臭い。
「コレでいいかな」
友人がグラスに注いで持ってきたのは、煮え湯だった。
しかも、何か灰色い粉末がプカプカ浮いている。
コレを「目ぇ閉じて鼻摘んで飲み干せ」と言う。
一口飲むと、熱さで舌が焼かれる。炭の苦さと塩辛さが口内に広がる。
「何コレ?」
「塩水」
「は?」
「良いけぇ飲みぃ。ヘソから出るけん」
こんなモン飲んでたまるかと抵抗したが、鼻を摘まれ大口開けさせられ流し込まれた。
548 施餓鬼4/4 2006/06/04(日) 03:27:27 ID:vECE7QZ50
暫くして、身体から倦怠感が抜け楽になる。
友人が「立てる?」と聞いてきた。
どうやらもう大丈夫のようだ。
立つと同時に「ぐ~~~」と、盛大に腹の音が鳴る。
友人は苦笑しながら「何か作るわ」と、米びつの底に僅かに残った米でお粥を作ってくれたが、
結局、なんにも味はしなかった。煮え湯で舌が焼けていたから。
大事を取って病院に行ったところ、栄養失調との事だった。あれだけ食ったのにだ。
点滴受けながら友人に聞かれた。
「何か思い当たるフシない?」
「~~~で花見した」
「3月に?○○寺の下やろ。あそこは7月に施餓鬼する所や。
(『施餓鬼』=地獄の餓鬼の為に施しをしてやる、鎮魂際みたいなモノ)
飲み食いした?」
「たらふく食って裸で寝た」
「バカか。
知らん?『施餓鬼の前にお祭りすっと餓鬼が憑く』って」
「知らん。初めて聞いた」
「あー、ウチの地元だけなんかな?
まぁ、お前を供物だと思ったんだろうサね。腹に食い物の詰まった」
...
「ねぇ、さっき俺に何飲ましたん?」
「塩水に注連縄(しめなわ)焼いた灰ぶち込んだモノ」
何だそりゃ。
「ウチの地元では割とポピュラーなんだけど・・・」
「知らん。初めて飲んだ」
まぁいいや・・・
私が、「今度ばかりは本当に死を覚悟したよ」と言うと、
友人はうなずいて、「とっておきの良い名言がある」と言った。
「『死を恐れるな。死はいつもそばに居る。
恐れを見せた時、それは光よりも速く飛びかかって来るだろう。
恐れなければ、それはただ、優しく見守っているだけだ』って」
「・・・それ、聞いたことあるぞ。アニメのセリフじゃねぇか」
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【自慢じゃないが、私は憑かれやすいシリーズ系】昔から婆さんにお守りを持たされ続けてきた
312 :出生の秘密1/4:2006/06/02(金) 02:30:08 ID:lNrs+kHJ0
自慢じゃないが、私は憑かれやすい。
または『良くないモノ』を寄せつけやすい体質らしい。
昔から婆さんにお守りを持たされ続けてきた。
何でお守りなんか持たされるのか、子供心に不思議でならなかったが、
14歳の誕生日、祖父母両親から初めてこんな話を聞かされた。
(見てるワケ無いですが、見たかのように書きます)
私が生まれてくる前、母親の胎ん中に居た時の話だ。
跡継ぎになる男の子を授かったと、親戚一同集まってお祝いがあった。
妊娠8ヶ月を迎えていた身重に大事があってはいけないと、
祖母は母を連れて奥の間、仏壇のある部屋で休んでいたそうだ。
夜も更け、殆どの親類が帰った頃、奥の間から真っ青な顔をした祖母が飛び出してきて、
「ヒロ子さんが(母の名前)、ヒロ子さんがおかしい」と言った。
続けて襖の間から母がフラフラっと現れた。
しわがれた声で『敏行ぃ―敏行ぃ――』と、しきりに呼ぶ。
いつものヒロ子とは思えない老人の声だった。
祖父には――敏行には声の主が誰か分ったのだろう。
ボロボロ涙を流しながら、「カツゴロウ爺、カツゴロウ爺か!」といった。
母は老人の声で正座をする祖父に言い聞かせ始めた。
(方言と昔言葉が頻出するので訳略します)
「ウチの一族は、死んでもまともに成仏できない」という事、
