カテゴリ: ホストシリーズ
【ホストシリーズ系】こっくりさん
こんばんは。
先に言いますが全て妄想ですwフィクションですw
特定とか怖いので勘弁してくださいw
先輩と、その幼馴染との話を。
先輩には幼馴染がいる。但し、自称だ。
彼は「広域に指定される粗暴な団体の方々」のパシリをしていた。
彼は、先輩の幼馴染と言うだけあって、性格も激似だった。
いわれの無いバトルに何度も巻き込まれた。
「第一回チキチキどっちが痛いでショー」
「は? 何すか何すかw」
ばちこーん! デコピンとは思えない音。頭蓋骨に伝わる衝撃波。首がw何で首が痛いw
「いったぁー!何すんすかw!?」
「じゃあ次オレー」
びったーん! 何こいつらwホントに人間かよwあ、ミキって音なったwぜってー穴あいたw僕の数少ない貴重な脳みそがw
彼らのデコピンはボールペンをへし折る威力だ。僕なんか両手じゃないとムリだ。
つーか、ボールペンは折るもんじゃねえw
結局、「第一回チキチキどっちのデコピンが痛いでショー」は、僕が土下座することによって平和的解決を迎えた。
いつの世も 弱者が被る 罪と罰 心の俳句w乙ww
話がそれまくってしまった。元に戻す。
「オレ、霊感あんだよ」パシリさんが自慢げに話しだした。
ちょ待てよw先輩の前で霊感なんてオカルティックなこと言わないでw
「そうなんすか? 僕そういうの良く分かんないですw」
「幽霊とかすっげえくっきり見えんのよ」
「へえwそれより先輩。クルマそろそろ車検やばくないっすか?w」
「何? 幽霊信じてるのお前?」
やばいw火がついてるw戦争じゃw大怪獣二匹による戦争が始まるw逃げろw
しかし回りこまれてしまったw
「おお、お前興味あんの?」
「ガキじゃねーんだから、いつまでもそんなこと言ってんじゃねーよ」
「見えねえヤツにはこの辛さが分からねえんだよなあw」
「全然辛そうに見えねえっての。何? 金縛りとかあっちゃうわけ?」
「ばっかwそんなんフツーだってw一週間前なんて落ち武者の霊に殺されかけたもん、ほらこの傷」
そう言ってパシリさんは腕にうっすらと出来た傷というよりミミズ腫れを見せる。
うん。言っちゃ悪いが、幽霊による傷とは思えないw
「これ、刀傷なんすか?」
「刀じゃなくて槍だったな。馬に乗ってたw」
「あのさあ、じゃあ馬の幽霊も一緒だったってこと?」
「知らねーよwそうなんじゃないの? いやあ、ギリカウンターが入らなかったらやられてたねw」
「お前、幽霊殴れんのかよw」
「殴れねーなら、どうやって退治すんだよw」
もう、お互い何を言っているのか分かっていないんだろう。
端から見てると頭がおかしい人たちみたいだ。
あw二人が頭おかしくないみたいに言っちゃってたwごめんw
「じゃあ聞くけど――」
お前エネルギーって言葉、知ってるか?
その落ち武者とやらがいたとして、何百年前の人間だ?
その幽霊とやらが本当にいたとして、そいつのガソリンは一体何なんだ?
エネルギーが切れたらどんな生物も動くことはできねえんだよ。
ほとんどの生き物はタンパク質か糖分で外殻が構成されてるんだけど、幽霊の構成物質はなんなんだよw
言ってみろよw主成分をよwあ、幽霊は動けるのに動物じゃねえのかwわりいわりいw
もし幽霊なんてモンが本当にいたとしたら、ノーベル賞物だよw
だってほぼ永久機関だろw何百年前の人間の思念がその形態を変えず、未だに存在し続ける。
しかも、しかもだ。お前に傷を負わせるんだもんなあ。物理的な干渉が可能なわけだ。
電力会社にでも売り込めば、億万長者間違いないぞ。
原子力エネルギーなんかよりよっぽどクリーンだw
国中、いや世界中の環境保護団体がお前を支援してくれるぞwよかったなw
ホントにいるなら何で誰も研究しねえんだろうなあw
幽霊信じていない俺にはワカンネエヨw
「はいはい。大学生は賢う御座いますね。だがな――」
誰がそんな言葉で納得するかよ。
あのな、幽霊がいないって言ってるヤツは根本が間違ってる。
メリットだけを探そうとしてんだ。
こんな話知ってるか?
死後の世界が「ある」か「ない」かをギャンブラーが賭けたんだとよ。
そいつは「ない」方に賭けた。
だけどな、「ある」方にかけた方が「ない」方にかけた方よりもはるかに得なんだ。
なんでか? それは「ある」方にかけて外れても失うものがない。ただ死ぬだけだ。
だが、「ない」方に賭けてみろよ。「ある」場合は負けて、「ない」場合もただ死ぬだけなんだ。
元々得るものがマイナスならマイナスが少ない方がハッピーなんだよ。
お前の大好きなリスクヘッジってヤツだwまた一つ賢くなったなwおめでとよw
もちろんメリットもある。いつか昔に死んだ人間に会えるかもしれないという希望があるだろ?
希望が生活に必要ないのか?いるならハッピーそれでいいじゃねえかw
人間に生まれたくせに、そういう感傷を否定することがそもそも間違ってんだよw
幽霊を信じることが悪いって意見のほとんどは詐欺とかの霊感商法だろ?
それは騙す方が悪いんであって、幽霊そのものが悪いって否定し切れてねえんだよ。
それともアレか? 殺人事件に使われた包丁を作った会社は、訴えられなくちゃいけねえってのかw
「「おい、マサシ。どっちが正しい?」」
うーん。よくペラペラと口が回るものだなw
この人たちに見つめられて言われると支離滅裂なことなのに、どちらもそれっぽいことを言っているように聞こえる。
そしてどちらか一方に肩入れすることは死を意味する。もちろん僕の死だw
「そうですね。でも正直、いてもいなくてもどっちでもいいじゃないですかw」
「そういう問題じゃねえ!」「こいつムカつくんだよ!」
ああ、ケンカしたいだけなんですねwわかりますw
そんじゃ俺たちも賭けるか? そう言って先輩はとある名称を口にする。
この界隈では結構有名な「お風呂」屋だ。
「そこの子、知り合いなんだわ」
「やりますねwナンパですか?」
「ナンパじゃない。この前、俺、警察呼ばれたろ?」
「ああ、ホームレスのアレっすか?」
「そう。ギャラリーの中で一番最初に警察に連絡してくれたのがその子。風俗嬢って何か優しいよな。で、そのきっかけで仲良くなった」
「話が見えねえ」
「その子、自称見える女なんだよ。で、お前の言う零能力? 霊能力? それで幽霊の特徴を当てようぜ。お互いが同じこと言ったなら、キャバクラでも何でもおごってやるよw」
「おおwのったwオレの力見せてやるよwクリュグ出す店知ってんだわw預金残高確認しとけやw」
意外なことにパシリさんは乗り気だった。
こういう自称見える人は、他の見える人との接触を嫌うものだと思っていたからだ。
それでその話は一応の決着となった。
こういうノリだけのケンカというのは得てして自然消滅するものである。
大体一晩たつとケンカの存在自体が無かったことになることしばしだ。僕はそう思っていた。
二週間も経ってから先輩から呼び出しをもらう。非常に珍しいことにその電話は昼にあった。
「おう。あれやるぞ。幽霊の賭け」
「あれっすかwホントにやるんですか? 僕今日バイトですよ」
「何か今日じゃないといけないんだと。ツキがどうとか。クルマが電気で走る時代に何言ってんだよな。運に左右される現象って何なんだよ」
「あー、僕も行かなきゃダメですか?」
「別に来なくても良いけど?」
「さーせんwバイト当日休みは罰金なんで、今日パスで」
「……ベツニコナクテモイイケド?」
「楽しみだなぁ……何時でしょうか……はぁ……」
「七時だとよ。もし遅れたら罰き、バッキンガム宮殿なw何言ってんだ俺w」
ホントに何言ってんだこの人。さては昨日テレビでロンドンの特集でも見たな。
この催しも罰金で済ませてくれるのならば、全く問題なく休むのだが。
七時。15分も前に来たのに結局遅刻したのは先輩たちの方だった。
彼ら三人は連れ立って集合場所に来た。
「こんばんわぁサオリでーす」
先輩の隣にいる小柄な女の人が「自称」見える人なのだろう
オカルトのオの字も連想できない。非常に露出が多いパステルな夏服を着た女の人だった。
スカートの裾がヒラヒラと心許ない。
僕とサオリさんで自己紹介と自己アピールを済ませる。
見える人が二人もいるという状況は初めての経験だ。
そして、胸の谷間にタバコとライターを挟んでいる人も初めて見たw
なにこれwツッコミ待ち?wwデカメロンwww
「それでこれからどうするんですか?」
「ああ、何か二人の話聞くと、必ずユーレイが出る場所ってのは案外少ないんだと。だから、こっちがユーレイ呼び出すってのが一番確実なんだとよ。つーわけで今からお前の家まで行くぞ」
「は?僕の家!?」
「だって俺とパシリの家だとどっちかが細工出来るだろ?女の家に野郎三人行くわけにもいかないし、で、お前の家に決定」
最悪だ。だから僕を呼んだのか。
