カテゴリ: オオ○キ教授シリーズ
【オオ○キ教授系】ー鬼になる理由<晴彦3>ー
310:オオツキ◆.QTJk/NbmY:2009/01/26(月)01:00:52ID:55OO9lfHP
鬼になる理由<晴彦3> 1/9
崇志兄の電話の言葉が理解できなくて、
「何それ?」
と聞き返した。
崇志兄は呆れた声で、
「ラッカーって知らんか?固まったペンキを薄める液体」
って説明した。
あ。『ラッカー』か。
…いきなり、
「買ってきてくれ」
って言われてもわかんねえよ。
理由を聞いて納得した。
『鬼』という存在について、オレは、なんとなく、個人のトラブルみたいな規模の小さいものに起因してるのはおかしい気がしていたから。
かつてのI村に、土地の奪い合いのような凄絶な過去があって、そこから『鬼』を生み出す悲劇が起こった、と考えるほうが自然だ。
「たしか隣りの集落に金物屋があったから、そこで買ってくる。25分待ってて」
と言うと、崇志兄の隣りから美耶ちゃんの悲鳴が聞こえてきた。
「ゆっくりでいいから!全然余裕で待ってるから!」
…まったく…(笑)
でも、美耶ちゃんの声が聞こえるってことは、この電話は『鬼』からじゃないんだな。
311:オオツキ◆.QTJk/NbmY:2009/01/26(月)01:02:33ID:55OO9lfHP
鬼になる理由<晴彦3> 2/9
ちょっと前に、オレと崇志兄と父さんで『妖怪』について話をしたことがある。
実際にいるのかいないのか。いるとしたら、正体はなんなのか。
UMA(未確認動物)のような未知の生物だとしたら、全国に広がっている河童や天狗の伝説はありえないことになる。そんなに多数の生き残りがいる種が、何の証拠も残さずに生息するなんて無理だ。
それに、妖怪には禍々しい逸話がついて回るのが常。人間を襲って死に至らしめたり、人間の言葉を話して暗い未来を予言したり。
「河童は、単純に、川遊びで溺れて死ぬ子どもに対しての揶揄だろ?」
崇志兄はそう言った。確かに緑の体を持つ河童の伝承の多くは、子どもを川に引きずり込むものだ。
でも、父さんは否定した。
「遠野物語を読んでみなさい。そこには赤い河童の話が出てくる」
赤い河童は、人間の女に自分の子どもを生ませる。生まれた子どもは人間ではなく異形をしていて、すぐに切り刻まれて殺されるそうだ。
「奇形を間引きした話ですかね」
と崇志兄が推察した。
オレは、貧しい山里が飢饉でも生き延びられるための知恵として、要らない胎児を保存したのではないかと思ってる。
312:オオツキ◆.QTJk/NbmY:2009/01/26(月)01:05:02ID:55OO9lfHP
鬼になる理由<晴彦3> 3/9
そんなふうに、人間の業を妖怪という存在に照らし合わせてみると、奇妙な一致が見えてくる。
姥捨ての風習がある地域に多い神隠しの話。前述の遠野物語を引き合いに出すと、山の怪異の項がそれに当たる。
1人で山中に入った女が神隠しに遭う。何十年後かに老婆として里にいったん戻ってくるが、その後、自ら山に帰ってしまう。
―――――捨てられた人間が里に帰れるわけがないからだ。
そして、帰ってくるのは、生きている人間ではなく、捨てられた未練を引きずりながら山中で没した怨念ではなかったのか。
神隠しが、『老婆』ではなく『若い女』や『子ども』を対象にした話が多いのも…。
捨てられたのは年寄りに限らず、守るべき親がいない子どもだったり、厄介ごとをしょわされた女という、弱い立場にまで及んでいたからじゃなかったのだろうか…。
その意見に、父さんは肯定も否定もしなかったが、もう1度遠野物語を例にたとえて、暗に認めてくれた。
「マヨヒガという話を読んだことがあるかね?お伽噺では『山の御殿』とも称される、全国に分布する話だ。遠野物語では」
「マヨヒガに迷い込むのは、知的障害を持つ女性だった」
『山中の御殿』を見つけた人間は、御殿から持ち出した小物(主に食器)によって、尽きぬ財産を与えられる裕福な結末を迎えることが多い。
和やかな逸話は、その裏の壮絶な悪意を隠している場合が、残念ながら少なくない。
313:オオツキ◆.QTJk/NbmY:2009/01/26(月)01:06:46ID:55OO9lfHP
鬼になる理由<晴彦3> 4/9
記憶どおり、隣村に入ったところで小さな金物屋を見つけた。
3時半を回っていた。山間の村は、太陽の勢いをなくしていた。
店に入ると、50代ぐらいの元気のいいご主人が、
「こんちはっ!」
と挨拶で迎えてくれた。
…あ。なんだか久しぶりにまともな空間に戻ってきた気分だ…(笑)。
ラッカーと、それから念のため赤いペンキを頼むと、ご主人は顔を曇らせた。
「引っ越しされるのかね?」
どうやら、オレがI村に住むと勘違いされたらしい。
「いえ。加藤のお婆ちゃんから頼まれまして。窓枠の色が剥げてきたのでペンキが欲しいと」
とっさに嘘をついた。なぜそんな言い訳をしたか、自分でもよくわからない。
「あんまり関わらないほうがいいよ、お兄さん。あそこはいろいろ曰くがあるからね」
と含められたので、カマをかけてみることにした。
「曰くって、I村が部落民の村だってことですか?」
ご主人は肩を竦(すく)めて、
「部落民なんか残ってないよ。あそこの連中がみんな追い出したからね」
と答えた。
314:オオツキ◆.QTJk/NbmY:2009/01/26(月)01:09:32ID:55OO9lfHP
鬼になる理由<晴彦3> 5/9
やっぱりそうか。
崇志兄の話から推測はできていた。
I村に残っているのは先住者なんだ。そして、自らが追い出した移住者の祟りを恐れて、移住者のふりをするために赤い窓枠という隠れ蓑をまとったんだ。
「それっていつごろの話ですか?村には窓が赤くない家もいくつか残ってましたよ」
廃屋となっていたその家々は、年代的には昭和に入ってから建ったもののように感じられた。
「戦後だよ」
とご主人は言ってから、
「日露戦争」
と付け加えた。
ってことは、もう100年以上も前じゃないか。
「明治時代ってことですか?でも、そんなに古い村ではなかったと思ったけど…」
疑問を口にすると、ご主人は、
「1度廃村になってるからね。そのあとに、かつての住人が戻って住み着いたんだ」
と説明した。
315:オオツキ◆.QTJk/NbmY:2009/01/26(月)01:11:34ID:55OO9lfHP
鬼になる理由<晴彦3> 6/9
オレの興味を察したのか、ご主人は饒舌に語ってくれた。
「あの村は、日清日露の戦争のあとに日本に来たアジア人が切り開いた土地なんだ」
「お兄さんみたいな若い人にはピンと来ないかもしれないが、当時、日本で開拓された土地の中で、工事が難しい劣悪な場所は、よく外国人が駆り出されたんだよ。死んでもうるさくなかったからね」
トンネルの掘削などに朝鮮や韓国の人間が携わっていたのは、オレも知っていた。
そういう現場には、よく、傍らに慰霊碑が建っているから…。
「私も祖父さんから聞いた話なんで、事実かは知らないが、I村は、開拓後、その外国人たちに与えられる村だったらしい」
「でも、その前にどこからか流れ着いた日本人がバラックを建てて住み着いてしまった。外国人との間に小競り合いが頻繁に起きたらしいが、政府は何も手を打たなかったようだよ」
そうだろうな。想像はつく。
アジアからやってきた人たちを、都合よく土木工事に利用した政府が、工事終了後にアジア人のために尽力を尽くすなんて考えられない。
流れ者の日本人とトラブルがあろうが、仲裁に入る労力は割かなかっただろう。
「I村は、毎年死人を出す地獄と化していたと、祖父さんは言ってたよ。だから私たちも、あの村にはいい印象を持っていない」
ご主人は厳しい顔で吐き捨てた。