「『タツミ』の代に作った恨み、神罰が未だに消えていない」という事、
「その恨み・災厄は、生まれてくる子に降りかかる」という事、
「この子は今後大変な苦労をするかもしれんが、どうか守ってやって欲しい」
という事を告げた。
ひとしきり話した後、最後に、
「がんぐらぎぃなかん きぃふごあるげえ、ごっだらにもたせぇ」
と言い、母はフッと力が抜けたようにその場に倒れた。
眼覚めた母は、自分が喋った事は一切覚えていなかった、との事だった。
313 :出生の秘密2/4:2006/06/02(金) 02:32:30 ID:lNrs+kHJ0
祖父は言った。
母に降りてきたのは勝吾郎。祖父の祖父、つまり私の曾曾爺さん。
禍根の主『タツミ』は、祖父の6代目の先祖。私のひいひいひいひいひい曾爺さんに当たる人物だそうだ。
地元では昔から土着神を崇めていて、私の先祖は代々神事をまとめる司祭だったが、
件の『タツミ』という男は相当の外道で、司任してからは権力と金で女性を食い物にし、
反抗する者は村八分にしたり、供物と称して殺してしまった。
その上、信仰心など全く無く、神事もおろそかにする有様だった。
さて、その土着神は女の神様なわけで、神罰かどうかは分からないが、
しばらくして、地域で凶作が続いたり、女子が全然生まれなくなったりした。
ある年の収穫祭の日。怒った村人は寄って集って、司祭を――『タツミ』を殴り殺してしまった。
無論、供物としてだ。
その後、一族は勿論、地域の者も、誰一人として司祭を継ごうという者は現れず、
管理する者もおらず、ヤシロは荒れ果てた。
大正に入って、国家政策で国津神系の神社が建つまで200年間、地元で神事は行われなかった。
どういうワケか分からないが、先祖のツケが私に降りかかるというのだ。迷惑な話である。
話は戻って、母がカツゴロウが最後に言った事について、祖父は語った。
「がんぐらぎぃなかん、きぃふごあるげえ、ごっだらにもたせぇ」
地元の方言で、「岩倉の中に木の札があるから、生まれてくる子供に持たせろ」という意味との事だ。
家には、長い間使われていない岩壁をくりぬいて作られた蔵がある。
後日、祖父が南京錠を外して中を調べたところ、神棚に襤褸切れを見つけた。
油紙に包まれたそれは、木片、札のようにも見える。それには2つの文字が刻まれていた。
314 :出生の秘密3/4:2006/06/02(金) 02:34:47 ID:lNrs+kHJ0
『△□』(伏字)・・・私の名前だ。
両親はそれまで決めていた名前を諦め、札に書かれていた2文字を私の名にしたのだ。
私は始めて知った。同年代の子供と比べて、明らかに自分の名前が古臭い理由を。
地元の大人が、私を見ると顔をしかめるワケを。
その木片を祖父が削り出し、祖母が祝詞(のりと)を書いたモノが、
私が子供の頃から持たされ続け、今もこうして持っているお守りなのだと。
祖父は言った。
「生まれてすぐ腸閉塞で死にかけたり、沼に溺れてしにかけたりいろいろあったが、
今も無事で居るのは、そのお守りのおかげだ。
忘れずにこれからも持つように」
そして、「この歳まで無事で生きていてくれて、本当にありがとう」と、爺さんは言った。
当時中学生の、うす味な脳みそに全てが理解できるワケがなかったが、
爺さんが死んだ今では、祖父の言っていた事を一句一句噛み締めている。
――そんな話を、彼女に話している。
祖父の葬式が終わって数日後だ。
こういった類の話に理解のある彼女とはいえ、引く事を承知で話している。何故か無性に伝えたくなったのだ。
彼女は想像を裏切り、「・・・そっか、そんな感じだと思った」と、苦笑いしながら答えた。
「?」
「この前ね、枕元にヨボヨボのお爺さんが立って、言うちょね。
『あの子を守ってやってくれ』って」
