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カテゴリ: 4つ上の姉にまつわる話だ




「とうま◆xnLOzMnQ」 2014/04/08

4つ上の姉にまつわる話だ。
結局のところ今まで書き記した話、それとこれから書き記す話は、
姉の人生のほとんどを占めた『縁』あるいは『呪い』と呼ぶべきものと、
自分でもその力の正体がなんであるのか決めかねながらも姉が、自分に襲いかかった理不尽な現象に最後まで抗った、
その証のようなものだ。
大元がようやく終わりを向かえた今となっては、ただの回顧録といってもいい。
姉にまつわる因縁と、姉を取り巻いていた環境がなんであったのか、未だに俺には想像がつかない。
俺は大概においてかやの外で、いずれ行き着く先があの結果だとしても、自分に何かができたとは思えない。

今日はそれらの『はじまりの日』の話を書きたいと思う。
厳密に言えば、それは連綿と受け継がれてきた血にまつわる話であるから、『始まり』とするのは正しくないのだろう。
きっとずっと大昔から、それは受け継がれてきたのだ。
姉にとっては逃れられないもので、
俺にはほぼ無関係だったという、血を分けた姉弟でありながらなんとも釈然としない「呪縛」。
だが、姉にとっての『始まり』はきっとその日だったのだと思う。
姉から教えてもらう霊感0の俺が言っても、あまり信憑性は無いだろうけど。


俺達一家は、元は父方の本家があるS市に住んでいた。
姉が小学校一年の一学期半ば、理由もわからず母方の地へ移るまで、俺達は確かにその場所で生活していた。
父は婿入りした身だが、母の実家には入らず、自分の親元の近くに住居を構えていたそうだ。
姉がまだ保育園に通っていた頃だから、俺なんか幼児もいいところだ。よって、この辺の記憶も当然ながら俺には無い。
小さいながらも一戸建ての家。家の前には道路へと続く舗装されていない砂利道。
母はその頃はパートで稼いでいたらしい。父は自営業のため、店舗を兼ねる家にいつもいたそうだ。

その頃姉には、大親友と呼べる友達が3人いた。
友達はたくさんいたが、その中でもとびきりの親友達。
なっちゃんは元気はつらつな女の子。肩より少し長い髪をいつも二つ結いにしていた。
まさと君は保育園で女子からモテモテのかっこいい系な男の子。
慎重な性格だが、姉とは気が合って、男女関係無い友情を育んでいたそうだ。
慎重な割に冒険が好きだという辺りが、同類だったのかもしれない。
まーくんは男の子だが少し気が弱くて、よく泣かされていたそうだ。
それでも、だれより優しい性格で、
みんながみんな、それぞれのいいところを子供心に尊敬しあったような良好な関係だったそうだ。

姉はその頃から不思議なものが見えていたが、みんなにも普通に見えていると思っていたらしく、
日常生活でお化けの話なんかは特にしなかったそうだ。
幽霊と人間の区別がついていなかったというのだからすごい。
明らかに怪我をして、生きていないのは『お化け』と理解していたが、
案外普通の外見の『生きている人間』以外はありふれていて、姉にとっては至極当然の世界だったから、
怖くもなんともなかったんだそうだ。

遊ぶときは家が近いせいもあって、大体この4人で集まって遊んでいた。
母がいつもパートに忙しく、あまり一緒にいれないことだけが寂しかったそうだ。
父はあまり子供をかまう人間ではなく、
よくよくタバコも吸っていたから、喘息持ちの姉は側にいると咳き込んでしまうので、
毎日、日が暮れるまで外で遊んでいたそうだ。

保育園にも夏休みというものは存在するらしい。
姉が通っていた保育園が特殊だったのか、普通のことなのか、俺にはわからない。
そう長い間ではないが、保育園側の事情で夏の半ばから秋の頭にかけて2~3週間の休みがある保育園だった。
ともかく、その夏休みの間、子供達は親戚の内に預けられたり、それぞれの家庭で過ごしたりと、
一時的に会えない状態に陥るのだった。
年少組から年長組になるにつれて、友達に会えない寂しさは増したそうだ。
しょうがないから、姉はそんな時、一人で近隣を探検してまわっていたそうだ。
子供しか通れない細い通路、公園巡り、道路にチョークで落書き。
たわいもない事をして、時間をつぶしていた。


そんなある日、どうしようもなく寂しくなって、姉は母のいるスーパーへ行くことにした。
場所は知っている。
ちゃんと道路を歩けば遠いが、秘密の通路を通って草っ原をつっきると、母の職場は案外近いのだった。
まあ、パートに子育てに、仕事から帰ったら家事をする身では、職場が遠いことは不都合だったのだろう。
その草っ原は大親友達と見つけた秘密の遊び場で、
誰にも邪魔されずに虫をとったり、かくれんぼをしたり、追いかけっこをしたりと、
普段からよく知る場所だったそうだ。

その草っ原を越えて、母のいるスーパーへ向かおうとして、その日姉は奇妙なことに気がついた。
おんぼろとまではいかないが、かなり年期の入った感じの2階建ての木造小屋を見つけたのだ。
戸板は風雨に曝されたことを物語るような灰色で、人の気配も全く無し。
何より、あれだけ遊び回って知らない場所など無いと思っていたのに、突如小屋を見つけてしまったのだ。
寂しさよりも『探検』への好奇心が勝った。
姉は「ごめんください。誰かいますかー?」と一階の入り口から声をかけ、
返答が無いことを確認すると、小屋の中へと足を進めた。
電気は当然通っていない。窓から差し込むかすかな光が、その建物のわずかな光源だった。