「だったら僕、家で待ってたほうが良かったじゃないですか?」
「お前の面白いリアクション見たいからに決まってんだろw?なぁw?」
「お前www分かってんなぁw」
くそ。こんな時だけ息ピッタリだ。
結局逆らえるはずもなく一行は一路僕のマンションへ。
「何この水槽。お前、魚飼ってんのかよ。何これ? エビ? 食いごたえがねぇサイズだなw」
「食べないですよw魚はいません。孵化したばっかりとか脱皮後にエビ食べちゃうんですよ」
「……生き物いるのか。まあそんぐらいなら大丈夫かな」
「何かまずいんですか?」
「大丈夫大丈夫w」
「で?これからどうすんだ?」
「えっと、パシリさん、何か呼び出す方法知ってる?」
「サオリちゃんはこっくりさん以外で何か知ってんのあんの?」
「や、知らないけど」
「じゃあこっくりさんでいんじゃない?」
こっくりさんのやり方は今更書くまでもないだろう。
筆や墨汁など持っていないので、筆ペンとロウソクを買いにコンビニまで走る。
帰る途中に言ってくれると非常に助かるのだが。
また家から出るのは嫌なので、ついでにA4サイズのコピー用用紙を三枚貰う。
家に帰ると先輩とパシリさんが喧嘩をしていた。
「氷食ったぐらいでガタガタ言ってんじゃねーよ」
見ると、僕の家の食料や飲み物が机の上に散乱していた。
ああ、僕のハーゲンダッツ・抹茶クリスピーサンドが……。
「二人ともやめなよぉ。ほらマサシ君帰ってきたよ」
そういうサオリさんの言葉を聞く二人。僕の方を血走った目で見るパシリさん。
一方、白けた目で僕を見る先輩が僕に言う。
「おい、マサシやめだ。こんなの賭けにならねえ。何が幽霊だバカバカしい」
「なんだそりゃ? 負けを認めんのか?」
「ああ、もうそれでいいよwちょっとでも期待した俺がバカだったわ」
「これなーんだ」
そう言うとパシリさんが超人気格闘技(?)戦のチケットをヒラヒラと見せびらかす。
「こっちが負けたときのこと言わなかったじゃんwオレが負けたらコレやるよ」
パシリさんがそう言うと先輩は大人しくなり、てきぱきと机の上を片付け始めた。
何なんだwあんたw格闘技ファンなのかよw
賭けの内容は、こっくりさんで霊を呼び出す→霊が来たと二人が認めたらその霊の情報を自分の見える範囲内で出来るだけ細かく書く→先輩と僕が答え合わせ。
ルールは、二人が諦めるまで。笑えねえw笑えねえw笑えねえよ……勘弁してくれ。
配置は僕の右隣にパシリさん、正面がサオリさん、左隣に先輩。
最初のターン。こっくりさんこっくりさん。
「何か白々しいなwこの歳でこっくりさんとかw」
「懐かしいですよねw」
「アタシ、昔、好きな男子の名前ばらされたよwコレでw」
「おいw真面目にやれよw」
「その顔でクラス委員長みたいなこと言うなよw」
もちろん数回で何かが出るわけがない。何度も仕切り直してこっくりさんと唱え続ける。
「ちょっとトイレ行って来るわ」
パシリさんがそう言って部屋の電気を点けて一時休憩をとった。
ロウソクは細いものなので、燃え尽きそうだった。
新しいものに交換し、パシリさんを待つ。
「そうそう簡単に幽霊なんて呼べないよぉ」
「それはそうっすねw」
「もういんじゃねーの? 飽きてきたわ」
「まあまあ、もうちょっとやりましょうよw」
「そーだよ。もうちょっとしよーよw」
こっくりさんこっくりさん
「……まだだな」
こっくりさんこっくりさん
「……まだ」
こっくりさんこっくりさん
「……」
ロウソクで仄かに赤く照らされた部屋の中。
ロウソクの揺らぎで部屋の中がゆらゆらと揺れているように見える。
こっくりさんこっくりさん
エアコンを切っているので、段々蒸し暑くなってくる。
蒸し暑い部屋の中、男女が四人でこっくりさん。中々にシュールな光景。
ロウソクは燃え尽きそうだ。次のターンに行く前に交換しなければ。
ロウソクの揺らぎが強くなる。揺らぎ? 風はない。冷たい汗が背中を伝う。嫌な予感。
「……来たぞ」「来た」
パシリさんとサオリさんが小声で囁く。
その声に反応するように、ロウソクが燃え尽きる。
最後に煙を一吐きしたロウソクは、じりと音を立てて消える。
辺りは暗闇になる。誰もしゃべらない。
ひた ひた ひた ひた
裸足で何かが歩く音がする。
冷たく、湿りを感じさせる音。
ひた ひた ひた ひた
音を立てないように気をつけて歩いている、そんな音。
視界が奪われた時の耳の感度は高くなる。
今はそれがアダとなる。
ひた ひた ひたっ
足音が極近くで止まる。もちろん僕たち四人はこの場にいるはずだ。
四つの指が未だ机の上にあることがそれの証明になる。
僕の真後ろに誰かがいる。誰かの視線を感じる。うわん、と耳鳴りがする。
汗が背中に線を描く。ぞくり。
しばらくの間誰も動かない。衣づれや呼吸さえも聞こえない。
こっくりさんこっくりさんいるのでしたらへんじをしてください
10円玉がゆっくりと動くことを指先だけで感じる。
暗闇が文字を見ることの邪魔をする。
何と書いているのか、それは分からない。
こっくりさんはいまどこにいますか
ぐうっぐうっ、と二回大きく動く。
こっくりさんはおとこですか
ぐうっ、と一回動く。
こっくりさんはおんなですか
ぐうっ、と一回動く。分からない。それでは性別がどちらか分からない。
こっくりさんのなまえはなんですか
ぐうっぐうっぐうっ、三回、三文字か。
こっくりさんはせがたかいですか
ぐうっ、と一回。
10円玉が力強く動くたびに得体の知らないものに対する恐怖が僕を包む。
僕の後ろから腕を伸ばして、机の上に指を置いている。想像すると恐ろしい。
「こっくりさんは死んでいますか」
先輩が急に口を開く。
ぐうっと、一回動くと同時に、その動きが激しくなる。
ぐるぐると10円玉が動き続ける、止まらない、止められない。
「こっくりさんは死んでいますか」
先輩が質問を繰り返す。
動きはしつこく同じ場所をなぞりながらも右へ左へと滅茶苦茶に動く。
先輩の低い声が部屋に重く響く。
「こっくりさんは死んでいますか」
何の意図があるのかが分からない。ますます動きが強くなる。
動きが激しくなる。腕が痛い。指先を離してしまえば楽になるかも――
「こっくりさんは死んでいるんですよね」
今度は細かく速く右に左に動く。はい、のところを何度もなぞっているのだろうか。
「死んでいるなら、何でここにいるんですか」
ピタリ。10円玉が止まる。
「死んでいるのに、何でいることができるんですか」
10円玉は動かない。
ひた ひた ひた ひた ひた ひた ひた――
足音が遠ざかっていく。耳鳴りが徐々になくなってくる。
しばらく誰も動かなかった。少なくとも僕は動けなかった。
サオリさんが終わりの儀式をした後に電気を点ける。
「いやぁすごかったな今のw」
「ホントwすっごいはっきり見えたよw」
「何言ってんすかw真っ暗で何も見えないっすよw」
「いや、かなりはっきり居たぞw」
「うんw」
「そんじゃあ、コレにその特徴書いてよ」
二人は今しがた見た不思議な現象の主の特徴を書き始めた。
パシリさん
背の高い女、帽子、濡れている、片足のヒール、裾の汚れたワンピース、猫背。
サオリさん
小学生くらいの男の子、坊主頭、ホクロ、垂れ目、名札かタグのついたセーター、顔色が悪い。
一致するところが一つもない。これは……。
「つーわけで、賭けは俺の勝ちだなw」
先輩はパシリさんから奪い取ったチケットを皺が出来ないように大事そうに財布に入れた。
「待て待て! ありえないだろ。サオリちゃん何コレ? あんなにはっきり見えたのに?」
「それはこっちのセリフだよ。ホントに見えたの?」
「どっちでもいいよw幽霊なんていないからw」
「もう一回やらせろ。今のはおかしいって。他の人呼んでこい」
「ムカツクー。アタシちゃんと見えたもん。嘘なんてついてないもん」
やめてw夜に騒ぐと大家さんに怒られるwもしくは通報される(二回経験あり)w
結局、勝負事のルールは絶対、という先輩の一言で、チケットを手に入れた先輩だけが得をするという結果となった。
二人が諦めるまで、というルールがあったはずだが僕は黙っていた。
バイトに間に合いそうな時間だったので、僕はサオリさんに頼み込み同伴と言う形で出勤。
賭けに関係のない僕が一番損をするという状況を回避した。
先輩たちはケンカをしながらどこかに行った。飲みにでも行くのだろう。
家に帰り部屋の乱雑さに辟易した。汚した人間は勿論先輩たちで、片付けなければならない人間は僕だ。
明日に持ち越すことの方が面倒だなと思い、のろのろだらだらと部屋を片付け始める。
四つのコップ。ハーゲンダッツの残骸。ポテトチップスの殻。タバコの灰。机の紙。
まとめてゴミ箱へ。
ふと見ると、水槽の様子がおかしい。
水草がメインのアクアリウムだが、草が全て枯れている。なにこれ?