315 :出生の秘密4/4:2006/06/02(金) 02:36:56 ID:lNrs+kHJ0
今もあのお守りは、肌身離さず持っている。
もう書かれている字もかすれて見えなくなってるが、実家に帰る度に婆さんが必ず言う言葉を肝に命じて。
「だらぁ、お守り持っとるか?なくすなよ、失さしたら死ぬぞ?」
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【自慢じゃないが、私は憑かれやすいシリーズ系】アンタさ、取り憑かれやすいだろ
975 :膝の上1/3:2006/05/28(日) 22:53:41 ID:6MuWSflF0
その友人と知り合ったのは、研究室が同じだったのがきっかけでした。
初対面の私に、「アンタさ、取り憑かれやすいだろ」と言い放つブッ飛んだ人物で、
普通なら「何だ?この電波人間は」なのでしょうが、私には笑えない。
自慢じゃないが、私は憑かれやすい。
幼少期から祖母に、「お前は『いらんモノ』連れて帰ってくるから」と、外出時に必ずお守りを渡され、
忘れた日には、井戸ん中落っこちてるの発見されたりとか、身内一同、謎の疱瘡発生とかしょっちゅうでした。
年と共にマシにはなりましたが、今も体調が悪いと油断できません。
幸か不幸か、自称『見えるが祓えない』友人に興味を持たれ、いろいろ連れ回されるハメになる。
そんな話。
2回生の7月、件の友人と、石鎚山の麓にある史跡に行った帰りの出来事。
一通りレポート用の写真やメモをとって、「さぁ帰ろうか」という時に調度雨が降り始め、
急いでローカル線の停留所に駆け込みバスを待った。
「傘を持って無かったけど、屋根着きの停留所で良かった」と私がこぼすと、
「・・・良くない。開城戦のあっちゅう跡や言うから楽しみにしてたのに。何も無いに――」
と、ふてくされた顔。相変わらずの土佐弁訛りはカワイイ。
雨がシトシト降りからザーザー降りなった頃、ようやくバスが着き、急いで乗り込んだ。
その時ふと、おかしな光景を目にした。
976 :膝の上2/3:2006/05/28(日) 22:55:20 ID:6MuWSflF0
バスの入り口の直ぐ前の席(乗り口が後ろ、降り口が運転席にあるバス)に、女の人と少女が2人座っていた。
ただ座ってるのではない、妙なのはその座り方。
他の席が空いているにも関わらず、座っている女性の膝(ヒザ)の上に、もう一人が腰掛けているのだ。
雨のためかびしょ濡れだ。13歳位の女の子だ。
濡れるし重いのによくあんな事するなぁと思ったけども、
ジロジロ見るのも悪いので通り過ぎ、前の方の席に進んだ。
クーラーは効いてるみたいだが、嫌な蒸し暑さだった。
席に着き、さっきの様子を話そうと思った矢先、友人がこう言った。
「ビックリするかもしれんけど、黙ってじっとしち」
「は?」
言うなり友人は、私の膝の上に座ろうとする。
「何やってんだ」
当然驚く。
「いいから座らせろ!あと、次のバス停で降りるよ」
「え?」
○○
ノ|ノ|
.|| ̄|
「・・・」
「・・・」
「あの」
「しっ!」
「ねえ」
「黙っとき」
・・・どうやら発言権は無いようだ。
次の駅でひっぱられて、そそくさとバスを降りた。
977 :膝の上3/3:2006/05/28(日) 22:57:18 ID:6MuWSflF0
辺り一面田んぼで、屋根の無いベンチだけのバス停である。雨はさっきよりヒドい。
もちろん私は、「忘れ物でもしたん?雨降ってんのに、何でこんなトコで降りんだよ!」と怒ったが、
友人は、
「アレ見たろ」
「は?」
「ヒザの上に乗ってたヤツ」
「何や、さっきのが霊やって言うんか?ハッキリ人の形してたのに」
(普段憑かれやすい私だが、『視る方』はカラッキシなのだ)
「アレはな、たぶん、自分の気に入った人のヒザの上に座って、 降りる時いっしょについて行くんや」