一階はだだっぴろく、物もあまりないため、すぐに探索は終了。
次に階段を昇って2階へ入り、姉は足下に太陽の光を受けて転がる小さな粒を見つけた。
紫色のその米粒大のものは、当時『香り玉』と言って子供達のあいだではやっていたものだそうだ。
色のバリエーションが色々あり、
赤ならイチゴの香りなど、文字通り香りのついた粒が小さな小瓶入れられ売られていたそうだ。
人気があって、すぐに売り切れるようなものだったらしい。
子供にとっては宝物が落ちていたようだものだ。
1階に比べてずいぶん天井の低い2階だったそうだ。
その床に、転々と紫色の粒が落ちている。
面白くなって次々と広い集めた。紫は珍しい色だった。
『香り玉』の中でも特に人気があって、花の香りがするのだ。
大親友達とまた会える日になったら、此処へみんなで探検に来ようと、姉はわくわくした気持ちでいっぱいだった。

「楽しい?」
不意に、背後から女の人が声をかけてきた。
子供のようにしゃがんで、にこにこと姉の様子を眺めていたそうだ。
とっさに、『この小屋の持ち主の人だ、勝手に入って怒られる!』と思い、
即座に「ごめんなさい!!」と姉は謝ったそうだ。
女性は一瞬きょとんとすると、くすくすと笑い出した。
「いいのよ、あなたがあんまり楽しそうだから、見てる私も楽しくなっちゃって。
 でも、夕暮れが近いわよ、お家に帰らなくちゃ暗くなっちゃうわ」
女性に手を引かれて一階に降りると、確かに夕日が差し込んでいた。
さっきまで昼だと思っていたのに、よほど熱中していたようだと、恥ずかしくなったそうだ。
立ち上がった女性はうす水色のワンピースに白い帽子をかぶった、とても綺麗な人だったそうだ。
「あの、ここの人ですか?」
「そうよ。持ち主ね」
「また遊びにきてもいいですか?今、友達みんなお家にいて、保育園も休みで・・・」
「こんなほったて小屋、一人で入って怖くなかったの?」
「探検が大好きなんです」
そこで、女性はまたふふと、と上品に笑った。
あまり見たことの無い、テレビに出てくる女優さんのような人だなと思ったそうだ。
「そうね、じゃあ、秘密の友達になってくれたら、いつでも来ていいわ」
「秘密の友達?」
「内緒の方が楽しいことってあるでしょ?ここで会うだけの、ここだけの友達。名前も内緒」
不思議なことをいうお姉さんだなと思ったが、相手のいう事に納得して、そうして姉に『秘密の友達』ができた。

お姉さんは色々なことを知っていて、昔話なんかにも詳しかった。
姉は童話や民話を読むのが大好きだったから、あっと言う間に寂しさも忘れて夢中で通った。
紫の香り玉は少しずつ増えていった。


保育園の再開まであと1週間となり、今度はここに来れなくなるのが寂しいと、姉はお姉さんに相談した。
するとお姉さんも寂しそうに切り出した。
「あのね、残念だけど今日でお別れなの」
「久々にとても楽しかった。でも私に会えるのも、ここに来れるのも今日でお終い」
「もう誰にも会えないで、ただ終わっていくんだと思っていたから、あなたが友達になってくれてとても嬉しかった」
ようやく、その時姉は気づいたそうだ。
あぁ、この人は『人間』じゃなかったんだ、と。
「私の大事な最後の秘密の友達。
 少しのことしか教えてあげれないけど、あなたが私の元に通ってくれたから、一番大事なことだけ教えてあげれる」
「赤い鬼に気を許しては駄目。関わることは避けられない。
 あなたは人よりもずっと怖い目に遭うわ。
 けれど、その時は力を貸してくれそうなモノ達に話しかけ、仲良くなって助けてもらいなさい。
 私と仲良くしてくれたように」
「赤い鬼に殺されては駄目よ。赤い鬼と同じモノになっても駄目。
 あなたは、あなたのままでいなさい。それがどんな結果になったとしても」
お姉さんの手は、人間の手と同じように温かかった。
手を引かれて、小屋の外に出る。小屋はもう、跡形も無く消えていた。

「さよなら、ゆきちゃん」

夕暮れに解けるようにして、そのお姉さんは消えた。
もう会えないことを理解して、お姉さんの事を絶対に忘れないと決めた。
一緒に遊んだ時間も、声も、握った手の柔らかさも、綺麗な顔も、最後の忠告も。
お姉さんが何者だったのか、それは今でもわからないそうだ。
土地神だったのか、妖怪だったのか、幽霊だったのか。

次の日、草っ原に行ったが、どこまでも青々と茂った草原が続くだけだった。
誰に訊ねても、そんな小屋はあったことは無いという答えしか返ってこなかった。
残ったのは一緒に集めた香り玉だけ。それだけが彼女が存在していた証拠だった。


秘密にしていた名前を知っていたお姉さん。彼女は何者だったのか。
彼女が告げた『赤い鬼』はその後しばらくして、思いがけない形で、姉の前に現れることになる。
雪の降る日、初めて現れた2匹の小さな赤い鬼は父の後ろで嗤っていた。
父も嗤っていたそうだ。
姉が初めて恐怖らしい恐怖を覚えたのが、その日になる。

これはまた、次の話で。

【4つ上の姉にまつわる話だ】⑤ 赤い鬼







「とうま ◆7cxgXa4I」 2014/03/26

俺には4年上の姉がいる。
子供の頃からいわゆるオカルトなものが見える、聞こえる、対処できる人なんだが、
それがどの程度強い(強い?でいいんだろうか?)ものなのか、弟の俺もしらない。
俺は幸いなことに逆に霊感とかはまったく無い。
だから、姉が本当は何を見て、何を聞いて、何を知ってるのかもしらない。
姉に聞いてみても、たいがい自分のことに関してはめんどくさがって話してくれない。
ただ姉と一緒にいる時には、不思議な現象を体験する。
これだけは事実だ。