pi prrrr
「……おぉ。今何時だよ。……こんな朝早くから何だ?」
「パシリさん! 水槽の中が変なんですけど! 始める前に生き物がどうとか言ってましたよね?」
「おいおい、いきなりだな。ああ、やっぱ死んじゃってた?」
「全滅ですよぉ。結構キレイにしてたのに」
「こっくりさんやる時は10円玉に指をつけてないヤツは狙われんだよ。人間じゃないなら大丈夫かなあって思ってwわりw」
「そんなぁ、今までの苦労が……」
「まあそんな落ち込むなよwエビくらいオレが買ってやるよw」
「エビ? うわああああ! レッドが! チェリーが! ヤマトも! ……ヤマトはいいや」
「そんなキャラだっけお前wエビじゃなかったのかよw」
「いや、エビもです……結構手に入れ辛いグレードのも含めて全部……」
「いくらぐらいすんの?」
「一番高いので一万円くらいです……」
「はぁ!? お前wバカかw伊勢エビのが安いわw」
こんな不幸があったのにパシリさんは散々馬鹿にして電話を切った。ひどい。
部屋の片付けなんて知るか。もう勝手に汚くなればいいんだ。
Prrrr先輩だ。
「おいw聞いたぞwクソ高いエビちゃん死んじゃったんだってなw」
「もういいんです。もう……」
「俺が買ってやるよw一万くらいなら」
「え? 先輩。太っ腹ですね。でもお金じゃないんですよ。気持ちだけいただきます」
「まあとりあえず、朝飯まだだろ? こっち来いよw」
昼前に先輩と会うのは珍しいことだ。幹線道路上によくあるGのつくファミレスに集まった。
「何でも頼んでいいぞwおごってやるw」
「先輩……。ありがとう御座います」
「いいってwいいってwハーゲンダッツうまかったし、昨日は迷惑かけたからな。侘びと、お礼も兼ねてw安いもんだこれくらいw」
「そんな、気にしなくてもいいですよw……お礼?」
「おおwダフ屋にチケット売ったら、財布パンパンw」
「先輩。それが目的だったんすか?」
「俺でも知ってるチケットだったから高く買い取ってくれるとは思ったけど、あんなに高いとは思わなかったw男の裸のガチンコ見て何が楽しいんだろうなw」
先輩、それ、色々な人たちを敵に回しそうです。
「そうっすか。良かったじゃないですか。僕のエビたちも浮かばれます」
「そうだなwまあ集団ヒステリーの典型みたいなのが見れていい経験にもなったわw」
「でも先輩も酷いですよねw僕たちが幽霊呼び出しておいて、何でいるの? って酷すぎですよw」
「ああ、どういう構造か知らんけど、よく出来たゲームだなあれは」
「こっくりさんですか?」
「おお。人間がああいう状況下に置かれると、見えもしないものが見えちまういい例だ。ストレス起因なのか、もしくは暗示なのか」
「え? もしかして先輩にも見えてたんですか?」
「そりゃ見えるだろwお前見えなかったの?」
「いや、後ろに何かいるなあ、とは思ったんですけど」
「後ろ? ふーん。こんな話知ってるか――」
学生を対象にこっくりさんの実験を行ったんだと。例のごとく質問したらしい。
ある程度の質問が終わり、その後、被験者には知りようもない質問をしたんだ。
結果としてこっくりさんが答えたのは外ればかり。
昔のことから現在のことまで色々な質問をしたが、答えは全て外れ。
結局こっくりさんは事前情報ありきの集団ヒステリーという結論に。
もっと噛み砕くと、こっくりさん自体が有名すぎるために、無意識の筋肉の動きを意味が繋がるように被験者全員で動かしてしている、ってこと。
どうしてもああいう毛色のイベントは何かが起きて欲しいという期待を持ってするものだからな。
もちろん今回のは俺も含めてみんな何がしかの期待をしていただろう。
あの質問はあいつらや俺たちが分からないものにしただけ。
で、お互いの証言の修正を行わせないためにアンケート型の方法採ったんだわ。
結果、見事に外してて、ちょっと笑えたけどなw
前にも言ったが、幽霊がいることと幽霊が見えることは違う。
見えるのは錯覚や幻覚、または幻聴の類だ。
見えたとしてもそういう存在がいるわけないんだ。
いたら人間だけでなく様々な種類の何億・何兆もの幽霊がいなきゃおかしいだろ。
幽霊になるものとならないものが選り分けられる理由が分からないだろ。
統一感が全く無い現象は再現できないんだ。
科学が宗教と言う意見もあるが、科学のいいところは全ての人間が行うと、全ての結果が同じであるというものだ。
霊能者だか何だか知らない者しかその存在を確認できないだなんて、存在がないと断定しても全く不都合がないんだよ。
で、実際に俺たちにも同じような集団ヒステリーが起きたわけ。
まあ、コレ見ろよ。
そう言って先輩はこっくりさんの時にアンケートとして使った紙を出した。
「まだ持ってたんすかw」
「いや、おもしれえんだってwこれ」
「何がですか?」
パシリ
『背の高い女、帽子、濡れている、片足のヒール、裾の汚れたワンピース、猫背』
サオリ
『小学生くらいの男の子、坊主頭、ホクロ、垂れ目、名札かタグのついたセーター、顔色が悪い』
何だ? 共通することなどないと思うが。
「気付かないのか?」
「背の高い女と小学生の男の子じゃ全然違うじゃないですか」
「そこじゃねえ。こいつらのカッコだよ」
何だ? 女は帽子。小学生は坊主。濡れている? 顔色? 分からない。
「すみません、ちょっと分からないです」
「想像しろ。なぜ、パシリは身長や片足のヒールやワンピース、猫背と答えたか。想像しろ。なぜ、サオリはホクロや垂れ目、顔色を答えたか」
「何ですか一体?」
「こいつらには共通項がない。なぜこうもはっきり違うのか。あいつらの様子だと見えていなかったわけではなさそうだしな」
「引っ張らないで下さいよ」
「分かったよ。距離感だ。パシリは女の全体像、遠くにあるものの特徴を言っている。サオリは主に顔や上半身の特徴、つまり近いものの特徴だ。分かるか? こいつら別々の何かを見ていたんだよ」
「幽霊が二人!?」
「幽霊なんかいないが、お前のもカウントするなら三人以上だなw」
「じゃあ先輩には何が見えたんですか?」
「ぎゅうぎゅう」
「は?」
「満員電車の中にいるみたいだった」
自分の部屋に帰るのが嫌になったことは言うまでもない。
【関連記事】
【ホストシリーズ系】四角い部屋
こんばんは。
先に言いますが全て妄想ですwフィクションですw
特定とか怖いので勘弁してくださいw
バイト関係の話を一つ。
バイト先の仲間及び上司と肝試しをすることになった。
常連のお客様一人とそのご友人二人。
僕とユウキ(源氏名)、そしてガクト(仮)さん。
女二人、真ん中の人一人、男三人、計六人。
名目上はお客様へのアフターサービスと新しい顧客開拓の準備行為。
売上が急激に下がったのがこのようなサービス残業をする理由だ。
不況を理由には出来ない。
ある時期を境にゴソっとお客様が来なくなったのだ。サービス低下の証拠だろう。
潜在的な顧客を含めても、お客様三人に僕たち三人を当てるのは少々過剰だと思う。
だが、常連のお客様は指名料ダントツのガクトさんを二時間以上拘束できる相当な太客。
なのでそのご友人にも期待をこめての放出なのだろう。
しかし正直言うと、ナンバー1であるガクトさんへの接待色が強い。
お客様三人も「あれ」が目的だ。
つまらない話だろうが、大声で笑う。自慢話は褒め称える。
わざとらしく、大袈裟ぐらいが丁度いい。
外面、男女が六人で和気藹々。
内面、各人の思惑で虎視眈々。そんなところだろう。
「おい、リョウ。それお姉ちゃんマンションだろ?」
焚き火越しにガクトさんが僕の源氏名を呼ぶ。
照り返しで元々深い彫りの顔立ちが、まるでマネキンのようだ。
「流石! これ、僕の地元の話だから勝算あったんですけど。マジ何でも知ってますね」
「お、そうなのか。何度塗りなおしても赤い文字で浮かび上がるんだってな。TVで見た」
「なにそれ~。怖~い」
男ではないお客様予定の一人が黄色い声をあげる。全く怖がっているようには見えない。
食虫植物のような凶悪なマスカラに彩られた目で、ガクトさんを見つめる。