「ついて行くって?」
「気に入られたらしい。オマエの方じ~~っと見てて笑いよった。
そしたら、スッとコッチ来たんよ。
ああ、ヤバいなと思って、アレが座る前にウチが先に座ってね。
んで、言ってやった。
『コイツの膝は私のだ。お前にはやらん』って」
「私のって('A`)・・・」
「そしたら、恨めしそうに後ろ戻ってっち。
後ろの女の人には悪いけど、ハッキリ見えてたからね。アレは相当ヤバい奴だ。
良かったな。憑いて来なくて」
「・・・良くない」
次のバスが来るまで30分も雨に降られ続け、カメラもメモもおじゃんになり、次の日38℃の熱で寝込んだのだ。
あの事があってから、バスや電車に乗る時、荷物をヒザの上に置くのが習慣になっています。
風邪引いたせいで、またややこしい事になるんですが、
・・・それはまた別の機会に。
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【自慢じゃないが、私は憑かれやすいシリーズ系】ホラ、お前がもし取り憑かれても、置いて逃げれるしょ
792 :首狩り峠:2006/05/27(土) 13:11:33 ID:gjIrLZXm0
自慢じゃないが、私は憑かれやすい。
霊感なんかは殆どないので、自覚症状がなくて恐ろしい。
子供の頃はよく行方不明になって、
次の日に田んぼの真ん中でケタケタ笑ってるのを発見されたとか、しょっちゅうでした。
今でも、体調悪かったり気ぃ抜くと寄って来ます。
そんな感じの話。
793 :首狩り峠1/5:2006/05/27(土) 13:14:00 ID:gjIrLZXm0
鳴門の方に用事があって、遠出してた日の帰り。
道路情報聞いてたら、何でも高速の方で事故があって大渋滞との事なので、旧道を通って帰る事にした。
長い距離ながら、県道なためか対向車は殆ど無い。
頭上を仰ぐと『○○峠 ○○市まで40km』の標識。
以前立っていた標識には、『首狩り峠』と書かれていた道だ
数年前に、市長が「縁起が悪いから」と勝手に名前を変えたが、今でも『首狩り峠』の通称で呼ばれている。
なぜそんな不吉な名前かというと、
昔、戦で負けた落人の集落が、峠の頂上あたりにあったらしいが、
ある時、残党狩りがやって来て、盛大な山狩りを行い、一族郎党皆殺しにして首級を持ち帰ったのだとか、
確かそんな感じの由来だったと思う。
なんて直球ストライクなネーミング。
元来粘土質で急斜面、『ケ』も悪い土地とあって、建物は殆ど立っていない。
うどん県とみかん県の県境、峠のちょうど一番てっぺん辺り、
緩やかなカーブ道の先に、自販機とイスがあったので、車を停めて一休みする事にした。
いい加減、鬱陶しい森ばっかりの風景に辟易していた頃だ。
まだ午後4時だったが、天頂まで木に覆われだいぶ暗い。
辺りを見回しながら、「ホント木しかないなぁ」とため息ついてると、どうも背後に視線を感じる。
気のせい気のせいと思ってると、頭上でカラスが一声鳴いた。
体が「ビクッ」となった瞬間、背後に感じる視線が、刺すような痛みに変わった。
背中の毛がチリチリ焼けるような感覚だ。(背毛は生えてませんが)
こんな感覚は以前、首なし地蔵を蹴り飛ばした時以来だ。
首を90度だけ回し視線を後ろに送ると、道路の向こう側に犬が座っているのが見えた。
真っ黒い犬だ。真っ赤な目をしている。
いや、目じゃない。
「目玉がない」
794 :首狩り峠2/5:2006/05/27(土) 13:15:57 ID:gjIrLZXm0
真っ黒な顔面の眼窩は、ぽっかり空いていて、眼球の代わりに、赤い絵の具を浸したような赤さだ。
その眼球の無い目で、私の方をじ~っと見ている。
背中どころか、私の全身神経が警鐘を鳴らしている。
目は真っ赤なくせに、口ん中や舌まで真っ黒なのだ。