俺が大学一年の秋の話だ。霊感が無いはずの俺ですら、その日ははっきりと『霊』を見た。
オカルトにほぼ縁の無い俺にはとんでもなく強烈で、恐ろしい出来事だった。

俺の地元は地域の祭りがわりと盛んな方だ。
今でも春夏秋冬を問わず、なにがしか小さな祭礼が行われている。
あんまり詳しく書くと地元が特定されそうで怖いので、具体的な祭りの名前は書かないでおく(笑)許してほしい。
まあ、大学に行ってから招いた友達が「秘境だー!!!」って喜ぶぐらい、昔の景色が残ってる。
来た友達は大概温泉を満喫して、珍しい田舎暮らしを楽しんでいく。
そんな田舎だからこそ、昔からの習慣としての祭りや行事が色濃く残っているんだろう。
そういう風習が廃れていく現代では、結構珍しい土地柄だ。
地蔵様の祭りがあったり、盆や正月の前後にもイベントがあったりで、
大きい祭りの時には他の地方に移った学生やら、仕事の関係で県外に行ってる連中も、
律儀に戻ってきて参加するっていう、なかなか面白い場所だ。


大学生になり、それなりに学生生活やバイトにも慣れた頃、高校の友人の一人から結婚することになったと連絡がきた。
(理由はまあ、察してほしい。社会人一年目のくせに生意気だというか、やっちまったなあというか)
そいつは他の県には出なかったグループだったので、俺はその結婚式に参加するため帰省することになった。

帰って結婚式も無事終了し、まったりと休みを過ごしていた俺は、
どうせだから明日の『秋祭り』に参加していけと祖母に誘われた。
『秋祭り』は一年の実りを与えてくれた神様に感謝を表す、お盆、お彼岸、正月に並ぶ大きな祭りだ。
特に断る理由も無かったし、俺は承諾して帰省を伸ばすことにした。
ちょうどその時実家には姉もいて、ひさびさに姉弟で自分たちの近況を語ったりもした。

祭りの当日夕方になると、獅子舞のお囃子の音が聞こえてきた。
秋の豊穣を祝う祭りは夕方から夜遅くにかけて行われる。
ぽつぽつと家々の先に灯明が灯る中、身支度を整えた俺と姉はのそのそと神社へ向かって歩き出した。
俺の地元に神社は一つきり。それも祭りの時にしか開かれず、それなりに格式があるらしい。
普段はみだりに人の出入りは禁じられている。姉はその場所を気に入っていて、よく参りに行っていたようだが。

拝殿への緩やかな階段を昇っていくと、お囃子に合わせて黒獅子が勇壮に舞っていた。
神社の一角には白っぽい砂が高く円錐状に整えられていて、
その砂が四隅に立てられた笹竹と笹に渡された注連飾りで区切った場所があった。
まずは神社の神様にお参りをし、次に祭りを取り仕切る地元のお年寄りに挨拶を済ませる。
しばしの間、獅子が舞う姿を眺めていると、小学校からの知り合い達がぞくぞくとやってきた。
ガキ大勝のY先輩、同い年の勉強が得意なW、スポーツ馬鹿の後輩Kなどを筆頭に、
男女関係無く多くの知り合いが今回の秋祭りではそろっていた。

そうこうしている内に黒獅子が拝殿での舞を終え、家々を廻るために神社から出て行く。
その後に続いて、久しぶりに会った先輩後輩入り乱れての若者グループの一員として、
俺達は出店が出ている旧学校跡地へと向かった。
通っていた小学校は新校舎設立と共に広いグラウンドに改装され、今は行事となると大概そこで行われているそうだ。
目の前が公民館なせいもあるだろう。

おばちゃん達が振る舞ってくれる料理やら、出店の焼きそばやら、こんにゃくやらを囓りながら話騒いでいると、
あっという間に日が暮れてゆく。
秋の日はつるべ落としとはよくいったものだ。電灯が少ない地元に帰ってくると、とみにそういうことを感じる。
通っている大学は東京だから、明暗差を余計に感じるのかもしれない。東京は夜でも明るく賑々しい。
祭りのためにライトアップされているから、ここも今は明るいが。

夜九時近くなった頃だろうか、小学校ではガキ大将でいつも子分を引き連れていた、馬鹿騒ぎをしたがるY先輩が、
「肝試ししよーぜ!」などと言い出した。
「肝試しって言ったっここらへん別に心霊スポットとかないじゃん」
すかさず女性陣につっっこまれるが、先輩は諦めない。
「ま、肝試しっつーか、スキー場まで夜道を散歩しようぜ企画?
 暗いから懐中電灯だけで行けばそれなりにスリルあるし、秋になったから星きれーだと思うぜ!
 雲無いからこっからでもかなり星見えるだろ?スキー場行けばきっとスゲーぜ!」
先輩のいうことは確かに一理あった。
今いるグラウンドからスキー場へは、比較的距離が近い。
小学校時代には吹雪の中歩いてスキー場まで行って、体育の授業を受けたものだ。
道が暗いってのは誰でも知ってるし、
まあ久しぶりにあった仲間で騒いでいく分には面白い思い出が一つ増えるかも知れない。
何より、スキー場で駐車場に寝転がって星を見ると、
光源が少ないのと仕切る建物が無いせいで、まさに降るような星空が拝めるのだ。
祭りはまだ続く、大人は顔を真っ赤にしながら酒やビールを飲み交わして笑っている。
大して自分たちは少し飽きてきた。帰ってもいいわけだが、それだけじゃなんか物足りない。
「じゃあ行こうぜ」と決定されるまで、大した時間はかからなかった。
Y先輩と2,3人の男がひそひそとしているのが少し気にかかったが。

姉は大人の席に混ざって日本酒を飲んでいた。大して酔ってはいない風だった。
そもそも姉は酒に強いのだ。炭酸のジュースは飲めないくせに。
同じ炭酸理由でビールも飲めないくせに、日本酒は辛口派と楽しむ可愛げの無い女だ。
一応、一声かけて抜けることにした。
「俺達ちょっと先輩達とスキー場まで散歩してくっから」
「何しに?」
「Y先輩が肝だめしついでに星見よーぜって、みんな盛り上がってるから」
「ふーん・・・・・・」
しばらく姉はY先輩を見ていた。
姉にとっては後輩にあたる人だ。家にも遊びに行ったりから、結構仲が良い部類の人のはずだ。
「石屋の前の一本道登って、登山口からスキー場?」
「まあ一番近いし、慣れた道だし」
「ふーん。まあ、行きたきゃ行ってみれば?神社までも一本道だし」
「姉ちゃんは?」
「酒が私を呼んでるから、とりあえずパス」