どうやら既にガクトさんのことを気に入ったようだ。言い忘れたが女でもない。
ユウキが次の話に移る。
「じゃあ、ガクトさん、四角い部屋は?」
「あ。あーし、聞いたことあるかもぉ。
四人が遭難して寝ないようにして、助かるのでしょ」
アピールするのはかまわないが、それではただの良い話だ。
「山岳部とかワンダーフォーゲル部だかの奴らが、遭難から命からがら帰還。
実は、その生き残った方法に重大な欠陥があることに後で気づく、ってヤツか。
有名な話。基本だな」
「知ってますねえ。なんでそんなに詳しいんですか?」よいしょ、よいしょ。
僕の言葉にユウキが被せる。
「違います、そっちじゃないです。マンションとかホテルのペントハウス。
エレベーターから直結する部屋あるじゃないですか。
あんな感じで、エレベーターで四角い部屋に直結するらしいんす。
聞いたことありますよね?」
「はあ? 部屋なんて大概四角だろ?」
「俺も詳しくは分かんないんすけど、その部屋は完全に四角なんですって。
やっぱり知らないんすか。…俺1点ゲットですね」
「何だよ、その完全な四角って。意味わかんねえよ」
確かに意味が分からない。ただ四角い部屋に行くことのどこが怖い話なのか。
恐らくは、元々意味のないものに意味を与える行為を楽しむ類の怪談なんだろう。
「じゃあ次、私の番ね。友達から聞いた話なんだけど――」
浜辺で一斗缶の焚き火を囲みながら話していた。
百物語のあとに心霊スポットに行くのが肝試しの王道だ、とガクトさんの案。
逆らう理由も力もない。
最初は百物語のつもりで話していたのだが、思いの他ガクトさんが怖い話を知っているため、徐々に趣旨が変わり、ガクトさんの知らない怪談を探すゲームになっていた。
今のところ、ユウキの話以外は知っているようだ。
「あぁ、それ知ってる。足つかまれるオチ?」
「何で知ってるの、私もうないよ。ホントにガクト物知りだね」
百物語と言っても、百話も話すつもりがないのは全員理解している。
適当なところで心霊スポットの探索に行く予定だ。
本当にやるとしたら、六人で百話、一人当たり16、7話用意しなくてはならない。
普通なら知っている話など2、3話がいいところだ。相当難しい。
百物語を終えた後には怪異が起こるというのも、こういった理由からなんだろう。
肝試しは仲間内での遊びだ。
肝試しをするのに集まる仲間など多くても十人いないくらいだろう。
一人10話も話せないから、百話も話せない。結局、百物語は終われない。
終わることが発生する条件の怪異は当然見ることは出来ない。
秒速で落下する流れ星に三回も願い事を唱えられないのと同じだ。
肝試し用の心霊スポットは、随分前から放置されている廃ホテルだった。
経営苦で自殺した社長が出るそうだが、恐ろしいのはむしろ、壁に落書きに来る暴走族や、風雨に晒されたビルの耐久性だろう。
いっそう仲良くなった様子のガクトさんとお客様たちを彼のマンションに送る。
どうか明日からウチの店に通ってくれますように×3。
流れ星ではないが、一応願っておく。念のため。
僕たちも帰路に向かっているときにユウキが切り出した。
「なあ。さっきの四角い部屋の話なんだけど」
「ああ、あれは良くねえな。何なのお前、空気読めよ。分かってるだろ?」
「いや、ガクトさんなら大丈夫かと思ったんだよ。ダメだったけど。
で、四角い部屋の謎解きに攻め込もうぜ、今から。チャレンジだ! リベンジだ!」
あっついなあ。リベンジって意味分かってるのだろうか? スポンジじゃねーぞ?
「何お前、マジネタなのかよ? ガキじゃねえんだからさぁ」
「マジネタも何も。まさかお前も? 四角い部屋知ってるだろ?」
「ガクトさんが知らないネタ、僕が知ってるわけないだろ。有名なのかそれ」
ユウキが話した四角い部屋のルールはこうだった。
エレベーターで直結部屋に行った者しか「完全な四角」の意味は分からないのだが、
「完全」の意味が分かると意味が分からなくなる。
四角い部屋に行くことは誰でも出来るのだが、エレベーターの最大積載量を越えることは出来ない。
必ず一階からスタート。
エレベーターのボタンを下から上まで順に押す。
点灯を確認して、その後上に向かう。
止まる直前に非常ボタンを押す、そうするとランプが点灯したまま次の階に向かう。
それを最上階まで繰り返す。全てのボタンが点灯した状態で最上階へ。
最上階まで行けるとそこは「完全な四角い部屋」だという。
途中で人が乗るなどの邪魔が入ったり、階数ランプが全て光っていなければ失敗らしい。
「エレベーターに非常ボタンなんてあるの?」
「ははっ、俺も似たようなこと聞いたわ。
非常ボタンってよりも非常マイクって言った方がよかったな。
あれで管理人に繋がるんだよ」
「ああ、あれのことか。緊急停止用のボタンかと思った」
「エレベーター緊急停止して何の得があるんだよ。
むしろ何かあったら急ぐだろ。面白いこと言うな」
非常ボタンを押すと、外部のメンテナンス会社に繋がるものとビル内の管理人に繋がるものがある。
今回行くビルは管理人に繋がるタイプのものらしい。やけに詳しい。こいつ。
「お前、既に下見済みかよ」
「まあ、そんな感じ。途中で帰ってきたけどな」
路上に駐車し、歩くこと五分。
「着いた。ここ」
「え? コレ? 全然普通のビルじゃん。死ぬほどぼろいけど。
電気は点いてるけどホントに人住んでるのか」
「あの潰れたホテルよりはマシだ」
ユウキは先導して入り口へとずんずん進む。見たところ十階程度のマンションだ。
外灯からの距離が離れているせいか、建物の壁面が薄汚れた灰色をしているせいか、
マンション管理会社が電気代をケチっているせいなのか分からないが、いやに暗い。
「これがそのエレベーター」
ボタンを押すと、チンという音が鳴り、すぐさま扉が開いた。
しばらく誰も乗らなかったのか、中にある蛍光灯がチカチカと瞬きながら点く。
「あっそ。んで、どうするの?」
「まずは一階から十階までの階数を全部押す」
何度やっても全部は点かない。
若干飽きてきている僕とは正反対にユウキは必死だ。
当たり前だ。今一階に止まっているのだから、一階のランプだけは点かない。
「なあ、謎解きしたいんだろ? 取り合えず一番上行こうぜ。それで解決するかもだろ?」
ユウキは僕の言葉を聞き、口をポカンと開け、呆けた。
「お前、頭良いな」
誰でも考え付きそうなものだが、お馬鹿なユウキ君は考え付かなかったようだ。
こいつジャニーズの高学歴アイドルに似てるのに天然だったのか、知らなかった。
しかし、頭が良いと言われてちょっと嬉しくなる僕もまた、頭が悪いのだろう。
最上階に着く。居住用の部屋のドアが通路の壁に均等に並んでいるだけだ。
天井の蛍光灯がパチパチ音を立て切れかけているのが少し怖い。
だが、通路が四角くもなければ、トワイライトゾーンに繋がっているわけでもない。
きっとこのエレベーターの怪談を知る者は、一階のエレベーターで悪戦苦闘して先に進めず……。
そうか、何となく分かった。
「なあユウキ。俺、分かっちゃったんだけど」
一階に戻り、小学生のようにエレベーターのボタンを連打するユウキ。見ていて滑稽だ。
「うるさい。今忙しい」
イライラが伝染する。冷たく言う一言に、カチンと来た。
「ねえもう帰っていい? 僕疲れちゃったよ。主に精神面で」
「はあ!? ふざけんな! 俺と一緒に謎解くって言ったじゃねーか!」
いや言ってないし。何熱くなってんだよ。
「もういいよぉ、飽きたよぉ」
「帰るんなら帰れよ! マジむかつくわリョウ。お前ぜってえ後悔させてやるからな」
おお、こわ。それじゃあお言葉に甘えて帰らせていただきます。
クルマに乗り込んだのはいいが、帰りアイツ足どうするんだろ? という素朴な疑問と罪悪感が生まれた。
どうやら先ほどは僕も熱くなっていたらしい。売り言葉に買い言葉だ。
ちょっとだけ待ってやるか。
prrrrr
「もし。リョウ今どこだ?」
ガクトさんからだ。
「お疲れ様です! まだ近くにいます。何かありましたか?」
「ちょっとお客さんの相手してくれね? 俺もう寝たい」
「了解です! すぐそっち行きます」