犬だけど犬じゃない。ヤバイいぞ、これは非常にヤバい。
私は見えてない、気づいてない素振りをしつつ、車の方へ戻る。
頭上では、カラスどもがギャアギャアうるさく喚いている。
エンジンをかけ一目散に逃げる。ミラーをたたんだまま3km走る。
もしサイドミラーに映ってたら、と思うと気が気でなかったからだ。
そんな体験談を、自称『視えるけど祓えない』友人に話したところ、
臆病者と子馬鹿にされるかなと思ったんですが、以外に興味津々。実に乗り気になってしまった。
私が「いや、暫くあっちの方は用事ないし」と言うと、短い沈黙の後、
「・・・うどん」
「は?」
「うどん食いたい」
「はぁ?」
「うどん食いてぇーー!!」
「は!?」
「うどん食いにいくぞ、ハイ。決定」
「ハァ!?」
「来週ね。車は却下。バイクで行きます」
「・・・はぁ」
有無を言わさぬ強引さで決定された。
まぁレポート作成の一環と諦めるしかなかった。ヤレヤレ。
799 :首狩り峠3/5:2006/05/27(土) 13:36:35 ID:gjIrLZXm0
生協前で集合。明るくなってから出発。フツーのツーリングである。
私の愛車はエリミネーター400。友人はRZの改造品。
排気量が多くても小回りが利かないので、どんどん離されていく。
例の場所を教えようにも、時速90kmで遠い彼方へかっ飛んでいく友人に教えるすべも無く、
行きしはフツーに素通りしていった。
しばらくして、さびれた山村に差し掛かった頃、友人がテールランプで停車を指示する。
農道のガタガタ道を抜けた先に、うどん屋があった。
こんな所にもあるもんだなぁと感心したが、友人曰く、
「街で大量生産してるようなうどんはクズ。うんこだよ。
こういう民家でやってるようなんが一番ウマいんよ。水もウマいしね」
入ると、なるほど普通の民家だ。
私「じゃあキツネうどんお願いします」
友「山菜天ぷらソバ。大盛りで」
「お前、『うどん食いてぇー』って言うてたやん。ソバて・・・」
「まぁウソだからね」
さいですか・・・
うむ、さすがうどんの国。確かにうまい
ところで、今日ずっと気になってた事があったので、うどん啜りながら友人に聞いてみた。
「何で車じゃなくてバイクで来たのか」って。
するとニッコリ笑って、
「ホラ、お前がもし取り憑かれても、置いて逃げれるしょ」
ブッ(;゚;ж;゚)゙;`;:゙;.
うどん食った後、テキトーに走って、「さぁ帰るかー」となった。
まだ秋口、4時になってもだいぶ明るい。
ただ、山ん中入ると樹木に遮られ、ずっと暗くなる。頂上付近になると、光が全然入らなくなる。
800 :首狩り峠4/5:2006/05/27(土) 13:39:00 ID:gjIrLZXm0
そして件の休憩所に着く。
自販機と電灯、石造りの椅子が2つだけの、寂しい場所だ。
エンジンを切った友人が辺りを見回し、「んー気合入っちょーね」と一言。
何か見えないかと聞いてみたが、「んー見えへんね」と。
「空気がエラい澱んどるから、何やかやでそうやけどねー。待つ?」
あんまりヒマだったので、二人石椅子に座って、「次のレポートの調査どこ行くか~」って話になった
「先月○浦の合戦場行ったけぇ、次○○鍾乳洞にしよう」と友人。
「えー前回の時、『次は大歩危小歩危行に行こう~』言うてたや。それに鍾乳洞も前に行ったし」と私。
「いや、今度の○○鍾乳洞がまた『出る』ちゅーて聞いたんよ。人骨見つかったらしいし」
「いや、俺ら別にオカルト調査隊じゃないからね?もっとフツーん所に・・・」
そんな会話をしている時、強い風が吹いた。カラスがギャアギャア喚き始めた。
同時に、またあの悪寒に見舞われた。
続いて、ヒドい頭痛が私を襲った。隣の友人も、右目を抑えてうめいている。
視界がぐわんぐわんする。友人が何か叫んでいるが、途切れ途切れにしか聞こえない。