なんだかよくわからないが、報告もしたので、俺達は十数人連れだって夜道を歩き出した。
「なんだ、とうまの姉ちゃんは来ねーのか」
「酒呼んでるそうなんで、しばらくは酒場から動かないと思いますよ」
「ちぇー、残念だな」
「やっぱ暗いねー」
「思ったより怖いかも」

Y先輩はぶーたれながらも怖がってる連中に檄を飛ばし、自分が先頭に立って先導して、
結局は何事も無くスキー場まで辿りついた。
星はやっぱり絶景だった。
「うわー、すごーい。写メ撮ろう、写メ!」
みんながはしゃいで、地べたに寝転んで星空を満喫して。
いい時間だったと思う。

「秋だと結構、もう寒いね」
「冷えてきたしそろそろ帰ろっかー」
「肝試しっつっても、結局なんも起こんなかったじゃん、Y先輩」
「んな都合良く怪奇現象起こってたっまかっつーの!」
Y先輩は流していたが、何か少し苛立っているようにも見えた。
思えば、この時に気づくべきだったのかもしれない。
勝手な感想を言いつつ、俺達は帰路についた。

交差点をあと二つ越えれば、もとのグラウンドだ。
そう思った時だった。何か、踏み越えたなと、そんな感覚に襲われた。
同時に俺は今まで嗅いだことの無い、吐き気がする空気に包まれているのを理解した。
あ、ヤバい。勘としかいいようがない。
これまで様々な不思議体験を姉としてきた俺だが、今回は種類が違うとはっきりわかった。
「なんか臭くない?」
「っていうかマジで寒い」
「えー、逆に生暖かくなった気がするけど」
背筋がゾクゾクして鳥肌がたつ。
例えるならば、死臭、だ。
みんな気づいていないようだが、それは鉄臭い血の臭いと、物の腐った臭いを混ぜ込んだようなものだった。
ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。
警鐘が頭の中では鳴っているのに、みんなノロノロと悠長に歩いたままだ。
時間を引き延ばされたような、この不快な空気に永遠に閉じ込められたような錯覚すら覚えて、
吐くのをこらえ俺は必死に足を進めていた。
直後だ。
先頭の方を歩いていたの数人が揃って絶叫を上げた。
男も女もお構い無しに、喉から出せるだけの恐怖を声に乗せて吐き出したような悲鳴。
だが、悲鳴のおかげで俺には通常の感覚が戻っていた。
「なに!?」
「おい!どうしたんだよ!」
いきなりの事にみんながてんぱっている中、
俺は「神社まで走れ!出来るだけ道を越えるまで目つぶって!!」大声をあげた。
俺の声と視線の方向で、みんなもようやくソレらに気がついたようだった。
俺達は周囲を取り囲まれていた。
首の無い、白装束の幽霊と、ぼろきれのような朽ちかけの武士装束をまとい、刀を持ってたたずむ人影に。
悲鳴を上げてるヤツをひっつかんで、一斉にみんなが走り出す。
俺も悲鳴をあげてた男を一人ひっつかんで全速力で逃げ出した。
幸い、幽霊達とはまだ数メートル距離があった。
俺が走ってる間引っ張ってる男は、ずっとうわごとのように、
「首、首・・・・・・・俺の、俺のくびぃ・・・・・・」とぶつぶつ呟いていた。
「追いかけてくるよ!」
誰かが叫ぶ。
「神社の中まで入ればたぶん大丈夫だ!」
俺が応える。

神社に到着するまでが恐ろしく長い時間に感じられた。
神社に着いた時の灯明の明るさが、本当に輝いて見えた。
みんな泣いていた。自分たちが見たものが、追ってきたものがなんなのかわからず、不安に泣いていた。
俺はその場で姉に電話をかけた。
どうにかしてくれるのが、他に思いつかなかったからだ。
ただ、「追いかけてきた」と言ったヤツがいたから、このまま放っておいたらマズい気がしてたまらなかった。

三コールか四コールかして姉が携帯に出た。
俺が起こったことをまくしたててる間、
姉は『うん、それで?』とか聞いているんだかいないんだかわかんないような適当な相づちを打って寄越してた。
「何とかしてくれよ・・・」
『わかった。じゃあ、とりあえずあんたらは神社から出ないこと。今から見てくるから』
と言って、一方的に通話は切れた。
見てくる?見てくるってなんだ?俺達が通って来た場所に行くってことか?
姉が無事で帰ってくるのか、ものすごい不安になった。
俺は安易に、なんてことを頼んだろうと。
何が起こったのかもわからないのに、なんとかしてくれなんて、
しかも自分たちから行って起こったことなのにと、不安と罪悪感で締め付けられるようだった。

10分ほどして、姉が神社についた。
見たところ異常も怪我も無い。
そして俺達そっちのけで神主さんのところに行くと、御神酒として捧げられていた四本の日本酒をもらってきた。
泣いたり、へたり込んだり、ぐったりしている俺達の目の前で、
「Y!」
姉はY先輩の名を呼んだ。普段とはまるで違う、冷淡な声だった。
Y先輩はびくりと身を震わせ、それでも何とか姉の前に立った。
「肝試しをしようって言い出したのはお前だったそうだな。
 お前は、通り道に何があったか聞きかじりでもしたか?
 あと三人。Yのいたずらに荷担したヤツ。前に出ろ」
姉の言葉とY先輩がそいつらの方を振り向いて、
同行していた男三人がのろのろとした動作で立ち上がり、Y先輩の横に並んだ。
その四人に、神主から渡された日本酒を一本ずつ持たせていく。
「お前達がどういうつもりだったのかは、この際どうでもいい。
 だが、自分たちで事を起こした責任はきっちりとってこい。
 お前達が軽い気持ちで踏みつけたあの『つみ石』に、
 心から詫びて、御神酒を捧げ流しかけ、赦しを貰うまで帰ってくるな」
「も、もう一回行って来いって・・・?」
ガタガタと震える男四人を姉は一瞥して言った。
「行かなきゃ行かないで、お前達の首が落ちるだけだ」