316:オオツキ◆.QTJk/NbmY:2009/01/26(月)01:13:31ID:55OO9lfHP
鬼になる理由<晴彦3> 7/9
ご主人の話は、さらに、オレの求めている核心に近づいていた。
要約すると。
I村の様相が醜悪を極めてきたある年、救世主…が現れた。
同じようにバラックを建て住み着いていたアジア人の集落に、夫を亡くした若い後家さんが来たんだ。
彼女は、ご主人のお祖父さんの言葉を借りると、『男から見て完璧な女』。つまり、容姿、性格ともに非常に魅力的な女性だった。
日本人の集落に住む若い男たちでさえ彼女に夢中になった。大勢から求婚されるほど、その当時は華やかな空気が村を包んでいたようだ。
―――――もし…。
―――――勝手な要望だけど、もし彼女が日本人と結婚していたら、I村は、日本人とアジア人が友好的に融合した村になったかもしれない。
でも、彼女は、どの求愛も突っぱねた。
あとでこのことを説明したとき、崇志兄は、一言で言ってのけた。
「そりゃあ、自分の国の住人と殺し合いまでしてきた日本人に嫁ぐ気にはならんだろ」
…オレはまだ女性の心理には未熟だな…(苦笑)。
317:オオツキ◆.QTJk/NbmY:2009/01/26(月)01:14:57ID:55OO9lfHP
鬼になる理由<晴彦3> 8/9
男女問題の鬱屈が大きく積み重なってきたころ、I村に1つの事件が起きた。…事件というか…。
『磯神』が立ったそうだ。
首をかしげているオレに、ご主人は、
「ここらへんじゃ、みんな知ってることなんだけども」
と苦笑いしながら教えてくれた。
この地方の山の峠に立つと、ごく稀に、海の方角に『光の柱』を見ることができるそうなんだ。
天までまっすぐに貫く光柱は、大きな災害の前触れなのだという。
その現象を、この辺りの人はいまでも、『磯から上がってきた神の怒り』と言い伝えているらしい。
「まだまだ昔だったもんだから、磯神が立ったと噂が流れたときに、贄の儀式をしたんだそうだ」
ご主人は、人間の愚かさを揶揄するように嘲笑した。
「後家さんと、後家さんの連れ子が犠牲になったって話だよ」
ご主人が記憶していた『磯神のやってきた』年は、大正12年ということだった。
関東大震災…。
この土地にまったく関係のない地震になったのは、贄の効果なんかじゃないと、オレは思う。
318:オオツキ◆.QTJk/NbmY:2009/01/26(月)01:16:26ID:55OO9lfHP
鬼になる理由<晴彦3> 9/9
その後、I村から住人が消えた。
具体的な祟りはご主人も知らなかった。
「そんなものはなかったんじゃないかな」
とも言った。
いまのI村は、かつて日本人の集落に住んでいた人たちの子孫が形作っている、とのことだ。
アジア人たちがどこに行ってしまったのかはわからないらしい。
ご主人の最後の言葉が印象的だった。
「I村には、なんでか雷がよく落ちる。雷神に魅入られた村なんか、ここらへんの人間は誰も近づかん」
雷神か…。
雷神は鬼の角を持って描かれる神様、だ…。
※これ以降、オオ○キ教授氏の個人ブログに移行し現在ではブログも閉鎖してオオ○キ教授シリーズが終わりました。
もし、オオツキ教授氏がこの怪談の森にいらしましたらメッセージにてお知らせしてもらえればありがたいです。続きが読みたいです。
【オオ○キ教授系】ー鬼になる理由<美耶3>ー
132:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2009/01/11(日)00:15:21ID:oFT4vEhy0
鬼になる理由<美耶3> 1/5
笹川さんの様子は思ったよりも重傷みたい。座ることもできずに、いまは地面に転がってる。
お兄ちゃんは、バツが悪いのか、
「晴彦が戻ってくるまで、ちょっとうろついてくる」
って、また家の中に入っていっちゃった。
「ごめんね。お兄ちゃんのせいで…」
と謝ると、笹川さんは、
「こっちこそご迷惑をかけました」
と、手を振りながら怒ってないことを表現してくれた。
「それにしても…子どもができたからかな…精神的に弱くなりましたねえ」
笹川さんの言葉が続く。
「たぶん、自分だけだったら、鬼が出てもビックリするぐらいで、こんな行動には出なかったと思うんですよ。夕べは子どものことを一番に考えちまいましたから」
頭を掻きながら視線を私から外す笹川さんは、たぶん、とてもいいお父さんなんだろうな…(笑)。
「そういうのって羨ましいです」
家族に一心に愛されてる赤ちゃんに比べて…。
「私は、肝心なときほど、誰にも相談できずに独りで解決してるから…」
高校のイジメのとき、結局、私を助けたのは私自身の力だった。
巫女としての力を感じるようになってからは、もっと、自分が別の世界に入り込んでしまっているような孤独感を感じてる。
ハルさんもお兄ちゃんも、人間として好きではあるけど、こういう気持ちを理解してもらえるかは…疑問…(苦笑)。
私の愚痴を聞いて、笹川さんは言った。
「お兄さんが俺を突き落としたときは、貴方のことを一番に考えていたと思いますよ。それが伝わっていないとしたら貴方にとっても不幸ですね」
だからこんな目に遭っても腹が立たないんです、と、笹川さんは、痛そうに顔を歪めながらも、笑顔で私のほうに寝返りを打った。
133:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2009/01/11(日)00:16:01ID:oFT4vEhy0
鬼になる理由<美耶3> 2/5
ちょっと涙腺の緩んだ私を見て、笹川さんは話題を変えてくれた。
「夕べ…じゃなくて、今朝の明け方だっけか。俺のマンションに現れた鬼は、顔はゴツかったけど、たぶん女だったと思うんです」
「女の鬼?」
意外な話に引き込まれた。
「そう。髪が長くて、…なんていうか…恨みの形相が男では出せない表情だったね」
I村に来る途中でお兄ちゃんと話していた『鬼の空想像』は、牛みたいな形をした牛鬼と呼ばれる妖怪だった。
幾種類かの動物が混ざり合った『キメラ』という形態で、『人間の女性』とはかけ離れた姿だったけど…。
「それって、本当に鬼だったんですか?幽霊とかじゃなくて?」
確認してみたら、笹川さんは、
「そういうフワフワした存在感じゃなかったんですよ。怨念の塊が物体化していたような…」
と、お兄ちゃんと同じような感想を持ってた。
目の前の半壊した家を見ながら、考えてみる。
笹川さんは、以前にこの家に来たときにとり憑かれてしまった。
何に?
この家のかつての住人を襲う『鬼』に。
その『鬼』は、未だにここに執着してる。
『この家』と『鬼』の間に、何があったんだろう?
「このまま帰って、またあの鬼たちを見ることにならないといいけどなあ…」
笹川さんが呟いた。
そうだね。原因がわからないままじゃ、また同じことが起こる気がする。
134:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2009/01/11(日)00:16:37ID:oFT4vEhy0
鬼になる理由<美耶3> 3/5
「笹川さんは、ここに住んでいた人たちの夢を見たこともあったんだよね?」
聞くと、
「ええ。あれもひどい夢だったなあ…。3人家族だったんですけどね」
と答えをくれる。
「そのご家族は、誰かに恨みを買うような人たちだったのか…わかる?」
と、重ねると、笹川さんは確信的に、
「それはないと思うよ。夢の中では、なんとなくだけど、彼らの人となりも感じられたんだ。普通の善良なサラリーマン家庭という感じだった」
と言った。
確執があったこの家の住人と鬼では、住人のほうが善良。じゃあ、鬼が悪?