身体は身体で氷水に浸かったような寒さが。震えが止まらない。
隣の友人がフラっと立った?と思った瞬間――右足が飛んできた。
胸部にモロに受けた私は、のけ反りもんどりうって石から転げ落ちた。
どうやら蹴り飛ばされたらしい。あの細足からは想像できない威力だ。
「何すんだ!」
「コレでいいか!?」
「は?」
いや、私に向かって言ってるのではない。
友人は何も無い空間に、もう一度「コレでいいか!?」と叫んだ。いつのまにか風も止んだようだった。
友人は大きく深呼吸をした。そして私に、「まだ頭痛い?立てる?」と聞いてきた。
さっきの胸部への蹴りでロクに声の出せない私は、首をコクコク縦に振った。
「すぐに帰るよ。エンジン」
フラフラする足取りでバイクの所まで戻ると、寄り道もせず一直線に帰った。
802 :首狩り峠5/5:2006/05/27(土) 13:43:04 ID:gjIrLZXm0
生協前のファミレスで一息つく。
私「あのさぁ、いっぱい聞きたい事あるんだけども」
友「あのさ」
「ん?」
「面白そうやからずっと黙っちょったけど、今朝からずーっと、お前ん肩に何か憑いてたんよ」
「え!?」
「3人くらい」
「なぬ!?」
「やけど、山で風吹いちゅー時、そいつらが全部お前から逃げて行きよったんで、ウチもビックリしてん。
で、その後すぐ頭痛くなったと思うんやけど、声が聞こえた」
「声?」
「直接脳に響くような声で、『スワルナ!』って」
「『座るな』って?あの椅子?」
「やろね。お前には聞こえんかったみたいやから、何とか退かそうと思って蹴った。ゴメンね」
「やから『コレでいいか!』って言ってたんか。・・・あ、犬はおった?」
「いや、何も見えんかった」
「そか、何やったんだろあの犬」
「あ。でもね、声が最後に言うたんよ。
『三度目は無い』って。
命が惜しけりゃ、もう近づかん方が良いね」
「言われなくても行かねぇよ」
後日、友人が仕入れてきた地元の老人の話によると、
何でもあの場所、数年前までヤシロが建ってたんだけど、土砂崩れで流されて、土台しか残ってないんだと。
つまり、椅子だと思って座ってたあの石は、ヤシロの土台。
まぁ尻乗っけられたら神様も怒るか。
しかし、「ただ石に座っただけで代償がコレほどとは・・・」。
家に帰ってから気づいたが、あの日持ってた携帯電話、MP3プレイヤー、デジタル時計。全部ブッ壊れてました。
磁気だか電磁波だか、原因は分かりませんが。
「・・・全く、洒落にならん」
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自慢じゃないが、私は憑かれやすい。
霊感なんかは殆どないので、自覚症状がなくて恐ろしい。
子供の頃はよく行方不明になって、
次の日に田んぼの真ん中でケタケタ笑ってるのを発見されたとか、しょっちゅうでした。
今でも、体調悪かったり気ぃ抜くと寄って来ます。
そんな感じの話。
793 :首狩り峠1/5:2006/05/27(土) 13:14:00 ID:gjIrLZXm0
鳴門の方に用事があって、遠出してた日の帰り。
道路情報聞いてたら、何でも高速の方で事故があって大渋滞との事なので、旧道を通って帰る事にした。
長い距離ながら、県道なためか対向車は殆ど無い。
頭上を仰ぐと『○○峠 ○○市まで40km』の標識。
以前立っていた標識には、『首狩り峠』と書かれていた道だ
数年前に、市長が「縁起が悪いから」と勝手に名前を変えたが、今でも『首狩り峠』の通称で呼ばれている。
なぜそんな不吉な名前かというと、
昔、戦で負けた落人の集落が、峠の頂上あたりにあったらしいが、
ある時、残党狩りがやって来て、盛大な山狩りを行い、一族郎党皆殺しにして首級を持ち帰ったのだとか、
確かそんな感じの由来だったと思う。