真っ青な顔で泣きそうな面構えの四人を、俺達は暗闇の中へ送り出した。
姉曰く、誰もついて行ってはいけないし、怒らせた相手には自分で詫びねば意味がないのだそうだ。
問題は悲鳴を上げて今もおかしげな事を呟いている人の方だと思ったのだが、
こちらは幽霊の気にあてられただけだから神社の中にいれば治るとのことだった。
言葉どおり、ぶつぶつと呟いていたヤツは時間の経過と共に自然と治った。念のためと、御神酒を飲ませてはいたが。

30分ほどして、出て行った四人が帰ってきた。
死人のような顔色だったが、それでも無事で帰ってきたことで、最後に姉が、
「これで今夜の件については後は何も起こらない。
 が、他の連中もこれに懲りたら興味本位でで心霊スポットに行ったりしないこと。
 何があったても自己責任だから、肝に命じておけ。
 あとはとっとと解散!!」
珍しく怒鳴り散らし、肝試しに加わった連中はほうほうの体で逃げ帰った。
四人はへたりこんで、もはや一歩も動けないというような感じで、
神社に詰めていた老人達に怒られ、それぞれの親に引き取られて帰っていった。
姉は深々と神社に一礼し、俺達も帰路についた。

「俺達が見たのっていうか、襲われたのって結局なんだったんだよ?」
帰ってから、どうにも釈然としない俺は姉に聞いた。
今回ばかりははっきりした回答が欲しかった。
「簡単だ。お前達は巻き込まれただけ。主犯はYと残り三人。
 『つみ石』を踏みつけるとか、何かいたずらしたんだろ?
 私を偽物扱いしたかったんだか、本当の心霊体験をしてみたかったのか、あいつらの考えなんぞどうでもいいが、
 やっちゃならないことをした。それだけだ」
「あの道、何か出るとか聞いたことないけど」
「道が問題なんじゃない。昔何があったのかが問題なんだ。しかし祭りの日で良かったな、神のおわす前にいれる日でなきゃ、何人どうなったのかわからないよ、私にも」

神社が開かれていた日だったから、幸運にも難を逃れたというわけか。
悪いことをした者が責任をとりにいって、供物を捧げ赦してもらえた。
他の連中は神様のいる場所にいたから助かった。
「昔、何があったんだ。あそこに」
「首狩り刑場だよ。罪を赦されなかったら、首を刎ねられる」
夜の闇の中でもはっきりと見えた刀の冷たい光。
同じぐらい冷たく感じる声音の姉。
「一直線だから神社まで逃げきれて良かったな」

逃げ切れなかったらどうなったのか、首が落ちただけで済んだのか、
あいつらの仲間になっていたんじゃないかと、俺は今でもあの日の事を考えるのが怖い。

【4つ上の姉にまつわる話だ】④ 秘密の友達が教えてくれたこと







「とうま ◆7cxgXa4I」 2014/03/15

4つ上の姉の話。
今日は姉と俺がまだ小学生だった頃の話をしようと思う。
まだ、姉が口調が切り替わる話し方をするようになる前の話だ。


俺達はまだ小さい頃に(姉がちょうど小学校の1年の時)、父方の親族が住んでいた県から引っ越しをした。
俺はマジで小さかったから、何で引っ越したのかとかは覚えていない。
父方の祖父母は優しかったし、引っ越した先の母方の祖父母も優しかった。
強いていえば、今考えてみると引っ越した先がかなりの田舎だった事ぐらいだろうか。
姉にとっては田舎の方が目新しいものがたくさんで、とにかく面白がっていたことをよく覚えている。
電灯が少ない暗い景色も、間近にある自然も、古い建物も、何もかもが新鮮だったんだそうだ。

さて、俺も同じ小学校に入学したのだが、その頃は『怪談』、『怖い話』が全国的にブームだった。
田舎の小学校には結構あることだと思うが、
生徒数が少ないため、上級生も下級生もいっしょくたになって遊ぶのが普通だった。
何年生でも関係無く毎日みんなで集まって怖い話をしては、
「今度○○に探検に行こう!」などと男子は盛り上がり、女子は怖いとキャーキャー言いながらも楽しんでいた。
ただ、上級生は口々に「学校の七不思議がここにもあれば面白かったのに」と、ほぼ毎日のように不満をもらしていた。
木造校舎で雰囲気たっぷりのわりには、学校に伝わる怖い話というものがほとんど無かったのだ。
だから、図書室で怖い話を読んでもりあがったり、
中学生の兄や姉を持つ生徒がもっと怖い話を聞いてきて、それをみんなに披露したり、ってのが普通だった。



話は変わるが、
通っていた小学校というのがスポーツに力を入れている学校で、年中いつでも何かしらの強化訓練を行っていた。
春はマラソン、夏は水泳、秋は陸上競技全般、冬はスキーにクロスカントリースキーと、放課後の練習が義務だった。
もちろん、何かしらちゃんと理由のある児童を除いては全員強制参加だった。
学校側としては大会で上位成績を収めて、近郊の学校へ力を見せつける、みたいな感じだった。
そんな大人の事情はつゆ知らず、俺達はダルいダルいと思いながらも、毎日のスポーツへ取り組まさせられていた。
特に熱を入れて取り組まれていたのが、夏の水泳大会とスキー大会。
上位入賞すれば県大会なんかにも進めるものだったから、教師陣も毎年スパルタ訓練を行ってくれた。
そういう練習が無かった学校、もしくは本人の参加希望制だった学校に通っていた人がマジで羨ましい。