鬼は何の咎もないここの人たちに、死後までつきまとっているの?
女の姿をした鬼。恨みの塊のような存在。
…鬼は、ただの悪?
「どこから話をつけていいのかわからないな…」
制御不能の意識が私の口を借りて喋った。
「霊異のモノとはいえ、理由なく仇を為すとは考えられないのだが…」
135:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2009/01/11(日)00:17:33ID:oFT4vEhy0
鬼になる理由<美耶3> 4/5
戻ってきたお兄ちゃんに、笹川さんとの会話を伝えた。
お兄ちゃんも、
「あ、そっか。またここまで探しにくるのは厄介だな」
って理解した。
「鬼を満足させる方法ってないのかな?」
私が尋ねると、笹川さんともに首を捻っていたけど、突然、
「もしかして!」
って大声を出して、廃墟の中に戻っていった。
出てきたときにお兄ちゃんが持っていたのは、ペンキの缶だった。
「中身は揮発して使えないんだけどさ」
と見せてくれた色は、I村の家々の窓枠を染めていた赤色。
私はもう1度廃屋を見た。赤に塗られている箇所は、ない。
「それ、何のためにこの家にあったんだろう…」
独り言で呟くと、笹川さんが、
「窓枠を塗るためだろ。そうすれば移民と同じになれるから」
って答えた。
お兄ちゃんが、
「先住民だから鬼に祟られたってことか?」
と次いだ。
136:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2009/01/11(日)00:18:10ID:oFT4vEhy0
鬼になる理由<美耶3> 5/5
先住民と鬼の間に、どんなトラブルがあったのか、私たちには図ることができない。
でも、窓枠を赤く塗ることで鬼の追跡をかわせるなら、試さなきゃ。
「ペンキの薄め液をどっかで調達してくるわ」
って言って、お兄ちゃんは村のほうに歩いていった。
私は、ついていくか迷ったけど、笹川さんを置いていけないから残った。
笹川さんの傍らに座りながら、さっきの言葉を撤回した。
「私1人だったら、何も解決できなかったね」
笹川さんは、
「きっと、大月もお兄さんもそう思ってるよ」
って慰めてくれた。
そして、
「ここを出るまで誰にも言わないでほしいんだけど」
と、重い言葉を私に伝えた。
「俺、たぶん脊髄のどこかをやられてる。下半身が認識できないんだ。家に戻っても、社会復帰できるかわからない」
………。
…悪夢だ……。
どうすれば、みんなが悲しまない結果になるの…?
【オオ○キ教授系】ー鬼になる理由<晴彦2>ー
114:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2009/01/10(土)00:42:14ID:S6eQj9SO0
鬼になる理由<晴彦2> 1/6
どっちかというと、くだらないことでキレてたオレを、冷静に鎮めてくれるのは崇志兄の役目だった。
だから、
「鬼が出た」
なんてうろたえる崇志兄は、むしろイジる絶好の的になった。
「それで、出たのは赤鬼ですか?青鬼ですか?」
からかうと、崇志兄は本気で嫌そうな顔をする。
「んなお伽話じゃねえんだよ。妄執の塊…つか…。思い出したら寒気がしてきた」
大げさに二の腕を擦るのを見て、美耶ちゃんが、
「そういうとこでふざけるから、肝心なとこで信用しないんじゃない」
と呆れた。
美耶ちゃんは、笹川さんが鬼に変わったところなど見ていない、と言ってる。
115:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2009/01/10(土)00:42:37ID:S6eQj9SO0
鬼になる理由<晴彦2> 2/6
座り込んでいる笹川さんは、会話はできるけど、まだ動けない様子だ。
「体中が痛い」
と愚痴るたびに、崇志兄が謝ってる。
「いいですよ。俺も、なんとなく自覚があるから」
笹川さんが崇志兄のフォローを始めた。
「眩しい光が急に差し込んできて、イラっと来たんですよ。だから光源を狙って鉈を振り下ろそうとした…気がする」
美耶ちゃんが引き攣った表情で、笹川さんから離れた。
そういえば、笹川さんは以前にもそんなことを言ってたなあ。
I村で初めて鬼に遭遇した夜、オレからの着信が入った瞬間に、携帯が『強烈な光』を発したとか。
あのとき、オレは美耶ちゃんと一緒にいたわけだから、やっぱり、美耶ちゃんがこの現象を引き起こしてるわけか。
―――――――――――……。
鬼の天敵になるほど、美耶ちゃんの神格は高いのか。
頼もしい…けど…。
116:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2009/01/10(土)00:43:12ID:S6eQj9SO0
鬼になる理由<晴彦2> 3/6
「あんまり長居したくないんだが、動ける?」
崇志兄が笹川さんを促しているけど、笹川さんは首を振る。
「座ってるのがやっとで、立つのも…」
腰を浮かせようと試みているけど、苦痛に顔をしかめただけだった。
「そういえば、崇志兄、村の人は?一緒に行動してたんじゃなかったの?」
人手があれば笹川さんを動かせるかと思い、そう言ったら。
崇志兄は怪訝な顔をした。
そして、美耶ちゃんは慌てた様子で、
「携帯出して」
とオレに詰め寄った。
??
美耶ちゃんに促されて携帯の着信と送信記録を調べると、崇志兄に送信した回数は2回になってた。
着信を調べると、同じく2回になってた。
…おかしい…。
崇志兄からは、笹川さんの車発見の連絡をもらってからも3回ぐらい電話があったはずだ。オレもちゃんと受け答えてる。なのに、その間の記録が抜け落ちてた。
「俺はかけてないし、お前と話をした記憶もない」
崇志兄がそう説明するのを聞いて、やっと、オレにも『奇妙さ』がわかってきた。
オレが話をしたあの声は、一体、誰の声だったんだろう?
「牡丹灯篭の札返し、だな」
崇志兄がボソッと言った。
お露という亡霊にとり憑かれた浪人の新三郎が、その亡霊から逃れるために、護符を貼った一室に3日3晩閉じこもる。
3日目の朝、一番鶏が鳴く声を聞いて、もう大丈夫だと自ら戸を開けた新三郎の前に、深夜の闇と亡霊の迎えが見えた、という怪談。
その一番鶏の声をまやかしたのが、『札返し』という妖怪だと言われている。
117:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2009/01/10(土)00:43:46ID:S6eQj9SO0
鬼になる理由<晴彦2> 4/6
「結局、笹川氏も、俺も、晴彦も、みんな『鬼』の術中にハマったんじゃないか」
小気味よさそうに崇志兄が言う。
喜ぶとこじゃないだろ。
唯一、騙されてない美耶ちゃんは、
「私しか頼りにならないの…?」
と、いかにも頼りなさげにオレたちを見回した。
「…ごめん。でも大丈夫だから」
自信はなかったけど、そう勇気づけておいた。
実際、美耶ちゃんは、状況判断はできるけど行動は著しく間違うから、任せられないし。
とりあえず、オレと崇志兄で笹川さんを屋外まで運んだ。
そして、ここまで、オレが崇志兄の車を持ってくることになった。
村の中は閑散としていた。まだ3時前なのに…。
見知った世帯はいくつもあるから、声をかけていきたい気もする。でも、さっきの『鬼の電話』の内容を考えると、村の人には関わらないほうがいいように思えた。
崇志兄の声をした『鬼』は、盛んに、
「村内では親切に協力してもらってる。晴彦もI村に来たらみんなのところに挨拶に寄ってくれ」
と言っていたからだ。
幸い、というか、車をI村の裏山に停めたオレは、崇志兄たちに合流するまで誰にも会わずに済んだ。
こういう行動は、あとになってみると意味がわかってくることが多い。
118:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2009/01/10(土)00:44:37ID:S6eQj9SO0
鬼になる理由<晴彦2> 5/6
鬼とは違う部類かもしれないけど、妖怪に関して、こんな仮説を読んだことがある。
――――あれは人間の悪行をごまかしている物語だ――――
幼い子どもの容姿を持つ座敷童は、元々は旅人殺しの皮肉なのだという。
人里離れた山村に、深夜、宿を取りはぐれた旅人が辿り着く。一夜の寝床を貸した家族は、夜のうちにこっそりと旅人を殺し金品を奪う。
翌日から羽振りのよくなったその一家を、周囲の人間は、「福の神のぼっこが来た」と強烈な嫌味をこめて暗に罵るのだそうだ。
座敷童のいなくなったあと(金品が尽きたあと)、その家族が非業の運命を辿るというところからも、この妖怪が『招いてはいけない存在』だということがわかる。
そんなふうに見ていくと。
『河童』は子どもの間引きの話。
『山の御殿(人の気配のない山中にいきなり豪邸が現れるが、どんなに探しても住人の姿を見ることができない、というような童話)』は口減らしに年寄りや病人を遺棄した話。
『怪物(動物の変化したもの)の存在』は、証拠隠滅のために家畜に死肉を食わせた名残り。
と、こじつけられちゃうんだなあ。
これらの物語の原型が残っている東北に、父さんは行きたがっている。たしかに、父さん好みの展開だな。
119:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2009/01/10(土)00:45:00ID:S6eQj9SO0
鬼になる理由<晴彦2> 6/6
鬼に関しては、オレは『桃太郎』とか『酒呑童子』ぐらいの知識しかない。
どちらも鉄の産出地域で、強大な力を持った豪族を、朝廷(天孫系)が討伐するという歴史がベースになっている。
だけど、このI村の鬼は、そんなに長い歴史があるようには思えない。
それに、ここの鬼は…。
―――実在してる…?