「ユウキは帰ったのか?」
「今ちょっといないですけど、連れて行きます」
「頼む。早めにな」
先ほどのクサクサした気分とは一転、楽しくなってきた。
早くユウキを連れてピンク色のパーティーへと行こう、そんなことを考えながらユウキへと電話する。
「もしもーし、まだやってるのか? ガクトさんからお呼び出しだ、行くぞ」
「……マジかよ、分かった。……あ! 点いた!」
「え? 点いたの? でももうダメ。ガクトさんの言うことに逆らうなんて健全な男子の僕には出来ないわ」
「あとちょっとだけ待っててくれ。頼む」
「ムリ。早くこっち来い」
「ちょっとだから、すぐに終わる」
「あのさあ言いたくないけど、それお前ハメられてんだよ。
元々成功するはずないんだ。その怪談は――」
その怪談のカラクリを教えてやった。
一階のボタンが点灯した理由は分からないが、普通は到着階に着いたエレベーターのボタンの点灯は消える。
それが到着した合図だから、むしろエレベーターの設計上そうならなければならない。
全てが点灯した状態でどこかの階になどいけない。
少なくとも一つはボタンの光は消えている状態になっている。
動いている最中に押せば出来るが、それだと怪談のルールを破るし、そもそも降りるべき最上階に着いたら消えてしまう。
だから、最初から出来ないことを前提とした怪談で、出来たら不思議な何かがあるかもっていうオチ。
「…不思議な何かって何だよ」
「知らないし。何かがあるっていうのを考える怪談なんだから、答えはないんだよ」
「じゃあ、シュンさんはどこに行ったんだよ!?」
「誰だよそれ。ほら、ガクトさん待たせてんだから早く」
「っざけんな! 何で誰も覚えてねえんだよ!? ナンバー2のシュンさんだよ! 俺の派閥の親だよ!!」
「はぁ? 何言ってんだ? ナンバー2はマキさんだろ? 結構前から」
尋常でない取り乱し方に不安を感じた僕は、マンションに向かう。電話は繋がったままだ。
「大体、お前らに四角い部屋の話をしたのもシュンさんだろぉが!?
四月に、ガクトさん派とマキさん派とフリーのお前を含めて、ノルマ持ち合いの会議しただろ!?
その席の雑談で四角い部屋の話、しただろ?」
「おいおい落ち着けって。四角い部屋って今日初めて聞いたぞ」
確かに四月に会議をした記憶はある。
派閥間でノルマを分配し合うことにより、ノルマを達成できないという給金に影響を与えるリスクを減らすのだ。
もちろん、提供できる余裕ノルマがある派閥の発言力が強い。
そしてそれは大体の場面でガクト派だったりする。
派閥間ではこれで貸しを作ったりする。派閥の親は、派閥管理のためにも使う。
季節的理由で避けられない人員変動や、予見できない急な用事の時が重なった時に特に役に立つ。
「じゃあ何で今日俺がガクトさんと一緒にいたのか、説明できるか?」
「それはお前……」
何でだ? そういえば何でユウキはガクトさん派になったんだ?
揉め事起こしたわけでも、拾われたわけでもない。
俺は良い。各派閥に影響力のある強力なコネを持っているから基本的に派閥間移動はフリーだ。
ちょっかい出してくるヤツは少なくとも表立ってはいない。今日のような催しも招待される。
しかし、ガクトさんの派閥でそうランクが高くもないはずの、コネもないユウキが、
何故プライベートに近いこんなイベントに参加できるのか。確か、確か、確か。
「答えられないのか? 教えてやるよ。それが四角い部屋の謎だ。
俺はガクト派になった覚えはねえ。入店してからずっとシュンさん派だ。
だけど、今の俺は何故かガクト派だ。説明できる理由がねえ。
それを誰も不思議に思わねえ。
矛盾だらけなんだよ。シュンさんが四角い部屋に向かってから。
だから俺も行く。行って四角い部屋の謎を解く」
「おい、聞いてるか? リョウ? 今八階だ。もうすぐシュンさんを助けられる。よっと、これであと一階」
「待て、言ってる意味が分からない。取り合えず戻れ、もっとちゃんと説明してくれないと分からない。
シュンって誰だ? 何でその人が四角い部屋に行くことになったんだ?
何でお前がシュンって人が四角い部屋に行ったこと知ってるんだ?」
「もうちょっと待ってろ、もう着く。よし」
「おい!? 止めろ!!」
「……くそ、完全ってこういうことかよ。確かにカンゼ――」
「おい!? 返事しろ! 冗談にしてはタチがわりぃぞ!!!」
ユウキの電話が切れた。いや、切れていない。
電話を掛けてすらいない。音がなくなっただけだ。
通信が切れた後の音や、通話時間を示すものもない。ただの待ち受け画面になっている。
リダイヤルのページを開いても、僕が最後に電話を掛けたのはガクトさんになっている。
掛かってきたのもガクトさん。
電話帳にもメール受信・送信欄にもユウキの名前はなかった。
一体これは何なんだ。
マンションに到着する。急いでボタンを押す。
チンと音を立てドアが開くと、中の蛍光灯が、点いた。
エレベーターには誰も乗っていなかった。
prr
ガクトさんだ。
「はい」
「おう、ついでに箱ティッシュとペリエ買ってきてよ」
「すいません。ユウキと連絡が取れなくなってしまって」
「ん? ユウキ? 誰?」
「え……。いや、今日一緒に……」
「何? 遅いと思ってたら知り合いにでもあったのか。
いーよいーよ。友達は大切にしな。
だけど上司にもちょっぴり優しくしてくれると、睡眠時間と共に君への感謝が増える」
「ガクトさん、あの、シュンって人知ってますか?」
「誰? 同業?」
「いや、知らないならいいです」
「じゃ、頼んだ」
「すいません! あと一つ! 四角い部屋って知ってますかっ!?」
「おいうるせぇって。眠いんだから耳元で叫ばないでくれよ。
四角い部屋? 部屋なんて大概四角だろ? なぞなぞ?」
「いや、完全に四角い部屋です」
「何だよ、その完全な四角って。意味わかんね。いいから早く来いよ、お待ちかねだぞお姉さま方」
その声と共に、リョウちゃ~ん、と甘い声が複数響く。
しかし、心は躍らなかった。
【関連記事】
【ホストシリーズ系】迷子
こんばんは。連日すいません。
会社おやすみなんで、調子に乗ってもう一個行きます。
先に言いますが全て妄想ですwフィクションですw
特定とか怖いので勘弁してくださいw
先輩と車で旅行に行った話をします。
僕にバイトを斡旋してくれた先輩と夏休み旅行に行きました。
当時、念願のクルマをゲットした僕はドライブに行きたくてしょうがありませんでした。
じゃあ俺の実家行くか?と言った先輩に僕は二つ返事で飛びつきました。
道中は特に何もなかったです。
ただ、移動距離が飛行機クラスでした。
高速を使ったのに夜の11時に出発して、着いたのが朝の九時ごろ。
もうアホかと。
着いて一番ビックリしたことは先輩のご実家です。
ご実家は、すごく、大きかったです。
塀が長い。門が大きい。車がメルセデス。犬も大きい。
玄関広い。俺の部屋と同じくらい。廊下なが。何この壷。
こりゃあ親父さん相当悪いことしてるんだなあ、と本気で思いました。
親父さん、なんとお医者さんでした。
正直、悪徳政治家と裏で繋がってる土建屋かパチンコ屋とかそんな感じか、
まんま本職の人でも驚かなかったのに、まさかのドクター。
しかもこんなにでかい家なのに、分家だ、と。
医者になったのはおじいさんの代からだそうで、本家はもっと歴史のあるところだと。
分家、本家とか良く分かんないですけどねw
その本家は日本海側の県で神社の神主さんでしたが、その話は後日。
なんでこの一族に先輩なんかが生まれてきたのか分かりません。
先輩だったら人を治すより壊す方でしょう。言える訳ありませんが。
――先輩ってお坊ちゃんだったんですね。
「ああ?全然そんなんじゃない。俺が金持ってるわけじゃねーだろ?」
――いや、すごいっすよ。なんすかこの庭とか。
「田舎は土地が安いからその分他に金かけられんだろ、
大体昔からある古い家だから大したことねーよ。仕送り少ないし」
全く説得力がありませんでしたが、納得したフリをしました。
――先輩は医者になりたくなかったんですか?