で、ここからが妙な話になる。
うちの学校には特に怪談話が無かった。
が、ある日、放課後の水泳の練習中に第3コースを泳いでいた4年生の女子児童が、
「何かに足を引っ張られた」と騒ぎ出したのだ。
女子児童は「怖いから今日はもうプールに入りたくない。帰りたい」と、最終的に泣き出してしまった。
その児童はその日の練習を免除され、
教師は「足をつりそうになったのを勘違いしたんだ」とみんなを説得して、練習はその後も続いた。
が、間が悪かったというべきなのかなんなのか、最初に書いた通り、その頃学校の児童達は怪談話に飢えていた。
そのせいなのかみるみる内に、「あのコースで死んだ生徒が引っ張り込もうとしている」だの、
「いや、昔第3コースの排水穴に落ちて水死した生徒がいたらしい」などと、
プールの怪談が全校生徒の間で広がっていった。
それでも日々の練習は続いていたし、本当に足を引っ張られる児童なんか出なかった。
しかしプールの怪談は、
「第3コースの排水穴の上の鉄檻から覗くと、幽霊と目が合って溺れて殺される」
なんてところまで発展してしまっていた。
当然先生達は「根も葉もない噂だから、みんな真面目に練習に取り組むこと」の一点張りだった。

その頃もう一つ、この怪談に誘発されて流行りだしたのが、
「潜って第3コースの鉄格子の奥に何か見えるか確かめる」という度胸試しだった。肝試し水中版である。
まずは上級生男子が、ついで他の上級生女子や下級生にも流行りだし、それはちょっとしたイベントと化していった。
拒むと「やらないヤツはヘタレ。根性無しのビビり」のレッテルを貼られるわけで、
怖がっている子も参加しなきゃいけない空気になっていったのが、なんとなく怖かった。
ちなみに俺もその度胸試しはやったが、なんにも起こらなくてほっとした。
なーんだ、やっぱりもともと無かった話なんだから、お化けが出るわけないじゃん、と思っていた。

その数日後である。
小学生男子の中には、先生に「やっちゃ駄目!」と禁止されると、
かえって熱中してやってしまうお調子者が必ず何人かはいるものだ。
まあ、度が過ぎると問題児になるんだが、うちの小学校にもそういう問題児として扱われているM君というヤツがいた。
水泳の練習では、必ず30分泳いだら5分なり10分なり休憩時間を先生がホイッスルで知らせる。
ホイッスルが鳴ったら、何処で泳いでいてもいったんはプールサイドにあがるって休憩するのが決まり事だった。
M君は何につけ決まり事を守るのが嫌いで、全校集会でも騒いだりと、よく言うことを聞かない子供として有名だった。
この日も、M君は一旦はホイッスルに従ってプールサイドに上がったものの、
途中で「いいか!これからオレが一人でもぐって幽霊なんかいないって証明してやる!!」といきなり叫ぶと、
まだ休憩時間にも関わらず、どぼんっ!と派手な音をたててプールに飛び込んでしまった。

あの肝試しは第3コースの中央、つまりプールの中央にある排水穴に指をかけ、鉄格子の奥を覗いて戻ってくる、
というのがやり方で、壁を蹴ってそこまでもぐって行くのが一番早いやり方だった。
小学校のプールは一般的な25mプール。
その横幅はだから12mぐらいのはず。その半分だから6mぐらいの長さか。規格が普通なら水深は1.2mのはずだ。
M君は身長もある方なので、中心で立てば間違いなく肩以上は水の上に出る。
泳ぎも得意な方だ。潜水も得意で、25mと半分ぐらい顔を出さないでもぐったまま泳げる。
先生も「またMか」みたいな感じで、最初は呆れ顔だった。
が、そのM君が上がってこない。
みんなを驚かせるのが好きだから、水中で息を止めてあえて長引かせているのかもしれない。
その内、生徒がざわざわ言い出した。いくらなんでも遅い。
だいじょうぶかな。幽霊に捕まったんじゃない。

ざわざわ、ざわざわと顔を見合わせ怯え出す生徒もいた。
ようやく先生がプールに入って、M君を回収しようと動いた。
先生がプールに入ってすぐのことだ。
ざばっとすごい勢いで、先生が「誰か他の先生達を呼んで来てくれ!急いで!!」とものすごい大きな声で叫ぶと、
もう一度プールの中にもぐった。
プールサイドはパニック状態になり、泣き出して逃げ出す児童や、職員室へ走って行く児童ですごい状態になった。

静かになったプールサイドに、
逃げ出す押し合いへし合いに負けて取り残された俺と、水面をじっと見つめる姉だけが残っていた。
プールの中央では先生の腕や足が見え隠れ、ばちゃばちゃと激しい音をたてている。
次の瞬間、姉がプールに飛び込んだ。
俺は飛び込んだ姉や先生やM君が心配で、何が起こっているのかも知りたくて、続いて飛び込んだ。
飛び込んだ時の泡が周りから消えて俺が目にしたのは、
ぐったりと足を鉄格子側に向けて数中で漂うM君と、それを持ち上げようとする先生、
それから鉄格子に近づく姉の姿だった。
M君はどう見ても意識がなさそうだった。
鉄格子とむしろ逆側の体制で逃げようとして、途中で止まっているような感じだった。
その何にも引っかかっていないM君を、先生が必死で引っ張り上げようとしている。
やがて姉が鉄格子に辿りつく。中を覗き込んでから、一発、がんっと鉄格子を思い切り蹴った。
瞬間、勢いよく先生がM君を連れて泳ぎだし、プールサイドに押し上げた。
姉も先生と逆側に泳いで、プールサイドに辿りついてあっという間に水から上がり、
俺は姉を追いかけてプールから這い上がった。
正直水の上にあがるまで、次に俺がああなったらどうしようという怖さでいっぱいだった。
プールサイドで姉は、俺が上がってくるのを立ち上がって眺めていた。
「あんた、残ってたの」
「入り口狭くて逃げ遅れた」
「怪我とかしてない?」
「してない。逃げたヤツらの方がしたと思う。転んでたし」
「保健室が大混雑だろうね」
俺と姉は場に似合わない会話をしながら、先生とM君の側まで近づいていった。
他の先生方も数人来ていて、人工呼吸をしたり、心臓マッサージをしたりいわゆる救命手当をしていた。
M君は水をたらふくのんだのか、腹の辺りがいつもよりでかくなっていて、
白目で気絶していて、唇も紫色になっていた。
正直、俺はM君が死人に見えて怖かった。
「なあ、ねーちゃん、M君死んでないよね?」
「ちゃんと生きてるよ。気絶してるけど、病院でちゃんと治療すれば大丈夫でしょ。
 溺れただけだし、後は先生達がちゃんとなんとかしてくれると思うよ」
姉の一言で、俺はすごくほっとした。