―――――――――――……。
ヤバいなあ…。
ワクワクしてる、オレ…。
本物がいるなら、会ってみたい。
【オオ○キ教授系】ー鬼になる理由<崇志2>ー
971:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/30(火)10:20:32ID:0OytpW5g0
鬼になる理由<崇志2> 1/9
「家…っていうか…」
と美耶が呟くのも頷ける。
集落から離れて、深い樹木の中にぽつんと立っていた『それ』は、外壁を辛うじて残している程度の瓦礫だった。
窓ガラスはすべて外側に吹き飛んで、家屋を支えていただろう柱や壁の破片が、その穴を埋めていた。
「なんだか封印みたい」
美耶の感想。確かに、誰かが故意に窓を埋めたような印象を受ける。
「何を封印したんだ?」
と聞くと、妹は困った様子で、
「悪いものじゃない気がする」
と答えた。
晴彦の話では、笹川氏は、この家でガス爆発が起こる夢を見たという。
もう少し細かく言うなら、ガスで心中を図った一家を落雷が襲ったのだと。
だとすれば、この家にいて、『封印』されているのは、その一家の御霊ということだろうか。
どれほどの意味があるのかわからないが、慰霊の経を唱えることにした。
美耶も隣りで手を合わせている。
972:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/30(火)10:21:20ID:0OytpW5g0
鬼になる理由<崇志2> 2/9
蝶番が外れ、立てかけられているだけのドアを外して、中に入った。
天井が落ちている。火災で焦げた壁紙が、部屋の闇を濃くしていた。
「懐中電灯が要ったな」
と苦笑しながら慎重に踏み込むと、美耶が、
「置いてかないでよお」
と泣きそうな声で追いすがってきた。
…まだ何も出てないのに、ビビんなよ(溜息)。
奥に進むと、原形を留めている居間らしき部屋に出た。
片隅に階段が見える。この部分は天井が残っているから、階段を上れば2階に行けるはず。
とはいえ、いつ崩れるかわからない階段に、美耶を連れて行くわけには行かないな…。
「ちょっと上を見てくるから、ここで待ってて」
と言うと、
「ええ?!お兄ちゃんばっかりずるいっ!」
と盛大に抗議を始めたが、俺は無視して進み始めた。
973:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/30(火)10:21:36ID:0OytpW5g0
鬼になる理由<崇志2> 3/9
もし笹川氏がここにいなかったら、もう当てはない。
2階に潜んでいてくれることを祈っていた俺の目の前に、期待以上に早く、それらしき足が視界に入ってきた。
2階の入り口に仁王立ちしているパジャマ姿の男。
無表情で俺を見下ろしている。
目の焦点が合ってない。正気が戻ってないな。
俺は階段を上りきり、笹川氏らしき人物と、できるだけ距離を取りながら、対峙した。
『やつ』の右手には、なぜか鉈が握られていたから。
974:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/30(火)10:22:07ID:0OytpW5g0
鬼になる理由<崇志2> 4/9
『やつ』は、抑揚のない声で言った。
「あいつらは?」
意味がわからない…。
答えず、
「笹川さんか?晴彦から連絡を受けて探しにきたんだ」
と告げるが、
「あいつらは?」
と、同じ質問を投げられただけだった。
笹川氏は鬼を探しにきたはずだから、鬼のことだろうか?
「娘さんは、ちゃんと家にいたよ」
と伝えてやった。それが懸念の元になっているのだろうから。
でも『こいつ』は、
「あいつらを見なかったか?」
と、また繰り返す。
…笹川氏じゃ…ないのか?
『あいつら』って、誰のことなんだ?
975:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/30(火)10:22:59ID:0OytpW5g0
鬼になる理由<崇志2> 5/9
「笹川さん、だよな?」
もう1度確認する。
『やつ』は目を見開いて、少しだけ動揺を見せた。
「そ…う…かもしれない」
…おいおい(汗)。
「状況がわかるか?あんたは今日の明け方に自宅を飛び出して、ここまで運転してきたんだぜ?」
『笹川氏』は、きょろきょろと辺りを見回しながら、
「ここって…?どこだ?」
と正気を覗かせた。
ひとまず、安心。
「ここはI村の外れだよ。あんたが鬼を見たっていう家の中」
説明すると、笹川氏は顔を歪めて、
「マジで?げ~。気持ちわる…」
と吐き捨てた。
…わかるけどさ(笑)。
「気味悪いのはこっちも同じだよ。それじゃあ、長居せずに帰ろうか」
と促すと、笹川氏も頷いたが、
「あ。やっぱり駄目だ」
と留まった。
「あいつらを皆殺しにしていかないと」
………。
とりあえず、鉈だけ取り上げておくかな…。
976:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/30(火)10:23:40ID:0OytpW5g0
鬼になる理由<崇志2> 6/9
だけど、それは容易じゃなかった。
近づくと、笹川氏は右手を振り上げて威嚇する。
口調は普通なんだが、行動が伴っていない。体だけ、別のモノに支配されてるみたいだ。
鬼に憑依された?美耶の言葉が頭を巡る。
笹川氏が鬼と同化しているとすれば、皆殺しにする予定の『あいつら』って……。
……鬼に追い回されていたっていう、この家の住人たちのことじゃないのか?
「その人たちは、もうこの世にはいないよ」
俺自身が確かめた事実でもないが、そう断言しておいた。
笹川氏は、
「知ってる」
と答えた。
はあ?
ほんっとにわけわかんねえなあ。
「死んだ人間を殺しにいくわけ?」
と聞いてやると、頭をかきむしって、
「完全に消えるまで、何度でも首を取る」
と、物騒なことを言う。
…完全に消えてないのか。ここの住人は…。
そこまで恨む『笹川氏の中の鬼』って、どういう立場の存在なんだろう。
977:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/30(火)10:24:45ID:0OytpW5g0
鬼になる理由<崇志2> 7/9
寺に来る相談の中で上位を占めるのは、憑きもの落とし、だ。
家族や近しい間柄の人間が、突然、奇行に走る現象を、いまでも『狐憑き』と忌み嫌う風習がある。
と言っても、相談者も本当に怪異が原因だとは、ほとんどの場合、思ってない。
精神的なつまずきが幻覚を見せるのだと、俺に説明してくる。
でも、俺はとりあえず、憑きものの存在を信じて祓う。俺が適当な気分でいると『憑かれた人間』は治らないからだ。
「笹川さん、あんた、とり憑かれてる自覚ある?」
だから、笹川氏にもそう振った。
笹川氏は首を大きく縦に振って、搾り出すように言った。
「なんとかしてくれないか」
声が掠れているのが気の毒だな…。
思い切って右腕に組みついた。鉈に固執しているのなら、取り上げたほうがいいだろう。
でも、俺の力でも、細身の笹川氏の腕を極められなかった。硬い。人間離れした筋肉で、俺はあっけなく床に振り払われた。
くそっ。力づくは無理か!