「いんだよ、俺は。兄貴が跡継ぐんだ」
何か聞いてはいけない気がして、それ以上はやめておきました。
先輩の家族はものすごく良い人たちでした。
先輩はきっと拾われた子なんでしょう。
または遺伝子操作で生まれたんでしょう。
受験生の妹ちゃんもいました。
先輩の妹だけあって凄く可愛かったです。
どうやら兄・先輩・妹の三兄弟らしいです。
手を出したら殺す、と半ばマジで言われました。
先輩がシスコンとは意外でした、と言ったらみぞおちに蹴りをいただきました。
ナイスキックですw
関係ない話グダグダすいません。
で、本題です。
道に迷いましたw
事の発端は滞在二日目に先輩が、良い所教えてやるから行くぞ、と言ったことです。
妹ちゃんともっとお話していたかったのですが、先輩が僕が妹ちゃんにべったりなので、
やきもち妬いたのかなのか何なのか良く分かりませんが、僕を外に連れ出しました。
囲炉裏のある温泉宿みたいなところに連れて行ってもらい、そこで昼食の他に、
蜂の子(?)と、ツグミ(?)を食べさせてもらいました。
どちらも凄く珍しいものと聞いたのですが、
グロテスクすぎて食べるのに勇気がいりました。
そこは先輩の親父さんの知り合いの店だったようです。
先ほどのメニューは、知り合いにしか出さないそうで、
先輩愛されてるなあ、と思いました。
先輩は、タクちゃん、と親しげに呼ばれていました。
露天温泉にも入り、また囲炉裏でタバコを吸いながらまったりしていました。
しばらくすると、また知り合いが来たようです。
先輩が、サトさん、と入ってきた人に声を掛けます。
「おお。お前久しぶりだな、こんな所に何の用だよw」
「サトさんご無沙汰です。今、後輩を連れて帰省中なんですよ」
「もっと顔出せよ、まあいいや。親父さん元気か?」
「元気ですよ。あ、コイツ後輩のマサシです」
――こんにちは。先輩にはいつもお世話になってます。
「嘘つけよwお世話してんだろw」
――はいw
その後、サトさんを含めて三人で雑談をしました。
サトさんは長身でスラリとしていて、声が太く、
口が悪い人でしたが、凄く感じのいい人でした。
建築関係のリース業をやっていると言っていましたが、
当時は良く分かっていませんでした。
その日は休みだから釣りに来たようです。
――先輩、僕たちも行きましょうよ。
「明日な、今からじゃ遅いわ」
で、サトさんにそのポイントを教えてもらい、次の日、早速行きました。
帰り道、完璧に道に迷いましたw
先輩が調子に乗って、上流へ上流へ登って行き、
さあ帰ろうと言う時に現在位置が分からなくなりました。
――ここどこですか?
「分からん、ヤバイな」
――まあ道路ありますから、下ればどっかに当たりますよ。
「だなw」
道路に上がり、歩きました。山道に良くあるとおり、ずうっと一本道です。
しかし、相当な時間歩いてもどこにも着かないどころか、看板すら見えません。
段々暗くなってきました。
休憩と称して、ガードレールに腰掛けます。
タバコに火をつけながらふと思いついたことを先輩に言いました。
――そういえば、オイテケ掘りとかありましたね。
「ああ、なんかの昔話だろ?」
――今の状況それじゃないっすか?
「荷物になるし、置いてくか」
――オイテケ掘りだけに?
「オイテケ掘りだけにw」
僕たちはナイロン製の魚の入った魚篭やえさ箱を道路の脇に置き、
釣竿やたもなどの小道具もそこに置いていきました。
一応、電話番号と名前と後日取りに来る旨を書いた物を添えて。
オイテケ掘り云々よりもかさばって歩き辛かったので、
持って行かれてもいいやみたいな気持ちでした。借り物なのに。
それから更に歩きました。
緩い下り道が続いていたので疲れもほとんど感じません。
何も考えずに歩けました。バカですよね。
クルマが来たら乗せてもらおうと思っていたんですがそれも叶わず。
何でこんなにクルマ来ないんだよ。
田舎はそんなに人いねーのか、とかちょっとバカにしてました。
三時くらいに道に迷ったのを先輩が認め、今が夜の八時。
五時間くらい道を歩いていることになります。
時速5キロで歩いているとしても、25キロ。
いくらなんでも看板やクルマの往来のある道路に出てもいいはずです。
しかも、ここはちゃんと舗装されている道路。
山の中で迷っているのとはわけが違います。
月明かりがあるので周りが分かるくらいの光はありますが、辺りは真っ暗です。
街灯はほとんどありません。
――先輩。これ、本格的にやばくないっすか?
「俺も思った」
――いや、遭難ですよこれ。
「そうなんですか」
コイツ、ダメだ。
――電波あります?
「おお。バリバリ。電話するわ」
――もっと早くしてくださいよ。
「そう、そう。うん。じゃあ迎えに来てって言って。
え?いや、分かんない。●●川の上流沿いの道路にいるんだけど、
場所はちょっと分かんないや。そう、近くに来たら教えて。はい、じゃあね」
――先輩。妹ちゃんですか?
「おお、何で分かった?」
――シスコン。
「うっせw」
「どうする?待つか?それとももうちょっと歩くか?」
――まあ、こんな所で待つのもカッコ悪いし、歩きますか。
「だな」
しばらく歩きました。多分30分くらいです。
「おい。あれ見ろ」
先輩が小声で僕に囁きます。道路下の川を指差しています。
――何かいますか?
「何だあれ?」
カカシ?木にしては妙に白い。
――何ですかね?流木が岩に引っかかってるんじゃないですか?
「動いてるぞ。生き物だろ?人か?」
――ちょっと細すぎないすか?人にしては。
「おい、あっちにも居るぞw」
先輩の言うとおり、川の中にその白く細いものが何匹か立っていました。
どうやら川の中から出てきてるみたいです。
――ちょっと幻想的ですね。
「ああ、なんかキレイだな」
そんなことを二人で言いながら、
段々増えてくるその白いのを見ながらタバコを吸っていました。
ppppppp♪
「うん、今どこ?え?置いたけど、そうそう、
いや、今ちょっと面白いのが見えてるからそれ見てる。
え?クルマ通らなかったぞ?じゃあ下ってきて」
――どうしました?
「釣竿とかは見つけたけど、場所分からないんだとさ」
――そうなんすか。
「登ってくるだけなんだがなぁ」
二人でその白いのが静かに増えるのを見ていました。
川の中からすっと生えてきます。
ゆっくり動いています。下流に向かっているようです。
「なあ、もうちょっと近くで見ねえ?」
――僕もそれ言おうと思ってたんですよw
すごくキレイでした。
月の光かどうかは分かりませんが、
その白いのに埋め尽くされて、川全体が発光しているようにも見えました。
ppppppppp♪
「はい、え?おお、サトさんwいやいや酔ってないですw
今ですか?道に迷っちゃって、ちょっと面白いの見てるんですよ。
それですそうですw川の中にしろい…」
『それを見るなっ!!!』
ケータイを通して僕にも声が聞こえました。
『おい!今どこだ!?』
「わかんないですw」
『じゃあ、その白いのはどっちに向かってる!?』
「ああ、下流方向ですね」
『じゃあ上に向かえ!いいか!?道を戻れ!!』
「街とは反対ですよ、それだとw」
『いいから言うこと聞け!!ぶっ殺すぞ!!!』
――どうしたんすか?サトさんw
「わかんねwすっげえ怒ってるw」
『お前、言うこときかねえつもりか!?妹ちゃんにアレ、言うぞ!?』
――何すか?アレってw
「おい、上行くぞ」
――えええ、登るんすかw疲れますよ~
足をどかっと蹴られました。
「うるせぇ、行くぞ」
五分も歩くと、上から先輩の親父さんの運転するクルマがやってきました。
後少し待てば来たじゃないかとブツクサ思っていました。
川を見ても白いのはもう居なくなっていました。
僕は車に乗り込むと、もの凄い疲れを感じました。
先輩も同じだったようで、家に着いたら風呂にも入らずそのまま寝てしまいました。
翌日の早朝、先輩に叩き起こされました。(本当にぶっ叩かれましたw)
サトさんが出社前に僕たちを訪ねてきたそうです。
「お。無事だったか」
サトさんは昨日の電話越しとは違ってとても優しく笑いました。
「いや、本当にすいません。昨日帰った後寝てしまって着信気付きませんでした」
「気にすんな。あれ見たら最低でも二、三日寝込むらしいからな。
若いってのは偉大だw」
「何なんですか?あれ?」
「ああ、なんか、白ヤマメとか言われてるな」
――結構有名なんですか?