早々に俺達も来た先生達によってプールから追い出され、いつもより早い時間の返り道を歩いていた。
夕暮れのオレンジ色がすごく綺麗で、さっきの騒ぎが嘘だったみたいだった。
「なあ、ねーちゃん。さっきの、学校の噂のプールで死んだ幽霊?」
「あのプールで死んだ人がいなくて、あとから話ができたのに、プールで死んだ幽霊出るの?」
「じゃあ、M君なんで上がってこれなかったの?」
M君はプールサイドを目指す方向で水中にいた、
なのに先生が助けようとしても動かないから、先生はあんなにばちゃばちゃと頑張っていたんだろう。
「プールで死んだ人はいないけど、M君は幽霊に足を引っ張られたんでしょ」
「?」
あの時プールの中にいた俺には、幽霊とかは見えなかった。
もともと見えるわけじゃないけど、じゃあなんだったんだという疑問がぐるぐるする。
「あんたは、あのプールの肝試し、実行しちゃだめだよ」
「もうやった。けどなんにも起こらなかった」
「今後は絶対ダメ。できれば3コースも泳がないようにしな」
「なんで」
「プールで死んだ人がいるとかは全部嘘とか噂だったからいいけど、
 みんながあんまり信じるからあそこにはもう棲んでる。だからダメ」
すんでる?なにが?誰が?
「あんたは学校の成り立ちとか社会科の勉強で調べなかったの?本で調べただけ?あっそ」
「なにさ。何がすんだってんだよ」
「あの学校、昔のお墓を潰してその上に立てたんだって。
 もともと斜面だったところのお墓を潰して、平らにならして、その上に立てたんだって。
 自由研究の発表で色々な人から話聞いてわかった。
 だから、学校前の道路をはさんで向かい側、あそこにお墓残ってるでしょう?」
姉が指した指の先、そこには杉林に囲まれたお墓が学校を、プールを見下ろす形で夕日に照らされていた。
「あんまりみんなが期待するから、たぶん本当にあの鉄格子の向こうにお墓の誰かが棲んじゃったの。
 だから、調子にのって怪談があればいいって盛り上がらないこと」
そういえば、姉は学校であれだけ盛り上がっているにも関わらず、
みんなで幽霊だ、オカルトだと騒いでいる時には一貫して加わっていなかった。
「学校の怪談ってこうやって出来ていくのかな」


ちなみに、その後何年かしてから新校舎の設立が決まった。
姉は偶然にも、その学校の最後の卒業生となった。
M君が怖い思いをしたプールも一緒に取り壊されたが、強烈な恐怖を味わったM君は今も泳げなくなったままだ。


【4つ上の姉にまつわる話だ】③ 秋祭りと肝試し






「とうま◆7cxgXa4I」 2014/03/10

俺には4つ年上の姉がいる。
昔から不思議な体験をする姉だが、その体験談から一つ聞いてほしい。
夏の話である。

高校を卒業した姉が進学のために引っ越し、S市で友人とルームシェアをしていた頃の事だそうだ。
女の一人暮らしは何かと物騒だという流れで、姉は友人のAさんとルームシェアをしていた。
Aさんは一つ上の先輩で、通っていた学校は別だったものの、部活関係でとても親しくなったのだそうだ。

ちなみにAさんはその頃、社会人として働いていた。
わりと新しいアパートの1階の角部屋。
遊びに行った事もあるのだが、2DKにロフト付きでなかなか広く、当時まだ実家で勉強に忙しかった俺は羨ましく感じたのを覚えている。

その日、姉は体調が悪くてそのアパートの寝室で寝込んでいた。
学校で風邪をうつされ、もともと喘息体質な姉は咳き込みが酷くなってしまい、完全にダウンしていたそうだ。
熱も高く、咳も酷い。
同居人のAさんはとても心配し病院へ行くことを勧めたが、姉は「咳風邪は慣れているから大丈夫。寝てれば治る」と、とっととAさんを会社に送りだしたそうだ。
ものすごく身体は辛かったそうだが、幸いにして食事を摂る元気はまだ残っていたそうで、おかゆとリンゴ、ヨーグルトなどを食べ、治るまでゆっくり眠ろうと決め込んで、姉は午前の内に眠りに落ちた。


そして、ふと目を覚ましたのだそうだ。
見渡すと辺りはすっかり暗い。
深夜かと思ったほど暗かったそうだが、Aさんが帰ってきた気配はまだ無い。
そして、何故か急に目を覚ました割にはものがはっきり見えたそうだ。
「なんか、真っ暗なのに、視界が青っぽくぼうっと光ってる感じ?」
後に聞いた時、姉はそんな表現をしていた。

とにかく不意に目が覚めた。
目が覚めたからには多少活動しないと駄目だなと、休息をとりだいぶ楽になった身体を起こした。
「あぁ、そういえば洗濯物干しっぱなしだな。夜だしもう湿気っちゃったかな」などと考えていたそうだ。

寝室にはエアコンの音が静かに響いていた。
起きた姉は、ダイニングキッチンとリビングを兼ねた部屋に移動した。

扉に手をかけて開き、姉は違和感を覚えてそこで立ち止まった。
隣室も真っ暗、なのに姉は、ベランダに続くガラス戸がわずかに開いて、今まさにそこから部屋へ侵入しようとする真っ暗な人影を見たのだ。