なんて直球ストライクなネーミング。
元来粘土質で急斜面、『ケ』も悪い土地とあって、建物は殆ど立っていない。
うどん県とみかん県の県境、峠のちょうど一番てっぺん辺り、
緩やかなカーブ道の先に、自販機とイスがあったので、車を停めて一休みする事にした。
いい加減、鬱陶しい森ばっかりの風景に辟易していた頃だ。
まだ午後4時だったが、天頂まで木に覆われだいぶ暗い。
辺りを見回しながら、「ホント木しかないなぁ」とため息ついてると、どうも背後に視線を感じる。
気のせい気のせいと思ってると、頭上でカラスが一声鳴いた。
体が「ビクッ」となった瞬間、背後に感じる視線が、刺すような痛みに変わった。
背中の毛がチリチリ焼けるような感覚だ。(背毛は生えてませんが)
こんな感覚は以前、首なし地蔵を蹴り飛ばした時以来だ。
首を90度だけ回し視線を後ろに送ると、道路の向こう側に犬が座っているのが見えた。
真っ黒い犬だ。真っ赤な目をしている。
いや、目じゃない。
「目玉がない」
794 :首狩り峠2/5:2006/05/27(土) 13:15:57 ID:gjIrLZXm0
真っ黒な顔面の眼窩は、ぽっかり空いていて、眼球の代わりに、赤い絵の具を浸したような赤さだ。
その眼球の無い目で、私の方をじ~っと見ている。
背中どころか、私の全身神経が警鐘を鳴らしている。
目は真っ赤なくせに、口ん中や舌まで真っ黒なのだ。
犬だけど犬じゃない。ヤバイいぞ、これは非常にヤバい。
私は見えてない、気づいてない素振りをしつつ、車の方へ戻る。
頭上では、カラスどもがギャアギャアうるさく喚いている。
エンジンをかけ一目散に逃げる。ミラーをたたんだまま3km走る。
もしサイドミラーに映ってたら、と思うと気が気でなかったからだ。
そんな体験談を、自称『視えるけど祓えない』友人に話したところ、
臆病者と子馬鹿にされるかなと思ったんですが、以外に興味津々。実に乗り気になってしまった。
私が「いや、暫くあっちの方は用事ないし」と言うと、短い沈黙の後、
「・・・うどん」
「は?」
「うどん食いたい」
「はぁ?」
「うどん食いてぇーー!!」
「は!?」
「うどん食いにいくぞ、ハイ。決定」
「ハァ!?」
「来週ね。車は却下。バイクで行きます」
「・・・はぁ」
有無を言わさぬ強引さで決定された。
まぁレポート作成の一環と諦めるしかなかった。ヤレヤレ。
799 :首狩り峠3/5:2006/05/27(土) 13:36:35 ID:gjIrLZXm0
生協前で集合。明るくなってから出発。フツーのツーリングである。
私の愛車はエリミネーター400。友人はRZの改造品。
排気量が多くても小回りが利かないので、どんどん離されていく。
例の場所を教えようにも、時速90kmで遠い彼方へかっ飛んでいく友人に教えるすべも無く、
行きしはフツーに素通りしていった。
しばらくして、さびれた山村に差し掛かった頃、友人がテールランプで停車を指示する。
農道のガタガタ道を抜けた先に、うどん屋があった。
こんな所にもあるもんだなぁと感心したが、友人曰く、
「街で大量生産してるようなうどんはクズ。うんこだよ。
こういう民家でやってるようなんが一番ウマいんよ。水もウマいしね」
入ると、なるほど普通の民家だ。
私「じゃあキツネうどんお願いします」
友「山菜天ぷらソバ。大盛りで」
「お前、『うどん食いてぇー』って言うてたやん。ソバて・・・」
「まぁウソだからね」
さいですか・・・
うむ、さすがうどんの国。確かにうまい
ところで、今日ずっと気になってた事があったので、うどん啜りながら友人に聞いてみた。
「何で車じゃなくてバイクで来たのか」って。
するとニッコリ笑って、
「ホラ、お前がもし取り憑かれても、置いて逃げれるしょ」
ブッ(;゚;ж;゚)゙;`;:゙;.