「地元でそこそこ山に入るやつなら一回は聞いたことがあると思うぞ」
「キレイでしたけどね」
「…お前。まあいいや」
――何ですか?気になりますよw
「……本当にキレイだったか?」
川の中に立つ白いカカシ。
細すぎるけど人間っぽい形はしてた。
足はぴっちり閉じてたな、ってかゆっくり跳ねながら進んでた。
良く分からないけど、手?妙に細い腕はあったな。プラプラ揺れてた。
目と口の部分に空洞。真っ黒い空洞が顔に三つ。
長くて白い髪?ボサボサの。枯れたリュウノヒゲみたいな。
服は着てない。骨ばっているというより木の皮みたいな肌。
それが川を埋め尽くすほど大量に。
何だこれ?何がキレイなんだ?
「なあ、本当にキレイだったか?」
「……いえ、今思い出すと、…気持ち悪いです」
「まあ神隠しの一種なんだろ。変な所に入り込んじまうんだ。
お前のテンションもわけ分からなかったからな」
「すみません。無礼でした」
「だから気にすんなよ。誰でも一時的にちょっと気が狂うもんらしいんだ」
そういえば、あんなに長い間歩いてた割には、二人とも異常に楽観的だった。
先輩の性格なら、自分が遭難の原因だろうと絶対僕に当り散らすだろうし、
迷ってから殴られもしなかったな。
何よりいくら下りとはいえ、何時間も歩いていて疲れないわけがない。
休憩にしたって、タバコを吸うぐらいだ。
飲み物もないのに、のども渇かなかった。
気が狂う、か。そういえば、先輩優しかったな。
「無事ならいいんだ。あんまり無茶すんな」
サトさんは、時計を見ながら僕たちに言いました。
――そういえば、なんであんなのが、ヤマメなんですか?魚ってよりもカカシですよ?
「ヤマメは漢字で、山女って書くんだよ」
僕と先輩はその後も何事もなかったかのようにはしゃいで、
一週間もご厄介になりました。
妹ちゃんも良くなついてくれて、基本的には凄く楽しい旅行でした。
ちなみに妹ちゃんは、みひろという女優にめっちゃ似てます。
最初にTUTAYAで見たとき凄いビビリました。まさかってw
え?借りてないですよw借りないですよw
うっせw借りたよwマックスカフェへようこそ!w
【関連記事】
【ホストシリーズ系】運び物
こんばんわ。良く拝覧させていただいています。
僕も怖い体験談がいくつかあります。その一つを投稿させて下さい。
先に言いますが全て妄想ですw地名とか出ていますがフィクションですw
特定とか怖いので勘弁してくださいw
僕が学生の時の話です。
当時僕は女性のお客様を相手にするアルバイトをしていました。
正直、最初の三カ月ほどは割に合わないもの(月10万の固定給で雑用もやらされる)
でしたが、ランクが上がり、お客さんの指名がもらえると
軌道に乗り一気に楽になります。
某店みたいな永久指名とかわけの分からん制度もありませんでしたw
ある夏の日、「急遽店の改修のためスタッフは休み、キャストは他店ヘルプ」
というそっけないメールを店長から貰いました。
他店は知りませんが、僕のバイトしていた店は、
基本的には全員で店を回していたので、呼び名で一軍二軍選手を分けていました。
完全なスタッフ要員とヘルプとか雑用とかの間接的に売上に貢献しているのを総称してスタッフ、
売上に直接貢献していていてさらに売上トップ5人がキャストです。
間接工、直接工みたいな感じでしょうかw
もっと簡単に言うと、スタッフはバイト、キャストはプロみたいなわけ方です。
メールを貰った時、正直、急すぎだろ、
と思いましたがなにぶん水商売と言うくらいですから、
色々しがらみやらなにやらあるのでしょう。
聞いたらいけないようなこともあるのでしょう。
しかし、コツみたいなもの、ある程度の太い客を掴みかけていた僕はここが
踏ん張り時でもあり、かつ仕事(?)が慣れてきた時なので
がっかりしていたのを思い出します。
生活がバイトメインになっていた僕は急に数日間ヒマになりました。
もちろんメールで馴染みの方々に店が休みの旨を送る等のことをしますが、
やることがなくなりました。
私大文系の大学生の生活などこんなものです。
休み三日目のある日、バイトを斡旋してくれた先輩からメールが届きました。
「お前ヒマだろ? バイトやるから●●に集合。一時間以内に来いよ」
先輩w今何時だと思ってるんすかw常識考えてくださいよw
……とかは絶対言えないので速攻で準備。
結構粗暴なお方wでしたので、僕は恐々としながらも現地に向かいました。
二分遅刻した大罪で腿に挨拶という名のキックをいただきました。
「今からドライブ。お前このクルマ使使え。俺はこっちで行くから」
バイクを指差しながら彼は僕に伝えました。
クルマはフルスモークの黒いレガシーでした。
同乗しない意味が分かりませんでしたが、免許を取って運転したがりな時期の僕は、
深く考えもせずに了解しました。
そのクルマの後部座席はガッツリと倒され、大きな荷物がありましたが、
青いビニールシートがかけられて中は見えません。
僕はそのクルマで、
先輩はバイク(当時流行っていたマジェスティというビックスクーター)
という不思議な組み合わせでドライブ&ツーリングに行くことになりました。
ハンドルは鬼のように硬いわ、なんか変なにおいがするわ、
車高は低すぎてぎゃりぎゃりうるさいわ、
エンジンいかれてんじゃないか位のエンスト(オートマなのにw)率だわ、
クーラーはギンギンに冷えていて温度調節できないわ、
散々なクルマでしたが、ある程度慣れてくるとそれなりに楽しいドライブです。
タバコ吸ったり、コーヒー飲みながら運転がカッコイイと思っていたお年頃でしたw
結構な距離なのに下の道ばかりで少々時間が掛かりました。
信号で止まるたびにヘーゴフヘーゴフとエンジンが
じいちゃんみたいな咳をするのには参りましたw
目的地は山でした。
先導する先輩について行っただけなので正確な場所や名前は分かりません。
勿論カーナビなんていうご大層なものはついていません。
ただ途中から国道20号をメインに進んでいましたので大体は想像できます。
が、書きませんw怖いデスw
ただ、大きな道からあぜ道?というか
農家の方々が使う専用の道路?みたいな
簡単に踏み固められて舗装されているだけの道路に入り始めたときは、
僕はともかく、先輩は大丈夫なのか心配していたのを覚えています。
20分くらいその道路で走っていたときでしょうか。
急に先輩のバイクが止まり、携帯電話でどこかに連絡を始めました。
「~~~~~~、~~~」
何かを話しているのが分かるくらいで聞き取れませんが、
あの先輩が電話だというのに口元に手を当て、
腰を低くして話しているのを見ていると
目上の方との会話だろうという印象を受けました。
彼はバイクをその場に置き、車に乗り込み、ナビをし始めました。
相当な徐行移動でしたので100mくらいの距離を進んだくらいなのでしょう。
「この辺だと思うけど……」
先輩は珍しく不安そうに言いながら、
暗い夜道の中何かを探しています。
「おお、あったあったw」
先輩が指差すそこには黄色い水、いやペンキみたいなものが入った
ペットボトルが木に吊るされていました。
先輩はクルマを降りトランクを開け、荷物にかぶせてあるビニールシートを剥がします。
「おい、手伝え」
先輩は僕に向かって言いました。
先輩が引きづり出したのは何の装飾もされていない蓋がぴっちりと釘付けされた、
木で出来た箱でした。
長さは1.5~2mないくらい、幅はその三分の一くらいでしょうか。
長細い結構大きい箱でした。
ビニールシートを適当に小さくしてから僕に命令しました。
「おい、そっちもて」
先輩に言われたとおりその箱を二人がかりで持ち、
ペットボトルのあるところから道に外れしばらく歩きました。
ペットボトルは50mくらいの等間隔でポツポツと見えました。
僕たちはそれに沿ってしばらく歩きました。
スズムシとかカエルとか、夜の合唱団が盛大に鳴いていました。
カエルがいるということは田んぼでもあるのでしょうか。
ただ不思議と懐かしい気持ちになりました。
あれがエトスってヤツですかね?日本人の習性、みたいなw
ノスタルジーに浸るより手の痺れがきつくなってきました。
箱はかなりの重量で、しかも取っ手もついていない木製でしたので
ものすごく持ちづらかったです。
どれほど歩いたのか気にするよりも、早くつかないかなぁ、とか思ってました。