真っ暗な影、寝起きか恐怖感は一切感じなかったそうだ。
先に声を発したのは姉。
「誰?」
声を聞くなり、その真っ黒な影は激しい足音を立てて逃げ出した。
「物盗りかな」と姉は思ったそうだ。

そこまではいいが、何を思ったのか姉は反射的に相手を追いかけたのだそうだ。
正直ありえないと思う。
とにかく、姉は追いかけた。

「足音が大きかったから、追いかけるのはさほど難しくなかったよ」
ぽつりぽつりと電灯が灯る中、たぶん男だと思われる影が見え、30mくらい先の大通りまで出たところで急に姿を見失なったのだそうだ。
大きく響いていた足音もぱたりと途切れていた。

仕方なくすぐに家に戻り、きっちり施錠して警察に電話をかけた。
その帰り道、家々の明かりが結構灯っているのが見え、さっきはすごく暗かったのになあと思ったそうだ。
時計を見ると、真夜中だと思うほど暗かったのに、まだ夜の7時半頃だったことに姉は首を傾げた。

10分もせずに警察が到着し、盗られたものは無いが一応現場検証ということになったそうだ。

「あなたは隣室で眠っていたんですね?」

「はい」

「何か物音でもして気づいたんですか?」

「いえ、偶然です。たまたま目を覚まして、隣の部屋に行こうとした時にはちあいました」

「部屋に侵入しようとしていた?」

「はい。窓がちょうど警察官さん一人ぶんぐらい開いてて、そこに手をかけて、片足を窓縁にかけてて、まさに入る瞬間、って感じでしたね」

「犯人の顔とか、服の特徴とかは何か覚えていませんか?」

「体格からいって男性だとおもいます。暗かったので、顔や服は見えませんでした」

「明かりをつけてたから犯人が見えたんじゃないんですか?」

「いえ、明かりのスイッチは部屋の入り口側にあるので、その時は真っ暗でしたね」

「・・・・・・そう、ですか。真っ暗なのに人影だとわかったんですね?」

「はい。真っ黒な影で、体格からいって男性なのは間違いないです」

「手と、足をかけていた場所も見えた」

「はい」

警察官は顔を見合わせ、姉が犯人の手と足が触れたと指した箇所を、ドラマで見るような指紋検出の粉?のようなものをはたいたり、テープを貼ってはがしたりと証拠になりそうなものを集め、その夜は帰ったそうだ。

家に報告の電話が姉から入った時、それこそ俺は飛び上がるような勢いで驚いた。
「何で追っかけたりしたんだよ!!あぶねーだろ!!信じらんねぇー」
『なんでかねー、反射的に追いかけちゃったんだよねぇ』
俺は頭を抱えた。
普段用心深いくせに、何でそういう時大胆な行動をとるんだこの姉は。

後日警察から、犯人はまだ捕まっていないが、確かに指紋が検出されたこと、
男性のスニーカーらしき靴跡も、指摘されたところから土がついた形で確認できたこと、窃盗などは1階が狙われやすいから、特に女性は戸締まりに気をつけてほしいと電話があったそうだ。

「早く捕まるといいよな、犯人」
盆に姉が帰省した時、俺はご愁傷様と姉に声をかけた。
すると、「捕まえるのは難しいかもよ」と不可思議な事に姉は笑ったのだ。

「指紋とか証拠出てるなら、捕まえられるだろ。警察だし」

「言ってなかったことがあるんだよねー」

「?」

「私はお前も知ってのとおり用心深い性格だ。戸締まりには常日頃から注意しているし、まして風邪で弱ってる時に鍵をかけ忘れるなんてヘマはしない」

「え?でも、鍵開いてたんだろ?」

「ガラス戸で割られていないし、確かにあの時は開いてたね。寝る前にちゃんと閉めたけど。ついでに言うと、真夜中の暗さと夜7時半の暗さを間違えるほどおかしい感覚はしてないよ」

「・・・言ってる意味がよくわかんねぇんだけど」

「警察官が不思議な顔をしたって教えただろう?」

「うん」
それはすでに聞いている。

「鍵は閉めていた。外から強引に入られた形跡は無い。その時は夜7時頃だったにも関わらず、真っ暗だと思ったほどの暗さだった。にも関わらず、私は絶妙なタイミングで目を覚まし、ソイツに遭遇した」

「うん」

「ソイツは背格好から男だと思われるし、足音も確かに聞いた。けど、真っ暗だと認識しているなかで、私はどうやってソイツがどこに手をかけていただの、足をかけていただの、そもそも人影をはっきり認識できてたのはどうしてだろうなあ?」

「・・・・・・・・・・・・」

「明るくなった大通りで見失ったのは何故か。うまく隠れたから足音と人影が消えたことは説明がつくとしても、追いかけた時と帰って来た時で、明るさが違うように感じられたのは何故だったんだろうか?そもそも、私は何故そんな説妙なタイミングで目を覚ませた?普通なら押し入られて盗られた後か、鉢合わせて殺された後か、もしかすると女だからもっと酷い目にあったっかもしれないなぁ」

姉は昔から不思議な体験をする人間だ。

「人間にせよ、人間じゃなかったにせよ。暗がりに立った私の『誰?』の一声の方がよっぽど怖かったんだろうなあ。こっちがナニカと間違われたかな?」

不思議な体験をして、それが人間の仕業なのか、それ以外の何かなのかあえて追求はしない。
愉快そうに笑う姉を見つめていると、一言、姉は言った。

「入ってこようとしたのはなんだったのかなー。やっぱ人間の物盗りかなあ?人間が一番怖いってのが私の持論だしなあ。まあともかく」

にこりとお盆棚に酒をお供えする、姉はやぱり不可思議な人だと思う。
「守ってくれた何かがいるなら感謝様々だ」

犯人は、未だに捕まっていない。
姉が遭遇したソレが何だったのかも不明なままだ。


【4つ上の姉にまつわる話だ】➁ 学校の怪談1 プールの第3コース



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