そのとき、笹川氏の後ろの階段から、美耶が顔を出した。
「お兄ちゃん、何してる…」
笹川氏が変化した…ように見えた。
体が盛り上がり、頭から2本のねじくれた角が生えた。
巨大化したせいで、右手の鉈が、軽々と扱えそうに見える。
そして、その鉈を、笹川氏は、美耶に向かって振り上げた。
978:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/30(火)10:25:37ID:0OytpW5g0
鬼になる理由<崇志2> 8/9
俺は『鬼』の背中に組みついて、美耶と反対方向に引きずった。
重い。長くはコントロールできない。
無我夢中で鬼の体を壁に叩きつけた。笹川氏のダメージは考えなかった。
重量を増した肉体は、壁を突き破った。
笹川氏は2階から落下した。
美耶が悲鳴を上げて、笹川氏の落ちていった穴から身を乗り出した。
「暗くてよく見えない…」
焦燥感を顕わにして呟くと、今度は階段に舞い戻ろうとする。
その途中で俺の腕を強く引っ張った。
「ねえ、大丈夫?!笹川さんが落ちちゃったの、わかる?!」
ぼんやりと認識はある。
あの行動以外、どうしようもなかった。
「…笹川氏、生きてる…?」
思わず確認したが、美耶は『暗くて見えない』と言ったばかりだったな。
「わ、わかんない。でも、1階には」
言いかける美耶の言葉にかぶせて、聞き覚えのある声が、1階から飛び込んできた。
「えらいもん降ってきたんですけど、崇志兄の仕業?」
979:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/30(火)10:26:30ID:0OytpW5g0
鬼になる理由<崇志2> 9/9
俺より早く、美耶が晴彦に答える。
「お兄ちゃんがやったんだけど、お兄ちゃんもちょっとおかしいの。いま、1階に連れて行くから」
晴彦が、
「あー…。オレが行くよ。そこにいて」
と返す。
すぐに顔を覗かせた晴彦は、笑顔だった。
「笹川さん、相当暴れたんですか?今は戦意喪失って感じで座り込んでますけど」
…生きてたかあ。よかった…。
「凶器を取り上げようとしただけなんだが、手強くってさ。それに」
家が思ったよりボロかった、と言い訳すると、晴彦は壁の大穴を見て笑い、それから真顔で首を傾げた。
「凶器?」
美耶も口を揃える。
「笹川さん、何も持ってなかったよ」
……………。
やられた。
とり憑かれてたのは、俺のほうだったのか。
【オオ○キ教授系】ー鬼になる理由<晴彦>ー
948:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/28(日)00:23:17ID:C3q3ljrQ0
鬼になる理由<晴彦> 1/4
…なんとなく腑に落ちない。
崇志兄(たかしにい)との電話の繋がり方が、妙に気味悪かった。
最初の、笹川さんの車が見つかった連絡までは、まともだったんだ。
そのあと、美耶ちゃんに代わるものだと思ってたのに、威嚇の声みたいな重低音が聞こえて、切れた。
何度かこちらからかけたけど、出るのはいつも崇志兄だけで(崇志兄の携帯にかけてるんだから当たり前か)、美耶ちゃんに取り次いでもらおうとすると、切れる。
崇志兄の話によると、I村の人に親切にしてもらってるらしいけど…。
まあいいか。もうすぐ合流できそうだし。
わかりにくいI村への入り口も、数度の訪問で、間違えることなく行けるようになったしなあ。
949:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/28(日)00:23:39ID:C3q3ljrQ0
鬼になる理由<晴彦> 2/4
夏色に伸びた穂が広がる水田の向こうに、赤いサッシの家が点々と見えてきた。
初めて来たときは、まだ雪が残っていたんだ。この時期の景観も好きだな、オレ。
父さんに聞いたら、先住と移住の民が、家屋の色で差別化を図るのはよくあることらしい。その多くが『部落差別』の弊害を受けてしまうのは、仕方がないってことだった。
…正直、部落って位置づけは、オレにはピンと来ない。
崇志兄に言わせると、オレは『お坊ちゃん』らしいから…orz
951:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/28(日)00:23:59ID:C3q3ljrQ0
鬼になる理由<晴彦> 3/4
村に車を乗り入れるときは、車幅ぎりぎりの農道に入らなければならない。
オレが運転しているときは、いつも笹川さんが、
「落ちる!」
って叫んでた。
農道の先に、その笹川さんの車と崇志兄の車が停まってる。
怖がりの美耶ちゃんが平静に乗っていられたのかどうか、あとで聞いてみよう。
―――――――――――……。
でも、オレは無意識に農道の入り口をスルーしてしまった。
なぜだろう。ときどきこういうことが起きる。
そして、この行動はあとになってみると意味がわかってくることが多い。
…しょうがねえなあ。
たしか、迂回した先にも村の方面に入り込む林道があったはず。そっちを目指すか。
952:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/28(日)00:24:25ID:C3q3ljrQ0
鬼になる理由<晴彦> 4/4
5分ほど走って、I村を完全に行き過ぎたところで、村の裏手の山に入る道を見つけた。
車は…入らないな。この程度の登山なら革靴でもいけるだろ。
電波が届きそうだったから崇志兄に電話した。その場では通じなかった。
10分ほど山中に入り込んだところで、崇志兄の方から電話があった。
ノイズだらけで何を言ってるのかわからない。
諦めて電話を切った。…なんか、美耶ちゃんの声が聞きたいなあ…。
時計を見ると、まだ13時半。
天気もいいのに、ぬかるんだ山道には陽の光が届いていなかった。
前方に人影が見えた気がして、正直、ビビッた。
鬼…って、本当にいるんだろうか。もし出たら…。
どうしようかな、オレ。
とりあえず――――――――……。
逃げよう。
【オオ○キ教授系】ー鬼になる理由<美耶2>ー
884:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/20(土)00:40:17ID:YP/vX9cU0
鬼になる理由<美耶2> 1/4
「少し待ってな」
とお兄ちゃんが言うので、私は立ち止まって、お兄ちゃんが笹川さんの車を覗き込むのを離れて見てた。
ハルさんの話によると、笹川さんは、多少熱血的なところはあるものの、突然、奇行に走ったりするタイプではなかったよう。
それでも、お兄ちゃんは、
「錯乱状態が続いてるかもしれないから」
と、私には笹川さんに不用意に近づかないように忠告した。
車から離れたお兄ちゃんは、首を横に振ってる。いなかったんだ…。
「とりあえず、晴彦に連絡しておいて」
と言われたので、携帯を取り出した。
…けど、圏外…。
念のため、お兄ちゃんの携帯も見てみると、そっちは通じそう。
番号を暗記している私がダイヤルして、お兄ちゃんに渡した。ハルさんはすぐに出たようで、会話してる。
伝えることを伝えたあと、お兄ちゃんは私に携帯を渡してくれた。
…ちょっと決まりが悪い(汗)。けど、声を聞けるのは嬉しい。
受話部分を耳に当てると、でも、通話は切れてた。画面を見ると圏外。
「お前、電波に嫌われてんなあ」
と笑う兄貴。
うるさいっ。
885:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/20(土)00:40:51ID:YP/vX9cU0
鬼になる理由<美耶2> 2/4
ハルさん伝いに聞いた、笹川さんが『鬼を見た場所』は、I村の村落を過ぎた山の入り口だったはず。
100m置きぐらいに点在してる家屋の窓枠を見ながら、私たちはI村の中間まで来た。