うどん食った後、テキトーに走って、「さぁ帰るかー」となった。
まだ秋口、4時になってもだいぶ明るい。
ただ、山ん中入ると樹木に遮られ、ずっと暗くなる。頂上付近になると、光が全然入らなくなる。
800 :首狩り峠4/5:2006/05/27(土) 13:39:00 ID:gjIrLZXm0
そして件の休憩所に着く。
自販機と電灯、石造りの椅子が2つだけの、寂しい場所だ。
エンジンを切った友人が辺りを見回し、「んー気合入っちょーね」と一言。
何か見えないかと聞いてみたが、「んー見えへんね」と。
「空気がエラい澱んどるから、何やかやでそうやけどねー。待つ?」
あんまりヒマだったので、二人石椅子に座って、「次のレポートの調査どこ行くか~」って話になった
「先月○浦の合戦場行ったけぇ、次○○鍾乳洞にしよう」と友人。
「えー前回の時、『次は大歩危小歩危行に行こう~』言うてたや。それに鍾乳洞も前に行ったし」と私。
「いや、今度の○○鍾乳洞がまた『出る』ちゅーて聞いたんよ。人骨見つかったらしいし」
「いや、俺ら別にオカルト調査隊じゃないからね?もっとフツーん所に・・・」
そんな会話をしている時、強い風が吹いた。カラスがギャアギャア喚き始めた。
同時に、またあの悪寒に見舞われた。
続いて、ヒドい頭痛が私を襲った。隣の友人も、右目を抑えてうめいている。
視界がぐわんぐわんする。友人が何か叫んでいるが、途切れ途切れにしか聞こえない。
身体は身体で氷水に浸かったような寒さが。震えが止まらない。
隣の友人がフラっと立った?と思った瞬間――右足が飛んできた。
胸部にモロに受けた私は、のけ反りもんどりうって石から転げ落ちた。
どうやら蹴り飛ばされたらしい。あの細足からは想像できない威力だ。
「何すんだ!」
「コレでいいか!?」
「は?」
いや、私に向かって言ってるのではない。
友人は何も無い空間に、もう一度「コレでいいか!?」と叫んだ。いつのまにか風も止んだようだった。
友人は大きく深呼吸をした。そして私に、「まだ頭痛い?立てる?」と聞いてきた。
さっきの胸部への蹴りでロクに声の出せない私は、首をコクコク縦に振った。
「すぐに帰るよ。エンジン」
フラフラする足取りでバイクの所まで戻ると、寄り道もせず一直線に帰った。
802 :首狩り峠5/5:2006/05/27(土) 13:43:04 ID:gjIrLZXm0
生協前のファミレスで一息つく。
私「あのさぁ、いっぱい聞きたい事あるんだけども」
友「あのさ」
「ん?」
「面白そうやからずっと黙っちょったけど、今朝からずーっと、お前ん肩に何か憑いてたんよ」
「え!?」
「3人くらい」
「なぬ!?」
「やけど、山で風吹いちゅー時、そいつらが全部お前から逃げて行きよったんで、ウチもビックリしてん。
で、その後すぐ頭痛くなったと思うんやけど、声が聞こえた」
「声?」
「直接脳に響くような声で、『スワルナ!』って」
「『座るな』って?あの椅子?」
「やろね。お前には聞こえんかったみたいやから、何とか退かそうと思って蹴った。ゴメンね」
「やから『コレでいいか!』って言ってたんか。・・・あ、犬はおった?」
「いや、何も見えんかった」
「そか、何やったんだろあの犬」
「あ。でもね、声が最後に言うたんよ。
『三度目は無い』って。
命が惜しけりゃ、もう近づかん方が良いね」
「言われなくても行かねぇよ」
後日、友人が仕入れてきた地元の老人の話によると、
何でもあの場所、数年前までヤシロが建ってたんだけど、土砂崩れで流されて、土台しか残ってないんだと。
つまり、椅子だと思って座ってたあの石は、ヤシロの土台。
まぁ尻乗っけられたら神様も怒るか。
しかし、「ただ石に座っただけで代償がコレほどとは・・・」。
家に帰ってから気づいたが、あの日持ってた携帯電話、MP3プレイヤー、デジタル時計。全部ブッ壊れてました。
磁気だか電磁波だか、原因は分かりませんが。
「・・・全く、洒落にならん」
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