もう腕が限界に近づいたころ、三人の男たちがいました。
見た目はごく普通の人のように見えます。
Tシャツにジーパンまたはスラックス姿。一言で言えばおっさんw
木製の重たい箱を地面に置いて彼らに合流しました。
先輩が一言二言彼らに挨拶をし、僕の方に目を向けました。
その中で一番年長者の方にガツリと音が聞こえそうなくらい強く頭を叩かれた先輩は、
なぜか謝りながら僕の方に向かってきました。
「悪い悪い。……今からちょっとやることあるから、
クルマの所で待ってろ。分かるように外にいろよ?」
僕は彼らにお辞儀をしてクルマの方に向かいました。
最初はすぐに戻ってくると思い、クルマの周りをウロウロしていました。
しかし、森の中。暗いw蚊が多いw足疲れたw座りたいw
以上の正当な理由から、僕はクルマの中に避難しました。
エンジンつけてクソ寒いクーラーもつけました。
後方のスペースを存分に使っていた荷物は先ほど降ろしたので、
やけに後ろが寂しい気がします。
先輩あとどれくらいで帰ってくるんだろとか、
何やってるんだろとかそういう疑問はありましたが、
正直ヒマでしょうがありませんでした。
コンコン
静かな車の中でケータイのアプリでドラ○エをやっていたので、
その物音にはかなりビックリしましたが、先輩が帰ってきたのだと思い、
ドアを開けて表に出ました。
外には誰もいません。
森の中の暗闇は普通の夜道と違い、
月明かりや星が見えづらいためほぼ全くと言っていいほど視界がないです。
僕は結構ホラーとか心霊現象とかそういった物は否定派なんですが、
さすがにこれほどの暗さは単純に怖いです。
向こうから何かが襲ってくるような怖さが暗闇にはあるじゃないですか。
動物的な本能なんですかね、アレは。
誰も居ないのに物音がする。あるあるw
まあいいやと思い、僕はクルマに乗り、冒険の世界に戻りました。
コンコン
しばらくするとまたノックする音が鳴りました。
今度もちょっとビビリつつ、表に出ました。
主に先輩に怒られる恐怖でw
二回目だとさすがに何かが偶然当たったとも言いがたいので
クルマの周りをぐるっと確認。
周りの木が当たるにしては距離がある。
かといってもう丑三つ時近く。
草木も眠ってるだろw
静かすぎて耳鳴りがするw
まさかイノシシとかクマw
っつかそれだったら怖すぎるw
ここで一番会いたくないのはむしろ地主だなw言い訳できねえw
「何でこんな所にクルマ止めてるの?」
「サーセンwわかりませんw」→不審者w通報w
笑えねえってw
あ、今、免許不携帯w
など考えながら、クルマに戻りましたw
こんこん
おお、またか。とか思いながらも、
もし先輩だったら後が怖いので一応外に出て確認。
…やっぱいないwなんなのw
つーかドラクエの世界って本当に魔王に苦しめられてるのか?
1人で解決できるようなことが国単位で困ってるってどういうことよw
王様ももっと支援してよw
全ての最強武器防具くらいくれよw
経費が自費で武器は現地調達かよw
マスターキートンかってのw
1人で魔王倒すとかw
それ勇者じゃなくて暗殺者w
単なる殺し屋じゃねーかw
勇者はテイのいい鉄砲玉かよw
俺を倒しても、第二、第三の勇者が(ry ってやかましいわw
など三回目ともなると多少の余裕が出来、
ドラクエの理不尽さを考える方に比重が高くなってきました。
こんこん
四度目ともなると、もういいよwなどと思いました。
もし先輩だったとしても謝ればよくね?という考えの下、
四度目は無視して太陽の石を入手するほうを優先しました。
ドラゴンクエストってドラゴンもはや関係ないよなw
ドラゴン言いたいだけちゃうんかとw
こんこん
うっせw
何なんだよコレw
しつけーw
ってか何の音だよw
こんこん
……何の音?
こんこん
……音?
そういえばカエルの合唱は?
なんでこんなに静かなんだ?
そのことに気付いてから心拍数が跳ね上がりました。
多分もっと賢い人なら一回目のノックの音で気付いたかもしれません。
ノックは明らかにクルマのドアを叩くような音ではありませんでした。
普通クルマを叩くとしたら二種類の音が鳴ると思います。
一つはドアの金属部分を叩く音。
普通の日本車ならアルミの薄い板を使っていますので
金属音と言うよりは手のひらや拳で叩くと
ドンドンみたいな低音で車中に響くと思います。
そしてもう一種類はウインドウを叩く場合です。
車のガラス部分は強化ガラスで、事故をした場合、
破片で怪我をしづらいように割れると粉々になるということは
運転する人ならだれでも知っていると思います。
そして一般の家にあるようなガラスと違い厚いです。
叩いてもゴンゴンみたいなやはり低い音しかしないはずです。
僕には絶対音感なんて大層なものはありませんから、
ドのシャープの音がするとかそういった種類は分かりませんが、
クルマのどの部分を叩いても「こんこん」といった軽い音はしないです。
しかし先ほどからの音は音が発する時の空気の振るえと共に、
明らかに近くから聞こえてきます。
…軽い音。
……あれだ。……木の箱。
こんこんこんこんこんこんこんこん
まるで僕がその事実に気付いたことを喜ぶかのように、
音が座席の後ろから何度も何度も聞こえてきます。
こんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこん
怖い。一体何なんだ。
こんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこん
やめてくれ。もう許してくれよ。
ちらりと目線だけでバックミラーを覗きこんだ瞬間、
ぶわっと汗が噴出し体が急激に冷えました。
――木の箱。
なんであるんだよ?さっきせんぱいたちがもっていったはずじゃ…
こんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこん
音が響きます。
僕は箱から目を逸らすことができない。
座席から動くことも出来ない。
木の箱が音もなく開き始める。
障害もないようにゆっくりと。
ただ蓋がスライドしただけに見える。
中から女が這い出てくる。
顔を鏡越しに僕に向ける。
楽しそうに口だけで嫌な笑いを見せる。
服を着ていない。
胸がしわしわ。
首に青黒い線のような痣。
乱れた髪で目が見えない。
箱に乗せた腕には痣とたくさんの注射跡。
体中にも痣。
こんこん、という断続的に鳴る音以外は聞こえない。
女は笑っているがその声は聞こえない。
口と胸の上下の動きからかなりの大声で笑っているように見えるが声は全く聞こえない。
僕と女の距離は1mもない。
手を伸ばせば届くが嫌だ絶対に伸ばしたくない。
女が僕に手を伸ばす。
妙に艶かしく体をひねりながら僕に体ごと向かってくる。
体中に寒気が。
そのときクーラーを効かせすぎたせいでしょうか、
場違いなことにくしゃみをしてしまいました。はーっひょん!とw
僕のくしゃみはかなり息を吐き出してするので近くに人がいるときは、
大概嫌な顔をされます。
このときはとにかく何かしないと焦り、いつもより力強く、唾も多めに出しましたw
……あれ?
いねえwwwなんでwwww倒したwwwwwくしゃみで竜王倒したwwwww
くしゃみをすると、目を瞑りますよね?
目を開けたときには音も鏡に映った女も消えていました。
助かったと安心した僕はテンション高めにギャーギャー叫びましたw
それからしばらくして先輩が一人で帰ってきました。
女の話をバイクの所に戻る道すがらしましたが、まともに取り合ってくれません。
「何でこんな暗いのにババアが見えんだよ。気のせいだっつってんだろバカ」
――え? ババア?
「あぁ? ババアが見えたっつったろが? 今っ!」
――女って言ったんですよ
「……うるせえ黙れ。……女はババアみてえなもんだろ」
機嫌が悪くなったのがありありと分かりました。
結局、それ以上は怖くて聞けませんでした。
僕は先輩にあの箱のことも聞きました。
「ただの不法廃棄物だ、誰にも言うなよ」
先輩wそれ不法投棄ですからw
バイクのある場所まで戻った後、先輩はバイクに乗り、僕はクルマで帰り道をついていきました。
何故か帰りに安楽亭で焼肉おごってくれました。
先輩w朝から焼肉おもいっすw
ちなみにバイト代は2万円でした。
以上です。
長文失礼しました。
【関連記事】