人の姿はないけど、気配はする。家の陰やカーテンの隙間からの視線。
「警戒心強いなあ」
お兄ちゃんは半ば呆れている。
「話しかけないでね」
私は牽制した。
そのほうがいい気がする。
7月だというのに、ひどく空気が冷たかった。
汗かきのお兄ちゃんも、
「山だから涼しいのかな」
と首をひねるほど暑がらない。
快晴の空に昇る太陽は、若干、天頂から西に動いてる。
「おなか空いたね」
と、場を和ますために言ってみた。空腹感はまったくない。
「もうそんな時間か?家出たの、11時近かったもんな」
腕時計を持たないお兄ちゃんは、携帯を出した。
「晴彦から着信入ってるわ」
画面には、10分ほど前にかかってきた見覚えのある電話番号が表示されてる。
かけ直したけど、ノイズがひどくて、通じてるのかどうかもわからなかった。
886:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/20(土)00:41:23ID:YP/vX9cU0
鬼になる理由<美耶2> 3/4
ハルさんに連絡がつかない。
それがものすごく不安だった。
「笹川さんの車を見つけたときに、お兄ちゃん、ハルさんと話したでしょ?なんて言ったの?」
確認すると、お兄ちゃんは、
「晴彦も午後から休みを取って合流するって言ってた。もう向かってるよ」
と、意味ありげにニヤついて答える。
私は、
「ハルさんは来ないでほしいな…」
と言った。
お兄ちゃんは、
「…なんで?」
と、浮かれた声のトーンを落とした。
「わからない、けど、なんとなく…」
返事に困っていると、お兄ちゃんが言った。
「いま、晴彦にかけ直したとき、お前、雑音がひどくて何も聞こえないって言ったろ。俺には聞こえたよ」
「『ハヨキレヨ』って言葉が、何度もね」
青くなった私を見て、
「帰るか?」
と、お兄ちゃんは聞いた。
私は拒否した。
「私たちが笹川さんを見つけてあげなかったら、ハルさんが探すことになるんでしょ?そのほうが嫌だもん」
お兄ちゃんは声を上げて笑いながら、
「おし。やっぱりお前は俺の妹だ」
と自慢(?)した。
887:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/20(土)00:42:12ID:YP/vX9cU0
鬼になる理由<美耶2> 4/4
覚悟を決めれば、なんのことはない道程だった。
鬼が出るのでもなく、魔都に引きずり込まれるわけでもない。
「いざとなれば、小角を呼ぶから」
と軽口を叩く私に、
「はいはい」
とあしらう兄貴。
「小角といえば修験道の開祖なんだけどさ」
道すがら、お兄ちゃんが雑学を披露してくれた。
「修験道っていうのは、日本の神道や中国の陰陽道が交じり合った、難解な宗教だったわけ。で、後に密教の影響を受けて真言を取り入れたりしてくるんだ」
「真言…って、お兄ちゃんの宗派?」
あんまり興味なかったけど、お兄ちゃんの唱えるお経が珍しかったので、尋ねてみたことがあったんだ。
「そ。だから、俺も『行者様』とは無縁じゃない」
明らかに無理なこじ付けをしてるお兄ちゃん。
「はいはい」
とあしらっておいた。
そして、私たちは、『鬼が出る』だろう、問題の家に着いた。
【オオ○キ教授系】ー鬼になる理由<崇志>ー
815:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/13(土)22:58:33ID:sgkzXjaf0
鬼になる理由<崇志> 1/4
『鬼』なんてもんに託(かこつ)けて美耶を誘ったのは、最近、実家にも帰ってないし、会話がなかったと思ったからだ。
もちろん、そんな本心をクソ生意気な妹に伝える気はない。
晴彦と付き合いだしてから、美耶にはいい変化が起きている。
人間不信のケが強かった妹は、元々は引きこもりに近い生活をしてたんだ。
心配する両親と衝突することも多かったのを見かねて、俺は教授に美耶を連れ出してくれるように頼んだ。
教授は、
「ショック療法になるかもしれないよ」
と笑いながら協力してくれた。
今は晴彦がその役目を負っている。
…ボランティアではなしに。
助手席の美耶に、サービス精神で晴彦の話題を振ってやった。
「あいつの運転に少しは慣れたか?」
美耶は、盛大に首を横に振る。
「絶対に慣れないっ!…っていうか、すでに恐怖症」
「…動体視力が並外れてるから、事故はしないんだけどね」
一応、フォローをしておいてやろう。
「ハルさんって、他は穏やかな性格してるのに、なんで運転だけ暴走なの?」
という美耶の質問に、俺は、正直に答えた。
「あいつが穏やかになったのは、歳を食ったからだよ。会ったばかりの頃はえっらく我儘で、突然、大阪からこっちまで夜行で来て、『いま駅にいるから迎えに来て』なんて電話をしやがったことも度々あったんだぜ」
「ハルさんって、お兄ちゃんと会った頃は大阪にいたの?」
美耶が不思議そうに聞く。
ああ、そうか。美耶は、晴彦が転勤した後からしか知らないもんな。
「晴彦の出身は大阪だよ。離婚したあと、教授はこっちに、晴彦は仕事で岡山に行った。だから、あいつ、本当は大阪弁なんだ」
ガラ悪いぞ、と忠告すると、美耶は、
「聞いてみたい~」
と喜んだ。
いい変化だ(笑)。
816:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/13(土)22:59:04ID:sgkzXjaf0
鬼になる理由<崇志> 2/4
俺が会った頃、晴彦は、お世辞にも『好かれる性格』はしていなかった。
自暴自棄で甘ったれで、口癖は、
「オレがいなかったら、よかったのに」
だった。
あいつから聞いた話。
晴彦の子ども時分の徒名は『死神』だ。
教授の受け継いでしまった甕の呪いは、晴彦に少なからず影響を与えていた。あいつの友人のほとんどは、不慮の怪我や死によって晴彦から離れている。
教授はその事実を愁いていた。息子と縁を切れば解決するのではないかと思って、戸籍を切り離した。
その後、晴彦に呪いの影響は見られなくなった。
でも、晴彦は、父親と離れなくてはならなくなったことを、
「オレがいなかったら、よかったのに」
と言い続けた。
美耶に、晴彦が受け止められるかな。
…美耶にしかできないか。
817:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/13(土)22:59:34ID:sgkzXjaf0
鬼になる理由<崇志> 3/4
今朝一番で入った晴彦からの電話は、そう切羽詰った様子でもなかった。
「今晩、そっちに連れて行く約束をしてた笹川さんが失踪しました」
と、出勤前らしい短い伝言を残しただけだ。
しばらくして、再度かかってきた電話。
「飲み屋に残してきた笹川さんの車がなくなってます。失踪後に取りにいったとしか思えないけど、笹川さんのマンションから飲み屋まで、8キロぐらいの距離があるんですよね」
その行動には、俺も少なからず疑問に思う。
「パジャマのまま、明け方の道路を8キロも歩いたっていうのか?錯乱していたにしても、途中で気づくだろうに」
晴彦が、
「車ごと神隠し…なんて、ありえないですよね」
と、苦笑交じりに言った。
俺は、
「お前、仕事休めないだろ。探しに行ってやろうか?」
と志願した。
細い市道に入ってしばらく走ると、山間のところどころに開けた田畑が見えてきた。
I村に近づいてみて初めて気づいたが、この辺りの山は『磯神(いそがみ)』じゃないのか。
地元出身じゃない晴彦が気づかないのは無理もないが、磯神は、国内有数のミステリーゾーン、つまり心霊現象の多発するスポットだ。
美耶も身を硬くしている。
818:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/13(土)22:59:58ID:sgkzXjaf0
鬼になる理由<崇志> 4/4
「何か見えるのか?」
落ち着きなく周囲を見回す美耶に聞いてみた。
「ううん。見えはしないけど…」
言葉を濁した美耶は、直後に耳を塞いだ。
「死にかけた人の、『助けて』って声がたくさん聞こえる」
俺はラジオのボリュームを大きくした。
短波に乗って流れてきた曲は、季節外れのレクイエムだった。
磯神は、峠越えのドライバーの事故死が並外れた場所でもある。
市道から、さらに細い脇道に車を入れた。
右手に広がる山裾に、赤い窓枠の家が点在していた。
そのI村の入り口に、晴彦から聞いていた笹川氏の車が停まっていた。
やばい、かもな。臆してるのが自分でもわかる。
【オオ○キ教授系】ー鬼になる理由<美耶>ー
796:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/12(金)00:12:30ID:vNpQddCw0
鬼になる理由<美耶> 1/4
ハルさんから入ったお兄ちゃんヘの電話は、とても奇妙な内容だった。
ハルさんの会社の先輩に当たる人が、その日の明け方に家出をした、というもの。
少し前から言動がおかしかったこともあって、会社では『精神的な病理による一時的な失踪』と受け止められてしまったみたい。
でも、ハルさんは、もっと深刻に考えてる。
「オレ、急には会社を休めないから、その間だけでも笹川さん探しを頼めませんか?」
ハルさんの依頼に、お兄ちゃんは二つ返事で引き受けた。
で、今、私を迎えに来てる(汗)。
「なんで私も一緒なの?」
お兄ちゃんの車の助手席で、不満たらたらの私。
だって、馬鹿兄貴ときたら、
「鬼が出るらしいから、お前が必要」
とかって理不尽なこと言うんだもん。
鬼…ねえ…。
そんなもの、現実にはいないと思うんだけどな。
797:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/12(金)00:12:55ID:vNpQddCw0
鬼になる理由<美耶> 2/4
お兄ちゃんは、以前から、たびたび、その失踪した笹川さんのことを聞いていたよう。
「I村ってわかる?そこが元凶みたいだから、いま向かってる」
って県境の村名を上げる。
場所はなんとなくわかるし、すごい田舎なのもわかる。行ったことないけど。
「私たちが行って探すっていっても、笹川さんの顔はわかるの?」
と聞くと、
「パジャマで飛び出したから、それを目印にする」
だって…。
アバウトな兄貴だ(溜息)。
それにしても、変な話。
笹川さんは、夜中に突然、
「子どもがいない。鬼が連れて行った」
って騒いで飛び出したらしいけど、赤ちゃんはちゃんとその部屋で寝てた。
以前、ハルさんがうちに遊びに来たときに、ハルさんの後方に禍々しい角の生えた『黒い影』を見たことがある。
追い払えそうだったから玄関の外に締め出したけど、あの日、ハルさんは笹川さんとI村に仕事しに行ったんだよね。
笹川さんは、あの『影』に憑かれちゃったのかな?
追い払えずに今まで来ちゃったのかな?
798:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/12(金)00:13:45ID:vNpQddCw0
鬼になる理由<美耶> 3/4
「幽霊なら、角なんか生えないよね?」
道すがら、助手席でただ座っているのもなんなので、いろいろ考えてみた。
教授にくっついて旅をしていたとき、私はいろんな幻覚を見た。その中には、ただの妄想とは思えないほど現実と合致しているモノもあった。
でも、鬼は見ていない。鬼っていうか…人間から大きく外れた生き物を見たことは…ない…。
『黒い影』には、捻くれた大きな角が2本、はっきりと頭にあった。アレを見たとき、私は、人間の怨霊ではなくて動物の霊かと思ったんだ。牛みたいな不恰好なシルエットだったし。
「牛鬼(ぎゅうき)って妖怪の伝承は実際にあるぞ」
お兄ちゃんは、煙草を口の端に乗せながら答えた。
「鬼の頭に牛の体を持っていたり、頭と体の形が逆だったり、他の動物が混ざったりと、よくわからない動物だけどな。キメラであることは間違いないらしい」
「キメラ?」
聞き覚えのない言葉に、私は首を捻る。
「キメラってのは、2種類以上の生物が合体している生き物のことだ。元はギリシャ神話だったかな。ライオンとヤギと蛇の一部分ずつを持つキマイラってのが出てくるんだ」
なんとなく記憶にある。ライオンの頭に尻尾が蛇のイラスト。
「じゃあ、鬼っていうのは、実際にいるの?」
と聞くと、お兄ちゃんは苦笑する。
「んなの、知らねーよ。全国に似たような妖怪話が残っていても、写真でも残ってなけりゃ、それが事実とは言えないだろ」
うん。『伝承』だけじゃ証拠にはならない、よね。
799:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/12(金)00:14:30ID:vNpQddCw0
鬼になる理由<美耶> 4/4
「牛鬼ってのは、未知の海洋生物のことじゃないかな」
他に話題もなかったので、お兄ちゃんは続けた。
「『牛』なんて名前がついているわりには、伝承が残っているのは水辺ばかりなんだ。海や湖に生息していた大型魚類が、ごく稀に姿を現した現象がそれなんじゃないかと思う」
「その魚に角があったの?」
私が聞くと、お兄ちゃんは頭を掻きながら、
「あ、そっか。魚に角はおかしいよな」
と笑う。
でもすぐに異説を持ち出した。
「実在の『魚類』に角はなくても、後々、その魚を食べた人間が、寄生虫か何かから重病を発症すれば、それは『疫神』となるだろ。その後の口伝で『病気を撒き散らす鬼』と同一視されても無理はないと思わないか?」
…ありえる話には聞こえる。
「それじゃあ、『笹川さん』に幻覚を見せたのは、やっぱり、鬼じゃなくて動物霊か何かの仕業なのかなあ」
『鬼』なんてものがいないとなれば、ハルさんにくっついてきた『黒い影』は、そうとしか説明できない。
お兄ちゃんは、
「いーや」
と、ほんっっっとに楽しそうに、言った。
「俺は『妖怪』ってのはいると思うね。死んだ人間の思念や神仏なんかじゃなくて、『異形の生き物』が存在することを信じてる」
…一応、反論しといた。
「私が持衰(じさい=古代の神降ろしの能力を持った巫女)の生まれ変わりだったとしても、そんなモノを感知する力なんてないんだからね(汗)」
お兄ちゃんは、
「期待してるよ」
と無責任に言った。
…馬鹿。
【オオ○キ教授系】ー虐殺ー
742:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/07(日)00:42:11ID:H8wRhXRO0
虐殺 1/8
7月に入ったころ、仕事仲間から嫌な話を聞いた。
人里離れた山中の一軒家の周囲に、犬や猫の死骸が大量に散乱しているという。
一軒家に住む家族の仕業らしいが、仕事仲間も、
「興味はあるんだけど、腐敗臭がすごくて、家に近寄ることができないんだ。たぶん、家の中には、もっとたくさんの動物が死んでるぜ」
と、直接確かめることはしなかったらしい。
近くでの営業周りの仕事をゲットした俺は、この日、その家に足を運んでみることにした。
麓の村は、商店もある活気づいた田舎町だった。
大きな国道が走っていて、車通りが激しいせいか、閉鎖的な雰囲気はまったくない。
それでも、家々を回っているときに、時折、妙な臭いが鼻をつくことがあった。
「気持ちの悪い臭いですね」
と持ちかけると、村の人間は一様に顔をしかめて、
「あれは加藤のとこだわ。飼えなくなったペットを山に放す輩が後を絶たんもんだから、加藤が次々と始末してるんだわ」
と言った。
743:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/07(日)00:42:34ID:H8wRhXRO0
虐殺 2/8
なんだ…。俺は拍子抜けした。
動物虐待かと思ったら、野犬や野良猫の駆逐だったのか。
「加藤さんっていうのは、そういうのを請け負う業者か何かですか?」
と聞くと、村人は、
「そうじゃない。いつのまにか住み着いた余所者で、虐殺が好きな一家だわな」
と答えた。
…虐殺…。
俺の脳裏にI村での光景がよぎった。
子どもの首を容赦なく刎ねた鬼。
弱い者への慈悲などまったくない生き物の行為だった。
自分の子どもでさえ平気で凍死させる母親のいる世の中だ。
動物『ごとき』を喜んで殺す人間がいても、不思議はないのかもしれない。
俺は仕事を適当に切り上げて、山に向かった。
『鬼のような』人間を見てみたかった。
744:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/07(日)00:42:58ID:H8wRhXRO0
虐殺 3/8
仕事仲間の話では、かなり奥深く入り込まないと辿り着けないということだったが、俺はすんなりと『加藤』邸に着いた。
途中に散乱していたという犬猫の死骸にもお目にかかってない。
仕事仲間から情報を得たのは半月ほど前だったから、片づけたのかもしれない。
なんとなく大月に電話してみた。
仕事ではすでに別行動を取っていた大月は、ちょうど遅い昼食に入っている時間だったらしく、
「また妙なことに興味を持って」
と笑いながらしばらく付き合ってくれた。
が、最後には、
「気をつけて近づいてくださいよ」
と、改まった声で忠告をしてきた。
俺自身、なぜこんなことに関わろうとするのか、自分の行為が説明できない。
ただ、『見たい』。
鬼のような人間の姿を。
本物の鬼ではなく、ただのエゴの固まりである人間の姿を。
745:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/07(日)00:43:27ID:H8wRhXRO0
虐殺 4/8
人気のない加藤邸の玄関先を迂回し、右側に開けている庭を回った。
臭いがきつい。動物の臭いじゃない。腐乱した死体の臭いだ。
柵などはなかったが、手を入れてあるらしい敷地は、かなりの面積を持っていた。
3分ほどかけてゆっくりと裏口に回ると、そこには。
痩せ衰えた茶毛のレトリバーに餌を与える初老の男がいた。
男はかがんで、餌箱を犬の鼻先に押しつけている。
一見、普通の飼い主とペットの光景に見えた。
が、レトリバーは餌を拒んでいた。
犬に詳しくない俺が見ても明らかに栄養失調なのに、餌箱に口をつけようとしなかった。
初老の男は、しばらくして諦めたように、餌箱を取り上げた。
俺は声をかけた。
「その犬、餌を食べないんですか?」
老人は少し警戒したようだったが、俺が名刺を差し出すと、
「ああ。訪問販売か」
と、若干、修正してほしい認識で受け入れてくれた。
746:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/07(日)00:43:50ID:H8wRhXRO0
虐殺 5/8
「今日はこの地区を回らせてもらっているんですが、麓の人たちから加藤さんのことをお聞きしまして」
俺は警戒を解くべく、情報源を明らかにする。
老人は憎々しげな表情を浮かべたあと、
「ロクな事は言っとらんだろう」
と、麓の住人に対する敵意を顕わにした。
…たしかに彼らは、この『加藤』氏のことを快く評価はしていなかったが、それにしても温度差があるな…。
双方に角が立たないようにフォローする。
「野犬の駆除をしてくれるからありがたいと言ってましたよ。でも、本当は駆除じゃなくて、飼ってみえるみたいですね」
老人の持つ餌箱の中身は、ちゃんとしたドッグフードに見えたからだ。
老人は、足元の痩せた犬を一瞥し。
酷薄な笑いを浮かべて言った。
「これには農薬が混ぜてある。食えば速攻で死ぬ」
それから、怯えた表情のレトリバーに向かって、付け足した。
「じっくり餓死するのが望みのようだがな」
俺は言葉に詰まって、立ち尽くした。
747:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/07(日)00:44:20ID:H8wRhXRO0
虐殺 6/8
老人に首輪を掴まれた痩せ犬は、引きずられるように家の裏口に消えていった。
あの犬…これから徐々に衰弱して死んでいくのか…。
やりきれなくなって、大月に解決策を求めた。
大月は、
「ちょっと待ってくださいよ」
と電話口でしばらく沈黙したあと、
「そのレベルの虐待なら警察が動くと思います。けど、犬は保健所で薬殺されるでしょうね。だから、先にここに連絡してください」
と、ある施設の電話番号を提示してきた。
『アニマルシェルター』。野生化した犬や猫を保護して、新しい飼い主を探す施設なのだという。
「彼らなら悪質な飼い主に対抗する手段も持っています。笹川さんが動くより、的確に処置してくれますよ」
大月の説明に、かなりの精神的安定を得て、俺はいったん山を下りることにした。
加藤邸のテリトリーの中では、妙な動きを控えたほうがよさそうだと思ったから。
来たときとは逆に、左回りに庭先を戻ると、家の中から、突然、犬の断末魔が聞こえた。
あえて思考をシャットアウトして、玄関まで戻る。
玄関のすぐ外に、さっきのレトリバーの惨殺体が置かれてあった。
748:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/07(日)00:44:55ID:H8wRhXRO0
虐殺 7/8
窓から、強い憎悪を浮かべた太った老婦の顔が覗いている。
その横に、30代ぐらいの痴呆じみた男が、返り血で濡れた服を着たまま立っていた。
なぜ、こんなことができるんだ?
俺は血走った瞳で睨んでいる犬の死体を無視して帰途に着いた。
『お前が来なければ、もっと生きられた』
犬の恨みが聞こえるような気がしたから、無視せずにはいられなかった。
帰り道には、累々と積もる動物の遺骸。
来るときはなかったはずだ。
仕事仲間の話を思い出した。
「その死体のひとつひとつが、助けてくれって言ってるような気がして、頭がおかしくなりそうだった」
俺は口笛を吹きながら帰った。
お前たちはもう死んでいるんだ。俺にはどうすることもできないんだ。だから無視するよ。
麓につき、営業車の運転席に身を沈めてから、アニマルシェルターに連絡をした。
シェルターの職員は、
「動物も人間と一緒だったでしょう?死ぬときには強い想いを残します。だから、我々は自費を投じて救助活動をしてしまうんですよ」
と言った。
749:オオ○キ教授◆.QTJk/NbmY:2008/12/07(日)00:45:34ID:H8wRhXRO0
虐殺 8/8
その夜。
仕事を終えた俺は、大月を強引に飲みに誘った。
運転は暴走気味なくせに、飲酒運転は絶対にしない大月は、この日も一滴も飲まなかったが。
俺は、I村の件からずっと疑問に思っていたことを大月にぶつけた。
「俺はなぜ、こんな厄介ごとばかりに首を突っ込むようになったんだろう?以前はうまく避けていたのに」
大月は首をかしげながら、
「さあ?」
と言うばかりだ。
「本物の鬼が見たいんだよ」
俺は益体もないことを言って、さらに大月を困らせる。
「今日の一家も、やってることは鬼に匹敵するが、角はなかった。ただのサディスティックな人間だ」
「I村で見た鬼は、角も牙もあって、硬そうな筋肉と震え上がるような大声を出していた。あれは俺の幻覚なのか?それとも本物だったのか?」
「本物の鬼には、どこに行けば会えるんだ?」
大月は、
「なぜそんなものが気にかかるんです?」
と、ノンアルコールを呷りながら聞く。
俺は答えた。
「もし俺が鬼に呪われたのなら、俺のかみさんや子どもにも影響が及ぶかもしれないだろ。俺はあいつらだけは守りたい」
大月は笑って、そして呆れた。
「親ってのは、みんなそんな発想をするんだな」
そして、俺のグラスを取り上げると、
「その辺にしましょう。明日はもっと大酒のみの住職のとこに連れて行ってあげますから」
と言った。